2009/03/20
飛鳥遊訪マガジン Vol. 046
◆◇◆◇◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇◆◇◆ ◆◇◆ 飛鳥遊訪マガジン Vol. 046 (2009.3.20.) ◇◆ ◆ 飛鳥好きの貴方に贈るメールマガジンです。 両槻会のイベントもご紹介します。 両槻会 http://asuka.huuryuu.com/ ━━━━━◇━━━━━━━━━━◇━━━━━━━━━━◇━━━━━━━ 両槻会では、昨年雨の為コース変更になったウォーキングイベント「天空 の里を訪ねる」を再度、去る3月7日第13回定例会として開催しました。 好天に恵まれ31名の参加者全員が最後まで無事、山道を楽しむことが出来 ました。坂道が多かったせいでしょうか、翌日TOMなどは筋肉痛でした。 日頃の運動量が少ないことを痛感しました。 さて、今日は春分の日、皇室では春季皇霊祭と言って歴代天皇や皇族の祖 霊を祀る日でもあります。古めかしい名前ですが、皇霊祭は明治になってか ら付けられた名前で、それ以前は彼岸がそれにとってありました。死んだ天 皇の霊を慰める行事の記録は、古くは806年に崇道天皇の霊を慰めたこと が見えます。崇道天皇は歴代天皇の中に入っていない珍しい天皇です。早良 親王がハンストで亡くなった後に彼に贈られた名前です。実は、崇道天皇社 は奈良の紀寺町にあります。紀氏が明日香小山近くにある紀寺(跡)から平 城京に移ったときに出来たものです。そんなことを考えながら今回のメルマ ガを楽しんで下さい。 今回は滝川先生の特別寄稿「講演会補遺─菅原道真の竜門寺に遊ぶ詩─」、 事務局からは風人の「特別回忍坂街道探検のお知らせ」、Pの「飛鳥食物記」、 笑いネコが「咲読」を担当します。 (TOM) ┏◆━index ━━◆◇◆ 〈1〉寄稿 ・・・ 講演会補遺─菅原道真の龍門寺に遊ぶ詩─ / 奈良大学 准教授 滝川幸司先生 -------------------------------------------------------------------- 〈2〉飛鳥話 NO.1・・・ 風人の飛鳥ぶらぶら散歩 / 真神原風人 -------------------------------------------------------------------- 〈3〉飛鳥話 NO.2・・・ Pの飛鳥・食物記 / P‐saphire -------------------------------------------------------------------- 〈4〉飛鳥咲読 / 笑いネコ -------------------------------------------------------------------- 〈5〉飛鳥情報 -------------------------------------------------------------------- 〈6〉両槻会からのお知らせ -------------------------------------------------------------------- 〈7〉編集後記 -------------------------------------------------------------------- ┗━━━━━━━━━━━━━◇◆◇━ ┏◆━━━━━━━━━━ 〈1〉講演会補遺─菅原道真の龍門寺に遊ぶ詩─ / 滝川幸司先生 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇◆◇━━━━ 両槻会では、二度講演をいたしました。熱心に聞いていただいて、私も、 楽しくお話しすることができました。 一度目は、昌泰元年宇多上皇の吉野御幸について、二度目は、治安三年藤 原道長の金剛峯寺参詣についてお話ししました。前者には、菅原道真の「宮 滝御幸記(略)」という資料があり、後者に『扶桑略記』所引の参詣記があ りました。 この二度の講演で共通して出てきたのが、龍門寺でした。その様子は、道 真の「宮滝御幸記(略)」によれば、「松蘿水石、塵外に出づるが如し」と、 俗世間から離れた様子が讃えられていました。宇多上皇の御幸に際しては、 「上皇仏門に安坐して、痛く飛泉に感じ、勅して歌を献ぜしむ」とあって、 宇多上皇が龍門の滝に感動して和歌を詠ませた記録があります。