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カシスウーロンしか飲めない人間が独自の「カシスウー論」を展開するメルマガ。

  • 発行周期 週刊
  • 最新号 2009/11/10
  • 部数 31部
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2009/11/10

『カシスウー論』 ~下北沢『mois cafe (モワ カフェ)』編~

 『カシスウー論』 ~下北沢『mois cafe (モワ カフェ)』編~


 こんにちは 菓子酢ウーロンです。 
 第32回『カシスウー論』は、下北沢にある『mois cafe(モワ カフェ)』編です。

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 はっきり言って、『モワ カフェ』に行きたい人は、
 インターネットで場所をきっちり調べてから行くことをおすすめする。

 場所を入念に調べておいたとしても、途中で迷ったり、
 「本当にこっちでいいのかな」と不安になるほどなので、
 どう転んだところで、このメルマガを読んでふらっと行けるような場所ではない。

 といいながら、一応説明してみると、南口に階段を下りたら、まずはぐいっと右に曲がる。
 普通に右に曲がるのではなく、ぐいっと曲がるところがポイント。
 その先にビリヤード場があって、さらに先にジャズ喫茶『マサコ』が見えてくればOK。

 昭和の残り香をプンプンさせた『マサコ』の前は分かれ道になっているが、
 「どう考えても、こっちには行かないでしょ」と思う方向(つまり、右)へ進むと
 すぐに『モワ カフェ』に到着する。

 このメルマガで下北沢が登場するのは二度目だが、
 普段は、あまり下北沢へ来ることはない。 
 今回は、たまたま知り合いの芝居を観る為にやってきて、
 開演まで時間が余っていたので、ぷらぷらと『モワ カフェ』まで足を伸ばしたというわけだ。
 平日の夕方にも関わらずほぼ満席だったので、けっこう人気のカフェのようだ。
 場所がわかりにくいことを考慮すると、かなりコアなファンがいるのかもしれない。

 例によって私は一人でカシスウーロンを飲んでいたら、隣にいた大学生くらいの六人組の集団が、
 なにやら「万引き自慢大会」みたいな感じで盛り上がり始めた。

 最初の男は普通に消しゴムを万引きしたみたいな、なんてことない話だったが、
 次の男の万引きは、ちょっとアレンジが効いていた。

 いい感じのパン屋(トレイの上に自分で乗せるタイプのパン屋)へ行っては、
 惣菜パンの具(ソーセージとか、コーンなど)をちょっとずつ盗み、ちょこちょこ食べるという万引きらしい。
 う~ん、まあ、規模はしょぼいが、話のネタとしてはそう悪くはない。

 「それでもけっこう腹いっぱいになるんだよ」なんて彼は話していたが、
 どう考えてもそれはないだろう、と私は小さく突っ込んだ。

 何歳のときの話かは知らないが、
 惣菜パンに乗っているソーセージやコーンごときで満腹になるはずがない。
 でもまあ、そのくらいの脚色は許してあげよう。
 そもそも面白エピソードというのは、絶妙な脚色で成り立っているものだ。

 問題は、その次の男だ。

 彼はスーパーマーケットの試食コーナーで、おばちゃんがいない隙を突いて、
 調理用のでホットプレートごと万引きしたと言い出したのだ。
 
 たしかに、スーバーでは焼肉とか、餃子などをホットプレートで調理して、
 小さく切ったものをお客さんにふるまっていることがよくある。

 それはおなじみの光景だが、そのホットプレートごと盗むわけないだろう!!!

 店の人がいなかったとしても、周囲の目があるだろうし、熱々のホットプレートと、
 その上に乗っている食品をまるまる持ち上げて、店外まで逃げるなんてあまりに非現実的だ。

 彼の話によると、友だち三人と走って逃げて、公園で食べたということだが、
 勢いに任せて奇抜な発想でスタートしたが、細部のツメは完全に甘い。
 
 これは、完璧につくり話だろう。

 その集団のメンバー(女の子が二人いる)も、
 「すげえな」とか、「まじで、すご~い」なんて言ってはいたが、
 心の中では「ウソに決まってんじゃん」と思っていたに違いない。

 彼にホットプレートの話を最後に、万引き自慢大会はなんとなくテンションを失い、
 集団はぞろぞろと帰ってしまった。
 
  
 ホットプレート野郎のウソエピソードに張り合うわけではないが、
 私にも、忘れられない万引き体験がある。
 正確に言うなら、万引き未遂体験だ。

 私はあの体験以降、「絶対に万引きはしない」と心に誓ったし、
 その誓いはいまでも守り続けている。
 そのくらいインパクトのある体験だったのだ。


 中学3年を間近に控えた春休み、私は一人で近くの「Dマート」へ遊びに行った。
 「Dマート」を知っているだろうか。
 一言で言えば、「しょぼいダイエー」という感じで、1階には食料品、2階には洋服、
 3階にはスポーツ用品とか、ちょっとした電化製品なんかが売っている店だ。

