2009/09/25
野球小説アンドロメダ・Jと小次郎16
☆☆☆☆☆ 20XX年、未知なる魅力あふれる野球戦士たちが、それぞれの夢達成の ゴールに向かって、走り出した。それは理想の世界だろうか、それとも…。 ☆☆☆☆☆ 球界の危機的状況を感じ取った選手会リーダー・高杉明太郎はある日、東 京グレート総務課長の村澤三四郎、マネジメント会社アンドロメダのリーダ ー・大田原健太郎と出会い、未知の魅力にあふれた選手の発掘を誓う。そし て舞台は全国の高校へ。アンドロメダ球児たちの夏が始まった。 ☆☆☆☆☆Jと小次郎16 遊びは豪快だった。酒はほとんど飲んでいないのに、そんじょそこらの酔っ 払いには負けないハイテンションだった。機嫌を損ねたらサイテーな空気が漂 うものの、何か楽しい気分に浸れた。リラックスできた。気分転換になった、 という…。 長崎の鬼崎平三(元大阪ロックスター二塁手)の実家は運動具店を経営して いた。「ONIスポーツ店」という。この家業を継ぐために、ロックスターを 退いていた。もともとは兄が継ぐ予定だったという。ところが、その兄がある 事情で日本を離れることになった。両親は自分たちで何とかする、と言い張っ たそうだが、鬼崎にはそれが親の本音ではないことがわかっていた。今まで野 球一筋に好き勝手なことをやらせてもらっただけに、悩んだ。ロックスターの 将来の監督候補とまでいわれていただけに、悩んだ。住み慣れた大阪の地に愛 着も芽生えていただけに、悩んだ。しかし、結局、帰ることにした。ある日、 突然、スーッといなくなった。ロックスターには事前にそうなるようにお願い した。鬼崎退社は野球部員のほぼ全員が当日まで知らなかったという。 「神威! 最近は飲みにいっとんのか?」。鬼崎にとっても、訪ねてきたア ンドロメダ調査員の神威小次郎は懐かしい存在だった。 「いやぁ、もう最近はまったく行かんですねぇ…。でも思い出すといろいろあ りましたねぇ…。あの頃は…。楽しかこともつらかこともありましたけん…」。 神威は妙にしみじみと答えた。 「お前のことば思い出すと、おいは今でも悔しかよ…」。鬼崎もまた妙にしみじ みだった。 「それはもう言わない約束ですよ。もう吹っ切ってますし…」。そういって神威 は優しく微笑んだ。あの頃を思い浮かべながら… あの頃…。 鬼崎に殴られ、顔が腫れた。野球の対決では徹底的にブチのめされた。泣きたいくら い悔しかった。そんな鬼崎に「飲みにいくぞ!」と誘われて神威が「ハイ、わかりまし た。お供します」と言えるわけがない。当然のようにきっぱりこう言った。「お断りし ます」。敬語で答えただけマシだったかもしれない。でも言葉のアクセントには明らか にトゲがあった。 しかし鬼崎はマイペースだった。「お前はワシに負けたんや! 断れる立場にはいな い。違うか! ええから黙ってついて来い!」 負けた、という言葉が神威の胸にグサっときた。すべてがそこに集約されている。なぜ か、もう断れなかった。もう今夜はついていくしかない、と思った。別にそんな義理など 何もなかったハズなのに、負けたのだから、で納得してタクシーに乗った。 車中の鬼崎は無言だった。これがまた神威には何とも苦痛だったが…。 タクシーは新地のある店についた。ようやく鬼崎が口を開いた。「ここや、ここ。ええ子 もぎょうさんおるから、ハメ外そうや!」。 神威には鬼崎が何を考えているのかよくわからなかった。「何なんだこの人は…」と思っ た。 そこからだった。鬼崎は別人になった。 「神威は戊須高出身らしかな。おいは戊須に落ちて、和場工にいったとばい」。店に入っ た途端に鬼崎は長崎弁に突然、シフトチェンジしたのだ。 「そうですか…」長崎弁とあまりのなれなれしさに神威は落ち着かなかった。 「長崎人の意地ば、見せようばい。おいたちはそがん気合いでいこうばい!」。鬼崎は神 威にエールみたいなものまで送りはじめた。 「ハァ…」。神威の頭の中はますます混乱していた。「何が〝おいたち〟や。どうなって いるんだ、この人は」…って。 「まぁ、よかよか。楽しく酒ば飲もうばい」。鬼崎はとことん陽気だった。あの昼間の野 球の鬼がどこかにいってしまったように…。 「鬼さん、いらっしゃい。あっ、いらっしゃいませ。順子といいます。よろしくお願いし ます。あら、マスク。お風邪ですか?」。20歳くらいの女性はさすが、こなれた感じだっ た。ちなみに順子と名乗る女性の本名は聖子という。 神威のマスクは腫れた顔を隠すためのものである。しかし、この質問には神威ではなく鬼 崎が答えた。「コイツの顔、腫れとっとさ。おいが無茶苦茶殴ったけんね。店に来るには平 等に扱ってもらわんといかんやろさ。コイツの場合、顔が腫れて、ちょうどおいの顔のレベ ルにあうとばい。コイツが女の子を独り占めできんごと、殴ったとさ」と…。 神威には笑えない話だった。だが、順子(聖子)は大笑いした。もちろん営業笑いだった かもしれないが…。 これがスタートだった。鬼崎&神威の長崎コンビの飲み会は…。いろんなギャグが飛びか った。下ネタも大全開だった。最初はブスっとしていた神威もマスクを外し、腫れた顔をさ らしていつのまにか笑っていた。憎くてたまらなかった鬼崎と顔を見合わせて笑っていた。 なぜか、そうなった。 これは恒例行事になっていく。毎週1回、ロックスターのグラウンドで鬼崎対神威の野球 対決が繰り広げられ、夜は2人で新地に繰り出すというのが…。ONとOFF。神威のシュ ートも対決を行うたびに威力を増していった。最初は10球中、10球打たれたのが、だん だん打たれる確率がさがっていった。そして最初の対決から、ちょうど2ヶ月後、ついに神 威は鬼崎に勝った。10球中、1球もヒット性の当たりを許さなかったのである。 もっとも、その対決には、もはや最初のどろどろ感はない。神威が勝った夜もいつものよ うに2人は新地で盛り上がった。 もう鬼崎は確信していた。「神威はロックスターのエースになれる。絶対なれる」と…。 ああ、それなのに…。 思いがけない事態が起きたのは、その翌日だった。そして、それには順子(聖子)が絡ん でいた…。 つづく ☆☆☆☆☆ アンドロメダの物語はフィクションです。実在の人物、地名、組織には一切 関係ありません。