このことは、 『扶桑略記』所引参詣記にも「昔宇多法皇卅一字を仙室に詠じ…」と触れら れています。ところで、この参詣記には、この後の文章に「菅丞相・都良香 の真跡、両扉に書す」とあって、龍門寺の扉に菅丞相=菅原道真と都良香の 真跡が記されていたとあります。道真はもちろん、良香も当時著名な漢詩人 です。ここは当然、道真と良香の漢詩が、本人の手によって書かれていたと 考えるべきでしょう。 道真が龍門寺に行ったことは、本人の「宮滝御幸記(略)」が存在します ので明らかですが、そこでは、和歌が詠まれたとは書かれていますが、漢詩 が詠まれたとは記されていません。では、藤原道長一行が見た道真の漢詩と は何を指すのでしょうか。 道真の作品集『菅家文草』『菅家後集』を眺めてみますと、次の詩が見つ かります。 遊龍門寺 隨分香花意未曾 隨分の香花 意(おも)へども未だ曾(か)つてせざりき 緑蘿松下白眉僧 緑蘿の松下 白眉の僧 人如鳥路穿雲出 人は鳥路の雲を穿ちて出づるが如く 地是龍門趁水登 地は是れ龍門水を趁(お)ひて登る 橋老往還誰鶴駕 橋は老いて往還す 誰か鶴の駕 閣寒生滅幾風燈 閣は寒(ひやや)かにして生滅す 幾ばくの風燈 樵翁莫笑歸家客 樵翁笑ふこと莫かれ 家に歸る客を 王事營々罷不能 王事營々として 罷(や)むこと能はず この詩は、寛平年間に作られたと推測されますが、寛平年間とは宇多天皇 の在位中です。つまり、昌泰元年の宮滝御幸以前に、道真は龍門を訪ねてい たことになります。 思うがままの香花を、いままで供えることができなかった。 しかし初めてやってくると、緑のかづらが垂れ下がった松のもとで、真っ白 な眉の僧が出迎えてくれる。 人が龍門の山を登る様子は、鳥が雲を破って空を渡るようだし、 山は龍門というだけあって、魚が川を上って龍となるように、人は龍門の滝 の水を追いかけて登る。 橋はすっかり古くなっていて、往還するのは、いったい誰が乗っていた鶴で あろう。 寺の楼閣は寒々としていて、無数の灯が風にゆれている。 きこりの老人よ笑わないで欲しい、俗世間の家に帰る旅人=この私を。 宮仕えはいそがしくて辞めることができないのだ。 四句目は、みなさんもご存知の登竜門の故事を踏まえています。また、五 句目の「鶴駕」とは、仙人の乗り物のことで、鶴に乗って遊んだという王子 喬という仙人の故事に基づきます。 雲の上にある龍門寺は、俗世間から離れた地であり、仙人が行き来するよ うな場所なのです。事実、龍門は、大伴仙、安曇仙、久米仙が住んでいたと されています。「宮滝御幸記(略)」には「古仙の旧庵」が残っていたこと が記されていますし、『扶桑略記』所引参詣記にも「岫下に方丈の室有り。 これを仙房と謂ふ<大伴・安曇両仙の処なり。各其の碑有り>」とあり、大 伴、安曇の二仙の仙房が残っており、それぞれ碑もあったようです。 しかし、仕事にあくせくとしなければならない道真は、この神仙境には長 く留まることができず、帰らなければならないのです。最後の二句は、私た ちにもよく分かる心境です。やはり、すまじきものは宮仕え、ということな のでしょう。 この詩が、現存する作品の中で、道真が詠んだ唯一の龍門寺の詩です。果 たしてこの詩が、龍門寺の扉に書かれたのか否か証明することは困難ですが、 俗世間から離れた神仙境を描くこの詩は、いかにも龍門寺の扉に記されるの にふさわしいともいえます。 宮仕えのために長く留まることができなかった道真は、この後、宇多上皇 の宮滝御幸に供奉して、再び龍門寺を訪れることになります。そして、それ から二年三ヶ月後の昌泰四年正月に大宰権帥に左遷されます。もはや「王事」 に「營々」とする必要もなくなってしまうのです。 ━━━◇『奈良大学』 http://www.nara-u.ac.jp/ ┏◇◆━━━━━━━━━━ 〈2〉風人の飛鳥ぶらぶら散歩 / 真神原風人 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇◆◇━━━━ 今号から2回に分けて、4月18日に予定しています特別回「忍坂街道探 検」を、咲読風にご紹介したいと思います。まずは、古墳編です。 忍坂は、現在でも桜井市の大字として存在していますが、古代においても 「押坂」などとも表記され、古事記・日本書紀・万葉集に、その名を見るこ とが出来ます。允恭天皇の皇后は、忍坂大中姫と言いますが、その名前から 忍坂に住まいが在ったのかも知れませんね。現在の女寄峠や小峠(半坂峠) を、女坂・男坂とする説もあるようですが、神武東征伝承はともかくとして、 大和国中と宇陀を結ぶ重要な地であったことは確かでしょう。 