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さすらいの一般人の書き下ろしメディア批評コラムです。論評の幅を広げるべく、旧称「テレビ動物園」から改称しました。業界とは縁もゆかりもない無責任一本勝負でよろしくお願いします。

  • 発行周期 週刊
  • 最新号 2009/12/07
  • 部数 29部
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2009/09/07

ロン・ピョウ

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          ロン・ピョウ
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[第78号 2009年9月7日]
 
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■「死なない身体」
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テレビを一週間ぶりに見た。ソフトバンク携帯のCMを久しぶりに見た。白い柴犬
の「お父さん」がピアノの下敷きになっていた。

私はこのCMの限界を勝手に感じとった。

このCMシリーズは「犬がお父さん、しかも実写」という二重に強引な設定でここ
まで来た。ただ、私が思うに強引な設定というのは二重くらいが限界だ。

今回のCMはさらに「死なない身体」という、もうひとつの強引な設定を持ち込ん
だ。

マンガはこの程度の強引な設定ならいくつ重ねてもびくともしない。しかし、こ
れはマンガではない。実写でやるなら「犬がお父さん」がすでに限界だったと思
う。

だから、ビアノのがれきの下敷きになっている犬はもはや「お父さん」に見えな
い。虐待にすら見える。よく平和ボケと言うが、こういうのも一種の平和ボケだ
と思う。

メディアボケというほうがより適切かもしれない。生身の身体はケガもするし、
やがては死ぬ。「死なない身体」はおとぎ話に過ぎない。テレビ界は身体感覚を
欠いて久しい

戦後60年あまり、死にうる身体は隠蔽され続けている。死体の山を否応なく見せ
つけられた世代は老いている

もちろん、テレビでもっと死体画像を見せよというのではない。そんなことをし
なくても死にゆく身体はいくらでも想像可能だ。世界にはそのような材料はいく
らでも転がっている。自分の日常にも、メディア世界の中にも転がっている。

メディアにおける「死なない身体」の氾濫と暴力の氾濫は表裏一体だ。身体は死
なないのだから多少の暴力は構わないということだ。

自分が暴力の対象になることを想像できないまま、暴力をふるうのは幼稚で身勝
手だ。

そもそも「死なない身体」はマンガや映画創作における技法の一つだ。表現のた
めに必要な手段に過ぎない。そこを生身の人間と混同するのは子どもじみている。

一日で政権は転覆した。選挙に行って投票するだけで権力者は権力を失う。先週
の日曜日、国民が政治家以上の権力者であることが象徴的に示された。

実はメディアにおける暴力の氾濫も一日でやめさせることは(理屈の上では)可
能だ。日本中がテレビを見るのをやめればテレビ界は一日で潰れる。

これはクイズ番組の「予選会」という名の(制作者いわく)オーディションに参
加して肌で感じたことだ。

制作者にとって視聴者はお客様ではない。彼らの顧客は広告主の企業だ。そもそ
も視聴者にとって視聴率など何の意味もない。

鉄道を使えば「ご乗車いただきましてありがとうございます」、店に入れば「毎
度ありがとうございます」だが、「テレビをご覧いただきましてありがとうござ
います」とは言われない。

視聴者は自分たちが客ではないことを知るべきだ。80年代以降のテレビ界の「楽
屋オチ」的雰囲気にのまれて自分たちがギョーカイ人であるかのような気分になっ
てはいけない。

会社の勤め人とは単なる労働者に過ぎない。経営者気分で「日本の景気」を論じ、
「高級」ビジネス誌を読んでいる場合ではない。

視聴者もこれと同じだ。視聴者はテレビの前に集まってくるやじうまに過ぎない。
作り手や出演者の気分になっている場合ではない。

視聴者が持っている権力はただ一つ。テレビを見ないことだ。他のメディアも同
じだ。無視すればメディアは権力を失う。

不愉快なものは見ない。不愉快なら不愉快だとはっきり言う。そのメディアの中
身が商業的なものであればあるほど、この作戦は有効だ。

地デジ化でテレビが映らなくなるなんてすばらしいことだ。これはテレビ依存症
を治療して視聴者の正当な権利を行使する千載一遇の好機だ。

さて、選挙の結果が出た。これまでさんざん自民党を支持してきた割にはみな新
政権へ過剰に期待しちゃっている。人のことはいえないが、人には厳しく自分に
甘いのが選挙民の常だ。

政治は誰がやっても難しい。難題だらけ矛盾だらけの課題に立ち向かうのだから
難しい。

だから、私たち有権者は過剰に結果を求めすぎてはいけない。意思決定の過程や
決定事項に関する説明と情報公開を重視すべきだ。

私たちはこうして説明され公開された情報をもとにいちいち判断していく。まっ
とうな政治は面倒くさいものだ。人に丸投げして文句ばかり言うのは大人げない。
ここでもお客様気分はきっぱり捨て去ろう。

(了)


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