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2008/05/09

【出たっきり邦人 アジア編】409号 バンコク

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のんきぃのんの現在進行バンコク駐在妻らいふ


 
          その24


        「竜宮城の在処」
        
          
          
まるで水族館みたいだ。

すーい、すーいと鼻先に寄ってくる黒と黄色のタイガーフィッシュ。
足元の黒い珊瑚礁には、ひらひら舞うエンゼルフィッシュ。

黒と白のツートンカラー。
細かな網目をまとう白色の魚。

自然の色彩は人間の創造を超える。

目も覚めるような瑠璃色の小魚。
エメラルドのように発色する極彩色のナポレオンフィッシュ。
見た事もない紫ビロードのイソギンチャク。
花びらが舞うような黄金色の魚の群れ。



もしタイのリゾートに来て、ダイビングするほど熱心ではないけど、せっか
くだから足元を泳ぐ魚くらい見て帰りたいと思ったら、ガイドブックのメイ
ン項目になっているようなリゾートに来て満足して帰ってしまってはだめだ。

プーケット島もサムイ島も、とてもきれいなホテルがたくさん建っている素
敵な場所だけれど、残念ながら海はピカイチとはいえない。

人が多いからだ。


ひととおりメインの場所を行きつくした後、在住の人間は島にはまる。
ほんのちょっと足を伸ばすだけで、天国のような場所が待っている。

もちろん、本島から一日ツアーで来られる場所も多い。
でも、やっぱり本当に楽しみつくすには、泊まるのがいちばん。
なにしろ、一番美しいのは引き潮の朝だ。
そしてツアーで来ると、朝の海は間に合わないのだ。

そしてタイのいいところは、離島のような辺鄙な場所でも、けっこうちゃん
としたホテルが建っているところ。古びたバンガローの虫攻撃に悩まなくて
も、こんなところでがんばってるな、というレベルのホテルが存在する。


今回は、ピピ島に滞在した。
ピピ島の中でも、船着場のあるいちばん大きな町からさらに北に上る。
フェリーで来ると、2時間で着くはずがさらに1時間から2時間のプラス。

でも、それだけの価値がある。

ホテルに近づくと、岸はまだだいぶ先なのに、水面に白と黒との影がはっき
りと見て取れる。珊瑚礁と砂のコントラストだ。余りに水が透明なので、数
メートル下の水底が、船の上から透けて見えるのだ。


ピピ島に来たら、ぜひ行ってみたい場所があった。

「タイタニック」のディガプリオが主演した「ザ・ビーチ」という映画で、
ロケに使われた美しい入り江があるという。名前がマヤ・ベイ。

特にディカプリオのファンというわけではないが、でも、ロケに使われたく
らいだから、さぞやきれいな場所なんだろうと思うのが人情である。

ホテルのロングテールボートなら、貸切4時間1400バーツ(4500円)
で行ってくれるという。


ロングテールボートは、昔からタイの海で使っている船だ。

昔ながらの、木でできた、優美に反った長い舳先。そして、「ロングテール」
の英語の異名を持つのは、船尾に船頭が付いて、長いさおを伸ばすからだ。
その先には、むき出しのエンジン。

私は、自動車のエンジンを再利用しているのではないかと思うのだが、あき
らかに木の船とは異質な機械を無理やりくっつけて、それがうまく機能して
いる。思ったより速い。風がほほを切るほど速い。

船頭はエンジンのついたさおをうまく操って、右に左に自在に制御する。

スピードボードにはかなわないけど、近場を行き来するなら、そしてこの安
さなら、足としては十分である。


日に焼けたロングテールボートの船頭は、マヤベイに行くなら、朝一番がい
いという。遅くとも出発は朝の8時にしなければという。

そそり立つピピ島の奇岩の脇を縫うようにして、マヤベイに着いたのは9時
前だった。

なるほど、これはきれいだ。

そそり立った奇岩にぐるりと囲まれ、狭まった入り口からわずかに水平線が
見えるだけの、隔絶したビーチ。
人はちらほらしかいない。まさに隠れ家ビーチという呼び名がぴったりだ。

そう、朝の10時までは。

船頭が朝早く行けと勧めた訳が分かった。
10時を過ぎると、プーケット本島からのツアー客が到着しだすのだ。

狭い入り口から次々とスピードボートが乗り付けてくる。広そうに思えたビ
ーチは、あっという間にスピードボートで埋まっていく。
1,2,3,4、、、、その数、ざっと20隻ほど。

