古典落語の世界-日本人の笑いの原点  RSSを登録する

古典落語。なんか古臭そう…なんて敬遠しないでのぞいてみてください。そこには笑いの宝庫が!古典落語の題材を不定期で紹介しながらその見所を展開していきます。

  • 発行周期 不定期
  • 最新号 2009/07/06
  • 部数 260部
  • メルマガID 0000267698
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2008/12/20

古典落語の世界-日本人の笑いの原点 ≪除夜の雪≫

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【前置き】
年末に因んだ噺を一席。
その前に少し解説させていただきます。
昔からある言葉で、つりあわない物の例えとして『月とすっぽん』があります。
これは今でもたまに耳にしますね。
同じく『提灯(ちょうちん)と吊り鐘』というのもあります。
これは最近滅多に聞きません。
さて、今日は大晦日のお寺が舞台です。
お寺といえばお葬式。
年末の慌ただしさや正月のめでたさとはあまり縁がないですね。
ということで、今回はあまり陽気な内容ではないので悪しからず。

≪除夜の雪≫

大晦日の夜、お寺の小坊主さんたち三人が火鉢の前で話し込んでいます。
外は雪がひとしきり降った後で、一面真っ白です。
並大抵の寒さではありません。
三人は、除夜の鐘までの間背中を丸めて時間つぶしをしているところです。
先輩格が、後輩二人を相手に話しをしています。
今夜は『ぼんぱら』をやらなければならないとか。
『ぼんぱら』?
鐘がボ〜ンで、鐘楼に積もった雪がパラ…。
つまり除夜の鐘つき。
先輩格自慢の造語です。

ご存知の通り、人間の百八の煩悩の数鐘をつきます。
毎年雪が降り積もり、そのあとの寒さは並大抵ではありません。
最初は真面目に数えています。
が、中盤以降になるとあまりの寒さでわけがわからなくなってしまいます。
しかし気を抜くわけにはいきません。
世間では鐘の数をしっかり数えている暇人がいるらしいのです。

後輩格は、二番目に古い悦念んさんと、新入りの珍念んさんです。
悦念さんは今年の一月、珍念さんは三カ月前、それぞれこのお寺に来ました。
先輩格、話が次第に愚痴っぽくなってきます。
話の内容は住職の悪口。
この寺の住職はとてもけちんぼとか。
自分は贅沢をしますが、小坊主たちには還元しようとしません。
火鉢の炭は安物、お茶っぱも下等。
除夜の鐘まで待機中の茶菓子一つない始末です。
そういったうっぷんを後輩二人に話して聞かせているところです。

先輩格、ぜんぜん暖まらず早く灰になってしまう安物の炭を呪います。
すると、新入りの珍念さんが言います。
兄弟子さん、この炭、使うたらあきまへんやろか?
聞くと、住職の部屋から失敬してきたとのこと。
先輩格、驚きます。
が、あかんことない、と言いながら直ぐ火にくべるよう指示じます。

さらに愚痴が続きます。
今度は安物のお茶っぱ。
また珍念が言います。
兄弟子さん、このお茶っぱ、使うたらあきまへんやろか?
玉露やないか!
聞くと、やはり住職の部屋から失敬してきたとのこと。
先輩格、さらに驚いて言います。
悦念、お前えらい新入りがきたぞ、と。
しかし、まんざらでもない様子です。
おいしいお茶の入れ方を二人に講釈します。

次の矛先が茶菓子に向きます。
すると、兄弟子さん、と珍念さん。
次に出て来るものを予想して、先輩格が、
わし、こわくなってきた、と驚きを隠しません。
これあきまへんやろか、珍念さん魚の丸ぼしを三つ差し出します。
聞くと、住職が寝酒のつまみにする丸ぼしを失敬してきたとのこと。

