あの山を越えたら、海が見える
あの山を越えたら、海が見える
私、やっぱりうちの会社で
ある一種の「疎外感」を
この半年感じてきたような気がする。
うちの会社はアメリカの企業で、
「diversity(多様性)」という
価値観を掲げている。
多様性こそが、
クリエイティビティ(想像力)
を生み出す、という考えに基づいている。
当然、会社は多国籍だ。
でもだからといって、
皆が均質に交ざりあっているわけではなく、
さまざまな文化を身にまとう人々が、
自分たちのハビトゥスを作って、
そこに安全におさまって暮らしている。
ハビトゥス同士は、
それぞれにとって
心地のよい距離感をお互いに保ちあい、
バランスをとりながら会社という
小社会をつくりあげている。
そこには何か、ハビトゥスという枠組みを守る、
求心力のようなものがはたらいていると思う。
それは決して企業が詠う謳い文句
「diversity]「inculusion(抱合的な)」
などというきれいごとではない。
回る駒が、触れたものを外側に弾くように、
その求心力の輪の外にいる人間には、
孤独と疎外感が待っているような気が
私にはしてならない。
では日本人の輪の中に入れるか
というと、そうでもない。
暴力にさらされた家庭環境で育った。
「この親さえいなければ」
と、毎日念仏のように唱えていた。
「お前みたいな根性のひねくれた奴は
大きくなったら殺人犯になる」
と叫ぶ親の横を無表情に通り過ぎる
女の子だった。
職場の女の子は、
私の「奇異」さを敏感に感じ取る。
そして離れていく。
人種が違うのだから仕方ない。
いつか私は、彼らを追いかけるのをやめた。
中学校のときの国語の教科書に
こんな文があった。
「あの山を超えたら、海が見える。
少年は、朝からずっと歩いていた」
嗚呼、いつ海が見えるんだろう。
いつか…


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