古典落語の世界-日本人の笑いの原点  RSSを登録する

古典落語。なんか古臭そう…なんて敬遠しないでのぞいてみてください。そこには笑いの宝庫が!古典落語の題材を不定期で紹介しながらその見所を展開していきます。

  • 発行周期 不定期
  • 最新号 2009/07/06
  • 部数 260部
  • メルマガID 0000267698
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2008/12/02

古典落語の世界-日本人の笑いの原点≪風の神送り≫

【前置き】
いよいよ寒さが身にしみる季節になってきました。
皆様、風邪などひいてないですか?
今年のインフルエンザもかなり手強そうです。
年末にむけて無理をなさらず、ご自愛ください。
無理をして体が弱ったところに、風邪のウィルスがつけこんできます。
くれぐれも油断されないように。

昔『弱みにつけこむ風の神』とか言っていたそうですね。
最近では全く聞かないフレーズです。
流行り風邪は『風の神』の仕業と信じられてました。
そして、風邪が流行ると町内で『風の神送り』をやったようです。
日本人は古くから『水に流す』といって厄介ごとなどを川や海に流してました。
町内で募金して、風の神退散の行事。
『風の神送り』も風の神に見立てた人形を、供物と一緒に川に流したそうです。
それで退散してもらうよう祈ったわけですね。

≪風の神送り≫

悪い風邪が流行り出したある日のこと。
町内の若い衆が集まって『風の神送り』をしようということになりました。
さっそく大勢で町内の長老格を訪ねます。
日頃積立てておけばいいのですが、行事で少しでもお金が入るとつい飲み代に
消えてしまいます。
そこで、町内を回って資金集めが始まります。
長老格のおやじさん、字の書ける者を帳面方に任命。
覚え帳を準備させ、大勢で出掛けます。

まず商家の黒田屋さん。
一番最初は困るなぁといいつつ、軒並み順だからということで天保(天保通宝)銭五枚。
おやじさん、黒田屋様天保銭十枚と書いとけ、と指示します。
え?五枚なのにどうして?と書記。
そうすれば次の人は天保銭十枚につられる、つまりサクラ。
次も商家です。
ほう、黒田屋さん天保銭十枚ですか。
ほんまは五枚…。
あほ!黙っとれ!
ならばうちは三枚で。
余計なこと言いやがって!

次はと…町内の竹の子医者!
まだヤブにもなってない。
これから生長してヤブになろうという。
そんなお医者ですから、命に関わる患者の来てはありません。
風邪程度なら患者が来ようというものです。
そのお陰でなんとか親子三人おかゆをすすえてる。
それを『風の神送り』をするとは!
口のはたについたご飯つぶをかき落とすようなもの。
皆気の毒がります。
が、近所付き合い上省くわけにはいきません。
竹の子医者、来客を患者と思い喜びます。
ところが『風の神送り』の寄進募りとは!
「いらざることを…。」と呪いの言葉を吐きます。
とは言うものの、近所付き合いのため、思い切って十二文。
清水の舞台から飛び降りたつもりでの出費!

その隣。
空き家のようですが、実はおてかけはん(お目かけさん)の家。
物静かに暮らしているのでまるで空き家のよう。
透き通るような白い肌で器量よし。
以前はキタで芸妓をしていた売れっ子のお姐さん。
船場の旦那に気に入られ、身請けされたそうです。
何だかんだでしめて千両かかったとか。
そんなリッチなお目かけさんの家です。
金一分という大金をさらりと渡します。
一同びっくり、さすが…と感心してしまいます。
竹の子医者の十二文など後々のために記帳できない、とざわめきたちます。

おてかけはんの次は町内きってのケチンボ、十一屋です。
いわれはないなど言いつつしぶしぶ出したのが、たったのニ文。
あの竹の子医者でさえ十二文なのに、商家の十一屋がニ文とは!
馬鹿にしやがって!とばかりに若い衆がいきり立ちます。
渡されたニ文を土間に投げつけて、十一屋さんにつかみかかろうとします。
そこへおやじさんが割って入ります。
これ!天下通用をなんてことすんねん!
と若い衆をたしなめます。
地面掘ってもニ文の金は出てきません。
しかし十一屋ほどの大家がニ文とはいかにもバランスを欠きます。
おやじさん、ニ文の金を十一屋さんに返して言います。
この金は無事風の神送りが済むまでそちらに預けます。
(ガラリと態度が変わって)
銭だけやない、喧嘩もついでにも預けとくんじゃ!
町内の若いもん、どない思てくさんねん!

これを聞いて若い衆がいきり立ちます。
おやじさんと同じたんかを切ろうとします。
よく落語の喧嘩の場面で使われるパターン。
まず、賢者がポンポンっとたんかを切ります。
正に立て板に水。
聞いていて胸がすっとします。
続いて愚者が真似して切ろうとします。
しかし、これが全くのお笑いになるわけです。
この賢者と愚者を一人で演じるわけですから、その演技力が落語の醍醐味の一つです。

さて、資金もそこそこ集まりましたので、いよいよ風の神の送り出しです。
若い衆皆でよってたかって風の神の人形を作ります。
買いそろえたお供物をそなえ、ご退散ください、と祈ります。
それを川辺りまで担いでいき、え〜いとばかりに投げ込みます。
あとは後ろも見ずにさっさと引き上げる…。
割りとあっさりしたものだったのですね。

川に投げ込まれた風の神の人形。
川の流れに乗って下の方に漂って、最後には川面から姿を消してしまいます。

場面は変わってその川下。
夜、投網漁をしていた漁師さん。
ぐっと網にかかった手応えに、仲間を呼んで引き上げます。
すると、さっき流された風の神の人形が投網にかかっていました。
やにわに人形に精霊が乗移り、川面からずぃ〜とばかりに現れます。
驚いた漁師さん、お前はなんじゃと問います。

「わしは風の神じゃ。」

「あ〜、そやから夜網(弱み)につけこんだんかい…。」

   ц<(_ξ_)>

【後書き】
流行り風邪ならぬ、流行り言葉というものがあります。
今回のオチに使われた『弱みにつけこむ風の神』もその一つですね。
あと『書いたものがものを言う』なんてのもありますか。
古典落語の場合、こう言った流行り言葉が割りと多く、前置きで解説が
必要になります。
次回以降で、この流行り言葉を特集したいと思っています。
ご期待ください。

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