なるほど、ビーチからブイで遊泳可能エリアが示されていたわけがわかった。
それ以外の場所は、スピードボートで埋め尽くされてしまうからだ。

朝、波打ち際に白い魚が群れていたまさにその上に、ボートが次々と立て込
んでいく。そしてボートから、わらわら、わらわらと人が降りてくる。

わずかに空けられた遊泳可能エリアは、イモ洗い状態。
浜辺は、バンコクの観光名所、エメラルド寺院にも引けを取らない人口密度。

すれ違いざまにいろんな言語が飛び交う。
日本語、韓国語、フランス語、ロシア語、英語、ドイツ語、スペイン語、イ
タリア語、そしてもちろん、タイ語。

ツアーの人々は、滞在時間が異様に短い。
30分ほどすると、さーっと引き上げていく。あちこちで、ツアーの人々を
呼ぶ呼び声や笛の音が飛び交う。

人々が乗り終わった船がビーチを離れると、沖で待っていたボートが、その
空き場所にさっとねじり込んでくる。そしてまた、わらわら、わらわら、人
が降りる。


ビーチから、イモ洗い状態の海をシュノーケリングしてみた。

魚はいた。
水底をつつく鮮やかな緑のナポレオンフィッシュ。
イソギンチャクの中に見え隠れする「ニモ(カクレクマノミ)」

でも、海底のこの惨状はどうだろう。

サンゴが累々と死んで、白化して、折れて、海底一面を覆っている。
サンゴの死骸から巻き上がる白い粉で、海水が白く濁っている。

モルジブに行った友人も、サンゴが大量に白化していたところがあった言っ
ていた。一説には、地球温暖化で海水温が上がったせいではないかという。

でも、ホテルの前のサンゴはまだ黒々としていた。
海水温のせいももちろんあるだろうけれど、たぶん、原因はほかにもある。

やっぱり、人の多さだ。

エンジンから漏れるオイル、ゴミや生活廃水。
浅瀬なら、人の足がうっかり踏んで壊してしまうこともありうるだろう。



自然と人間の関係は、美しいバラにたかるアブラムシのようだと思う。

ほんの数匹でたかるのなら、美味しいみずみずしい蜜を分けてもらえる。で
も、あまりにも大量に付いてしまったら、大事な宿り主を枯らしてしまう。


「ロケに使われたからきっときれいな場所に違いない」

そう思うのはもちろん、私だけではなかった。ピピ島のパンフレットには、
かならずマヤベイが載っている。必ず「ディカプリオの主演した大ヒット映
画(blockbuster movie)」という謳い文句が付いている。たしか、「ザ・ビー
チ」はそれほどヒットしなかったと思うのだが。


目の覚めるような竜宮城を探すのなら、パンフレットに載っている場所は避
けたほうがいい。

マヤベイから帰ったその足で、ホテルのアクティビティカウンターに聞いて
みた。

「明日、子供と魚を見たいんだけど、お勧めの場所はありますか?」

人のよさそうなタイ人のおじさんが、太鼓判を押してくれた。
「魚なら、ヒンクランという場所がいいよ」


ホテルからほんの10分ほど行ったところで、ロングテールボートは波間に
止まった。船の上から、数メートル先の水底が透けて見える。
さっそくタイガーフィッシュが寄ってきて、船の周りを回りだす。

子供がおやつに持ってきたバナナをちぎって投げると、ざわざわと押し合い
へし合いしながら、魚が次々寄ってくる。
その真ん中へ、ざぶんと飛び込む。

ああ、きれいだ。

2メートルほど下の海底を、サンゴが黒々と覆っている。テーブルサンゴが
あちこちに突き出す。その上を魚が群れる。
エメラルド、瑠璃色、白と黒、灰色、紫、山吹色。
日の光が柱のように上から降りてきて、水底をゆらゆら照らしていく。

竜宮城だ。

私が今まで見た中で、いちばんきれいな海。




タイは幸い、日系の現地ツアー会社がけっこうあるので、日本語のメールの
やりとりで親切に現地の事情を教えてもらう事ができます。ホテルも移動も
もちろんテーラーメイドで予約してもらえます。

ツアーで大型ホテルに泊まるのもいいけれど、せっかく日本から6時間もか
けてくるのなら、ぜひ
「水族館でしか見た事のない魚を生で見られた!(ダイビングしてないの
に)」という感動を味わってほしい。


これから夏休みに行くのなら、なんといってもサムイ島方面がお勧め。

8月はプーケットもピピ島も雨季のど真ん中で、残念ながら海の状態が良く
ない。しかし、サムイは反対側の大洋の中にあるので、雨季の時期が11月
からとずれるのです。

そしてサムイからなら、高速船で2時間のナイユアン島がピカイチ。
ここも目の覚めるように美しい。一度ツアーで行ってとりこになり、今度は
島のコテージにゆっくり泊まろうと計画中です。

ラチャ島、ガイ島、タオ島。
ホテルもそこそこで海の美しい島はまだまだあります。

そこまで時間がないのなら、ツアーのコーラル島やカイ島でも十分ですよ。
プーケットから船で15分。それでも足が付く深さのところで、魚をたくさ
ん見る事ができます。


のん
nondetahou@yahoo.co.jp
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*次回、アジア編410回目は5月16日(金)イスタンブール・アイシェさんより

お届けです。

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