2009/04/12
メールマガジン(岡西労務配信)人事労務管理の押さえどころ
*********************************************************** このメールマガジンは、最近の労務・労働問題に焦点を当て、その対応・予防を中心にお伝えしていきます。 ただ、同種の問題であっても、その背景や経緯等で対処は千差万別なため、あくまで一例/参考としてご覧頂ければ幸いです。 個別にご相談の場合は、以下までご連絡下さい(顧問先企業様は無料、顧問契約を締結されていない方は別途相談料が生じる場合があります)。 *********************************************************** 第4回:「精神障害者の労務管理(中編)」 3.休職期間が満了した時の対応 ▽ 休職期間満了後は速やかに就業規則の退職規定に則り退職させるべきです。 仮に様子見等で退職させなかった場合、裁判例で、解雇無効となったケースがあることからも判るように、解雇し難くなります(理由付けが難しくなる)。 ▽ 期間満了による退職を回避するために休職を分散して取得する従業員がいるので、就業規則の休職規定を見直すことが必要です。 ―― 具体的には、 (1)類似病名であっても、従前の疾患と同じと思われるものは、休職期間を通算する (2)休職から職場復帰し、再発した場合に従前の休職期間を通算する間の期間を6か月にする など、休職をしても期間満了しないことを繰り返す者に対する予防策を規定しておくことです。 ▽ 退職届が従業員側から提出された場合は、速やかに(通常の手続きより早く)決裁を取るべきです。 退職届は事業主※の決裁を受けるまでは撤回が可能とされており、それを防止する意味でも早く決裁し、退職させる方向に進めることが大切です。 ※もしくは事業主の代理権者 ―― なお、精神疾患の場合であっても意思能力があれば、退職届の意思表示は有効とされています。 <事業主の講じる健康管理> ○ 定期検診で要再検査の結果が出た場合、法律上は事業主には再検査を受けさせる義務はありません。 しかし、再検査を受けさせなかった結果、当該従業員が倒れた場合は、使用者の安全配慮義務が問われます。 そのため、再検査についても義務に近い形で対応することが望ましいと言えます。 ―― 再検査に応じない従業員がいた場合は、万が一のことを考えて労務提供を拒否することも必要です (過去には再検査をせずに出張したため、出張先で倒れたケースがあります。再検査をしていれば、出張が適当でないことが事前に使用者として把握できた事案)。 ○ 定期検診等で重い疾病(HIV、ガン等)が判明した場合は、本人への結果通知は、事前に医師と相談のうえ、必ず医師を立ち合いの下で行うことが必要です。 ―― 裁判例では、医師が同席せずに、事業主が本人にHIVを通知したことを問題視されました。 すなわち、通知自体に問題があったのではないが、その結果に対して、どのような処置や治療が出来るかを示せなかったことが問題とされたのです。 ○ 通院治療中の者が、主治医と離れたくない(変えたくない)ことを理由として転勤を拒んだ場合、通常の疾病であれば考慮する必要はありません。 しかし、精神疾患であれば、主治医と離れた時点で症状が悪化することがあるため、転勤は難しいと言えます。 <採用時の注意点> ○ 従業員の採用に当っては、面接時点で精神障害を発見することは困難であり、障害の発生の可能性を見抜くことは無理に近いです。 このため、身元保証人の活用や過去の病歴の申告により、精神障害の者の採用を避けるよう対応することが重要です。 このうち、身元保証人については、多くの企業で損害賠償機能を持たせていますが、この場合は有効期間が5年となります。 賠償機能を外して、人物保証に限定することにより有効期限がなくなるので、人物保証に限定する方がよいと言えます。 ―― 仮に賠償事案が発生しても、身元保証人から賠償を取れるケースは、請求額の4割程度であり、賠償機能を残すメリットは少ないのです。 ○ 新卒以外の者を採用する場合は、前職の退職理由および病歴を聞くことは必須と言えます。 特に新卒で採用されたが、短期間で退職した者が再就職として応募してきた場合(第2新卒者)は要注意です。 社会に適応できずに退職した者が、その後再就職する場合は、適応が難しく、プレッシャーを感じて精神疾患を引き起こす危険性が高いからです。 ―― 本人の意思や心身状況に拘らず、親の意向や世間体を気にして就職するからです。 また病歴を聞き、本人が嘘をついて後に再発した場合は、懲戒処分が可能※となります。 ※ 例えば、就業規則の懲戒の箇所に「重要な経歴を偽り、または詐術を用いて採用された場合」とあれば、懲戒処分に該当します。 ―― 以前は、前職場に問い合わせるという方法が主流でありましたが、最近は個人情報保護の観点等により、回答を期待するのは難しくなりました。 ここまでは、精神障害者の労務管理として、精神障害になった人に関する労務管理について述べてきました。 しかし人は入社した時点で既に精神障害を患っているケースはまれで、大半は入社後の環境(職場環境や労働時間、能力と職務の内容)により発症するのです。 もちろん、個々の性格や能力により一概には言えませんが、その原因の一番として労働時間を挙げており、労働者災害補償保険法では、次のように規定しています。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 労働者に精神障害が発症したと思われる場合、業務の起因性があるかどうかの判断目安。 ―― 最近の裁判例を見ていると、必ずしも以下のとおりとは言い難いケースも散見されるようになりました。 また、これがすべてではなく、実務では、その他にも様々な要因も加味して判断されます。 ■発症前6ヶ月間の時間外労働時間数 1ヶ月あたりの時間外労働時間・・・45時間未満でかつ業務上の特殊な事情がない場合:業務に起因する精神障害とは考え難い 1ヶ月あたりの時間外労働時間・・・45時間未満でかつ業務上の特殊な事情がある場合:業務に起因する精神障害の可能性がある ■発症前3ヶ月間の時間外労働時間数 1ヶ月あたりの時間外労働時間・・・80時間未満でかつ業務上の特殊な事情がある場合:業務に起因する精神障害の可能性がある 1ヶ月あたりの時間外労働時間・・・80時間以上で業務上の特殊な事情は問わない:業務に起因する精神障害の可能性を疑うべき 1ヶ月あたりの時間外労働時間・・・100時間以上で業務上の特殊な事情は問わない:業務に起因する精神障害の可能性が高い とされ、月に100時間の時間外勤務をさせていれば、その他の要件を問わず、精神障害が発症したら、すなわち業務に起因するものです。 その結果、事業主はその先に至る責任を『使用者責任』『安全配慮義務違反』として責めを負う可能性があるのです。 この「月に100時間」等の時間は、いわゆる残業だけでなく、休日出勤も含んでの時間、つまり、1週間40時間を超えた時間のすべてを含みます。 例えば、1日8時間・1週間5日勤務の事業所に勤務するある従業員が、 毎日夜10時まで(4時間)残業をし、週に一度は休日勤務をしている場合、 23日×4時間+8時間×4日=124時間となり、軽く100時間をオーバーしています。 実はこのような実態の企業は決して少なくありません。言い換えれば、それだけ多くの会社がリスクを負っていることになるのです。 この話をする時に、必ず引き合いに出されるのが有名な電通事件※であり、その損害賠償額も支払総額 168,575,071円と巨額でありました。 ※(平成12.3.24 最高裁第2小法廷) これを他山の石とするかどうかは、各社の経営判断です。 しかし、上記の通り、長時間労働であれば、業務に起因していると判断される可能性が高く、経営リスクが高まることを念頭におかれる必要があるでしょう。 前回も書きましたように、ただ「早く帰れ」と口頭で注意するだけでは、使用者責任を果たしたとは言えません。 具体的には、業務量削減・人員補充等の対策を行う必要があります。 しかし、手を尽くしても、最後の一つでも落ち度があれば、使用者責任や安全配慮義務違反として、使用者に責任がかかってきます。 最近は特に人自体の脆弱性も低下してきていると言われます。 ゆとり教育やゲームばかりして外で遊ばず、対人関係も希薄で過保護に育てられて打たれ弱い若者はすぐに精神疾患を発症しがちです。 昔の高度成長時代の団塊の世代人たちのように、頑丈な人は少なくなってきているのです。 どうか、そのような背景を正しく認識し、経営に及ぼすリスクを排除してください。 なお、簡単にできる精神疾患チェックリストを以下の通り掲載しましたので参考にしてください。 社内でも、定期健康診断の折にでも併せてアンケート調査として実施して、メンタルヘルスに心掛けてください。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1.この2週間、いつも憂鬱な感じがしたり、気持ちが落ち込んだりしている 2.この2週間、いろいろなことに興味がなくなったり、楽しめなくなったりしている 3.食欲が減少、または増加した。意図しないのに体重が減少または増加した 4.話し方や動作が緩慢になったり、イライラして、落ち着きがなく、静かに座っていられない 5.毎晩、寝つきが悪かったり、夜中や早朝に目が覚めたり、逆に遅くまで寝ている 6.いつも疲れを感じたり、気力がないと感じたりする。 7.いつも自分に価値がないと感じたり、また罪の意識を感じたりする 8.いつも集中できなかったり、すぐに決断できなかったりする 9.自分を傷つけたり、自殺や死んでいればよかったと繰り返し考える 項目1または2のうち少なくとも1つを含み、合計5つ以上の症状があれば明らかにうつ病と考える。 この場合、休業を命じるべきである。早く対処すれば心身の負担が減り、順調な回復につながる可能性が高くなる。 −−−−−−−−−−−ー−−−−−−−− 最後に、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」のリンク先を記しましたので、ご参考にして下さい。 http://www.shiga-roudou.go.jp/hosyou/11.html (滋賀労働局に判り易い記載がありました) 次回は、4月下旬に「精神障害者の労務管理(中編)」として、最新の現場での対応とその問題点についての検証を中心に掲載します。 *********************************************************** 配信責任元: 岡西労務管理センター(社会保険労務士事務所、行政書士事務所) 日本経営労務総合研究所(経営・労務コンサルティング、人材育成・能力開発コンサルティング会社) ジェイオーマネジメント(給与計算・総務・経理・福利厚生管理アウトソーシング会社) 発行責任者:岡西労務管理センター代表 岡西豊博(社会保険労務士・行政書士) ***********************************************************