今回の特別回では、まず集合地点から一番遠い花山塚古墳を訪ねることに なります。ほぼ宇陀市との境になる女寄峠付近まで、タクシーで上がること にしました。路線バスもあるのですが、利用出来そうにない運行間隔になっ ています。 花山塚古墳 花山(西)塚古墳(国史跡)は、女寄峠近くの尾根の南斜面にあります。 墳丘は崩壊していて、確実ではないようですが、径16mほどの円墳であっ たと推定されています。石室は、非常に珍しい特徴を見せます。榛原石をレ ンガ状に加工したものを積み上げ、磚積式横口石槨の形態をとります。大き な花崗岩の天井石を含め、漆喰を塗っていたようです。もう一つ特徴的なの は、玄室の奥に、さらにもう一つ奥室があり、その入口の扉石はドア状に閉 めることが出来るようになっていることです。 早くから開口していたため、出土遺物は確認されていないようですが、石 積みの技法などから、築造時期は7世紀の後半とされ、渡来系氏族に関わる 貴人の墳墓ではないかとされているようです。 花山塚古墳の東には、もう一基磚積式の古墳があり、花山東塚古墳と呼ば れていますが、こちらには奥室は確認されていません。東塚が、やや先行す る時代のものであるとされているようです。 花山塚古墳石室の写真 飛鳥資料館倶楽部サイト内ページ http://www.asukanet.gr.jp/ASUKA2/ASUKAKOFUN/hanayamatukaK.html ムネサカ1号墳 粟原川に沿って2kmほど下った所から尾根に上がると、注目の古墳群が あります。特にその中のムネサカ1号墳に注目したいと思います。 1号墳は、直径45m、高さ8mの2段築成の円墳です。南面する横穴式 石室があり、石室は、全長16.6m、玄室長4.6m、幅2.7m、高さ 2.4mを測り、奥壁は巨石の2段積み、側壁は下段3個・上段2個の、ほ ぼ長方形の花崗岩の切石を用いています。石材の隙間には漆喰が塗られてい ます。羨道は、長さ12m、幅1.9m、高さ1.4mとなっています。こ の石室の作成プランは、岩屋山古墳とほぼ同じだとされており、同じ工人が 造った同一設計の古墳であるとされます。また、小谷古墳や峯塚古墳とも共 通する特徴があります。 7世紀中頃の築造と考えられ、粟原寺創建の中臣氏との関連も注目される ところです。 越塚古墳 越塚古墳は、ムネサカ古墳から粟原川の対岸南西方向の尾根上に在ります。 2段築成の円墳で、径約43.5m、高さ約7mを測ります。南に開口する 両袖式横穴式石室で、玄室は長さ約5.3m、幅約2.75m、高さ約3. 85m、羨道は長さ約10.7m、幅約1.8m、高さ約1.8mの規模と されています。 石室は花崗岩の巨石で造られており、玄室は3段に積まれ、内側に持ち送 りされています。石室の床面には礫が敷かれています。玄室には、凝灰岩の 棺底石が2枚残され、組合式石棺が置かれていたとされます。 築造は、6世紀末と推定されています。 赤坂天王山古墳 粟原川から離れ倉橋溜池に登って行く途中に、赤坂天王山古墳はあります。 北西に延びる尾根上に築かれた3段築成の方墳で、 東西45.5m、 南北 42.2m、高さ約9mで、各辺がほぼ正方位を向いているようです。 南に開口する両袖式の横穴式石室を持っており、全長17m、玄室の長さ 8.5m、幅約3m、高さ4.2m、羨道の長さ8.5m、幅1.8m、高 さ約2mを測ります。石室は花崗岩の自然石で造られており、壁面は持ち送 りされています。玄室の中央に凝灰岩製の刳抜式家形石棺が残されており、 棺蓋には6個の縄掛突起があります。 日本書紀によれば、崇峻天皇は暗殺された後に倉橋の地に葬られたと記さ れており、赤坂天王山古墳を崇峻天皇陵と考える説が有力なようです。また 実際にも、明治時代に現在の崇峻天皇倉梯岡上陵に治定されるまでは、江戸 時代以降、赤坂天王山古墳が崇峻天皇陵だとされていたようです。 蘇我氏との血縁が深い天皇の陵墓は、方墳であることが多く、赤坂天王山 古墳もその中に入ると考えることも出来ますが、所在地が近つ飛鳥ではなく、 倉橋であることに暗殺された歴史が反映されているのでしょうか。また、別 の意味を秘めているのでしょうか。遺物は残されていなかったようですが、 石室や石棺の形式などから築造時期は6世紀末とされ、崇峻天皇陵とするに も矛盾は無いようです。 (つづく) ━━━◇『飛鳥三昧』 http://sanzan.gozaru.jp/ ┏◆◇◆━━━━━━━━━━ 〈3〉Pの飛鳥・食物記 / P‐saphire ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇◆◇━━━━ 「繁縷:ハコベ」 新年が明けて、日中ほっこりと暖かく感じられるようになる3月頃から、 道の隅っこや畑のそこかしこに真っ白の小さな花の群生が見られます。ハコ ベ・・・春の七草にある<ハコベラ>がそれです。七草粥に入れる時はまだ 花が咲いていないので、どれがハコベラかわからないと言われますが、花を 一度見れば忘れられなくなります。とても可憐な白い花です。 七草粥に入っている事は良くご存知で、食べてもおられると思いますが、 七草粥以外で食べたと仰る方は(年配者を除いて)少ないのではないでしょ うか。畑や庭の厄介者として抜いて、ゴミに出されてしまうのが関の山。で も待って下さい!!これ、とても役立つ草なんですよ。(笑) ハコベ http://asuka.huuryuu.com/magazine/photo/46/hakobe.jpg 実は、ハコベは<生薬>でもあるんです。繁縷(はんろう)という生薬名 があり、タンパク質、ビタミンB,Cなどを豊富に含んでいます。また、薬 効は、催乳作用(母乳の出がよくなる)、利尿作用、浄血作用があると言わ れ、乾燥して粉にしたものに塩を加えた物は「ハコベ塩」と呼び、歯ぐきの 出血や歯槽膿漏の予防、また、歯磨き粉としても使われます。 茎が細くて、見た目には筋ばかりで硬そうに思われますが、花が咲いてい ても茎が硬くならず、塩ひとつまみ入れたお湯でサッと茹でて冷水で洗い、 3cmほどの長さに切って、和え物、卵とじ、すき焼き、汁物の具など、幅 広く使えます。春の草と言うと、やや苦味があるだろうと思われがちですが、 これは全くアクも苦味もクセもありません。食感で言うと・・・貝割れ大根。 (笑)そのイメージで捉えて頂けたら、ほぼ間違いは無いと思います。 ハコベの卵とじ http://asuka.huuryuu.com/magazine/photo/46/tamagotoji.jpg ハコベには、ミヤマハコベ、ミドリハコベ、コハコベ・・・などなど、沢 山の種類があります。どれも良く似ていて、ほとんど見分けがつきませんが、 どれも同じようにして食べる事が出来ますので、安心して食べて頂いて構い ません。 繁縷とは、なんとも難しい漢字ですね〜。<繁>は、そのまま繁るの意味 で、<縷>は、細々と連なる糸筋、細く途切れなく続く様、こまごました様 などの意味を持ち、通常は「る」と読みます。従って<繁縷>とは、茎が細 く糸のように途切れなく繁る植物と言う意味です。非常にハコベの雰囲気を 言い表していると思います。 日本現存最古の薬物辞典である<本草和名:ほんぞうわみょう(918年 ?)>には、波久倍良(はくべら)として記載されていますが、万葉集など には全く詠まれていません。現代と同じで、あまりにも身近にありすぎて、 歌に出来なかったのかも知れませんね。って、これはあくまでも私の考えで すが。 これから秋になるまで、このハコベは次々に花を咲かせます。皆さんが飛 鳥においでになる頃、きっとそこここで出迎えてくれるに違いありません。 見つけたらしばし足を止めて、可憐なお花を見てやって下さいね。 ━━━◇『A misty rose』 http://pde.gozaru.jp/index.html ┏◇◆◇◆━━━━━ 〈4〉 飛鳥咲読 / 笑いネコ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇◆◇━━━━ 両槻会第14回定例会は、藤原京から出土した木簡に書かれている生薬は、 どんな薬草から作られるのかを実際に見て頂くという企画です。 その飛鳥咲読として、笑いネコ担当でこれらの生薬の植物としてのお話を、 P‐saphire担当でハーブや食用としての利用のお話を、ということで交互に していこうと思っています。脱線することもあると思いますが、お付き合い 下さいませ。(^_^;) 生薬の話を始める前に、藤原京出土木簡のことについて、少しお話しして おきます。 参考にしたのは、奈良国立文化財研究所から1989年5月に出された 「飛鳥・藤原宮発掘調査出土木簡概報(九)」という報告書です。これは、 藤原宮第55次、第58次、第58‐1次、第59次、第58‐5次調査で 出土した木簡についての報告で、このうち生薬名と思われる記載が見つかっ ているのは、第58次と第58‐1次ですが、ほとんどが第58‐1次調査 地から出土しています。 