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さすらいの一般人の書き下ろしメディア批評コラムです。論評の幅を広げるべく、旧称「テレビ動物園」から改称しました。業界とは縁もゆかりもない無責任一本勝負でよろしくお願いします。

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2009/07/27

ロン・ピョウ

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          ロン・ピョウ
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[第72号 2009年7月27日]
 
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■「古代伝奇ロマン怪獣映画」
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私の手元に『ヤマトタケル』という映画のビデオがある。1994年東宝制
作、主演が高嶋政宏、ほかに沢口靖子。

もうこの時点で珍画、すなわち珍映画のにおいが部屋中に充満している。

普通に考えれば、ヒットを狙わない商業映画は存在しない。ひどい映画
を作ろうと思って作る制作者もいないはずだ。

それなのに。専門家がお金をかけてしっかりまじめに作っても珍画がで
きてしまう。素人にはわからない業界の謎だ。

世には「B級映画」という言い方があるが、私はランク付けを好まない
ので珍画と呼ぶ。

私自身、脚本を書いてみたこともあるので、お話作りの難しさはそれな
りにわかる。でも、珍画は珍画。

暑い中、ビデオをケースから出すのさえ気が重いが、見てみた。

いきなり英語のナレーションが始まり、すぐ終わる。別の映画の予告編
なのかと見まがうが、本編らしい。

最初はまだよい。誇らしげな感じのCGのタイトルもまあよい。

どうやら古事記を題材にした、古代の日本の神話モノのようだ。いきな
り出てくるロボット的な鳳凰もまあよしとしよう。

21世紀の映画になれてしまった身としては、1994年の特撮やCGはやや古
くさい。ただし、それはたいした問題ではない。

今から見れば稚拙にみえる1960年代の特撮モノだって、例えば『ウルト
ラセブン』のようにストーリーさえよければ、じゅうぶんに見でがある
からだ。

さて、読者は日本の古代の風俗についてどのようなイメージを持ってい
るだろうか。髪型、服装、装飾品、武器、建造物、生活習慣。どうだろ
う。

実は日本の古代文化についての共有されたイメージは多くなさそうだ。
1994年でも2009年でも状況は大して変わらないと思う。

その苦しさが出演者の衣装や持ち物に表れている。飛鳥時代以前の大和
政権なんだか、奈良時代だか、平安時代だかわからないようなイメージ
の混淆。迷いがみえる。

もっとも、これは制作者の問題というよりはイメージを共有できていな
い観客の方の問題だ。日本の古代モノは実は難しい。『ヤマトタケル』
の制作者はあえてそれに挑んだ。そして美しく散った。

説明くさいセリフが多すぎるのが気になったが、それは制作者の配慮な
のだろう。

古代モノのはずが、ヤマトタケルを「殿」や「神の戦士」などと呼ぶ人
が出てくると、あれっと思う。

それを見過ごしても、次ではヨーロッパ方面にあるような石の建造物や
石像が出てくるし、大王役の篠田三郎は銅鐸をかぶって出てくる始末。

全く気が抜けない。

そして、沢口靖子。いきなりワイヤーアクションで飛ぶ。戦闘シーンで
はブーツにミニスカート。まさに捨て身だ。

しかも、沢口は「オン!」というトーンの高い珍妙なかけ声と共に『ド
ラゴンボール』のかめはめ波のような技を繰り出す。海中で怪獣と戦う
も、泳ぐのが遅いこと遅いこと。緊迫感がまるでない。

もちろん、よいところもある。例えば、殺陣。さすが大手が作る日本映
画だけのことはある。まだ若い藤岡弘(現、藤岡弘、)の身のこなしが
軽い。

でも、やっぱり、すごいのはそれくらいだ。

クマソタケルの藤岡弘を成敗する場面。煮えたぎる溶岩のそばには生け
贄の沢口靖子。『インディージョーンズ』シリーズの魔宮を彷彿とする
シーン。悪くいえばパクリっぽいところだ。

藤岡弘を倒した後、ヤマトタケルの高嶋政宏に再び迫る試練。宇宙で凍
りづけにされていた悪い神の阿部寛が復活したのだ。ただし、全裸で。

局部が隠れる石の位置や局部を隠すポーズがかえって不自然で気になる。
ただ、阿部寛はセリフもうまく、一応悪い神に見えていた。やっぱり、
この人、昔から素質十分だったのだろう。

高嶋政宏は一度死んでよみがえる。沢口靖子に至っては二度死んで二度
よみがえる。強いのか悪いのかわからない。

高嶋政宏の強さは一貫してわかりづらい。狼男のような怪人に変身して
眼からビームを出したり、ほえたりする。挙げ句の果てにはガンダムの
ジオングのような巨大ロボットのようなものに変身する。

一方の阿部寛は巨大怪獣ヤマタノオロチに変身する。結局、この二者の
戦闘シーンがクライマックス。なんだ、怪獣映画だったんだ。

最初は古代伝奇ロマンで始まり、中盤で古代伝奇ロマンと怪獣映画が拮
抗し最終的には完全な怪獣映画として終わる。

なんだ、子供向け映画だったのか。違うかもしれないが、そう信じたい。

ただ、クライマックスでの高嶋のセリフ「あっ、ヤマタノオロチだ」は
いらないと思う。怪獣映画といえば怪獣映画っぽいセリフだが、ここま
で何回も説明されている以上、さすがに子供でもわかると思う。

つくづく俳優業はたいへんだと思う。観客の印象に残るのは常に出演者
だ。監督や脚本の名前をおぼえている人は少ない。だから、結果として
珍映画の責任は俳優にかぶせられてしまう。

そんななか、唯一人、古代日本の伝奇ロマン的な世界にしっかりとけ込
んでいた宮本信子はすごい。結果として目立たなくなっているところも
実力と計算のうちだとすれば、なおさらすごい。

(了)


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