2009/11/25
「アフター パール ハーバー (真珠湾秘話)」Vol. 61(最終回)
★「アフター パール ハーバー (真珠湾秘話)」★
Vol. 61
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「アフター パール ハーバー (真珠湾秘話)」
いわね作
エピローグ
対米宣戦布告の日については、付け加えることはあまりない。総統は、
ドイツ帝国議会に登場し、嵐のように激烈な宣戦布告演説を行なった。
議員たち、彼らは8年前に総統に対する全権委任法を可決して以来、
政府の演説に拍手するのが仕事であり、まさに拍手の名人なのだが、
彼らでさえ、今回の演説に込められた総統のエネルギーは想像を絶し
たらしい。
傍聴したベトナーによると、議事堂中が、演説の最初から最後まで、
歓声、拍手、賛同の声で埋め尽くされていたそうだ。しかし、ルーズ
ベルト、チャーチル、スターリンに罵詈雑言を浴びせ、日独伊三国同
盟の大義を語り、完全な勝利を力強く約束する我らの総統が、ほんの
一日前、混乱し恐怖に震えていたことなど、誰ひとり想像することも
できなかったに違いない。
私にとっては、その場にいないですんだことは、せめてもの慰めだっ
た。その理由が、モリス駐独アメリカ大使に宣戦布告文を手渡す仕事
だったとしても。
デーニッツは速やかに潜水艦部隊に指示を出していた。彼の名誉のた
めに言うが、約束は果たされた。この後半年間、大西洋、メキシコ湾、
ひいてはアメリカ東海岸にいたるまで、アメリカ周辺の海は、アメリ
カ及びイギリス商船の墓場と化した。しかし、最終的には、アメリカ
の軍需・民需双方に対する底無しの生産能力が、Uボートを、デーニッ
ツを、最後にはドイツを追い詰めていった。
あの太鼓持ち、ボルマンの運命はわからない。ベルリン陥落寸前に総
統府から脱出を試みたのは確かだが、その後、彼は消息を絶った。南
米に逃れたと言う人もいれば、脱出途中に砲弾が直撃して粉みじんに
なった、という噂もある。しかし、いずれにしても、寄り添うご主人
さまを失った太鼓持ちの運命など、心配するには及ぶまい。
もっとも数奇な運命をたどったのはハルダーだった。対米戦開始から
数か月後、彼は陸軍参謀総長を解任され、陸軍そのものからも追放さ
れた。さらに2年半後の1944年暮れには、反逆罪の容疑で逮捕され、
ダッハウの強制収容所に収監された。ヒトラー総統の意志に反して彼
を死刑から救ったのは、皮肉にも、急進撃によって収容所を解放した
アメリカ軍だった。
オオシマは、現在戦争犯罪人として東京で裁かれている。もはや叶わ
ぬ夢だが、戦争が終わった後、彼と一晩話してみたかった。オオシマ
も私も、祖国が求めるもののために、外交官として懸命に働いた。し
かし、その努力は、焦土と化した祖国というこの悲しむべき結果を招
いたに過ぎない。
ヒトラー総統の評価については、他人に任せたい。それは、少なくと
も、総統の責任にすることによって自分の責任を少しでも軽くしたい
とは思わないからだ。できることならば、連合国による裁判ではなく、
ドイツ国民によって裁かれたかったが、いずれにしても外務大臣とい
う公職を務めた人間として、ドイツ国民に対する責任は確かにある。
したがって、死刑はある意味私にとっては救いでさえあった。
なぜならば、死刑を免れた元被告たちの間では、自分たちに責任はあ
るのか否か、責任があるとすれば、それは公職から身を引くことに
よってなされるべきか、新生ドイツの発展に貢献することによって果
たされるべきかの議論が行われているらしいからだ。幸いなことに、
私には、責任の取り方を考える必要がないのだ。
オオシマは恐らく死刑ではあるまい。しかし、彼も、米軍に拘束され
る前、国策を誤った責任が自分には確かにある、と言っていた。彼が
日本国民に対する責任を今後どのような形で果たすのか、そして何よ
りも我々は一体どこで何を間違えたのか、じっくりと話してみたかっ
た。
また、連合国による裁判が、勝者による一方的な裁きであるのは事実
だが、全否定できないのが悲しいところだ。もし、ドイツが勝利を収
め、スターリンやチャーチルを捕虜にしたならば、ヒトラー総統の性
格からみて、ベルリンへ連行し、顔を眺めて楽しんだ後、残虐な形で
処刑したに違いない。それと比べるならば、「裁判」の形式を取り、
自分たちにも弁明の機会を与えた連合国は、ある意味寛容だったのか
もしれない。
かっ、かっ、かっ、足音が近づいてきたようだ。
「外務大臣、お迎えにあがりました」
私は微笑を浮かべ、外交官の最期にふさわしい物腰で迎えた。
「ありがとう、クラーク中尉」
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