2010/01/01
「栄養士は本を読め」(第16回)
──────────────────── 2010/1/1 Vol.28
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栄養士・管理栄養士をめざす人々へのメッセージ
-栄養士は本を読め(第16回)-
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第16回(2010年1月1日号)中西準子の『環境リスク学』
読書の楽しみは、新しい知識を得ることよりも、自分が想像もしなかった考え
方や生き方に出会ったり、畑違いの分野での発見や苦労を知ったり、自分の経験
や周囲からの伝聞だけでは知り得ないことが時空を超えて分かることだと思いま
す。
本書は、都市工学の研究者が最終講義を機に研究成果を一般人にもわかりやす
くまとめたものです。著者は環境リスク評価の研究者で、2004年3月に横浜国立
大学を定年退職しました。その際に行った最終講義が本書の第1章に収められて
います。
1938年生まれの著者は、横浜国立大学工学部化学工業科を卒業した後、東京大
学大学院に進学し、東京大学工学部の助手になります。本人も多くの人も万年助
手で終わるだろうと思っていましたが、23年2か月の助手を経て都市工学科の助
教授になります。その後、東大教授になりますが、1995年に横浜国大に移ります。
現役の東大教授が新制大学に移るなど前代未聞の出来事だったとか。女性研究者
が少なく、しかも工学系分野で道を切り開いていくには相当の困難が伴っただろ
うと思います。
長い研究生活のなかで、いくつかの事例を挙げています。東京都の下水処理場
の調査、駒ヶ根市に提案した経済的な下水道、水循環を促進する下水道の研究な
ど、時には建設省(当時)や農水省を敵に回しながら、実験結果に基づきファク
トにこだわり続けて主張してきました。おかしいことはおかしいと発言し続けて
きた、骨のある研究者の姿勢が伝わります。最終講義のタイトルが、「ファクト
にこだわり続けた輩がたどり着いたリスク論」となっているのも頷けます。
プライベートなことも書いています。著者の父親中西功は、南満州鉄道調査部
で働いていましたが、著者が4歳の時に検挙され、死刑の求刑を受けていた人。
終戦を迎え釈放された後、日本共産党から立候補し参議院議員になりました。し
かし、50年には除名されるという「50年問題」の渦中にいました。小学生のころ
から日本共産党の分裂を目の当たりにして育った著者は、社会科学よりも理系の
道を選んだのでした。
どこかの組織に入って主張することや思想闘争がいやで、「自分の出す資料か
らあらゆる思想的な言葉を剥ぎ取り」ます。事実こそが自然科学の強みと考え、
ファクトを出すことで対立を解きたいと思い続けてきたそうです。
私が本書を取り上げたのは、栄養士をめざす人々にとっても事実を見る姿勢、
事実から物事を判断する姿勢が大切だと思っているからです。
QOLの記述からもその姿勢は伝わります。管理栄養士養成教育において、Q
OLとは何かについてほとんど語られないまま、呪文のように「QOLが大切、
大切」と唱えます。環境リスク学の立場ではQOLはこのように扱われているの
だと、その一端を知りました。以下に一部を引用します。
≪生活の質を考える? それはいいことだ。生きている間も苦しいのだからと
多くの方が言います。しかし、実は私はQOLの研究をすること、および、それ
を使ってリスク評価をすることを研究室の院生やCREST(戦略的基礎研究推
進事業)の研究員に長い間禁止してきました。院生や若い研究者は、とてもそれ
をやりたがっていました。しかし、私は「ダメ」と言い続けました。損失余命は、
失われた生存率の比較です。QOLの評価は、生きている人生の質の評価です。
もちろん、それは低下したQOLを回復するために使うのですが、それが完全に
回復されない間は、質の低い人生と見なされるという問題が起きてきます。その
ことを認めたくなかったのです。その領域は、やすやすと踏み込めるものではな
いと考えていました。≫
(中西準子『環境リスク学』日本評論社、2004年、125頁より引用)
著者は退職後も自身のホームページで、定期的に「雑感」を更新し、社会的発
言を続けておられます。第一線の研究者が所属を離れても常に提言する姿勢に背
筋が伸びる思いです。
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KS企画代表 河合知子
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