2009/02/08
古典落語の世界-日本人の笑いの原点≪百年目≫
【前置き】 『ここで会うたが百年目』 悪事がばれて観念させられたときの言い回しです。 今回の登場人物。 表面はまじめな堅物。 しかし、その実は大変な遊び人。 そのことが一番知られたくない相手に知られてしまいます。 とても困惑してしまいますね。 それが使用人とオーナーの場合、とても複雑な感情が入り混じります。 人を使うは苦を使う、と言います。 使われる側も大変は大変ですが、使う側もそれなりの苦労を伴います。 甘やかすと増長する。 かといって締め付け過ぎると去ってしまいます。 ≪百年目≫ ある商家の大番頭さん。 大旦那に全てを任されて、店を切り盛りしています。 お店の中を回って下の者たちに小言を言います。 こよりを百本よるように言いつけた者に対して、作業が遅い、と。 九十四本?じゃ、あと六本…。 いえ、あと九十四です。 出来たこよりで馬を作って床をトントンたたいて動かして遊んでたら遅くもなります。 あの番頭さん、これ馬でのうて鹿でんねん…。 この角の芸の細かさを見てほしい。 鹿つかまえて馬やなんてそんな馬鹿な…。 なにゆうて! さっさとよりよし! 手紙を書くのはいいことだが、まだ下の者に出すのを頼むには早すぎる、と。 店先で本を読むのはお客様の手前みっともないから慎むように、と。 浄瑠璃にこっている者に、まだそんな身分じゃない、と。 小番頭さん、昨夜は帰りが遅かった。 え?茶屋遊び? 自分はこれまで茶屋酒も飲んだことがない。 芸者は夏着る紗(しゃ)か、太鼓持ちとは煮て食うもちか、芸妓(げいこ)という粉はい くらするのか、とんとわからん。 そんな私の前でよくもぬけぬけと言えたもの。 私がいなくなったら小番頭のあんたが私に代わって店を仕切らなければならない。 もうちょっとしっかりしなさい、と。 大番頭さん、お店がこの調子だと客先がどんな状態か心配だ、と外出の準備を始めま す。 ♪けむ〜しがでて〜ゆ〜く〜、と誰かが。 大番頭さん、相当お店で煙たがられている様子。 大番頭さん、店を出てからおさまりかえって歩き出します。 そこへ、頭をつるつるに剃った、太鼓持ち丸出しの男が、待ってました、と声をかけ てきます。 も〜し、次さんっ、次〜さん、て。 こんなところをお店の者に見られたら一大事です。 大番頭さん、慌てて話をそらそうとします。 が、太鼓持ちもしつこくまとわりついてきます。 実は、この太鼓持ち、待ちわびて大番頭さんを迎えにきたところです。 今日は川辺に屋形船を浮かべ、お茶屋の連中と花見で盛り上がろうという趣向。 いつの間にか人数がふくれあがり、大船を手配した、と。 え〜、なんと手荒い…。 大番頭さん、迎えの太鼓持ちを先に帰して、近所の駄菓子屋に立ち寄ります。 前からその二階に箪笥が一さお預けてあるのです。 そこで上から下まですっかり着替えます。 すべてあつらえた自慢の高級品ばかり。 どこから見ても大店(おおたな)の旦那さんという出で立ちです。 お店とは大違いの大番頭さんの別の顔です。 さて、屋形船で馴染みの連中と合流した番頭さん、人の目が気になります。 近所にお店の親戚筋が住んでいるからです。 こんなところを見られては大変です。 他の連中が盛り上がっているところ、ふすまを閉めきらせて一人ちびちびとやりはじ めます。 お酒が少し回ってくると、閉めきった障子が暑苦しくなります。 自分が閉めきらせてのも忘れて、誰が閉めた?!開けてしまえ…。 やれやれと呆れて障子を開け放つと、満開の桜の花が一面に広がります。 とても贅沢なお花見です。 そこへ、船から上がって花見をしよう、と誰かが言い出します。 頑なに断る番頭さん。 そこへ、先ほどの太鼓持ちが、扇子を手ぬぐいで結んで目隠しをしてあげます。 これなら顔が隠れて誰かわかりません。 お酒が入って少し気が大きくなってきたのでしょう。 誘われるままに船から上がります。 船から上がるととたんに開放的になり、みなして鬼ごっこの始まりです。 ♪鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪ 大番頭さん、調子に乗ってフラフラと追いかけ回します。 