2008/12/12
オバマ政権は2兆ドルをファイナンスできるのか?【金子洋一「エコノミスト・ブログ」】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ---------------------------------------------------------------------- --- ◇ 『金子洋一「エコノミスト・ブログ」』 ------------------------- ---------------------------------------------------------------------- --------------------------- 平成20(2008)年12月12日号 ------------- ---------------------------------------------------------------------- ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇オバマ政権は2兆ドルをファイナンスできるのか? ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ バラク・オバマ次期米国大統領は、2011年までに少なくとも250万人の雇用を生 み出すことを目標として、インフラをはじめとした戦後最大の公共投資を実施す る計画をこの6日に明らかにしました。 その総費用についてオバマ氏は明らかにしませんでしたが、少なくとも5000億 ドル(約50兆円)にのぼるものといわれています。また同時に、ビック3救済策 についてはホワイトハウスと議会間で150億ドル(約1兆5000億円)の融資を行う とする基本的な合意がむすばれました。ブッシュ政権下では救済するのかしない のかという問題に白黒をはっきりつけようとしない典型的な問題先送りの手法で す。 すでにイラク戦争関連で1兆ドル(100兆円)の軍事費、先の金融危機対策で7 000億ドル(70兆円)の融資に上乗せで、5000億ドル(約50兆円)の歳出をおこな われようとしています。米国政府の負担は総額で2兆ドル(200兆円)を優に超え ます。先のエントリーでも書きましたように、米国経済にとって今はできること は何でもしなければならない時期だという現状認識には賛成します。しかし、こ れらの費用をはたしてアメリカ政府はきちんとファイナンスできるのでしょうか。 短期的な答えとしては、十分ファイナンスできそうです。というのも、今回の 金融危機でお金(ドル)の最終的な行き所は、株式もダメ、社債もダメ、もちろ ん土地などの現物もダメという消去法により、米国国債になっているからです。 《9日のニューヨーク債券市場で、米財務省証券(TB)3カ月物の利回りが一時 マイナス圏に落ち込んだ。同利回りがマイナスになるのは史上初とみられる。財 務省が同日実施したTB1カ月物の入札は、落札利回りが史上最低の0.00%となっ た。数ある金融商品のなかでも特にリスクが低いとされる米短期国債に資金が集 中するのは、米政府・当局による大規模な対策が相次ぐなかでも、投資家にリス ク回避姿勢が根強いことを示唆している。》(米短期国債利回りが初のマイナス リスク回避で資金集中) http://blog.guts-kaneko.com/img/081212_tnx.png この米国国債10年物10-YEAR TREASURY NOTEの値動きのグラフでまずわかること は、特に最近11月中旬以降から、2.5%へとこれまでの3%台後半から急激に利回 りが低下していることです。これまでの膨大なイラク戦費やオバマ氏が提唱して いる経済対策に必要な国債発行を当然市場は計算に入れているはずですが、それ でもなお金融危機の深まりに伴って米国国債の利回りは逆に低下している、つま り国債を低い金利でも買ってくれる人が大勢いるということです。(この逆の状 態が国債利回りを高くしないとリスクが高くて買ってもらえないというデフォル ト寸前の国債市場です) これらのことから少なくとも短期的な問題としては、市場参加者は今回の金融 危機は、企業や銀行セクターの問題であって、ドルの信認の問題ではないと判断 していることを示しています。そういった判断の結果、株式市場などの投機的な 市場から、安全を求めて米国債にドルが逃げ込んでいることが金利の動きからよ くわかります。 これは繰り返しになりますが、イラク戦費はもちろんのこと、今後出てくるで あろう経済対策を既に織り込んだ金利水準です。