2009/05/01
野球小説アンドロメダ・魔法エース24
☆☆☆☆☆ 20XX年、未知なる魅力あふれる野球戦士たちが、それぞれの夢達成のゴ ールに向かって、走り出した。それは理想の世界だろうか、それとも…。 ☆☆☆☆☆ 球界の危機的状況を感じ取った選手会リーダー・高杉明太郎はある日、東京 グレート総務課長の村澤三四郎、マネジメント会社アンドロメダのリーダー・ 大田原健太郎と出会い、未知の魅力にあふれた選手の発掘を誓う。そして舞台 は全国の高校へ。アンドロメダ球児たちの夏が始まった。 ☆☆☆☆☆魔法エース24 殿檜杉のエース・立花恭兵は深呼吸した。そして応援席に目を向けた。いつ もと同じだった。彼女がベンチのすぐ上にいた。両手を握り締め、ちょっとう つむいて、ひたすら祈ってくれている。うれしかった。彼女を見てから「アレ 」をやる。これが立花の儀式でもあった…。 9回裏二死二塁。神奈川大会準々決勝、丘陵対殿檜杉はクライマックスを迎 えていた。打席には未完の大器・流鏑馬義が入っている。この日、結果はまだ 出ていないが、紛れもなく超高校級のスラッガーだ。それはマウンドの立花は よくわかっていた。だからこそ、息をのんだ。ちょっと間を取った。 ベンチからは伝令役の千葉が走ってきた。 「一塁があいている。勝負が嫌なら歩かせてもいいぞって監督は言っている。ど うする恭兵!お前が決めていいって」 殿檜杉は立花ー塚西のバッテリー以外、全員3年生だった。最後の夏。とても 遠かった甲子園が少しだけ見えてきた夏。大黒柱のフリッシュ不在とはいえ、春 のセンバツVチームを破る金星ゲット目前の夏…。しかし、流鏑馬を歩かせたら 逆転のランナーを出すことにもなる。 「どうする! 恭兵!」 塚西も聞いてきた。 「フー」 立花はもう一度深呼吸した。勝負を避けようと思った。大けがを未然に防ぐこ とは少しも恥じることではない、と思った。今日だって、2打席目は堂々と流鏑 馬を敬遠したじゃないか、と思った。 ところが…。 「立花! やれよ! お前は戦いハズだ。それは俺たちがわかっている」 「結果がどうなっても誰も文句はいわねーよ。ここまでお前がゼロに抑えてきた から今があるんじゃないか。いいか! 後悔だけはするな!」 三塁手の豊島と遊撃手の竹友だった。ちょっと怒り口調だった。おそらく立花 の弱気な心を見透かしていたのだろう。 一転して、心は決まった。勝負だ。 そして、立花は決めた。「アレ」を使おうと…。目を閉じると目の前の打者が 打ちとられる映像が見えてくる不思議な技を…。 立花の魔法儀式はまず、スタンドにいる幼なじみの殴取薫の顔を見ることから 始まる。幼稚園の頃から自称・立花の応援団長の薫は殿檜杉の女子卓球部のエー ス格だ。実はこの日も試合だったが、そんなことは関係ない。薫にとって何より も優先されるのは立花の応援だった。今回の相手・流鏑馬は薫のいとこでもある。 普段は「薫姉ちゃん」と慕われてもいる。しかし、薫に迷いはなかった。血のつ ながりよりも、立花が大事だった。 「頑張って! 恭兵!」 願いはこの1点だけだった。 立花は薫を見た後、ゆっくりと相手打者を見る。そしてまた深呼吸して静かに 目を閉じる。時間にすればわずか数秒のことだ。だが、不思議なことにその短い 時間にすべてがおさまるのだという。 ただし、今回だけはいつもと違う状況がひとつだけあった。今日の対流鏑馬、 3打席目に一度、魔法を使っていたことである。これまで1試合に1回しか使え なかった。こればかりはどうしようもなかった。何とか、1試合に使える回数を 増やせないか。立花は薫のアドバイスで魔法をためることにした。準々決勝まで 一度も魔法を使わずにきた。それをまとめてはきだすつもりで…。試したことは ない。目を閉じても何も見えないかもしれない。1試合2度目の魔法は立花にと って賭けでもあった。 この試合、流鏑馬とはすでに3度、対戦していた。1打席目、立花は初球に何 とど真ん中の130キロのストレートを投じてしまった。投げた瞬間に「やられ た」と思った。だが、流鏑馬も今大会初打席で力んだのだろう。何と打ち損じて くれた。センターフライでうちとった。 2打席目は、もう怖くて勝負できなかった。無条件に歩かせた。でも、この時 はなんとも思わなかった。これでいい。当然と思った。 3打席目は魔法を使った。1球目、外にストレートでボール。2球目、真ん中 低めに落ちるフォーク、見逃しでストライク。3球目、インコースにストレート、 ボール。4球目、またインコースにストレート、これを打たれた。そのままレフ トスタンドに吸い込まれるかと思われたが、打球は直前で失速、フェンスギリギ リのレフトフライだ。これはすべて、立花には見えた通りの結果であり、配球も すべて、その通りだった、 という。 立花にはMAX133キロのストレートとフォークしかない。ただ右ヒジがム チのようにしなる芸術的なフォームは美しかった。ストレートもフォークも同じ ような腕の振りで投げられるのも特徴だ。そのコンビネーションだけでここまで 乗り切っていた。 流鏑馬にはこの日、フォークを1球しか見せていない。立花はまた深呼吸した。 そして無意識に「フォークをどう使うのかなぁ」と思いながら、目を閉じた。 歓声のなか、映像が見えてきた…。 つづく ☆☆☆☆☆ アンドロメダの物語はフィクションです。実在の人物、地名、組織には一切 関係ありません。



