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元本屋の店員のレフティやすおが、毎月前半では読書に関するエッセイを、後半には古今東西の古典の名作・名著を一点ずつ紹介します。読書とは他人(ひと)様の人生を追体験すること。「楽しい読書」で楽しいひと時、豊かな人生を送りましょう。

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2008/12/31

レフティやすおの楽しい読書 0812(No.12)『ソクラテスの弁明』まとわりつく虻

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         レフティやすおの楽しい読書

         ― 読書で豊かな人生を! ―

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本日も、
若い頃は本屋の店員だった本好きのレフティやすおといっしょに、
このメルマガ「レフティやすおの楽しい読書」を通して、

古今東西の古典、名作・名著から選りすぐった一冊にふれ、
豊かな人生の時をすごしましょう。

読書とは、他人(ひと)様の人生を追体験することです。

そこから何かを学ぶか、ひと時の愉快な時間をすごすか、
それは人それぞれ。
自分なりの楽しみ方でいいのです。

まずは楽しい読書を心がけましょう。

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 2008(平成20)年12月号(No.12)-081231
             『ソクラテスの弁明』まとわりつく虻

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 『ソクラテスの弁明』まとわりつく虻

     プラトン『ソクラテスの弁明』(紀元前390年代後半頃)
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  ... ヨーロッパ哲学が誕生してからすでに二十数世紀におよぶ
  が、そのあいだに書かれた数多くの作品のなかで、おもしろさ
  の点からいっても、プラトンの対話篇に比肩しうるものは、け
  だし、稀であろう。ことに『アポロギア』(弁明)から『ポリ
  テイア』(国家)にいたる初期から後期にかけての著作は、そ
  こに描きだされたソクラテス像の彫塑的な美しさのゆえに、そ
  れをささえる劇的な構成や流麗な文体とあいまって、すぐれた
  文学作品といってもけっして過言ではない。
     藤井義夫/著『ギリシアの古典 よく生きるための知恵』
                     中公新書102(1966)

さて、その『ソクラテスの弁明』です。
この作品は、他のプラトン作品と少し違い、
ソクラテスとの対話を描いた“対話篇”ではなく、

ソクラテスの一人語りとも言うべき、
ソクラテスが被告として告発された、
その裁判における「弁明」を描いています。

では、ソクラテスはどんな告発を受けたのでしょうか。

  「... 国家の認める神々を認めず、新しい鬼神(ダイモン)の
  まつりを導入するの罪を犯し、且つ青年に害毒を及ぼすの罪が
  ある。これはまさに死に当たるものである」
    (田中美知太郎/著『ソクラテス』より、ヂオゲネス・ラ
     エルチオス『哲学者列伝』の引用を孫引き)17p

この告発に対するソクラテスによる弁明がこの作品です。

彼は、デルポイの神託「ソクラテス以上の知者はいない」
という言葉の謎を解き明かすため、知者と思われる人々を訪問し、
その知ったかぶりの仮面を剥ぐことになります。

それは馬にまとわりつく虻のよう…。

そして嫌われ者となり、告発される事態に至ったのでした。


  ... ソクラテスの風刺(イロニー)は、対話者が知識と思い込
  んでいたものが、じつは無知でしかなかったことを示して、彼
  を自己矛盾の現行犯として捕らえることにある。...
     ジャン・ブラン/著 戸塚七郎/訳『プラトン』白水社 
      文庫クセジュ(1962)20p


  ... ふだん疑問にも思ってないような、当たり前に思えること
  を疑わせたり、色々な問題をつきつけたりするんだから、ソク
  ラテスはすごい人だと思いませんか?/ソクラテスは、政治家、
  芸術家、職人、知識人などに向かって、この手の問いかけを死
  刑になるまでやり続けました。... 哲学に関心のない人を哲学
  的嗜好に巻き込んでしまうソクラテスの技量は神業としか思え
  ません。/ソクラテスはほとんど独力で、こういう理屈の世界
  があることを発見しました。そこから哲学が本格的に始まった
  のです。
     土屋賢二/著『哲学塾 もしソクラテスに口説かれたら
       ―愛について・自己について』岩波書店(2007)154p

