小説「絡糸」  RSSを登録する

自分だけが知らない事実がそこにある。その事実は知らなくても不穏で重い何かが自分の前に暗い壁となって立ちはだかっている気配はわかる…そんな主人公の苛立ちから始まります。小説「絡糸」です。

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2008/07/04

不幸な彼女

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私の20年来の友人(?)と、思っていた彼女が変った!
幼い頃からの三人仲間で
つい数年前までは時々集まっては食事などしていた。
私とあと一人の友達は
どちらかというと単純で楽天家。
彼女は、シビアでしっかり者。そういう関係だった。

2年前、
また3人で会って食事をしようと提案した。

が、
が、

彼女は断った!
その言い訳が・・・
「あなたたちは幸せだから、いいわよね。私は不幸だから
そんな気がしないわ」
私は、唖然とした。
その言い方にとても険があったのだ。

どうみても、もちろん客観的だが
彼女が一番恵まれているのではないだろうかと、私たち二
人は思っていた。

それなのに
彼女は、私たち二人より数段不幸で・・・大変なのだとい
う。

「不幸」って、自分で自分のことをいう言葉じゃないです
よね。
「不幸」っていう言葉は、他人がある人をみて判断して使
う言葉じゃないのでしょうか?

私は、
自分のことを、大変だとか、苦しいとか、辛いとかという
表現はするけれど
自分が不幸なのよ、という表現はしたことはない。

みなさんはどう?

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人間の細胞組織は毎日億単位で生まれては死に死んでは生ま
れているのだという。
だから、
自分が「死にたい」と思っていれば、
その細胞も「死にたい」という願いを溜めた細胞が生まれる
のだという。
だから、
自分が「楽しい。頑張ろう」と思っていれば、
その細胞も「楽しい。頑張ろう」という願いを溜めた細胞に
なるのだという。

あなたは、
どちらがいいですか?

だから、
苦しくても、悲しくても、辛くても、
「絶対に幸せになるんだ。絶対に私は頑張るのだ」という細
胞を作った方がいいと私は思うのです。



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                     小  説

           絡    糸


                        舞  子
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 その時、チャイムの音が聞こえた。
 台所で動き回っている彼女には聞こえなかったのだろうか、
チャイムに応答する彼女の声は聞こえなかった。
 僕は、彼女の代わりに玄関に行こうと居間を出た。
 台所から、大きな声が聞こえてきた。
「何やってたんだ! 聞こえなかったのか!」
 兄の怒鳴り声だった。僕は、急ぎ足で台所に向かった。
「ごめんなさい・・聞こえなかったから」
「まったく、おまえは、どじだからな。うん? 俺は、そん
な田舎臭い料理なんて食べないぞ」
「あの・・これは・・健太郎さんの・・」
「健太郎!? 健太郎が来てるのか。ははーん、それで、お
まえは有頂天になって、俺のことはほったらかしというわけ
だったんだな」
「そんなことではない・・」
 彼女の震える声が途切れ途切れに聞こえてくる。
「あの、健太郎さんが彼女を連れてきていて・・」
「彼女? 女か? いよいよ、あいつもお前のことを諦めた
ってわけか。残念だったな」
 なんということだ。僕の不吉な閃きは、やはり事実だった
のだ。
 僕は、勢いよく兄の前に出て行かなければいけないはずだ。
しかし、僕は、その場から動けなかった。
「それで、その田舎臭い料理を出そうとしているのか。寿司
ぐらい取る器量もないのか」
「・・お金が・・」
 兄が、何かを机の上に叩きつけるような音が聞こえた。
「健太郎に、嫌というほど贅沢な寿司を食わせてやれ。蔵寿
司がいい。あそこの特上だ。わかったな」
 兄が、台所の反対側のドアを開け、強く締めた音が聞こえ
てきた。二階への階段を歩く兄の足音が聞こえてくる。
 僕は、わざと、足音を立てて台所に近づいた。軽くドアを
ノックして、彼女の返事を待たずにドアを開けた。
 僕が思っていた通り、彼女は台所の隅でうずくまっていた。
「今、誰かが来たような気がしたんですけど」
 彼女が慌てて立ち上がった。瞳が真っ赤だった。
「どうしたんです?」しらじらしい僕が腹立たしい。
「ええ、お兄さんが、帰ってきたのよ。よかったわ。すぐに
健太郎さんのところに行くと思うから」
「そうですか」
「ええ、そうなのよ。間に合ってよかったわ」
「その目どうしたんですか? 真っ赤ですよ」
 彼女は、手の甲で慌てて涙をぬぐった。
「タマネギを切っていたの。タマネギって、目が痛くて」
「そうですか。何か手伝うことがあれば」
「もう少ししたら御寿司が届くから、それまで居間で待って」
 今からお寿司を注文して、届くまでどれくらいの時間がか
かると思っているのだろうか。特に、蔵寿司は、仕事は丁寧
で味も極上だけど時間がかかることで有名だ。
 そして、兄は、いつも、寿司が届くのが遅いと母に怒りを
ぶちまけていた。今は、きっと、彼女に当り散らすのだろう。
 僕は、今、ここにいる自分を後悔し始めていた。来るんじ
ゃなかった。彼女のこんな悲しい顔なんて見たくはなかった。

