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2008/03/11

【出たっきり邦人 欧州編】735 イギリス

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           ◇◆乙編◇◆
        
           〓イギリス・ケント発〓

          『万華鏡』 第58回 

           <上善如水>

昨年の夏、主人と南アメリカのペルーにホリデーに出かけました。その旅は言
葉の次元を超えた素晴らしい体験の連続で、今でも旅の余韻から来る満足感が
日常生活を覆っていますが、こうも視点が飛躍した体験は珍しく、行くべきし
て行ったところなんだと色々納得しています。そのペルー旅行全体をつづって
いると一冊の本になってしまうので、ここでは、最も印象に残ったインカ文明
が崇拝していた水を中心に、この旅行の一面について触れたいと思います。

このペルー旅行は、子供なしの、主人と二人だけの久々の長い旅行であり、子
供の面倒を見なくていい上、旅先で訪問する親戚や友人もいない、時間を共に
するのはまったく知らない他人である同行のイギリス人グループ、それに一般
ペルー人に出会う旅だったわけですが、それもまた感慨深いものがありました。

インカ人は太陽、月と星を始めとする自然全体と宇宙そのものを崇拝していま
した。訪れる先々で、インカ帝国のスピリチュアル性というものを感じないわ
けにはいきませんでした。太陽神インティと地母神パチャママへの感謝、創造
主ウィラコッチャへの畏敬、南十字星を含む天体と大自然との連結、いけにえ
文化やミイラ文化など、現地ペルー人のガイドさんたちは実に私にたくさんの
ことを教えてくれ、私も自分の体で色々感じ取りました。

そして水。インカ文明では、水を非常に神聖視していました。最も、太古神道
でもそうだったと思います。私たちの体は70%が水ですね。私たちの存在には
水は不可欠です。水は私たちの命そのものなのです。

2002年のときに書いた拙稿第10回で、水の大切さについて言及しました。あの
頃以前から私は水の存在を特別に意識してきました。そのエッセイでも触れま
したが、私は江本勝博士の水の結晶にとても魅せられています。言葉や感情が
水に与える影響について、江本氏は結晶を使って目に見える形で伝えています
が、彼の業績が多くの欧米の文献でも参照されており、そんな書物やCDに出会
うことがよくある。これもシンクロニシティなんでしょうね。

江本氏はとても立派で、実行されていることにいつも尊敬の念を抱きますが、
凡人の私にもできることはたくさんあると常に感じています。

インカ帝国時代の首都であったクスコに滞在していたとき、聖なる谷を訪れる
オプションがあり、参加しました。雄大なアンデス山脈の中をバスで走ってい
たわけですが、聖なる谷が眼前に迫ったとき、本当にその神聖さに吸い込まれ
ていく感じがしました。世界遺産のマチュピチュもそうですが、アンデスの
山々は非常に神秘的で、山の精の存在がひしひしと感じられました。そんな神
秘的な山から流れる水が川となり、湖となり、海に注がれていく。

クスコ郊外を訪問する半日ツアーで、インカの水の神殿を訪れました。水がす
べての生物の根源であること、現代人でもその感覚はちゃんと理解できますね。
インカ人がしたであろう祈りを、私もこの遺跡で私たちの命である水に対して
行いました。存在そのものへの感謝を、口先ではなく、心から。

また、クスコからバスで1時間ほどのティポンという遺跡も訪れました。そこ
の水も大変神聖と捉えられており、そこの水を飲むと若返ったり、双子が授か
るなどの伝説があると聞きました。子供はもう十分いるし、特に若返る必要性
も感じませんでしたが、水のパワーというものに永遠なる魅力を感じるので、
感謝の気持ちを込めて、そこの水を手で取り、少し飲まさせていただきました。

それを見たグループ内のイギリス人婦人が、「あなたたちに双子ができるかも
よ!」なんて言ってきましたが、主人と二人で、どうやら私たちは大きな子供
がいるようには見えない夫婦に見られていることにクスクス笑ってしまいまし
た。若返りは心の面ではとても重要だと考えています。

ともあれ、私はティポンの水に触れれたことにとても感謝しており、世界中の
水はつながっているという概念の下、どこにいても、水を大切にする観念は保
ち続けていきたいです。

言葉と感情は70%が水である人間にも影響を与える。英語、かたことスペイン
語、それにボディランゲージで、全くの他人に接する瞬間ばかりでしたが、そ
れでも自分が発する波動の大切さというものを常に意識し、赤の他人との一期
一会のふれあいを楽しみました。 

グループの中に、アイルランド人の50台後半の女性、ジェニーがいました。彼
女は離婚者で、仕事も解雇されたばかりでした。娘さんたちが南米に魅せられ、
お母さんにペルー旅行を勧めたのでしたが、当初訪問を予定していたナスカ・
ライン(ナスカ地上絵)へは、直前の大地震で行かれなくなり、旅行社によっ
て予定が変更されました。行きたかった場所に行けなかった哀しさを延々とグ
ループの人たちに話していました。

このパックツアーには夫婦か恋人同士で参加している人がほとんどの中、独り
者のジェニーは少し寂しそうな雰囲気も漂わせていました。もう長年アイルラ
ンドに帰っていない、お腹の調子がおかしい、前の職場でのいやなことなどな
ど、寂しい自分の話を人に聞いてほしいのがよく感じ取られました。私は彼女
の話に耳を傾け、うなづいたり、元気付けたりするしかできませんでしたが、
それでも彼女にとってかけがえなかったことが、後でよく分かりました。

