2009/11/06
第33回:OJT再興論
こんにちは。「銀行ビジネス鳥の眼/虫の眼」第33回のメルマガです。 今回は、バードさんのニューズレターではなく、私のコメントです。 最近の銀行では、担当者のスキル低下や、若手への教育が大きな問題となって います。銀行の「OJT」について少し話をしてみましょう。 ---------------------------------- 「OJT再興論」 多くの銀行で最近、教育が問題となっています。 若手の職員の仕事能力やスキルが上がっていないというのです。「OJTは崩壊した」 とも言われています。 例えば審査能力。バブル時代に担保評価ベースの融資が主流となり、経営者や キャッシュフロー、仕入先・販売先を含めた企業力の総合評価は脇に追いやられ ました。傍流となってしまった総合評価タイプの人の多くは、バブル後に主流に戻った わけではなく、本部・支店を通じて審査能力が低下したといいます。その後、 中小企業向けにはスコアリング融資が入ってきて、企業をみる目を養う仕組みが さらに弱体化しました。 あるいは営業力。企業の経営者と腰を据えて話し、交渉ができる担当者が減った という声が聞かれます。バブル時代には貸せる先にはとにかく融資し、逆にバブル後には 「貸し渋り」と言われつつ融資を断らなければならず、いずれも顧客と対話する 状況にはありませんでした。また支店長や役席は重要な顧客の対応に時間を とられる中で、営業担当者の数も減り、若手を教育する手間も時間もかけられ なくなりました。一方で、手数料商品の販売目標が課され、後先考える前に、 売れる先に売ることが求められました。顧客からも「ゆっくり座って話ができない」 「売るものがある時だけ来る」と言われる始末です。 しかし、そもそもOJTとは何だったのでしょうか? OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、仕事をする中で教育・育成を行うという 方法です。反対語は、Off-JTですね。 もともとの銀行のビジネスは、ある意味単純でした。商品は預金と融資だけと 言ってもよかったからです。収益を稼ぐのは融資だけ。つまり単品商売です。 加えて世の中が右肩上がりで成長を続け(プレーヤーは皆儲かる)、かつ競争が 制限されている(新規参入や競合商品がない)中では、新しいことをしたり、 新しい仕組みを考え出す必要に迫られることはありません。 単純なビジネスとは言っても、融資をするためには、貸したカネが返ってくるかを 見極める審査能力が必要になるので、企業の信用力や成長力をみるスキルは 求められます。しかし、ある程度の時間をかけて先輩がやることを観察し、 習う(倣う)余裕があれば、ひと通りの仕事のしかたは覚えられます。 OJTは一種の徒弟制度で、実際の仕事を通じて上司が部下を指導・育成 します。人によって仕事のやり方と教え方に巧拙があるので、学ぶ相手が誰かに よって、部下の育ち方にはかなりバラツキが生じます。しかしそれは、転勤しながら 複数の先輩や支店長の仕事のやり方に接する中で、ベストプラクティスかそれに 近いものに触れられる機会が与えられることで、ある程度カバーされます。 人員面で余裕があれば、育ってくるまで待つこともできます。 このように、OJT方式は、シングルビジネスで人員に余裕がある時代の銀行には 合っていました。 ところがこの15年で、状況は一変しました。 まず、銀行はシングルビジネスではなくなりました。リテールでは住宅ローンに続いて 消費者ローン、さらには投資商品や信託、保険商品も販売するようになりました。 多くの支店長は、こうした商品を販売した経験がありません。メガバンクでは、 法人取引しか知らない支店長が、リテール専門店舗に配属されるケースも 少なくありません。また資格取得も必要です。商品ライン毎に本部の所管が 異なるため、レポーティングラインは複線化します。ホールセールでも、私募債を はじめ様々なスキームが販売されるようになりました。 預金以上に、ローンや投資商品などは販売にタイミングが必要です。販売の タイミングを知るために顧客からのふだんの情報収集が重要になります。また、 接点のない潜在顧客に対しては、購買タイミングになったときに先方から 来店してもらうためのマーケティングを行わなければなりません。