土手の上で、大番頭さんの一行が鬼ごっこに興じてます。 そこへ二人の花見客。 大旦那さん、あれはお宅の大番頭さん! と、二人づれの一人、医者の玄白さん、鬼ごっこの鬼を指差し叫びます。 玄白老も年をとったもの。 そんなことはありゃせん。 次兵衛は堅物でしょんない。 今朝もひとしきりうちの者たちを叱っていました。 あいつが少しでもああゆう遊びをしてくれたらよいものを。 と、眼鏡をかけて光景をみた大旦那さん、びっくりして叫びます。 あっ、あれはうちの次兵衛やないか! 太鼓持ちも芸者も丸のみじゃ。 狭い土手の上。 鬼ごっこの一行がこちらにやって来ます。 この大旦那さん、とてもいい人です。 ここで自分に見られたと知ったら、大番頭さんが困るだろう、と気を使います。 後ろに引き返すのも異なもの。 大旦那さん、土手の斜面を通って行き過ぎようとします。 酔っ払いは自分を避けようとする者を、敏感に察知するようです。 こら、こら、逃がさんぞ〜と、大旦那さんを捕まえてしまいます。 と、目隠しをとってビックリ仰天! 反射的に飛び下がって土下座して、こう言います。 これは旦那さん、長らくご無沙汰しております! お店もたいそうご繁盛で…。 大旦那さんも慌てて番頭さんの手をとり、立ち上がらせようとします。 ほらべべがよごれる、年寄りに汗かかしよる…。 みなさん、この人はうちの大事な番頭さん、 怪我させないよう遊ばせて帰してください。 と言い残してそそくさと立ち去ってしまいます。 さあ〜、番頭さん酔いもすっかり冷めて、連中を残して急いで店に帰ります。 大旦那さんがまだ帰ってないと知るや、具合が悪い、と早めに床をとって寝てしま います。 しかし、寝付けるものではありません。 大旦那さんにあのようなところを見られてしまったのです。 悪くするとお暇を言い渡されるかも…。 居ても立ってもおられず、夜逃げの準備を始めます。 待てよ、うちの大旦那は優しい人。 許してくれるかも…。 いいや、だめだ! 二つの思いが夜通し去来しへろへろのまま朝を迎えます。 大旦那さんに呼ばれます。 もうすっかり観念した番頭さん。 大旦那さん、お茶とお菓子を勧めながら話始めます。 最近聞いてきた法話を聞かせます。 『旦那(だんな)』の語源。 天竺(インド)に赤栴檀(しゃくせんだん)という立派な大木がある。 その下にはびこる難莚草(なんえんそう)という醜い草。 難莚草をぬいてしまうと赤栴檀も枯れる。 赤栴檀の下ろす露で難莚草が栄え、難莚草が肥料となって赤栴檀もまた栄える。 その持ちつ持たれつの関係を、両方から一字ずつ取って檀難、だんなん、旦那となった そう。 大旦那さんが赤栴檀としたら大番頭さんが難莚草。 お店では、大番頭さんが赤栴檀とすれば、使用人が難莚草。 ちょっとお店の難莚草が元気がないのでは? それはいずれお店の赤栴檀であるあんたに影響します。 あんたに倒れられたら、わしは一たまりもない。 我が身可愛さと思われるかもしれないが、聞いてほしい、と。 大旦那さん、今度はちょっと真剣な口調で番頭さんに言います。 土手の一件の後、心配になって夜通しかかって帳面を見せてもらった、と。 その結果、全く不正はないとわかった。 自分の甲斐性で稼いで使う、あんたは偉い人だ、と番頭さんを誉めます。 ところで、昨日土手で「ご無沙汰して」とおかしなことをいったが、なぜ? と、大旦那さん。 うなだれていた番頭さんがすかさず返します。 あっ、それは、ここで会うたが百年目、と思ったからです。 ц<(_ξ_)> 【後書き】 今日の演題は少々長かったですね。 でも、なかなか示唆の富んだ名作です。 ただし、旦那の語源としての赤栴檀と難莚草のお話しは、作り事のようです。 [PR] 落語研究会 古今亭志ん朝 全集 上 価格:¥ 24,874(定価:¥ 31,920) http://www.amazon.co.jp/dp/B00122DUY8/ref=nosim/?tag=rakuda972-22 落語研究会 古今亭志ん朝 全集 下 [DVD] 価格:¥ 24,874(定価:¥ 31,920) http://www.amazon.co.jp/dp/B001DNF756/ref=nosim/?tag=rakuda972-22