この第58‐1次調査の調査地は藤原宮の西南部で、宮西面南門の位置と 宮に先行する条坊遺構である五条大路の規模を確認する調査だったのだそう です。 木簡は、この調査地の西面内濠SD1400という遺構から出土しました。 出土したのは136点(内削り屑67点)で、35点に生薬名またはそれに 関係有ると思われる記載があります。 記載の多くは「人参十斤」というように「生薬名+量」という形で書かれ ていて、それに産地と思われる地名が書かれているものもあり、納品書のよ うなものだったと思われます。 また、とても興味深いのは、「□□□四両桃四両桂心三両白■(草冠に止 という字)三両□車前子三両防風三両□両栢実一両 右九物」(□は欠字で す)と書かれた木簡です。はっきり読めるのは6種類ですが、最初の「□□ □」や車前子の前の「□」、防風の次の「□両」という部分にも生薬名があ ったとすると、9種類になりますから、これらの9種類の生薬を配合して漢 方薬を作る処方箋のようなものだったのではないかと、想像をたくましくし ています。 さて、藤原京から出土した木簡に書かれている生薬名は、これも生薬かな? というのを入れると40点くらいになります。今回は、田村薬草園で見られ るもの、漢方薬やハーブなどでよく知られているもの、野草として身近に見 られるものを中心に話を進めていこうと思います。 トップバッターは「丁字(チョウジ)」です。 第58次調査地出土の木簡には「鳥児大豆塩无」と書かれています。木簡 の文字は、万葉仮名のように音を当てたものが大半なので、この最初の「鳥 児」が「丁字」だと考えています。「丁字」はインドや中国では紀元前から 利用されていた記録があり、正倉院御物の中にも標本が保存されているので、 木簡に書かれているのが「丁字」である可能性はかなり高いと思います。 で、この「丁字」ですが、一般には「クローブ」として知られているハー ブです。 分類はフトモモ科フトモモ属...って何よ?(笑) フトモモ科でみなさんがよくご存知なのは、「ユーカリ」でしょうね。 コアラの食料になる、オーストラリア原産の常緑高木...実は、ネコの 家にも1本ありまして、「蚊避けになるレモンユーカリ」というふれ込みで、 生協のカタログに載っていた小さな苗木を買ったのですが、蚊避けはともか くとして、これがどんどん育って、今や二階の窓の高さまで...どうしよ う?!状態なのであります。(^_^;) 同じオーストラリア原産のものでは、「ブラシノキ」があります。 熱帯アメリカ原産の果樹「フェイジョア」や「グァバ」もフトモモ科です。 レモンユーカリ http://asuka.huuryuu.com/magazine/photo/46/remon-yuukari.jpg ブラシノキ http://www.asukanet.gr.jp/warainekonoheya/zukan/6-fusa/aka-pink6-1.htm フェイジョア http://www.asukanet.gr.jp/warainekonoheya/zukan/10-kawari/aka-pink10-2.htm 丁字はインドネシアが原産の常緑高木で、10m以上に育つものです。 利用されているのは、この「蕾」を乾燥したもので、名前の由来も「蕾」 の形からきていて、蕾の形が釘のように見えるからです。丁字は丁香ともい い、薬効は坑炎症、抗菌、抗酸化、食欲促進などで、健胃作用、整腸作用も あり、胃腸薬、風邪薬としても使われます。 次に、同じ木簡に書かれていた「大豆(ダイズ)」ですが、これも立派に 生薬なのです。もちろん、皆さんご存知のマメ科のダイズで、食用にするの と同じ豆の部分を使います。薬効は、抗酸化、免疫増強となっていますが、 詳しいことは分かりません。(^_^;) 大豆 http://asuka.huuryuu.com/magazine/photo/46/daizu.jpg 同じ木簡の最後の部分「塩无」が何であるか確定出来るまでいっていま せん。「鳶尾(エンビ)」という生薬はあるのですが、「无」の字は「ム」 または「ブ」としか読めないので、まだ候補程度です。 「大豆」が出てきたので、同じく食用になる「ショウバク」というのをご 紹介しておきましょう。 木簡には「少白五十□」(□は欠字です)と書かれていますが、この「少 白」は「ショウバク」つまり「小麦(ショウバク)」のことだと思います。 