ソクラテスは、
知を求めて対話することは、神から与えられた使命で、
何度死ぬことがあってもやめることは出来ないと、
この使命の放棄と引き換えに無罪放免を与えようという
意見に従うことを拒否し、有罪判決を受け入れます。

この裁判の約一ヵ月後(紀元前399年)、
『クリトン』に描かれているように、
友人たちの脱獄の勧めを拒否します。

 <大切なことは、生きるのではなく、よく生きることだ>
 <「よく」とは「立派に(美しく)」「正しく」と同じこと>

という、正義を重んじる生き方、
知を求めて対話を重ねる生き方を信条として、
不正を犯すよりも不正を蒙る方を選ぶ、という考えからでした。

そして、当時70歳のソクラテスは、
自らの意志で国法に従い毒杯を仰ぎ、刑死したのでした。

(この刑死の当日の様子を描いた作品が、
 霊魂の不滅をテーマとした『パイドン』で、
 裁判当日の朝の出来事を描いたものが、
 敬虔についてをテーマとする『エウチュプロン』です。)

そして、このソクラテスの刑死こそ、西洋哲学最大の事件となり、
のちのイエス・キリストの処刑とともに、後世のヨーロッパ史
および世界史を一変するような大事件となるのです。


  ... 「正しく生きることが最高の価値である」という根本思想
  から、ソクラテスは『クリトン』篇での「復讐の禁止」という
  思想を導出し、『ゴルギアス』篇での「害悪を為すよりは、害
  悪を蒙る方が善い」という思想を導出し、そうして、脱獄逃亡
  を拒否し、不正な裁判の結果を受容して、処刑されたのであっ
  た。
     岩田靖夫/著『ソクラテス』勁草書房(1995)231p


弟子プラトンは、このソクラテスの生き方、哲学する姿を
対話篇と呼ばれる作品群に結実させました。

この『ソクラテスの弁明』は、その初期における名作の一つです。

ここに哲学が始まったといっても過言ではない、
といえるのではないでしょうか。


たいていの訳書では、『クリトン』も併載されています。
この二編を通読することで、
ソクラテスの思想、哲学のあり方というものが、
よく理解できるような気がします。


そして、私たちもまた、人はなぜ、何のために生きるのかを、
自分の胸に問いかけ、生きることの価値というものに心をはせる。

そういう機会を持つことの大切さを
この本は教えてくれるように思います。

ぜひ一度は読んで欲しい古典の名著であり、名作です。

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【付録】ソクラテス、プラトンから西洋哲学に親しむために 
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●原典:

★『ソクラテスの弁明』プラトン/著 三嶋輝夫・田中享英/訳 講
談社学術文庫(1998)
 現代に即した読みやすさに徹した新訳。それぞれ豊富な訳注と、
 解題で、哲学的な説明も十分に施され、さらにクセノポンの『ソ
 クラテスの弁明』を参考資料として添え、多角的に眺められる。
http://www.amazon.co.jp/dp/4061593161/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
★『ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン』プラトーン
/著 田中美知太郎/訳 池田美恵/訳 新潮文庫(改版2005)
  初期の「弁明」から魂の不滅をテーマにした中期の「パイドーン」
 まで、ソクラテスの裁判から刑死までを扱った作品を収録。 
http://www.amazon.co.jp/dp/4102027017/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
★『ソクラテスの弁明』プラトン/著 山本光雄/訳 角川文庫
(1954, 改版1968)
 裁判当日の朝を描いた「エウチュプロン―敬虔について―」、裁
 判における「弁明」、その後の処刑を待つ日、脱獄を進める友人
 との対話「クリトン―なすべきことについて―」を収録。巻末に
 80ページ弱の訳注、解説などが付されていて初心者に優しい。一
 部の翻訳文にこなれの悪さを感じるところがあるが…。
http://www.amazon.co.jp/dp/4043016026/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
『ソクラテスの弁明・クリトン』プラトン/著 久保勉/訳 岩波文
庫(1978)
 作品として読む分にはよいが、プラトンの著作では標準とされる
 ステファヌス版のページ・段落の表示がなく資料として不親切。