つまり、商品知識や 商品販売スキル以外にも、知識/スキル/道具立てが必要になるのです。 ところが支店長はじめベテランの人たちは、こうした知識・スキルを持ち合わせて いないので、OJTはできません。 次に、人員の余裕はもはやありません。支店の人員数は減らされているので、 営業担当者についても補充なしの異動が繰り返され、1人の担当地域や 担当顧客数が増加します。営業担当者の多くは、自分の抱えている顧客を 回るので精一杯です。いや、その中でも重要顧客以外へのタッチはかなり頻度が 低下します。数多くのノルマをこなしていくためには、「売りやすい」顧客のところへ 行くのが最も早道だからです。作物がよく育つ畑ばかりで収穫をしていると、 その畑の土地は痩せ、他の畑は草ぼうぼうになってしまいます。それが長期的に よくないことは皆分かっていますが、そうなる前に自分が転勤することを祈りながら、 日々の活動を「こなしている」担当者は決して少なくないでしょう。 なので、部下を教えるヒマや育てている余裕など、現場にはありません。 また若手は、十分基礎を叩き込まれる間もなく、戦力の薄い職場でいきなり 顧客の前に立たざるを得なくなります。 このような実態を踏まえないままに、「最近の若手はお客様の相手ができない」 と言うのは、自分の子供に必要な手をかけて育たかどうかの反省もなく「ウチの子は 何でデキが悪いんだろう」と嘆く親と、何ら変わりありません(自戒の念も込めて 言っています・・・)。親が育った時代と子供が直面している現在では、かなり環境が 異なります。なぜか勉強している内容にはあまり変化がないのですが・・・ 話を本筋に戻すと、職員の知識やスキルをあらためて強化するために、過去に 行っていたOJTを復活させるのは不可能です。OJTを行うための前提条件が全く 異なっているからです。 では、新しい時代のOJTとはどのようなものになるべきなのでしょうか? おっと、それ以前に、新しい時代にOJTは必要なのでしょうか? 私は、OJTは必要どころか、不可欠であると考えています。なぜなら、人が本当に 育つ機会は、現場で問題に直面し、悩んでその状況をクリアした時や、力を尽くして 失敗したりした時にあるからです。重要なのは、まさにそのタイミングで、本人の 気づきへのガイダンスや行動への後押しをしてやれるかどうかです。そのためには、 オンデマンドでの支援が必要であり、そこにヒトからヒトへの指導であるOJTの 存在意義があります。 逆に言えば、オンデマンドの必要性が薄いものはOJTでやらなくてもよいと考えられ ます。「それ以外のもの」とは何でしょうか?礼儀作法などビジネスマンとしての基礎の お作法、顧客との会話を情報の獲得や販売につなげる話法や対人スキル、 販売プロセスの管理、本部など社内リソースの活用方法等々、様々なものがあります。 教室方式やe-learning方式のOff-JTの研修コースを作ったり、Q&Aの仕組みの 整備や、ベストプラクティスを検索するナレッジ・マネジメント・ツールなどを組み合わせて、 求められる知識やスキルに応じた提供の仕組みを作り上げていきます。これらは 本部側で準備すべきものです。 ある銀行では、若手職員を集合研修の後に現場に出し、一定期間後にまた集めて 研修を行って現場に戻すということを繰り返し行っています。研修で学んだことを すぐに仕事で使ってみて、馴染んだらさらに高次元のことを教えて、またそれを実地に 使うというサイクルです。 さて、OJTに話を戻すと、過去のOJTは先輩・上司がやって見せて後輩・部下に 覚えさせるという徒弟制度でしたが、今後はそうはいきません。これまで自分が 経験を通じて身に付けてきたスキルやノウハウ(暗黙知)を何らかの形で体系化 (形式知化)して、部下の成長度合いに応じてトランスファーしていくことになります。 つまり、教える側には「教えるスキル」が求められます。教えるスキルのない上司ほど、 「つべこべ言う前にこの数字をやって来いっ!」とか言ってしまいがちです。 「ごたごた言わずに勉強しろっ!」と怒鳴る親と同じですね。暗黙知の形式知化、 および育成手法の標準化と整備・維持を行い、「教えられる」上司を育てるのも 本部の役割です(もちろん、現場の優秀者の手を借りることは不可欠です)。 