神農本草経という漢方薬のバイブルのような書に因れば「養心安神薬」と いう分類に入る、保健薬です。慢性の下痢に用いる養臓湯、四神丸などとい う漢方薬に配合されていて、嘔吐や食欲不振等にも良いとか。 ネコは子供の頃からパンが好きで、特に風邪で熱など出した時、おかゆは 食べられないのですが、トーストなら食べられます...って、関係ないか?(^_^;) 小麦 http://asuka.huuryuu.com/magazine/photo/46/mugi.jpg 次は生薬の定番で「当帰(トウキ)」です。現在では、セリ科シシウド属 の「トウキ」という植物の根を用います。本州中北部の山地に生える多年草 なので、山歩きをする方は目にする機会があるかもしれません。 トウキ http://asuka.huuryuu.com/magazine/photo/46/touki.jpg ちなみに、属名の「シシウド」というのは「ウド」に似ていて大型なので 猪だったら食べるだろうということで付けられた名前ですが、「ウド」はウ コギ科ですから、全く違う植物です。 ところで、漢方の「当帰」は、本来は中国原産の「カラトウキ」で別種で す。現在は 国産の「トウキ」も使われていますが、木簡に書かれていたの は、この「カラトウキ」の方だったのかもしれませんね。薬効はどちらも同 じで、婦人病の薬として用いられます。 続きなので、先ほど出てきた「ウド」について、先に書いておきます。 「ウド」はウコギ科タラノキ属の多年草で、草原や明るい谷間に群生しま す。栽培もされていて、若芽や茎は食用になりますが、生薬として用いるの は、この根茎です。ただ、生薬名は「独活(ドッカツ)」ではなく「九眼独 活」です。 ウド http://asuka.huuryuu.com/magazine/photo/46/udo.jpg 木簡には「獨活十斤」と書かれているのですが、ではこの、「独活(ドッ カツ)」は? 実は、セリ科シシウド属の「シシウド」が生薬の「ドッカツ」なのです。 ややこしい!(x。x)゜゜゜ 「独活(ドッカツ)」も使用するのは根で、薬効は、どちらも発汗、鎮痛、 麻酔作用と同じです。 シシウド http://www.asukanet.gr.jp/warainekonoheya/zukan/6-fusa/white6-4.htm 咲読笑いネコバージョンの1回目はここまで...延々と続く?(^_^;) ━━━◇『笑いネコの部屋』 http://www.asukanet.gr.jp/warainekonoheya/ ┏◆◇◆◇◆━━━━━━━━━━ 〈5〉飛鳥情報 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇◆◇━━━━ ◇━ 桜井市・冬季企画展「忍坂街道を行く」 桜井市埋蔵文化財センター・冬季企画展「忍坂街道を行く」の展示期間が 残り少なくなりました。 期 間: 4月5日(日)まで 時 間: 9:00〜16:30(入館は16:00まで) 場 所: 桜井市立埋蔵文化財センター展示収蔵室 入館料: 一般200円 小・中学生100円 埋蔵文化財センター平成20年度「冬季企画展」 http://www.city.sakurai.nara.jp/bunkazai/index.html 桜井市公式ホームページ http://www.city.sakurai.nara.jp/ ::::::::::::::::::::::::::::::::::: ◇━ 橿原考古学研究所付属博物館 春季特別展のご案内 「吉野川紀行 ‐吉野宇智をめぐる交流と信仰‐」と題して、4月18日 から6月14日(日)の約2ヶ月間に渡り、橿考研付属博物館で春季特別展 が開催されます。関連の講座・講演会などが公表されていますので、ご紹介 します。 ・研究講座 第1回 4月26日(日) 橿原考古学研究所 橋本裕行氏 市立五條文化博物館 前坂尚志氏 第2回 5月17日(日) 奈良芸術短期大学教授 前園実知雄氏 橿原考古学研究所付属博物館 大西貴夫氏 第3回 6月7日(日) 奈良文化財研究所飛鳥資料館 杉山洋氏 吉野町教育委員会 池田淳氏 場所: 橿原考古学研究所1階講堂 時間: 13:00〜(聴講無料) ・現地見学会 日 時 : 5月10日(日) 10:00 近鉄下市口駅集合 16:30 近鉄大阿太駅解散(予定) 見学箇所: 岡峯古墳、南阿田大塚山古墳、原遺跡、 山代忌寸真作墓誌出土推定地など(予定) ・講演会 日 時:5月30日(土)(予定) 13:30〜15:30 講演会とミニシンポジウム 場 所:吉野町中央公民館にて(近鉄大和上市駅より徒歩15分) 参加無料・申し込み不要 「吉野川の歴史と暮らし」 京都教育大学名誉教授 和田萃氏 奈良県教育委員会 浦西勉氏 橿原考古学研究所付属博物館館長 松田真一氏 各行事に関する詳細は、下記アドレスをご覧下さい。 