●その他のプラトン作品:

★『プラトン 筑摩世界文学大系3』田中美知太郎ほか/訳 筑摩書
房(1972) 
 プラトンの著作は思想哲学の書ですが、文学作品としても一級。
 収録作品(ソクラテスの弁明、パイドン、饗宴、プロタゴラス、
 メノン、ラケス、アルキビアデス、テアイテトス)、プラトンに
 関する十一章(アラン)、解説(田中美知太郎)、年譜。
http://www.amazon.co.jp/dp/B000J9AMNC/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
★『饗宴』森進一/訳 新潮文庫(2006改版)
 プラトニック・ラブの語源ともなった愛(エロス)について語る
 『パイドン』『国家』とともにプラトン中期の代表的対話篇。 
http://www.amazon.co.jp/dp/4102027025/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
『饗宴』久保勉/訳 岩波文庫(1992)
『饗宴 恋について』山本光雄/訳 角川文庫(1984)
『パイドン―魂の不死について』岩田靖夫/訳 岩波文庫(1998) 
 ソクラテス処刑当日の魂の不滅に関する最後の対話を描く。
★『メノン』岩波文庫
 ソクラテスが質問だけで無学な奴隷の少年に数学の問題を解かせ
 るエピソードで有名な想起説を取り上げた、魂の不滅の思想へと
 進むプラトン初期から中期にかけての著作。
http://www.amazon.co.jp/dp/4003360168/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
『テアイテトス』田中美知太郎/訳 岩波文庫(1979)
『テアイテトス』渡辺邦夫/訳 ちくま学芸文庫(2004)
 知識とは何かについての、中期以降とされる対話篇。
★『国家』(上・下)岩波文庫
 プラトン中期の代表作であり、師ソクラテスの哲学を踏まえ、乗
 り越え、プラトンの哲学を代表する哲人王の思想をまとめた大作。
国家〈上〉
http://www.amazon.co.jp/dp/4003360176/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
国家〈下〉
http://www.amazon.co.jp/dp/4003360184/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
『法律』(上・下)岩波文庫
 プラトン最後の著作。

●ソクラテス、プラトンを知るために:

