2009/10/13
■ろう者の言語・文化・教育を考える No.149
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ろう者の言語・文化・教育を考える◆ No.149 2009年10月13日 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■<言語・文化> 声をかけてください 本日は、「翻訳は可能か」について述べたい。 結論からいえば、翻訳は可能である。ただし、語レベルでの翻訳は不可能だ という。 先日、かねてよりお世話になっている糟谷啓介先生の講義があった。先生の お話によると、「異なる言語間で、"語"を翻訳しようとするのは誤りである。 翻訳できるのは"文(テクスト)"であり、厳密に言えば、その文が発せられた 状況(コンテクスト)を踏まえて初めて翻訳が可能になる」という。 そのお話をお聞きした直後、まさしくこのことだと思うことがあったのでご 紹介したい。 私は定期的に血液検査をしている。前もって採血をして数日後に検査結果を 聞くという流れだ。採血のときは通訳を依頼するまでもないのだが、一応、通 訳養成をなりわいとしているので、通訳実習の場を提供するという意味で通訳 を手配した。いつものように話が進んで、次は採血というときに、通訳者が< 採血が終わったら/受付/呼んでください>と通訳した。過去の採血場面を振 り返っても採血後に看護師を呼ぶことはないので、通訳された内容が腑に落ち ない。改めて通訳者に確認してみたが、やはり<採血が終わったら/受付/呼 んでください>と言う。誰が誰を呼ぶのか、呼んで何を言うのかを確認してい った末にようやく出てきた回答が<声/言ってください>だった。 つまり「採血が終わったら声をかけてください」<採血が終わったら/終わ り/報告してください>ということかと再確認したが、「多分そうだと思う」 とはっきりしない。 看護師が言った「採血が終わったら声をかけてください」のコンテクストを 考えてみよう。病院で、受付からカルテを受け取り、処置室で採血をし、終わ ったら受付に戻るという状況での「声をかけてください」は「終わりましたと 報告する」ことだ。それがしっかり理解できていれば、<終わり/言ってくだ さい>と的確な通訳となる。 糟谷先生のお話の中で取り上げられた例である。ある会議場面で「○○さん、 どうぞ」という発言の促しを英語に通訳するとき、"Mr.○○ please."では通 じないという。この場合は"I now give the floor to Mr. ○○.(意見を言う 機会を与えます)"という言い方になるらしい。つまり、その場面における 「どうぞ」の意味と意図をとらえて、その意味や意図が確実に伝わるように通 訳をしなればなならないということだ。 通訳養成に携わって数十年になるが、今回の事例で改めて通訳とは何かを考 えさせられた。"語"は翻訳(通訳)できない。翻訳(通訳)できるのは、話し 手の意図に基づき、"コンテクスト"に結びついた"テクスト"なのだ。今後の指 導に生かしていきたい。 (日本語訳:chu) ■メルマガNo.149の手話版は、10月2日のDeafTV-Japanにて配信されました。 ※New!!新刊のお知らせ 『ろう者の世界 ~続・日本手話とろう文化~』(1,500円税別) 2009年8月11日発行!(生活書院) http://www.seikatsushoin.com/bk/roushanosekai.html □「ろう者の言語・文化・教育を考える」メルマガの手話版は、DeafTV-JAPAN でごらんいただけます。 http://www.deaftv.jp/ □「ろう者の言語・文化・教育を考える」メルマガの手話版のDVDは株式会 社ワールドパイオニアで購入できます。 http://www.wp1.co.jp/ メルマガNo.001~020収録『日本手話とろう文化』 1,800円 メルマガNo.021~040収録『日本手話とろう文化2』1,800円 メルマガNo.041~061収録『日本手話とろう文化3』1,800円 □<注意> 引用、転載:出典を明記してくだされば自由にして下さって結構です。 (メールによる丸ごと転送はご遠慮ください) ※著作権は木村晴美が有します。 --------------------------------- 発行人:木村晴美 発行日:2009年10月13日(火) 読者数:715人(2009年10月12日現在) http://kimura-harumi.cocolog-nifty.com/