春季特別展「吉野川紀行 ‐吉野宇智をめぐる交流と信仰‐」予告ページ http://www.kashikoken.jp/museum/tenrankai/yokoku/yokoku.html 橿原考古学研究所付属博物館公式サイト http://www.kashikoken.jp/museum/top.html ::::::::::::::::::::::::::::::::::: ◇━ 「奈良文化論」のご案内 奈良大学で開講されている「奈良文化論」の21年度・前期予定をご紹介 します。今回のテーマは「大和”時”ものがたり」。「時」にまつわる様々 な講義が予定されているようです。 『講義予定』 第1回 4月11日 時のはじまり‐飛鳥の漏刻遺跡‐ 寺崎保広氏 第2回 4月18日 天武・持統合葬陵盗掘事件 白石太一郎氏 第3回 4月25日 南都焼き討ち 長坂成行氏 第4回 5月 9日 大職冠の遷座 河内将芳氏 第5回 5月16日 農事暦と時水・鐘 土平博氏 第6回 5月23日 天誅組の挙兵と攘夷 佐々木克氏 第7回 5月30日 廃仏と毀釈の嵐の中で 水野正好氏 第8回 6月 6日 明治22年の十津川大水害とその後の経過 池田碩氏 第9回 6月13日 平城遷都の背景 東野治之氏 第10回 6月20日 奈良県の誕生 元濱涼一郎氏 第11回 6月27日 奈良市津風呂町の誕生 芹澤知広氏 第12回 7月11日 奈良八景の誕生と継承 鎌田道隆氏 開講日 :土曜日(未開講日もあり) 時 間 :13:00〜14:30 申し込み不要・聴講無料 なお、聴講に関しては、奈良大学公式ホームページで、必ず詳細をご覧下さい。 奈良文化論について http://www.nara-u.ac.jp/topics.html#82 奈良大学公式ホームページ http://www.nara-u.ac.jp/index.html ::::::::::::::::::::::::::::::::::: ◇━ 「大阪商業大学スライドカルチャー」のご案内 大阪商業大学の商業史博物館では、映像を併用したカルチャー講座が開か れています。今回は、「飛鳥文化と東アジア」のテーマで、前期・後期あわ せて7回の講座が開催されるようです。 第19回大阪商業大学スライドカルチャー ・前期 第1講 5月25日(日) 飛鳥プロローグ ‐古墳文化の精華と終焉‐ 松田真一氏 第2講 6月1日(日) 飛鳥京と律令国家‐飛鳥京宮殿遺跡の発掘調査の成果から‐ 松田真一氏 第3講 6月8日(日) 宮都飛鳥の源流 ‐古代東アジアの都城‐ 山田隆文氏 ・後期 第4講 9月7日(日) 日朝古代仏教寺院 ‐最近の発掘成果から‐ 山田隆文氏 第5講 9月14日(日) 飛鳥の遺跡と災害 ‐遺跡から自然災害を読み取る‐ 松田真一氏 第6講 9月21日(日) 東アジアの古墳壁画 ‐高句麗壁画と高松塚古墳壁画‐ 松田真一氏 第7講 9月28日(日)〔臨地講座〕 畝傍山麓から橿原考古学研究所附属博物館へ 泉森皎氏 各講座とも、参加には申し込みと参加費が必要です。申し込み方法や、詳 しい日時場所などの詳細は、下記アドレスをご覧ください。 大阪商業大学 商業史博物館「スライドカルチャー」のページ http://ouc.daishodai.ac.jp/facilities/museum/slide_culture.html 大阪商業大学 商業史博物館 http://ouc.daishodai.ac.jp/facilities/museum/index.html ┏◇◆◇◆◇◆━━━━━━━━━━ 〈6〉両槻会からのお知らせ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇◆◇━━━━ ◇━ 当日スタッフについて 事務局では、前号でもお知らせしていましたように、定例会当日の進行を よりスムーズにするため、当日スタッフを新たに設けることにいたしました。 4名が就任いたしましたので、ご紹介いたします。 スタッフの一員として、当日お手伝いいただきますのは、せいぶんさん・ ぷーままさん・sachiさん・yukaさんの4名です。