『ソークラテースの思い出』クセノポン 岩波文庫
 筆者未読。
★『ソクラテス』田中美知太郎/著 岩波新書 青版263(1957)C19,
 プラトン、クセノポンらの著作からソクラテスの実像とその思想、
  哲学を探る。小著であるが日本におけるソクラテス研究書の定番。
  当時のアテナイの実情、ギリシア人の持っていた意識との違いを
  示し、なぜソクラテスは刑死を選んだのか、その哲学に迫る。
http://www.amazon.co.jp/dp/4004120195/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
★『ソクラテス』岩田靖夫/著 勁草書房(1995)
 プラトン、クセノポンらの著作からソクラテスの実像とその思想、
 哲学を探る。その哲学の技法としての反駁的対話、イロニーにつ
 いて、さらに「よく生きる」からソクラテスの幸福論を探る。
http://www.amazon.co.jp/dp/4326198354/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
★『哲学者の誕生 ソクラテスをめぐる人々』納富信留/著 ちくま
新書549(2005)
 ソクラテスを人間をテーマにした最初の哲学者として見る従来の
 哲学史の立場を離れて、同時代の著作や、ソクラテスの弟子たち
 ソクラテス派と彼らが描いたソクラテス文学から、ソクラテス裁
 判の意味と哲学者ソクラテスの哲学「不知の自覚」を問い直す。
http://www.amazon.co.jp/dp/4480062491/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
『ソクラテス 人と思想・3』中野幸次/著 清水書院Century Books
(1967)
 プラトンの「ソクラテス的対話篇」を基に、自らを虻と呼び、人
 からはシビレエイといわれたソクラテスの人と思想を紹介する。
『プラトン 人と思想・5』中野幸次/著 清水書院Century Books
(1967)
 「ソクラテス的対話篇」ののちの中期「ポリテイア」(理想国)
 以降の作品を中心に、それ以後のプラトンの哲学を紹介する。
『ソクラテス』ジャン・ブラン/著 有田潤/訳 白水社・文庫クセ
ジュ(1962)
 プラトンの初期「ソクラテス的対話篇」を中心に、ソクラテスの
 哲学を探る。
『プラトン』ジャン・ブラン/著 戸塚七郎/訳 白水社・文庫クセ
ジュ(1962)
 プラトンの中期以降の対話篇から、プラトン独自の哲学を探る。
『プラトン入門』R.S.ブラック/著 内山勝利/訳 岩波文庫(1992)
 原題「プラトンの生涯と思想」(1949)。コンパクトなプラトン入
 門書。プラトンの自伝とも言われる「第七書簡」収録。
http://www.amazon.co.jp/dp/4003367812/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
『ギリシア哲学者列伝』(上・中・下)ディオゲネス・ラエルティ
オス/著 加来彰俊/訳 岩波文庫
 ソクラテス、プラトン始め、82人の哲学者の生涯とその学説を取
 り上げた、現存最古の資料。
★『ギリシアの古典 よく生きるための知恵』藤井義夫/著 中公新
書102(1966) 
 古代ギリシア人の知恵―ソクラテスやプラトンの哲学はじめ様々
 な古代ギリシアの人々の人生論を紹介する。
http://www.amazon.co.jp/dp/4121001028/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
★『ソクラテス以前以後』F・M・コーンフォード/著 山田道夫
/訳 岩波文庫(1995,原著1932)
 古代ギリシアにおける、ソクラテス以前のイオニア自然学からソ
 クラテスの哲学、プラトンとアリストテレスによって展開された
 ソクラテス以後の哲学を4時限の講座にまとめた小著。
http://www.amazon.co.jp/dp/4003368312/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
★『西洋哲学史 古代から中世へ』熊野純彦/著 岩波新書(新赤版
1007,2007?) 
 西洋哲学の通史、ソクラテス以前の古代ギリシャから中世まで。
 各時代を代表する哲学者の息吹が感じられるよう、それぞれの代
 表的な著作から重要なフレーズを引用している。入門書に最適。
http://www.amazon.co.jp/dp/4004310075/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
『哲学塾 もしソクラテスに口説かれたら―愛について・自己につ
いて』土屋賢二/著 岩波書店(2007)
 ゼミでの学生とのやり取りを基に哲学の方法とは何かが分かる。
★『いま哲学とはなにか』岩田靖夫/著 岩波新書(新赤版1137, 
2008)
 ソクラテスやアリストテレスの考えた「よく生きる」ための哲学
 とは何かを基に、個人の生き方から政治哲学へと現代の哲学者の
 意見も紹介して現代を生きるための哲学を追求する。
http://www.amazon.co.jp/dp/4004311373/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
★『よく生きる』岩田靖夫/著 ちくま新書564(2005)
 ソクラテスの有名な言葉「よく生きる」から人生を生きるための
 知恵を追求した講演等を集めたもの。講演録なので読みやすい。
 上記の著作をもっと砕いて、幸福論に徹した感じの本。
http://www.amazon.co.jp/dp/4480062688/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22 

* ソクラテスの刑死についての論考、およびプラトンの入門書等
に関しましては、非常に多くの書物が出版されています。いつも同
様、ここでは私が触れました範囲から、参考となりそうなごく初歩
的な本を挙げています。

(★マークは、筆者のおすすめ本です。本選びの参考にどうぞ。)

*『ソクラテスの弁明』以外のプラトンの作品は、
 またいずれ機会を見て紹介します。お楽しみに!

*『レフティやすおの本屋』支店「初歩の哲学入門」
「西洋哲学/古代・中世」の棚
http://myshop.7andy.jp/md_fair//lefty-yasuonohonya?shelf_id=04
「西洋哲学/古代・中世2」の棚
http://myshop.7andy.jp/md_fair//lefty-yasuonohonya?shelf_id=05

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 次号(2009年1月)の予定 :『失われた世界』秘境冒険の旅へ
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※「別冊 編集後記」〜『レフティやすおの作文工房』〜
2008.12.31『ソクラテスの弁明』まとわりつく虻
 ―第11号「楽しい読書」別冊編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-10181058245.html

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