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2008/07/16

銀幕をさまよう名言集! No.29「ブロークバック・マウンテン」

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 銀幕をさまよう名言集!  No.29  2008.7.16発行 

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2005年/アメリカ 「ブロークバック・マウンテン」より



舞台は1963年、ワイオミング州ブロークバック・マウンテン。
農場に季節労働者として雇われたイニスとジャックは、
いつしかお互いに友情を超えた感情を持つようになる。
肉体関係にも、至る。

ふたりは、仕事の契約が終了すると、離ればなれになり、
イニスは婚約者のアルマと結婚、
一方のジャックもやがて結婚する。

がしかし、ふたりの関係は終わってはいなかった。
彼らは、「友人と釣りに行く」と家族に告げ、
年に数回、逢瀬を重ねていたのだ……。

相手を愛する衝動と、
その衝動に100%正直に生きられないもどかしさ、
妻子への後ろめたさ、
そして、自分自身に対するあわれみ……。

ゲイがゲイであると告白することが
まだ許されなかった時代に、
彼らが抱えた葛藤と苦悩が、
布の上にこぼれたインクの染みのように、
じわじわと広がっていく。

イニスの妻、アルマは、
イニスの不倫(しかも相手は男)に気付くが、
あまりのショックに、その話をイニスに切り出せないでいた。

紆余曲折の末、
イニスとアルマは、離婚することになるが、
後年、アルマはイニスに、ある告白をした。

アルマ:「今でもジャックと釣りに行っているの?」

イニス:「前ほどじゃないかな」

アルマ:「1度も(あなたは)魚を持ち帰らなかったわね。
     私も娘たちも魚が大好きなのに……」

イニス:「……」

アルマ:「ある晩、魚籠(びく)を開けたら、
     値札が付いたままだったわ……。
     買ってから5年も経っていたのに」

イニス:「……」

アルマ:「釣り糸の先に、私は手紙をつけていたのよ――

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     魚を持ち帰って。愛してる。アルマ、って」                 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆

イニス:「……」

アルマ:「家に戻って来たあなたは、
     『魚をたくさん釣って食べた』と言ってたわ。
     覚えてる?
     でも釣り糸には手紙がついたまま……。
     使った痕跡もなかった」

アルマはすべてお見通しだった。
イニスがジャックと釣りになんて行っていないことを。
釣りに行く、という口実で、ジャックと何をしていたのかも。
愛情が自分にではなく、ジャックにあることも。

アルマはふたつの苦しみを抱えていた。
ひとつは、イニスが不倫をしていたこと。
もうひとつは、その相手が男だったということ。

あるいは、イニスの不倫相手が女性であれば、
アルマはもっとストレートに、
イニスに真相を問いただすことができたのかもしれない。
ところが、相手が男であったために、
アルマは躊躇せざるを得なかった。

    <できれば、何かの間違いであってほしい>

そんな祈るような気持ちだったのではないだろうか。

だから、
釣り糸の先に手紙をつけたのだ。

    「魚を持ち帰って。愛してる。アルマ」 

と。

彼女はどんな気持ちで、その手紙を書いたのだろう。

    <私は全部知っているのよ>

という気持ちもあっただろうし、

    <お願い、私のところに戻って来て>

    <今ならまだ間に合うわ>

そんな気持ちもあったかもしれない。

がしかし、アルマの祈りや願いは届かず、
イニス は1度も家に魚を持って帰らなかった。
イニスが釣りに出かけるたびに、
そして、釣りから戻って来るたびに、
アルマは心を締めつけられたことだろう。
さぞかし苦しかったことだろう。

ゲイに対する偏見は未だに根強いものがあるが、
当時はそれに輪をかけて、
ゲイに対する偏見や差別が激しかった。
そうした時代だっただけに、
アルマの苦悩も一段と深かったはずである。

もしイニスがゲイであことが周囲にバレたら、
本人や家族がどれだけひどい差別を受けるかが、
目に見えていたのだから。
(当時は、同性愛カップルが惨殺されるような時代であった)

    「魚を持ち帰って。愛してる。アルマ」 

アルマが釣り糸の先につけた手紙は、
アルマが絶望の淵ですがった
唯一の希望だったはずである。

“自分の愛”と“家族の幸せ”のための。

だが、その手紙をイニスが読むことはなかった。

それどころか、
イニスとジャックが育んだ純愛のあいだには、
結局、何モノも割って入ることはできなかったのである。

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●編集後記             
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
本作「ブロークバック・マウンテン」は、
保守的かつ閉鎖的な風潮に染められた
60年代のアメリカ社会を物語の背景に、
同性愛というテーマと真っ向から対峙した作品として、
物議を醸しました。

ゲイに対する差別的な描写を最低限に抑えつつ、
主人公ふたりの揺るぎない愛を描いています。

たびたび挟まれる雄大な風景の描写は、
彼らの純真無垢な愛を象徴したものである一方、
そんな彼らが抱く現実的な閉塞感との対比としても、
十分に機能し、効果を挙げています。

この美しい大自然の描写がなければ、
この作品がここまで高い評価を得ることは
なかったのではないでしょうか。

監督は、幅広いジャンルで
優れた作品を発表し続けているアン・リー。
また、ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールが、
20年間にわたり、報われぬ愛に人生をゆさぶられ続けた
主人公をそれぞれ好演しています。

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■銀幕をさまよう名言集! No.29「ブロークバック・マウンテン」
 
マガジンID:0000255028
発行者  :山口拓朗

●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/
●メール(ご意見・ご感想をお待ちしています★)
yamatak47@yahoo.co.jp

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