奥田実紀のスピリチュアル・ストーリー 

恋愛や冒険、愛情をただ描くのではなく目に見えない心や思いの部分にまで迫り、大事なものは目に見えないということを伝えていきたいと思います。

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サンプル誌

名も知らぬ遠き島より
流れ寄る椰子の実一つ

「故郷の岸を離れて…波に幾月…いづれの日にか国に帰らん……」
 るくとは口ずさんだ。パシャッ。パシャッ。波が足元に押し寄せては返っていく。はるか水平線に、何隻かの船が霞んでいる。
ふり返れば、港と村が見渡せ、その背後には幾重にも連なる小高い山。目に入る景色は、夕日で茜色に染まっていた。
るくとが座っている岩場は、つき出た岬の先端にある。
お気に入りの場所で、ここから沈みゆく夕日を眺めるのが、るくとは好きだった。
 小さい頃、父と二人でここに来るたび、父はその詩を口ずさんだ。
名も知らぬ遠き島より
流れ寄る椰子の実一つ
 ――頭からこの詩が離れなくてね…。好きっていうのとも違うんだ、ただ、ぎゅっと胸が熱くなるんだ――父はそうるくとに話した。
 目をつぶってごらん、るくと。ほら、風の音。波の音。自分が海になったようだろう。
 いろんなことが、とるにたらない小さなことに思えてこないか。このまま消えてもいいって気持ちになるよ…。
「父さんは、自分は椰子の実、帰りたくても帰れない椰子の実だって言った。
どうして帰れないのかな、いつか国に帰る、って言ってるのに。椰子の実の国って、この海の向こうかな」
 るくとは無邪気に考えた。夕日は最後のまたたきを済ませると、名残惜しそうに姿を消した。
「ぼっちゃーん、るくと…ぼっちゃーん…」
 砂浜を、息をきらせながら駆けてくる人影があった。
「番頭さん!」
 るくとの家は、この島に古くからある旅館だ。
本土から外れた小さな島だが、古い港町のたたずまい、なだらかな丘陵、清流、そして温泉。
 素朴な田舎の雰囲気を今に伝える、数少ない場所だということで、観光客があとをたたない。

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