インカの首都クスコから神聖な湖として崇められているチチカカ湖に面した町
プーノへ、エクスプレスバスで向かいました。ジェニーも一緒でした。プーノ
のホテルに着いて、現地ガイドの指示に従ってホテル宿泊カードの記入を始め
ましたが、ジェニーはパスポートが見つかりません。かばんやポケットのどこ
を探しても見つかりません。どうやらバスの中で落としたらしく、ジェニーは
涙を流して自分の愚かさを嘆いていました。

ガイドさんはグループの他の人たちの面倒も見なくてはいけないので、ジェニ
ーのパスポート紛失の処理は後回しにしなければならなかったのですが、それ
に対してジェニーは、「彼女は私のことを構ってくれない」とすすり泣いてい
ました。私はジェニーを慰め続け、パスポートが戻ってくることを祈りました。

やがてガイドさんがバス会社に電話して問い合わせましたが、パスポートは見
つからないとのこと。精神的に最低の状態でジェニーは翌日みんなとチチカカ
湖の観光に出かけました。それでも笑顔を見せようとするジェニー。心の底は
不安でいっぱいのはずなのに。私はできるだけ彼女に話しかけ、物事がいいよ
うに展開することを祈りました。

主人を始め、男性たちは具体的な解決策を早速考えていましたが、そこはいか
にも男性的だと感じました。女性はどうしても先に来る感情に囚われてしまい
ますね。

そしてその翌日、首都リマへ戻る日でもありましたが、ホテルのロビーでみん
なが集まっているところにガイドさんがやってきて、ジェニーに、「いい知ら
せがあるわよ。あなたのパスポートが見つかったのよ!」と話し、その場にい
たみんなが声を出して喜び合いました。バスのシートと窓際の壁の間に落ちて
いたらしく、観光客か現地人が見つけてバス会社に届けてくれたのでした。ジ
ェニーはもちろん、私もこの幸運を心から喜びました。

リマへ向かう前に、シリュスターニという非常に美しい遺跡地を訪れました。
そこでも観光客向けに物を売るペルー人たちがいましたが、幼児を抱えたお母
さんにかたことスペイン語で話しているうち、このペルー人お母さんはネック
レス・セットを私に売ろうと懸命になりました。

特に欲しいとは思わなかったのですが、非常に安価だったし、ちょっとしたお
みやげにできると思い、気持ちよく買うことにしました。インカ・カレンダー
が描かれたネックレスのセットでした。グループはもう前のほうに進んでいま
したが、ジェニーだけが私たちを待ってくれていました。彼女は私が何を買っ
たのか、とても興味を持ち、私はそのネックレス・セットを見せました。する
と「まあ、ステキ!」と言うので、ひとつプレゼントすると、ジェニーは息が
止まるほど大喜びをし、「もらっていいの?」とかなり信じられない顔をして
いましたが、「パスポートも戻ってくることだし、これはこれからの幸運のた
めのネックレスよ!」と言ってあげました。

ジェニーはすぐそれを首にかけ、ありがとうと言いながら私を抱擁しました。
何でもない私のジェスチャーが彼女の心にとても響いたのでした。その後も彼
女はそのネックレスを身につけ、他の人に見せびらかせていました。彼女の顔
がそれ以降とても輝いてみえたのは私の気のせいでしょうか。帰英のためにリ
マ空港へ向かう前にホテルで、「みんなこのネックレスのこと、ステキだね、
と言ってくれているのよ。」と別便でイギリスに戻るジェニーは笑顔で話して
くれ、別れのあいさつを交わしました。

私はこの体験と水の本質を別々に捉えていません。自分の発する言動は常に相
手に何らんかの影響を及ぼすのです。それだったら、いい影響を与えていきた
い。接触する人みんなを水と捉え、愛と感謝の感情でもって会話していきたい。
ペルーではまさにそれを実践し、その効果というものを目の当たりにしたので
した。水は神聖、その水がほとんどの人間も、そして他の生き物も神聖である
ことを教えてくれました。

ペルー旅行のきっかけともなった『聖なる予言』という書物(ペルーが舞台の
精神世界の本)の中で、第八の知恵として、男女の円を作り上げる前に自分の
中の円を作り上げる大切さについて触れていました。グループ内の円満そのも
のの老夫婦たちを見て、男と女は間違いなく二人でひとつだと感じますが、今
はひとりでも、自分の中の円、すなわち心の中の陰陽、男女エネルギーのバラ
ンスを取る努力をすることで、ひとりでも満足感は得られるし、それがやがて
異性はもちろん、同性をも魅了する魅力にでもなるのではないかな、と感じま
す。

また、同じ第八の知恵にこういうのもあります。人を精神的に高揚させること
が、自分にとっても一番良いことであると。そして、接する人たちすべては何
かのメッセージを携えていると。ジェニーとの出会いは、まさにこの知恵が具
現されたものでした。

旅行から戻って何ヶ月にもなりますが、今でもよくジェニーのことを思い出し
ては彼女の幸福を願っています。

「上善は水の如し。水は善く万物を利して而も争わず、衆人の悪む所に居る。
 故に道に幾(ちか)し。」  
                       ――― 老子

プリマ

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◇◆次回は3月14日(金)ポーランドから配信予定です◇◆
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