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元本屋の店員のレフティやすおが、毎月前半では読書に関するエッセイを、後半には古今東西の古典の名作・名著を一点ずつ紹介します。読書とは他人(ひと)様の人生を追体験すること。「楽しい読書」で楽しいひと時、豊かな人生を送りましょう。

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2008/05/31

レフティやすおの楽しい読書 0805(No.5)『三教指帰』空海版青年の主張

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         レフティやすおの楽しい読書

         ― 読書で豊かな人生を! ―

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本日も、
若い頃は本屋の店員だった本好きのレフティやすおといっしょに、
このメルマガ「レフティやすおの楽しい読書」を通して、

古今東西の古典、名作・名著から選りすぐった一冊にふれ、
豊かな人生の時をすごしましょう。

読書とは、他人(ひと)様の人生を追体験することです。

そこから何かを学ぶか、ひと時の愉快な時間をすごすか、
それは人それぞれ。
自分なりの楽しみ方でいいのです。

まずは楽しい読書を心がけましょう。

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 2008(平成20)年5月号(No.5)-080531-
                              『三教指帰』空海版青年の主張

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 『三教指帰(さんごうしいき)』空海版青年の主張

             空海/著『三教指帰』(797 延暦16)
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空海とは、「弘法大師、お大師さん、おだいっさん」とも呼ばれる
庶民に圧倒的な人気のある、平安時代初期の名僧で、
密教の第八祖、高野山を開いた真言宗の開祖。
書の達人で三筆の一人。詩文も得意とした思想家・宗教家。
日本文化史上、唯一世界的なスケールを持つ大天才、
ともいわれています。

この空海の略伝に知識のある人なら、
この本の名前ぐらいはお聞きになっていることでしょう。
空海の処女作といわれています。

とはいえご存じない方もあるでしょうから、
司馬遼太郎の言葉をお借りして改めて紹介しておきましょう。


  司馬 日本人として珍しいことに、空海は、十九歳もしくは二
   十三歳までの時期に、劇にならない読みドラマ、それも思想
   ドラマを書いています。... 儒教がいいか、老荘がいいか、
   あるいは仏教がいいか――それはもうすごいものです。... 
   儒教を代表する変な師匠と老子を代表する人、そして坊主を
   代表するのは空海本人のような乞食青年で、最終的には仏教
   が勝つわけですが、もう非常なドラマです。

    『人間について』対談・司馬遼太郎/山村雄一 
      中公文庫1989,1996改版
     (「国家と人間集団/空海の書いた思想ドラマ」223p)


空海の『三教指帰』は、三教―儒教・道教・仏教を比較して、
仏教の優位性を説きおこしたもので、日本初の思想批判書で、
日本最古の戯曲ともいわれるものです。

仏道に進もうとする二十四歳の青年、
空海自身の世間へ向けた宣言書、とも言われています。


儒教に関しては、主に忠と孝が語られます。

道教は、第3号で取り上げた『老子』的なものではなく、
中国・晋代の道家、葛洪(かつこう)の『抱朴子』の不老長生術に
見られるような神仙思想としての道教です。

仏教は、まだ空海が密教に出会う前のことといわれ、
大乗仏教一般についてのお話です。
しかし、大乗仏教を知るテキストとしてよくできている、
といわれます。


  ... 暗闇で象の一部を撫でて、それぞれ象の全体だと誤解した
  寓話のような迷いから醒めて、百獣の王が獅子吼(ししく)す
  るのにも似た仏陀の教えを学んでごらんなさい。...
             「第三章 仮名乞児の主張」(73-74p)
    『ビギナーズ日本の思想 空海「三教指帰」』空海/著 
      加藤純隆・加藤精一/訳 角川ソフィア文庫(2007)


ある書物によれば、未開の時代、
仏陀は二人の弟子を中国に遣わしたが、
まだ人は真理を受け入れることができない状態だったので、
一人は孔子に、もう一人は老子に生まれ変わり、
それぞれ儒教と道教を説いて、表面的な真理を説き示させた
というのです。

