2009/12/18
■ろう者の言語・文化・教育を考える No.154
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ろう者の言語・文化・教育を考える◆ No.154 2009年12月18日 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■<教育> 口話で内緒話 ご存知のとおり、昔、ろう学校は手話を禁止し、口話しか許さなかった。 校内でちょっとでも手を動かそうものなら、すぐさま手をたたかれたものだ。 私も中学部のころ、先生が板書している隙に、同級生とひそひそ手話をして いるところを見つかって、チョークが飛んできたことがある。ひそかに生徒 の顔写真を的にして練習しているのではないかと思えるくらい、チョークは 見事に額に命中した。それでも手をたたくとか、チョークの刑はまだいいほ うだ。終戦直後は、軍隊の名残があったのかお仕置きも容赦なかったらしい。 女子生徒はまだしも、男子生徒は力いっぱい殴られ、翌日顔を腫らしてくる こともしばしばだったという。満々と水を張ったバケツを持って廊下に立た されるとか、「私は、手話を使いました。申し訳ありません」と書いた看板 を胸に下げて終日廊下に立たされたという話もある。30代後半の女性でさ え同様の経験があると聞き驚いた。 学校で手話を使いお仕置きされたというのは、ろう者に共通の体験だ。そ こで、生徒たちは考える。いかにして先生の目を盗んで内緒話をするか。机 の下でこっそり手話をしてみたり、体の陰で手話をしてみたり、あれこれと 策を練るのだ。 先日、あるろう者が明晴学園の先生に尋ねた。先生も子どもたちもみな手 話をする明晴学園では、子どもたちの内緒話は、自分たちのときとは反対に 口話でするのではないかという質問だった。最初、先生は否定していたが、 その後よくよく子どもたちの様子を見てみたところ、たしかに口話で内緒話 をしているのを目撃したという。デフ・ファミリーの超目ざとい先生の目も かわしてしまうくらい実に巧妙に。手話が母語である先生たちは、どんなひ そひそ手話でもキャッチしてしまう。ところが、口話の内緒話は読めないら しい。 一般に、手話と書記日本語のバイリンガル教育を進めると、口話はできな くなるだろうと言われることが多い。しかし、口話で内緒話ができるという ことは、十分に日本語が身についているということだ。発音のできは別とし て、日本語のリテラシーは十分に育っているようだ。 先日来日したアメリカでバイリンガル教育にあたっているろう教諭が、ろ う児はまず第一言語である手話の生活言語を習得し、続いてそれを学習言語 に高め、その後第二言語の生活言語、学習言語を習得するのがよい。書記言 語が概ね習得されたあと、本人の希望により口話を導入してもよいと話して いた。それが望ましい言語習得の道筋であって、逆順の習得はありえない。 口話から始まるなどもってのほかだという。手話を土台にして書記言語とし ての第二言語を習得し、それを基に口話が使えるようになる。つまり、バイ リンガルの子どもたちは口話も使えるようになるということだ。 まさしく明晴学園の子どもたちの状況と一致する。明晴学園の児童は口話 の勉強をしていない。それでも口話で内緒話をする力を備えている。なんと も頼もしい子どもたちである。 (日本語訳:chu) ■メルマガNo.154の手話版は、12月11日のDeafTV-Japanにて配信されました。 □「ろう者の言語・文化・教育を考える」メルマガの手話版は、DeafTV-JAP AN でごらんいただけます。 http://www3.stream.co.jp/www11/sfactory/ □「ろう者の言語・文化・教育を考える」メルマガの手話版のDVDはダブ ルピー株式会社で購入できます。 http://www.wp1.co.jp/ メルマガNo.001~020収録『日本手話とろう文化』 1,800円 メルマガNo.021~040収録『日本手話とろう文化2』1,800円 メルマガNo.041~061収録『日本手話とろう文化3』1,800円 □<注意> 引用、転載:出典を明記してくだされば自由にして下さって結構です。 (メールによる丸ごと転送はご遠慮ください) ※著作権は木村晴美が有します。 --------------------------------- 発行人:木村晴美 発行日:2009年12月18日(金) 読者数:847人(744人・携帯版103人)2009年12月18日現在 http://kimura-harumi.cocolog-nifty.com/