ただし経済対策に伴う国債発行 が現在報道されている以上に膨大な場合はあるいは国債金利が上昇するかもしれ ませんが、今のところさほどの物ではなさそうです。 では、中長期的にはどうなるのでしょうか。現在の米国債高はその大部分を株 式安との裏表の現象です。株式市場に流入していたドルが、行き所を失って米国 債に流入しているというのが現在の米国債市場の背景にあります。したがって株 安の性質をどう評価するのかということがカギになります。 この株安は、第一に、実体経済の問題があります。今後の米国の景気が長期( 私にいわせれば2年間)にわたって悪化するだろうと予想されていることが大き な原因です。これについては特に解説は必要ではないと思いますが、付け加えて いえば、今の株価が今後うち続くであろう景気の悪化を十分織り込んでいるとは 私は考えていません。つまりさらなる景気の悪化がこれからも株価の下ぶれ要因 になるだろうと思っています。 第二に、貨幣的、金融的な問題があります。今後の経済情勢に対して、ひょっ とするとドル紙幣が紙になるかもしれない。あるいは、1930年代の世界大恐慌の 再来がありうるかもしれない。未曾有の経済情勢と考えたなら我々の行き先に黒 い大きな穴がぽっこりと空いているかもしれません。しかも、これまでになかっ た出来事ですから、誰もどのくらいの確率でどんなことが起きるのか計算できま せん。この不確実性は、危険性が計算できる状態とはことなります。経済学的な 用語を使えば、現在のなにがどのくらいの確率で起こるのか計算もできない状態 を「不確実性がある」状態と表現して、なにがどのくらいの確率で起こるのか計 算ができる状態である「リスクがある」状態と区別します。(よくこの点をきち んと論じた経済学者のナイトの名前をつけて、ナイトの不確実性といいます。) リスクのある状態なら、保険を掛けるなり何なりと対処の仕方がありますが、 不確実性のある状態では基本的な方法はじっとしかありません。なにせ将来なに が起こるかわからないのですから。 企業や消費者にとって、このような時期での最良の戦略は、(望むらくは事前 に)借金を返しておいて、手元に流動性の高い資産(現金や、この場合には米国 国債が当てはまります)を持っておくことです。つまり今の米国債への人気は、 皆がなにが将来起こるかわからないので、株式や債券を手放そうとしているため にその価格がリスクプレミアム分だけ安くなってしまっていることと同じことだ と表現できます。『投資家にリスク回避姿勢が根強い』と上の引用にあることを 思い出してください。どの程度の比率なのかはちょっとわかりませんのでカンで いいますが、イメージとしては下落幅の半分程度がリスクプレミアムではなかろ うかと思っています。 こういう書き方をすると将来は暗いと思われるかもしれませんが、逆に考えれ ば、こういった貨幣的、金融的な問題が解消されれば株価は急上昇することでしょ う。それがいつになるかはわかりませんが。 もちろん長期で見た場合、数年スパンではどうなるのかはわかりません。いう までもなく基軸通貨の地位をドルが失うことになれば、株式のみならず米国国債 も暴落することでしょうが、しかし現時点では、欧州が最終的にサブプライムロ ーン問題でババを引いてしまったようで、ユーロがドルよりも傷んでおり、円は 残念ながらそこまでの声価を市場において持っていないため、ただ今すぐに基軸 通貨が変わることは予想できません。 結論をいえば、株式市場などから引き揚げられたドルが米国債に流れ込むだろ うことから、米国は2兆ドルを無事に市場から調達できることでしょう。一部で はこの国債増発を米国崩壊の原因となるなどという方もあるようですが、とりあ えずそれはないだろうと思います。 画像、リンク入りブログのURLは http://blog.guts-kaneko.com/ です。 これまでに約400件ほどのエントリーがあります。 トラックバックもできますので、ぜひご覧下さい。 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ・発行者 金子洋一 ・画像入りブログ http://blog.guts-kaneko.com/ ・携帯用 http://guts-kaneko.com/x/mt/mt4i.cgi ・ホームページ http://www.guts-kaneko.com/ ご意見、ご希望などのご連絡は、こちら↓の電子メールフォーム からお送り下さい。(しばらく故障しておりましたが直りました。) http://blog.guts-kaneko.com/2003/10/post.php ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