儒教・道教・仏教の三教は、それぞれに尊いものではあるが、
それぞれに役割が異なり、
段階を追って人は真理を学んでゆくのだといいます。
そして、仏教は最後にたどり着く最も尊い教えだ、と。

 ・・・

  立花 密教というのは、ある意味では仏教というよりもほとん
   どインド哲学ですね。そういうものが、考えてみれば毘沙門
   天とか、寅さんの帝釈天とかいう形で、日本の生活の隅々ま
   で入っているわけでしょう。そういうことを初めて知って驚
   きました。それから、空海という人の想像を絶する天才ぶり、
   これには本当に驚きました。
  司馬 空海の一番魅力的な部分ていうのは、やっぱり二十歳前
   後に書いたという『三教指帰』だと思います。あれは思想ド
   ラマで、それも読みドラマですが、あの中に終末論が出てく
   るんです。それは原始仏教以来の正統の感覚だと思うんです
   けどね。... 要するに宇宙も火の玉になって焼け崩れていく
   ということですね。エネルギーが尽きる時を考えているので、
   これはちょっと凄みがある。... このときには、もうだいた
   いのちの空海は出来上がってて、後日、空海は、自分の哲学
   的気分や宗教的気分を営養したり充実したりするだけのため
   に長安に行く。あるいはたくさんの経典を読むというだけで
   すね。だが二十歳前後で『三教指帰』のときに、もう出来上
   がってるんじゃないか。...
           「宇宙も火の玉になって焼け崩れていく
            『三教指帰』にみる終末論」(168-171p)
    『宗教と日本人 司馬遼太郎対話選集8』文春文庫(2006)
     収録、「宇宙飛行士と空海」司馬遼太郎・立花隆 より 


私は、この著作を「空海版青年の主張」と呼びましたが、
実はこの著作の元となるもの『聾瞽指帰(ろうこしいき)』は、
18歳のときに書かれたものだといわれています。
(この本の空海の真筆といわれる国宝に指定されたものが、
高野山金剛峯寺に遺されています。)

違うのは、序と末尾の詩ぐらいで、本文は大半がそのまま、
多少文字の修正があるだけ、といわれています。

すなわち、大学に入学する頃には、
既に空海思想の大枠というものを築き上げていた、
と考えられるのです。

さすがに天才といわねばなりません。

 ・・・

  文(ぶん)の起(おこ)り、必ず由(ゆえ)あり。天(てん)、
  朗(ほがら)かなるときは則(すなわ)ち象(しょう)を垂れ、
  人(ひと)、感ずるときは則ち筆(ふんで)を含む。... 凡聖
  (ほんじょう)貫殊(つらこと)に、古今(ここん)時(とき)
  異(こと)なりと云(い)うと雖(いえども)も、人(ひと)
  の憤(いきどお)りを写(うつ)す、何ぞ志(こころざし)を
  言わざらん。
                「序文」原文 訓み下し(106p)

  およそ文章を作るには必ずその理由があります。空が晴れ渡っ
  ている時には必ず太陽がそのおおもとに現われているように、
  人が心になにかを感じた時にこそ、人は筆をとって、その想う
  所を文章にあらわすのです。... これらのすぐれた作者と私た
  ちとは人柄も別ですし、時代も違っていますが、文章を作ると
  いう点では同じです。文章とは、人間が心の内に動く思いを外
  に写すのです。私はどうしてもいまここで私の志を文章にして
  述べたいのです。
             「序章 この書物を書いた理由」(12p)
    『ビギナーズ日本の思想 空海「三教指帰」』空海/著 
      加藤純隆・加藤精一/訳 角川ソフィア文庫(2007)


  司馬 ... 『三教指帰』を書くことによって、大学を中退する、
   つまり同時に浮世を出奔する自分自身への理由づけが出来た
   と思うんです。そうじゃないと、これをわざわざ書かない。
            「空海は“金星体験”で宇宙を感じた
               弘法伝説とイエスの体験」(171p)
    『宗教と日本人 司馬遼太郎対話選集8』文春文庫(2006)
     収録、「宇宙飛行士と空海」司馬遼太郎・立花隆 より 