 僕は、足早に台所を出て居間へと急いだ。居間では、綾子
がクッションの上に足を投げ出していた。短いスカートがさ
らに太ももをさらけ出している。
 僕が入っていって、綾子は、慌てて姿勢を正した。
「兄が帰ってきたみたいだ。すぐに、ここに来ると思う」
「どんな人? 厳しい人? やさしい人?」
 僕は、どう言っていいのかわからなくて、あいまいに苦笑
した。僕の腹の中は、兄に対しての怒りが膨らみ始めていた。
 彼女が不幸なのは、僕のせいなのだ。それが、今、はっき
りとわかった。兄は、僕が彼女を好きなことを何かで知って
邪魔をしたのだ。
 幼い頃の僕の母を独り占めしたように。まだ口答えする知
恵も、力もない幼い僕から母を奪ったように。そして、僕が
関心を示さなくなると捨てる。母でさえ、捨てられたのだ。
しかし、母は自業自得だった。しかし、彼女は他人だ。僕た
ちとは関係のないところで生まれて育ってきた女性だ。
 こんな苦しい日々を押し付ける権利は兄にはない。

 ノックの音が聞こえた。
 僕が返事をする間もなく、ドアが開いた。そこには、満面
の笑みを貼り付けた兄がいた。
 綾子が、傍で、もじもじとしている。
「彼女か?」と、兄が聞く。
「ええ」と、話し始めた僕の言葉を遮って綾子が話し始める。
「始めまして、小島綾子です」
「綾子さんか、いい名前ですね」
 綾子が、可愛く照れる。
「お兄さんに会えないのかと、残念がっていたところだったん
です」
 兄が、大人ぶった笑顔で綾子を見つめる。
「なんて、かわいい女性なんだ。健太郎は運がいい」
 綾子は、僕の傍から少し離れて姿勢を正した。
 兄が、僕たちの前の席に座る。
「で、婚約はしたのかな? 結婚式は何時なのかな」と、兄は、
訳知り顔で僕に聞く。
「まだです」
「それじゃ、彼女がかわいそうだろう」
「私は、いつでもいいんですよ」綾子が甘えた声で言う。
 二人の会話には反吐が出そうだ。
「大切にしてくれるかい? うちの弟は」
「ええ、とっても」
 僕は、たまらなくなって立ち上がった。
「どうしたの?」綾子が聞く。
 兄の目が、いやらしく光った。
「ちょっと、トイレに」
「出て左だぞ。右は台所だからな」
 僕は、居間を出て兄の耳に入るように大きな音を出して右に
向かった。お手洗いは、家の隅にあって、長くて細い廊下を歩
かなければいけない。
 その廊下が、陰気で暗くて息苦しく感じるのは何故だろう。
 僕は手洗いを通り過ぎて裏庭に出た。目がくらむほどの陽が
あたり一面を輝かせていた。しばたく目を開いてみると、そこ
には、色とりどりの花が咲いていた。この裏庭が彼女の場所な
のだと、僕は感じた。僕は目を閉じ、すがすがしい空気を吸い
込んだ。
 なんとかしなければいけない。なんとか、彼女を薄暗い場所
から出してあげなければいけない。

「何をしてるのかと思ったら、こんなところに居たか。俺は、
てっきり居間を出て左へ行ったと思っていたよ」
 兄が、僕の思考を中断した。
「左へ? なぜ?」
「もう、終わったことなんだな、おまえにとっては」
 僕は、無言で兄の横を通り過ぎようとしていた。そんな僕の
腕をむんずと掴んで、兄は聞いた。
「彼女のこと、本気なのか」
「ああ」どうでもいいんだ、そんなことは。
「かわいい子だな。色っぽいし。満足してるんだろうな」
 兄がにやりと笑った。ふてぶてしくて嫌らしい兄だ。
「俺は、京子のいる台所へ行ってから居間へ行くよ」
 兄は、「京子」という名前を強調した。
「少し時間かかるかもしれないけどな。お前たちも安心して居
間にいればいいさ。俺は、しばらくは邪魔をしない」
 何が言いたいんだ。僕が神経過敏になりすぎているだけなの
か。正直いって、兄の傍に居ると、すべてが薄汚く感じられて、
今の僕には堪えられそうにない。
僕たちは、無言で引き返した。兄は、そのまま彼女の入る台所
へと歩いていく。僕は、後を追いたい気持ちを必死で押さえ、
居間のドアを開けた。
 待ってましたとばかりに、綾子が駆け寄ってきた。
「めちゃ、かっこいいお兄さんね。スタイルも、顔もいいし、
やさしいし、色っぽいし」
「色っぽい?」
「セクシーよ。背筋がぞくぞくしちゃうくらい。あの目で見つ
められたら、わけわかんなくなるかもしんない」
 僕は、呆れた。

 蔵寿司の出前が届けられるまでの三十分、僕たちは、しゃべ
った。僕は、僕の声がどこから出ているのかわからないくらい
に心の中が無味乾燥していたけれど、にこやかな笑みを顔に貼
り付けていた。
 チャイムが鳴った時、僕は、ほっとした心の音が皆に聞こえ
てしまったのではないかと思うくらい、安堵した。チャイムと
同時に跳ねるように飛び出して行った彼女もそうだったのかも
しれない。
 綾子と兄は、機嫌がよかった。綾子と兄が、よく似ていると
思うのは、僕の意地の悪さからだろうか。
 
 僕たちは、寿司を食べ終えて早々と兄たちに別れを告げた。
 不服そうに口を尖らすと思っていた綾子も、機嫌よく別れを
告げていた。
 何も変わってはいないんだ、と、僕は、そのことがとても哀
しく悔しかった。そして、なぜ、彼女が兄を選んでしまったの
か不思議だった。彼女は、僕と最後に会ったあの時に何か言い
たげなしぐさは見せなかっただろうか。僕は、何かを見逃して
いたのだろうか。いまさらだけど、帰宅途中の車の運転をしな
がら、また堂々巡りの自問自答を繰り返していた。
 ふと、我に返って隣の席に座っている綾子を見やれば、綾子
もまた何かに取り付かれたように考え込んでいた。しかし、そ
の顔は、僕とは正反対でとても嬉しそうだった。

                          続く

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