昔のお寺は肉食妻帯を戒めたものです。
しかし、やはり本音と建前があったようです。
このお寺にも前に『お大黒さん』がいたそうです。
住職の奥さんのことで、すでに亡くなったとのこと。
先輩格、寺方の魚の焼き方を二人に講釈します。
魚を厚手の和紙に包み、水に浸してよくしぼります。
それを火であぶります。
すると魚が蒸し焼きになって匂いが漂いません。
上等な炭で暖まり、玉露と丸ぼしで人心地ついた三人でした。

と、そこへトントンと戸をたたく音。
こんな夜更けに誰だろうと戸を開けます。
なんと、伏見屋さんの若奥さんです。
伏見屋さんはこのお寺の檀家の一人。
そこの若奥さんは月に一、二度の寺参りを欠かしたことがありません。
その時に借りた提灯を返しにきた、とのことです。
年内には返したくて使用人に言いつけていたそうです。
が、忙しくてすっかりわすれられていたようです。
そこで自ら返しに。
これで心置きなく…。
先輩格が丁寧にお礼を言って若奥さんを見送ります。

囲炉裏に戻った先輩格、今来た若奥さんの話をして聞かせます。
とても器量の良い人ですが、実家はあまり裕福ではないようです。
それが、後取りの若旦那に見初められて伏見屋に嫁にきた。
ところが、家が釣り合わないとかで、姑が気に入らなかったようす。
箸の上げ下げにまで小言を言う始末です。
今や一日中嫁イビりにかかりっきり、と世間でも有名です。
ただ、この姑も月に一、二度のお寺参りには口をださなかったようです。
若奥さんにしてみれば唯一の気晴らし、楽しみだったのでしょう。

『釣り合わぬは不縁の元』
と、先輩格が講釈を続けていますと、
誰もいないはずの本堂の鉦(かね)がゴ〜ン…。
思わずおののく小坊主たち。
住職がお勤め、のはずがありません。
今頃お酒を飲みながらの銭勘定に忙しいはず。

弟弟子の一人が庭をのぞいてみて、震える声で伝えます。
兄弟子さん、本堂に履物がない!
離れの本堂に行くには庭を渡って、石段から上がらなければなりません。
石段に履物がないばかりか庭に積もった雪に足跡もないのです!
鉦が勝手になった…?!
先輩格が気を取り直して二人を諭します。
大晦日というのに、恐らく檀家で不幸があった、と。
寺方ではこれぐらいのことはある、と付け加えます。

兄弟子さん!
とまたも大きな声。
庭に降り積もった雪に足跡がない!
さっき伏見屋の若奥さん、きはったときの!
ということは…!
弟弟子たち、顔が真っ青です。
先輩格も震えがきたのか、もっと炭を放り込め、と大声で指示します。

と、そこへ再び戸をたたく音。
開けると伏見屋の使用人が急な知らせを届けにきました。
若奥さんが先ほど首をつって亡くなった、と…。
姑のイビりに耐えかねてとうとう…。
でも、今しがたその若奥さんは借りた提灯を返しにきたばかりです!
借りた提灯が心残りで、普段世話になっていたお寺に最後の挨拶にきたのでしょう。

若奥さん、多分不釣り合いな縁は組むものではない、と言いたかったのではないで
しょうか。

あちらに吊り鐘、ここに提灯…。

   ц<(_ξ_)>

【後書き】
冬の話題で怪談じみた内容でしたね。あしからず。
毎年大晦日から元旦にかけて『二年参り』をします。
今年の午後11時半ころ一度参って、午前零時の時報とともにまた参るのです。
近くに真言宗のお寺があり、除夜の鐘つきに早くから順番待ちの列ができます。
夜になると、護摩をたいたり、達磨売りが店を広げたり、大にぎわいです。
商店街が共同でお酒や年越しそば、甘酒にみかんなどを振る舞います。
昔は瀬戸物のどんぶりに一つ一つ丁寧に出していた年越しそば。
それがある時から発泡スチロールのどんぶりに変わり、ここ数年省力化でカップ麺
になってしまいました。
世の移り変わりの切なさを感ぜずにはおれません。
さて不況の平成20年、あのお寺でどんな大晦日が送れるのか。

 
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