  ...『三教指帰』はけっして、出世のための論文ではなくまた、
  弟子や友人に仏教を教えるために書かれた論文でもない。それ
  は、自己と自己の親族に、彼の新しい生き方を納得させるため
  に書かれた本ではないかと思われる。…
       「第三部 死の哲学から生の哲学へ」梅原猛(255p)
   『生命の海<空海> 仏教の思想9』宮坂宥勝・梅原猛/著
                       角川文庫(1996)


基本的に自分の進むべき道を示した著作であり、
そういう意味では、一青年の主張であるのです。

今の時代これだけのものを書ける若者が
どれだけいるのでしょうか。

後生畏るべし、といったのは孔子です。
(『論語』「子罕 第九」)

大いに期待したいものです。

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【付録】空海のパワーとスケールを楽しい人生に活かすために
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●原典をみる:

★『ビギナーズ日本の思想 空海「三教指帰」』空海/著 加藤純隆
・加藤精一/訳 角川ソフィア文庫(2007)  
 「三教指帰」の現代語訳及び原文訓み下し、空海略伝を添える。
 青年空海が仏教の道に進むことを宣言した書。
★『三教指帰 性霊集 日本古典文学大系 71』空海/著 渡辺照宏、
宮坂宥勝/校注 岩波書店(1977年) ―「三教指帰」と空海の文章を
 集めた「性霊集」の原文、読み下し文、注および解説。この本に
 示されている引用文献のリストを見ますと、若き空海がいかに多
 くの本を読み込んで『三教指帰』を書いたかがよくわかります。
『日本の名著 3 最澄・空海』中央公論社(1977?)
 筆者未見。「三教指帰」「文鏡秘府論」を収録。
『三教指帰』福永光司/訳 松長有慶/著 (中公クラシックスJ16) 
 筆者未見。『日本の名著 3 最澄・空海』の空海編。

●その他の空海の著作:

★『空海「秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)」をよむ〜心の秘宝を開く
鍵』(上)2008年3月/(下)9月 講師/福田亮成 ― NHKラジオ
 第二『宗教の時間』第2日曜日午前8:30-9:00 放送ガイドブック。
 空海の思想体系「十住心論」をコンパクトにまとめた「略論」と
 呼ばれる『秘蔵宝鑰』を今年四月から一年間12回に渡って読む。
『空海コレクション 1』空海/著 筑摩書房 ちくま学芸文庫(2004)
 空海密教思想の集大成ともいうべき「十住心論」を要約した略論
 「秘蔵宝鑰」、顕教と密教の違いを説く「弁顕密二教論」を収録。
 それぞれ読み下し文と語釈、要旨を付す。 
『空海コレクション 2』空海/著 筑摩書房 ちくま学芸文庫(2004)
 空海思想の中核を語る三部書「即身成仏義」「声字実相義」「吽
 字義」、「般若心経」を密教経典として解説する「般若心経秘鍵」
 、唐より請来した経典等の目録と帰国報告文「請来目録」を収録。  
『弘法大師空海全集』全8巻 弘法大師空海全集編輯  筑摩書房
(他、各種全集あり。)

● 人間・空海を小説・マンガから知る:

★『空海の風景』上下巻 司馬遼太郎/著 中公文庫 改版(2005)
 小説版空海伝。空海の人と思想の簡単入門書でもある。
★『曼荼羅の人−空海求法伝』全三巻 陳舜臣/著 徳間文庫(1990)、
集英社文庫(1997) TBSブリタニカ(1984)、たちばな出版(2003)
 空海が入唐して恵果和尚から密教を授かり帰国するまでの物語。
★『空海書韻』榊莫山/著 美術公論社 (1991)
 あの莫山先生の知る人ぞ知る小説。入唐前の謎の期間と私費留学
 生としての資金源の謎を解き明かす空海伝。
『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』(全4巻)夢枕獏/著 徳間書店 
TOKUMA NOVELS(2007)
 空海を主人公にした痛快伝奇小説。安倍清明・源博雅の“陰陽師”
 シリーズをそのまま空海と橘逸勢に、舞台を唐に置き換え、玄宗
 皇帝と楊貴妃、白楽天を登場させて、スケールアップした物語。 
『弘法大師空海』1−6巻 ジョージ秋山/作 集英社 オールマン・
コミックス(1997-99) ― 筆者未見。五話六話のみ読了。