 Dマートへは何度も行ったことがあり、1階と2階にはロクなものがないのを知っていたので、
 私は迷わず3階まで上がり、スポーツ用品やスニーカーなどをなんとなく眺めていた。
 別に何かを買おうと思っていたわけではない。
 そもそも、そんなお金は持っていないし、単なる暇つぶしをしていたに過ぎないのだ。

 ところが、あるスニーカーにふと目がとまってしまった。
 当時、人気のあった「k-swiss」のスニーカーだ。

 お金はほとんど持っていないので、買うという選択肢は始めからなかったが、
 といって、最初から万引きしようと思っていたわけではない。

 「ああ、欲しいなぁ」なんてぼんやりと思いながら、何の考えもなしに自分のサイズを探し、
 試着をしてみただけだ。

 ダイエーやイトーヨーカドーなどでも同じだが、
 この手の店は店員の数が少なくて、自分がいる通路に誰もいないこともめずらしくない。

 状況はその日も同じで、右を見ても、左を見ても、店員どころか、客の姿もまったくない。
 自分がここで何をしても、何の変化も起こらないんじゃないかと思えるほど、周囲はガランとしていた。

 その雰囲気が、私をじんわりと悪の道へと導いていく。

 私は試着したスニーカーをていねいに脱いだ。
 脱いではみたが、靴を箱には戻さず、一番下の目立たない棚に置いた。

 万引きに向かって私が最初に起こした、具体的なアクションだった。

 箱に入ったままでは、カバンに入れて、チャックを閉めることができない。
 しかし、スニーカーをむき出しにすれば、チャックは問題なく閉まるし、
 箱の角で、カバンの表面が不自然にとんがることもない。

 心臓はものすごい勢いでドクドク鳴っていたが、頭のなかは妙に冷静だった。

 再び周囲を見回してみても、私に注意を払う人は誰もいない。
 能天気な店内音楽が流れているだけで、あとは時間が止まっているみたいに、
 平凡で、退屈な空気が充満していた。

 私は特に急ぐでもなく、カバンにスニーカーを入れて、静かにチャックを閉じた。
 もちろん、カバンは膨らんだが、不自然なほどではない。
 このまま店の外へ出れば、問題なく家に帰れるはずだ。

 心臓の鼓動が激しくて、息苦しいほどだったが、そんなことを言っている場合ではない。
 私はカバンをたすきがけにして、下りエスカレーターへ向かった。
 人気のない階段を使うことも考えたが、そのほうが返って怪しまれると判断したのだ。

 私はレジの前を通り、過度に急ぎ足にならないように注意しながら、下りエスカレーターに乗った。
 特別なことは何もせず、いつものように帰るだけだ、と自分に言い聞かせた。

 そのときだった。
 私は視線の隅で、男性店員が私の方を指差しながら、警備員に何かを話している姿をとらえた。
 彼は私が万引きする現場を見ていたのだ。

 私は下りエスカレーターに乗っているため、
 3階のフロアにいる店員と警備員との距離が少しずつ離れていく。

 私は下りのエスカレーターに乗りながら、どうにかしなければならないと思った。
 こうなってしまったからには、いまさら走り出したところで、捕まるに決まっている。
 そう判断した私は、下りエスカレーターを逆走して、店員と警備員に向かって昇り始めた。

 きっと彼らは驚いたことだろう。
 万引き犯がエスカレーターを逆走して、自分たちに向かってきたのだ。
 もしかしたら、危害を加えるかもしれないと考え、身構えていたかもしれない。

 もちろん、私に相手を気遣う余裕などなく、彼らの間をすり抜けて、
 そのままスニーカー売り場へと足早で向かった。

 私はカバンからスニーカーを出し、空の箱に入れて、元の棚に戻した。
 間違いなく、彼らはその一部始終を見ていただろうが、彼らのほうを見る勇気はなかった。
 私はその場を離れ、人気のない階段を1階まで下りて、店から出た。

 もし、店員と警備員のやり取りに気づくことなく、万引きをしていたら、
 今頃自分は捕まっていたのだ。

 そう思うと、急に怖くなって、両足がブルブル震えた。

 万引きが未遂に終わったことで事なきを得たが、
 成功していたら、仮に今回はつかまらなかったとしても、
 いつかは、重大な問題に発展していたかもしれない。

 ちょっとした日常に潜む、人生の落とし穴を見た気分だった。
 
 それから約10年、私はその「Dマート」へ行くことができなかった。
 いまでは普通に行くことができるが、あのときのことは一生忘れることはできない。

 それにしても、どうしてあんなにも「k-swiss」のスニーカーが欲しいと思ってしまったんだろう。
 それが「魔がさす」ってことなんだろうけどさ。

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  菓子巣ウーロンの『カシスウー論』
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