2009/10/16
野球小説アンドロメダ・Jと小次郎19
☆☆☆☆☆ 20XX年、未知なる魅力あふれる野球戦士たちが、それぞれの夢達成 のゴールに向かって、走り出した。それは理想の世界だろうか、それとも …。 ☆☆☆☆☆ 球界の危機的状況を感じ取った選手会リーダー・高杉明太郎はある日、東 京グレート総務課長の村澤三四郎、マネジメント会社アンドロメダのリーダ ー・大田原健太郎と出会い、未知の魅力にあふれた選手の発掘を誓う。そし て舞台は全国の高校へ。アンドロメダ球児たちの夏が始まった。 ☆☆☆☆☆ そこには大阪ロックスター二塁手の鬼崎平三(現アンドロメダ特別講師) が確かに待ち構えていた。ややいつもよりも緊張気味に…。珍しくスーツ を着込んでいる。いつものオッサン顔(といってもまだ20代前半だが…) とも何かが違っていた。動きも妙にぎこちなかった…。 待ち合わせ場所の心斎橋。近くのビルに車を止めた大阪ロックスター投 手の神威小次郎(現アンドロメダ調査員)と順子(聖子)はちょっと早歩 きになっていた。「ほら、もう鬼さんが来ている」。順子が神威にささや く。通りの反対側に鬼崎の姿が見えたら、神威たちの体は条件反射だ。「 鬼さんを待たせてはいけない!」。息もピッタリの2人はそんな思いまで 一致していたのだった。 「鬼さーん」。順子は100メートル手前から声を張り上げた。そばで 神威は照れ笑いを浮かべている。それを見ながらも、鬼崎はややかしこま った顔をしていた。 「何かいつもと雰囲気が違うな…」。神威は感じた。「何かあるな、や っぱり…」。神威は思った。「何なんだろう。これから何が起きるんだろ う」。神威はちょっと不安にもなった…。 到着すると順子は即座に「鬼さん、ありがとう。来てくれて…」と深々 と頭を下げた。「いいよ、そんなことは…」と鬼崎ははにかんだ。いつに なく優しい表情に見えた。実はこの日は1週間前から約束されていたこと だった、という…。 1週間前…。北新地のスナックに鬼崎&神威のコンビは例によって、繰 り出していた。例によって、順子らがつき、それはもう盛り上がった。ま ぁ、いつものことではあるが…。夜12時をまわったところで「それじゃ、 先輩! お先に失礼します」と神威が席を立った。「おう!」と鬼崎は返 した。これまた珍しいことではない。酒の強さにかけて、鬼崎は敵なしだ った。それに比べると神威は並程度の強さ。翌日の練習を考えれば、深酒 はできない。いつも、神威が鬼崎より先に帰るというのがパターンだった。 「で、鬼さん、何なのよ、話って」。神威が帰った後、順子が鬼崎に耳 打ちした。この夜の飲み会の最中、神威がトイレに立った時、鬼崎はすか さず順子に「後で話がある。神威が帰ってから、ちょっとな」と声をかけ ていた。酔っているハズなのに、この時の鬼崎の顔が順子には真剣に見え た。「わかったわ」。嫌でもそういわざるを得ないムードだったという。 そして…。 「話は神威のことさ。順子はアイツのことば、どがん思っとるとか聞きた くてな…」。鬼崎はストレートに突っ込んできた。「えっ、何よ、いきなり …」。順子はあまりに単刀直入すぎて、ちょっと困惑の顔をした。でも、す ぐに素に戻る。「好きよ。いい人って思っているわよ」ときっぱり言い切っ た。 鬼崎はさらに聞いた。「それはお客さんの1人として? それとも1人の 男として?」。順子はちょっとけげんそうな顔になった。「そこまで鬼さん にいわなきゃダメなの? どうして急にそんなことを聞くの?」。 ここから矢継ぎ早のトークになった。 鬼:「順子は神威と約束したやろ。アイツがおいとの勝負に勝ったらデー トするって…」 順:「したわよ。それがどうかして…?」 鬼:「もうすぐ、アイツはおいに勝つけん、聞くとさ。おいにはわかると…。 アイツは早ければ来週にも勝つばい」 順:「そうなの! 神威さん、頑張っているのねぇ…」 鬼:「アイツは順子とデートする日を目標に頑張ってもいたと思う。マジメ で純粋なヤツけんね」 順:「優しい人よね」 鬼:「アイツはきっとその時にいうと思うとさ」 順:「何を?」 鬼:「順子に告白するって思うとさ。いや、多分、これは間違いなか」 順:「そんなこと、鬼さんがいわないでよ」 鬼:「そがんことはわかっとるさ。でも、事前に聞いておきたかったと…。 お前の気持ちば…」 順:「どうして鬼さんが…」 鬼:「見込みなかなら、さりげなく、おいからアイツに言おうと思ってさ」 順:「見込みないと思っているってこと?」 鬼:「おいはこの店の事情通けんね。順子は今度、ここから独立するとやろ」 順:「えっ、ええ…」 鬼:「アイツと一緒になる気なんか、なかならって思ったとさ」 順:「お店を持つって言ったら、嫌われるかなぁ?」 鬼:「そがんことはなか。アイツはむしろ、応援すると思うばい。そういう ヤツばい。でも、それもお客さんとしての気持ちでのことやったら、アイツが 、かわいそか。アイツの野球にも影響が出るさ…」 順:「私は真剣よ。神威さんさえ私でいいというのなら…」 鬼:「アイツが嫌っていうわけなか。それは保証する」 順:「そうかなぁ…?」 鬼:「順子は野球も好きやろ。ほら、前にプロ野球の神奈川マジックが好 きとか、いうとったやん」 順:「そ、そんなこと、私、言ったぁ…?」 鬼:「確か、あの時の順子は無茶苦茶、酔っとったけんね。選手の名前 も言うてたよ。誰だったかなぁ。おいも酔っていたけん、もう忘れたけど …」 順:「そ、そうだったかなぁ…?」 鬼:「まぁ、それはどうでんよか。でも神威はこれからの鍛え方によっ てはプロまでいけるかもしれん。それを支えてやってくれるか。未来のプ ロ野球選手の妻として…」 プロ野球選手の妻といわれて、順子はちょっとうつむいた。鬼崎は順子 が照れていると思ったが…。 「でも、鬼さん…」。順子は顔をあげて、また真顔になった。「神威さ んに私のすべてを知ってもらわないと…。それを聞いても、神威さんは私 でいいと言ってくれるかしら…」 それから、順子は鬼崎に語り始めた。その「すべて」という話を…。 話を聞いた鬼崎はちょっとだけ驚いた。しかし、すぐにこう断言した。 「神威はそれでも大丈夫。順子が本気なら大丈夫。アイツはそういうやつ けん」。 この時、順子は鬼崎に頼んできたという。「それじゃぁ、その話をする 時に鬼さんも来て。うちの妹も連れてくるから…」と…。 心斎橋はその約束の場だった。 つづく ☆☆☆☆☆ アンドロメダの物語はフィクションです。実在の人物、地名、組織には一 切関係ありません。