● 空海と密教を知る:

★『沙門空海』渡辺照宏・宮坂宥勝/著 ちくま学芸文庫(1993)、
筑摩書房(1967) ― 伝説的な部分をそぎ落とし、一沙門空海として
 の生涯をたどる、画期的人間空海伝。
★『空海 生涯と思想』宮坂宥勝/著 ちくま学芸文庫(2003)、筑摩
書房(1984) ― 空海研究のエッセイを項目ごとにまとめた入門書。
★『生命の海<空海> 仏教の思想9』宮坂宥勝、梅原猛/著 角川
文庫(1996)、角川書店(1968) ―「第一部秘密の世界」宮坂宥勝、
 「第二部密教の再発見」対談・宮坂宥勝、梅原猛、「第三部死の
 哲学から生の哲学へ」梅原猛。空海復権の書。  
『空海の思想について』梅原猛/著 講談社学術文庫(1980)
 三部書を中心に語る梅原版空海の思想入門書。 
『空海入門』加藤精一/著 大蔵出版(1999)
 現代的視点で高校生にも分かるように、と書かれた空海入門書。
『空海のことばと芸術』真鍋俊照 日本放送出版協会(2002)
 空海の密教芸術を中心に、密教とその思想を紹介する。
★『空海の歩いた道』頼富本宏/文 永坂嘉光/写真 小学館(2003)
 空海自身の言葉とゆかりの地の現在の写真でたどる空海の歩み。 
★『空海曼荼羅』夢枕獏/編著 日本出版社(2004)
 空海の書を分析する岡本光平「空海の飛白体」、空海の密教を解
 説する松岡正剛「五大にみな響きあり」など空海に関するオムニ
 バス文集。ジョージ秋山のマンガ「弘法大師空海」が読ませる。
『空海 世界的思想としての密教』KAWADE道の手帖 河出書房新社
(2006) ― 対談:司馬遼太郎・福永光司「経国の大業」他、世界的
 な思想家としての空海に関する論考を収録。五来重「空海の真言
 密教と行的世界」の辺路(へじ)修行についてや明治時代の南方
 熊楠「真言曼陀羅論」は興味深かった。 
★『東寺文庫 弘法さんの玉手箱』東寺宝物館/編 雄飛企画(1995)
 東寺が発行した東寺を知る本。弘法大師空海に関する話ももちろ
 ん含まれる。章題の一つに「密教わからん」とあるように、わか
 りやすく書かれた、こじんまりとした親しみやすい本。
★『日本の仏教』渡辺照宏/著 岩波新書 青版299(1958)
 外来思想の仏教をいかに日本化したか、日本の仏教を知る好著。
『密教の哲学』金岡秀友/著 講談社学術文庫(1989)
 密教の思想と哲学を知る定番とされる著作。
『〈図解〉密教のすべて』花山勝友/監修 光文社 知恵の森文庫 
(1998) 図解で示す密教のおおよそから、空海十住心論まで。

★『梅原猛著作集・9 三人の祖師』梅原猛/著 小学館(2002)
 仏教伝来から最澄、空海、親鸞、『歎異抄』まで。

* 空海に関連した本は数限りなくあります。そのなかで、入手し
 やすい、わかりやすい、これだけは、というものを選びました。
(★マークは、筆者のおすすめ本です。本選びの参考にどうぞ。)

* 空海を扱った小説・著作等は、
 またいずれ機会を見て紹介します。お楽しみに!

*『レフティやすおの本屋』
本店「新しい生活のために/日本古典編」
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支店『初歩の哲学入門』「東洋の哲学・思想」の棚
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 次号(6月)の予定 : 『宝島』海賊ゴッコの聖典
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※「別冊 編集後記」〜『レフティやすおの作文工房』〜
『三教指帰』天才青年空海の主張
 ―第5号「楽しい読書」別冊編集後記
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