受付作業などで皆さんとも 接する機会が多くあると思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::: ◇━ 特別回 「忍坂街道探検」のご案内 実施日 : 4月18日(土) 集合場所: 桜井駅南広場奈良交通バス停付近 集合時間: 10時10分 費 用 : 1,500円 (花山塚古墳付近までのタクシー代金・石位寺拝観料金 ガイド経費を含む) 定 員 : 20名 申込期間: 3月14日19時〜4月11日深夜まで。 または、定員に達し次第締め切ります。 特別回「忍坂街道探検」では、名前は知られていますが、なかなか訪ねる 機会の無い古墳や史跡を巡ってみようと思います。桜井市から宇陀市へ抜け る女寄峠付近から近鉄朝倉駅まで、粟原川両岸を訪ね歩くことになります。 今回巡るコースを、2回に分けて飛鳥話1でご紹介していこうと思ってい ます。今号では、古墳をご紹介しました。次回もお楽しみに♪ 特別回 忍坂街道探検案内ページ http://asuka.huuryuu.com/yotei/tokubetukai/tokubetukai-1.html 飛鳥情報でもお知らせしましたが、この特別回に関連する企画展が桜井市 埋蔵文化財センターで開催されています。出土物の展示などもありますので、 関連でご覧になりたい方は、開催が4月5日までになります。お早めにお出 掛け下さい。 埋蔵文化財センター平成20年度「冬季企画展」 http://www.city.sakurai.nara.jp/bunkazai/index.html ::::::::::::::::::::::::::::::::::: ◇━ 第14回定例会のお知らせ 両槻会主催の第14回定例会では、「野守は見ずや 名柄の遊猟(みかり)」 と題し初の野外イベントを企画しています。 藤原京から出土した木簡には、かなりの数の生薬名が記載されていること が分かっています。この定例会では、飛鳥人がどのように植物を薬として、 ハーブとして、はたまた食用として利用していたのかを、御所市の田村薬品 工業株式会社さんにご協力頂いて、薬草園で栽培されている薬草を見ながら、 ご紹介していく野外イベントです。 同時に、現代人の私たちもそれらをもっと身近に、また、賢く利用するに はどうすればよいのか、皆さんとご一緒に考え楽しめたらと思っています。 どうぞ奮ってご参加下さい。 日 時 : 5月9日(土曜日) 集 合 : 近鉄御所駅前 参加費 : 1000円(バス代は各自負担) 第14回定例会予定 http://asuka.huuryuu.com/yotei/teireikai-14/yotei-14.html ┏◆◇◆◇◆◇◆━━━━━━━━━━ 〈7〉編集後記 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇◆◇━━━━ 今回の寄稿欄には、滝川先生にご登場頂いています♪お忙しいところ有難 うございました。m(__)m 過去2回の講演会内容を踏まえての記事になって いますので、参加された方は楽しく思い出しながら読んでいただけると思い ます。また、当時両槻会なんて知らなかったと仰る方は、これを切っ掛けに 過去の定例会の記録なども捲って下さると嬉しいです。(^^) 春からの特別展や企画展、様々な講座の予定が公開されだしました。興味 をそそられるタイトルのものは、ありました?(^^) σ(^^)は、これとあれ と・・と悩んでます。予定を組むのが大変です。^^;あ、両槻会でも様々な イヴェントが企画進行中です♪こちらもよろしくお願いします♪ (もも) ┏━━◆◇◆━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━┓ 発行 :両槻会 http://asuka.huuryuu.com/ 飛鳥遊訪マガジンへのご意見ご感想は、 http://form.mag2.com/viuounelio または asukakaze2@gmail.com 両槻会事務局まで 登録/解除は http://www.mag2.com/m/0000259444.html 発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ ┗━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━◇◆◇━━┛



