2009/02/22
第18回:米国2009年見通し(第2回)
こんにちは。「銀行ビジネス鳥の眼/虫の眼」第18回のメルマガです。 今回はバードさんの最新のニューズレター(2月9日)をご紹介します。・ 米国金融危機の現状について、彼女が入手したデータ/情報/インテリジェンスに 基づいて分析し、2009年の業界動向について見通しを述べたものです。前回は 2008年9月30日に見通しを発表していて、当メルマガの第9回で紹介しています。 米国銀行のトップマネジメントと日常的にコミュニケーションをとり、現場のナマの 情報を得ているバードさんのこの種のコメントについては、できるだけ遅れずに 紹介していくつもりです。 では、まずはバードさんのメルマガの紹介、私のコメントはその後で。 ---------------------------------- 2009年2月9日 <2009 OUTLOOK: A SECOND LOOK> <2009年の見通し:第2回> −記事要約− 今年は非常に厳しい状況が続く。「基本への回帰」が現在やるべきことだ。 伝統的な融資、資本マネジメント、地元回帰のビジネス開拓、そしてリスク 中和がテーマとなる。 −本文− 2008年第4四半期のデータが概ね出てきて結果が見えてきたが、血の海のような 四半期だったと言える。最も健全な部類の銀行でさえ流血は避けられず、融資損失、 含み益の減少、評価損、その他の証券損失などの様々な領域で「多額」から 「巨額」にいたる損失を被った。 こうした背景を踏まえた上で、2009年はこれからどうなるだろうか? ・不確実性が多く残る : 自行の業績、特に融資の損失とリスクベースの必要 資本額について、2008年はほとんどの銀行が、四半期最終日の2日前になっても 正確に見通せなかった。全体に「どこが景気の底かを探る」動きが続く中では、 こうしたフラストレーションはなくならないだろう。伝統的な予測手法や シンプルなモデルは、間違ってはいないものでも役に立たない同然に外れまくって いる。決済動向などの昔からある指標でさえ、倒産の先行指標として有効では なくなっている。法人・個人の借り手の双方とも、何ヶ月も支払いが滞って いなかったのが、突然脱落して倒産を申告するような状況だからだ。 ・収益は厳しい圧力にさらされる : 預金金利は妥当といえる水準にはない。 預金コストが利鞘を大幅に押下げているせいで、コミュニティ銀行の収益の根幹 である利鞘が大幅に縮小している。融資利回りは改善しているが、最低金利や 繰上返済手数料のない変動金利融資を抱える一方で、預金コストは低下しても ほんの僅かという銀行は多い。必然の結果として、利鞘は大きく圧縮される。 コア資金調達に圧力がかかっていることが意味しているのは、現在のトレンドが 持続するということであり、融資金利や条件に多少のプラスがみられる程度では、 ポートフォリオのパフォーマンスの改善には至らない。 手数料収入も厳しい状況だ。小切手口座残高不足手数料やATM手数料が増加して いるのに気づいた消費者は、サイフのヒモを締めて行動を変える。典型的な 資産管理手数料は保有投資残高の1%だが、株式市場の下落とともに残高が減少し、 それに沿って手数料も減るのでかなりの影響を受けている。 融資の健全性の低下は、複数の面で収益を圧迫している。 −融資が不良債権に分類されることで未収金利が収益計上不能となること −回収費用の増加 −ポートフォリオ品質の低下とリスクベース資本の増加による資本コストの増加 −融資損失の増加 −不動産等の担保価値低下に伴う評価損の増加 コンプライアンス費用は増加し続けており、当面は減少の見込みはない。 業界全体の状況を考えれば、今回だけは規制当局を非難するわけにもいかない。 コンプラ費用は様々な場所で発生しており、資金調達ベースの構成さえも対象に なっている(現在はホールセール調達がコア預金調達より低コストかもしれないが、 それを利用した利鞘改善に依存しすぎてはならない。なぜならホールセール調達に ついて規制当局が上限比率を課しており、それに引っ掛かるからだ)。 同時に、多くの事件の中でもバーナード・マドフの件(注1)は、規制が強化されれば 必ずしもリスクが減少するとは限らないことを示している。 レバレッジ解消取引を行えば、ROEの低下という代償も伴う。 他の収益源も干上がっている。証券化は大手、中小いずれの銀行にとっても大きな 収益源だったが、市場は消失してしまっている。小規模銀行のポートフォリオを 証券化していた従来の買い手は、もはや市場にいない。また、売り手である銀行は あらゆるものをポートフォリオ化しなければならないために、バランスシートの 活性度が低下し、資本を繰り返しレバレッジできなくなっている。 ・短期的視点の対応は「患者を殺してしまう」可能性があるので要注意だ。 生き残りのためのコスト削減は皆がやっている。自前でやったりコンサルタントの 手を借りて、銀行は可能な手を尽くしてあらゆるコストカット手段を探している。 コスト封じ込めは、現在のように収益が厳しく圧迫される時期には確かに非常に 重要だ。しかし、過去のサイクルでも経験してきたように、現在は立派な企業でさえ、 支出削減に熱を上げ過ぎたばかりに膝を屈して最後には死に至ってしまう時期でも ある。 このテーマについては2つの考え方を挙げておこう。 : 1.組織下層の人員の 給与削減だけを行わないこと。ミドル/シニアマネジメントも削減プログラムの 一部として不可欠である。特に、一人のエグゼクティブの給与が25人以上の職員 (現場で売上を生み出す)を雇えるような場合はそうだ。2.行内での会議の数に 制限を設けること(全会議の75%を削減するのがいつも悪いとは限らない)。 生まれた余力は収益創出活動に振り向ける。 ・2009年の収益は低迷する。 上記全てを前提とすれば、2009年は間違いなく 厳しい年になる。いつものように、いくつかのポイントを指摘しておこう。 *M&Aは増加する。 資本に余裕があって強い銀行が、弱い同業他社を買収する。 TARP(注2)が不適切に分配されているために時間がかかるケースもあるだろうが、 全体としては買収は再び増加するだろう。 *オーバーバンキングは遂に減少へと向かう。 我々はすでに営業店の閉鎖や 新店舗開設率の低下に直面している。さらに、顧客は電子的手段へと本格的に 移行しており、それが今にも労働力の減少を誘発しそうな状況だ。この動きは ネット口座の開設にとどまるものではなく、航空業界のように先へ進むだろう。 航空業界では、多数の顧客が行う重要なアクティビティまでもセルフサービス 技術へと移行させた。荷物のチェックイン・チェックアウトもその中に含まれる。 空港に行けば、こうした方向の対応について有益なアイデアが数多く得られるはずだ。 *2009年はコミュニティ銀行の年だ。 今や「大きいこと=よいこと」ではない。 多くのメガバンクは苦境に喘いでおり、顧客の信頼は再びスーパーコミュニティ 銀行やコミュニティ銀行へと向いている。国内最大手の諸銀行は内向きの作業に 忙しく、内部の問題の解決や巨大合併後の統合にいそしんでいる。コミュニティ 銀行にとっては、法人・個人業務の双方で、大幅な価格譲歩をせずに市場シェアを 獲得できる機会である。 *しかしこれも一過性の現象だ。 銀行経営者は厳しい年となる2009年に備えて おり、その多くは回復過程がかなり長くなると予想している。だが、私自身の 考えでは、今回は一部の人が述べているような3〜5年よりも短いサイクルで 底を打つだろう。そして特にトップ10以外の銀行で、今年終盤と2010年にかけて 機会を見出すものが出てくるだろう。 2009年はコア・バンキングビジネス、コア・バランスシート、そして基本への回帰 (これについては今後ニューズレターに書くつもりだ)を通じて、頭を低くして 嵐をやり過ごす年だ。私が心に留めているのは、「Into Thin Air(空へ)」という 本(と映画)(注3)である。エベレスト山で予想外の荒天の中、10人以上の人命が 失われる話だ。命を落とした人と生存した人の違いはどこにあるのだろうか? 命を落とした人たち(非常に経験を積んだ登山家も含まれている)は、冒しては いけないと「知っているはず」のリスクを冒し、ケガや体調の悪さを押して 登山を続けたり、事前に決めていた引返しのタイミングを逸してしまっている。 生存者たちは、キャンプに引き返して烈風にバタつくテントで肩を寄せ合い、 雪を融かして薄いが暖かい茶を淹れ、そして機を待った。死の危機に晒された者の 中で強固な意思の力でキャンプに辿り着いたのは、わずかに1人だった。 我々も同じ状況に置かれている。商業不動産融資を積み増し続け、自らに課した はずの限界を超えたり、リスク分散の原則を忘れてしまっている者もいる。 彼ら皆が危機から生還できはしないだろう。昔からある原理原則を無視して、 ワシントン・ミューチュアルやインディマックと同じ道を辿る者もあるだろう。 逆に、風向きが変わり始めたのに気づいてブレーキを踏み、傷を癒し、問題解決に 取り組んでいる者もいる。線を踏み越えてしまった者や、不良債権比率が5〜8%を 超えてしまった者の中にも、強固な意志、ハードワーク、そして幸運が合わさって 生還できる者もあるだろう。 登山家もバンカーも、「決して基本を忘れるな」という命にかかわる教訓を学んだ ということだ。