支店長の時間の使い方や部下への接し方について調べてみた銀行がありますが、 驚いたことに、10人調べると、10人ともやり方が異なっており、人員配置なども 本部の指導と実地では違っていることが判明しました。結局支店長は、自分が 経験に基づいて編み出したやり方に従っていたのです。この銀行ではその後、 マネジメントの標準化に乗り出しました。 「そんなことをしている余裕は現場にはない!」という反論もおそらく出てくると 考えられます。これに対応するためにはどうしたらよいか。考えられる答えの一つは、 まずムダな時間を削って時間を有効に使う方法を標準化し、提供することです。 仕事の中には、色々なところに「慣習でやっていること」「言われたからやっている こと」「担当者が明確でなくやっていること」などのムダが潜んでいます。 また、コストに見合わない仕事をせっせとやって達成感に浸っている場合もあります。 こうした非効率を数値化してテーブルに乗せ、改善効果を明確にし、目標を 設定して改善を進め、結果が出たらそれに報いるという仕掛けが必要です。 これも本部の役割ですが、実はこうした仕事を担う部署が、現在の銀行には 見当たりません。各業務部門が自分で実施することになるのが一般的ですが、 業務部門が実施するとワンタイムのプロジェクトとなってしまいがちで、担当者の 異動とともにそうした活動がウヤムヤになる場合が少なくありません。 また、内部者の目線で対応しがちなために、客観的なアプローチが望めない 可能性もあります。 私は、銀行内部でこの役割を担うのは、現在の組織では「事務管理部」だと 考えています。ただし、現在の事務管理部は「事務」の効率化に血道を 上げていて、「業務」には目が行っていないのが通常です。また経営陣も、 そうしたミッションを事務管理部に与えていません。しかし、営業店の事務量を 計測し、その効率化方法を立案し、ITによる支援方法を決定し導入するという 事務管理部が行ってきた作業の基本的な流れは、業務についても同じです。 そして、事務管理部ではそれ自体がミッションとなっているので、活動の結果や スキル・ノウハウが組織として共有化・伝承されます。 こうして、効率化が実現されれば、これまで目の前の仕事に汲々としてきた 本部や営業店の職員が、仕事の改善や部下の育成に時間を割く余裕が できます。標準化された教育と、その実地への適用に上司の適切なコーチングが 加わり、若手が育ちやすく、個人のスキルやノウハウに過度に依存しない仕事の 仕組みを作りだすことができるようになります。育成の仕組みは、事務管理部 ではなく、人事部や人材育成・研修担当の部門が現場と共同で作り上げる べきでしょう。また、そうした育成努力や成果を評価する仕組みを評価体系の中に 組み込むことも必要でしょう。これは人事部の役割です。 ここまで述べてきた中には、現場と、複数の本部部署が登場しました。現場力を 高めるためのOJT再興への取り組みという、一種単純そうに見えるテーマでさえ、 これだけの登場人物が協力して仕事を進めていくことが求められます。個々の プロジェクトを束ねて推進のマネジメントを行なう、プログラム・マネジメントの 考え方が必要になりますね。 ------------------------------------------------ 誤解を恐れずに言えば、銀行にはこれまで「組織的・体系的に人を育てる」という 概念が薄かったのではないでしょうか。特に「組織的・体系的に」という部分です。 形のある製品をもたない銀行にとって、人材やノウハウは宝であり、それは昔から 言われてきたことです。ところが、その「宝」である人材を育てる方法論は、 あまり明確なものがありませんでした。なくてもやってこられたし、それで一部の人が 育っていたからです。 「OJT」と言えば聞こえはよいが、要は人材育成の方法論がないことを、そのように 言い換えていたのかもしれません。だとすれば、これからは「本当のOJT」を 創り上げていくことが、差別化の重要な要素となるでしょう。 では、また次回。 ----------------------------------------------- このメルマガの転送は自由です!周囲の方にご紹介ください! 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