だがどちらの中にも、将来この教訓を忘れてしまう者が出ることは 避けられないだろう。 (注1)バーナード・マドフ事件:マドフ氏は元ナスダック・ストック・マーケット 会長。ヘッジファンドを通じたねずみ講詐欺事件で、2008年12月11日、FBIに逮捕 された。被害総額は500億ドルにも上るとも言われる。 (注2)TARP(Troubled Assets Relief Program):「不良資産救済プログラム」。 TARP(不良資産救済プログラム)は、米国の金融危機を解決するために「金融 安定化法」によって創設された公的な金融救済プログラムで、総額7000億ドル。 米国財務省が、銀行が保有する流動性がなく価格設定も困難な不良資産を買い取る ことで、銀行の貸し出し活性化を狙ったもの。 (注3)「Into Thin Air」:ジョン・クラカワー著。邦題「空へ−エヴェレストの 悲劇はなぜ起きたか」。未曾有の荒天に遭遇した二つのエベレスト登山隊が、僅かな 判断ミスによって生死を分けた。登山隊に参加し生還したジャーナリストの手により、 その原因、過程、結果を綴ったドキュメント・ノベル。危機管理小説として有名。 ---------------------------------- バードさんのニューズレターの趣旨は、「2009年はよい年ではなく、銀行業の 基本に立ち返る必要がある。しかし2010年には、早いところは前向きな戦略に 討って出るだろう」ということです。 このニューズレターから私は、二つの大きなポイントを読み取りました。一つは、 景気低迷期こそ差別化の機会であり、考える力と実行する力が問われこと。 もう一つは、コストがチャネル見直しの大きな転機となることです。 一つ目の話は、次のようなことです。 ちょうどこのニューズレターを訳し始めた時に、シティの株価が1ドル台に落ちた というニュースが入ってきました。シティ、バンカメはいずれも不良債権と 株価低落に喘ぎ、米メガバンクの中では唯一といってよい株価を維持していた ウェルズ・ファーゴも、ワコビアとの合併という大きなタスクを目前にしています。 米国では日本よりはるかにネットバンキングが普及しており、預金の移し替えは ネット上で非常に簡単に行えます。昨年、JPモルガン・チェースに救済合併された ワシントン・ミューチュアルでは、昨年9月11日にリーマン破綻が報道されてからの 10日間という短期間に、167億ドルの預金流出が起こりました(出所:Wikipedia)。 そのほとんどはネット上の流出と言われています。ネット上で取り付け騒ぎが発生 したということでしょう。それは店頭に人が並ぶものよりも静かに、かつ高速に 進みます(日本では「振り込め詐欺」防止目的でATMやネットでの資金移動に 金額制限がかかっていることもあり、米国のような高速の預金流出は起こらない 可能性が高いでしょうが・・・)。 もともと、日本の自動引落しのような預金口座を固定する仕組みが少ない米国では、 銀行間での預金の移し替えが起こり易いのですが、バードさんの視点は「大手銀行の 信用が失墜し、彼らが内向きになって顧客視点が失われている今こそ、中小銀行の 機会だ」ということです。 日本と米国では事情が異なっており、日本のメガバンクの信用は米国ほど悪化して いません。しかしポイントは、「変化=機会」と考えられるかどうかです。何もかも 緊縮状態になってしまうのではなく、力を入れるべき場所、つまり守るべき顧客層、 売るべき商品、強化すべき能力などがあるはずです。経営層やミドルマネジメント には、それらを選び出してメリハリをつけて選択と集中を行う戦略眼と、組み立てた 戦略を推進する実行力があるかどうかが問われることになります。 好調なときは、皆が同じように収益拡大にはしるので、経営資源の差がモノを言う こともあるでしょう。しかしいまの局面では、うまく守って体力を温存・強化し 必要な布石を打つ。あるいは競合が退いた領域に進出して制圧する。などなど、 再び局面が変わったときに他を凌駕できる態勢を整えることが必要です。 例えば、融資を絞らなければならない状況でも、優先順位はあるはずです。自社と 競合の優先順位が異なるようなら、自社の方が優先順位が高い領域ではシェアを 上げることができるでしょう。あるいは、こういう時期だからこそ顧客とのコミュ ニケーション力を強くすることも考えられます。顧客接触時間をより長くして、 個々の顧客についてより深く理解し、現場の情報量や見極め能力を高めるのです。 また、リテール面でマーケティングを強化して来店顧客を増やすと同時に、相談 対応能力を高めて来店した顧客から収益を上げる仕組みを築き上げることもできる でしょう。 二つ目の点は、バードさんが「オーバーキャパシティ化の傾向が反転する」と述べて いる部分です。米国では最近までずっと、「銀行の数は減るが、支店数は増える」 という状況が続いてきました。しかし、支店は最も高コストの営業チャネルであり、 現在の局面ではコスト削減の対象とならざるを得ません。一方、顧客はすでにネット バンキングに親しんでいます。 両者を合わせれば、拠点数を減らしてコストを削減しながらも顧客タッチを落とさ ない、あるいは逆によくする方法を考えられるかもしれません。店舗一つにかかる コストと、テレバンやネットバンキングの強化にかかるコストを比較することは 難しくありません。顧客にとっては、支店もATMも電話もネットとチャネルが 異なっても、相手は同じ銀行です。一つのチャネルだけではなく、自分の都合や 好みに合わせて複数のチャネルを利用します。つまり「マルチチャネル」で ではなく「クロスチャネル」という考え方が必要になります。マルチチャネルとは、 複数のチャネルを準備することであり、利用は顧客に任せるにとどまります。 しかしクロスチャネルでは、顧客のチャネル利用行動に沿って商品・サービスを 組み立て、チャネルをまたがって銀行を利用する際にいかにうまく顧客を誘導し、 抵抗なく使ってもらえるかを実現することになります。チャネルを並べるだけでは なく、顧客の利用行動を知ることが必要になります。 技術が進歩し世の中が豊かになるということは、選択肢が増えるということです。 例えばコミュニケーションの手段は、会話から手紙、電話(固定電話から携帯電話)、 ファックス、ネットへと多様化していますが、代替手段が登場したからといって 死滅したものはなく、利用度は下がっても全ての手段が残っています。利用者は 局面に応じて、自分の使える複数のメディアの中から、相手に伝わりやすい/自分が 伝えやすい手段を選択します。提供側は、それに対応しなければなりません。 コスト面の制約が厳しくなる中で、チャネル構成の最適化を本格的に考えざるを 得ない局面が訪れたということです。この議論は、一つ目の「選択と集中」という テーマに含まれるものですが、顧客接点というサービス業において最も重要な部分の 選択と集中に係わるものという意味で、チャネルだけを別に考える価値はある でしょう。 最後に、「Into Thin Air(空へ)」という本は、ずっと以前に私が米国でバード さんに「何か面白い本はないか」と聞いたときに紹介されて読んだことがあります。 その後日本語訳が出ていることを知り、あらためて日本語で読んで内容をより深く 理解することができました。この本の時代には、エベレストへの登山はこの頃すでに 観光化が進んでおり、ガイドは登山家でない人を山頂に連れて行きます。とは言え エベレストは気軽に登れる場所ではなく、登山隊は極端な悪天候に遭遇します。 行くか戻るか、留まって機会を待つか。脳は薄い酸素と低温の影響を受けて判断力が 落ち、しかも理性的なもの以外の判断要素が入ってきます。ちょっとした判断ミスが 大きな危機へと発展し、取り返しのつかない事態へと突き進んでいきます。 ある企業では、このストーリーをプロジェクトマネジメントの研修に利用しています。 状況が悪化しそうな時(リスクマネジメント)、あるいは悪化した状況の中で(危機 管理)、目的を理解し、情報を選択し、優先順位を考えて実行に移すか、その際どの 手段をどう利用するか、どうチームとして機能するかといったことを総合的にシミュ レーションするために、あえて極限状況であるエベレストを想定するわけです。 流動的な状況の中で、物事の優先順位も変化します。時間は限られており、足りない 情報に基づいて状況を判断し、選びとるものを決め、失いたくないもののうち何かを 諦めなければなりません。意思決定しなければ事態はさらに悪化します。銀行のみ ならず、今の全産業界が置かれているシチュエーションだと言えるでしょう。 では、また次回。 ---------------------------------------------------------------- このメルマガは転送、コピー自由です!(ただし著作権はバードさんに帰属します) 何か感じられた方は、コメントを送っていただけるとすごく嬉しいです。 (メールアドレスはbankingview@aol.comです) あと、私がこのメルマガで翻訳しているニューズレターの原著者、Anat Birdさんの サイトも訪れてみてください(http://www.anatbird.com/)。英語だけど面白いです。 バードさんは主婦/コンサルタント/先生をこなしているスーパーウーマンです。 銀行のマネジメントや経営者だった経験もあります。 それでは、また。


