2009/03/20
野球小説アンドロメダ・魔法エース18
☆☆☆☆☆ 20XX年、未知なる魅力あふれる野球戦士たちが、それぞれの夢達成の ゴールに向かって、走り出した。それは理想の世界だろうか、それとも…。 ☆☆☆☆☆ 球界の危機的状況を感じ取った選手会リーダー・高杉明太郎はある日、東京 グレート総務課長の村澤三四郎、マネジメント会社アンドロメダのリーダー・ 大田原健太郎と出会い、未知の魅力にあふれた選手の発掘を誓う。そして舞台 は全国の高校へ。アンドロメダ球児たちの夏が始まった。 ☆☆☆☆☆魔法エース18 怖かった。自信に満ち溢れていた、あの顔が…。不敵な笑みさえ浮かべてい るように見える、あの顔が…。炎天下のなかで鍛え抜いていた証しのようなや けに日焼けした、あの顔が…。飲まれた。この時点では明らかに負けていた…。 3対2。由元綱シニアが絵山シニアを1点リードして迎えた9回裏二死だっ た。マウンドにはこの日が「デビュー戦」の流鏑馬義があがっていた。打席に は絵山シニアの大黒柱の納谷辰夫。小学生時代からの宿命の対決が始まろうと していた。 「この試合で速い球を投げた方が勝ちや!」 試合前、義が得意のにわか関西弁で納谷に申し入れたスピード対決。ここま でに絵山シニアのエースでもある納谷は自己最速の144キロをマークしてお り、ゆとりもあった。かたや、義はこの納谷との対決のみで勝負をかける。し かも義は対外試合初登板。どう見ても義が不利だった。しかし、その表情に焦 りはない。むしろ、投げる喜びの方が上回っている感じだった。納谷の144、 という数字にも不思議なくらいに無頓着だった。何とかなるさ、くらいの気持 ちで…。 義はマウンドの感触を確かめながら、ふりかぶった。 「あいつぅ…」 ネット裏でスピードガンを構えて見守る義の専属コーチの後端が思わず声を 出した。 投げた。 X X X X X X X X X 「で、どうなったのよ。もったいぶるなぁ、ホント。早く次の話を進めてよぉ」 本番予選前の丘陵高校グラウンドで殿檜杉高校のエース・立花恭兵は幼なじみ の殴取薫とスペクトル学園のジャイ周こと、道空周二に催促していた。薫は義の いとこ。ジャイ周は義の中学時代の先輩にあたり、義VS納谷の対決の時、たま たま2人とも見ていたという。 「薫さん、お、オレが説明してもいいっすかねぇぇ…」 妙にオドオドした口調でジャイ周が言い出した。 「いいわよ。じゃあ、ここからはジャイ周ちゃん、お願いね。私は黙っている から…」 薫は妙にえらそうな口調だった。とてもこの日が初対面の2人とは思えない空 気が立花はおかしくてたまらなかったが、それはともかく、だ。 「義のヤツは1球で納谷に勝ちやがったんだ…」 ジャイ周が急に毅然とした表情になった。 X X X X X X X X X 打席で納谷があ然となっていた。義が投じた1球目。納谷はバットをピクリと も反応させなかった。いや、させられなかった。捕手のミットにその球が吸い込 まれた時、そのいったいの空気の流れが一瞬、止まったかのようだった、という。 数秒もないハズの時間も止まったように感じられたそうだ。自然と発生したかの ような静寂、そして、ウォっ。決してウォーじゃない。ウォっ、である。 「今のは…」 納谷は夏なのに背筋が凍ったような気分だった。ついさっきまで勝ったと思っ ていたスピード対決。それが、あっさりと…。義のストレートの球速をいちいち 聞くまでもなかった。わかっていた。負けていたことが…。 義はそんな周囲のムードなど気にせず投げた。2球目も初球に続いてど真ん中 のストレートをビシッと投げ込むと、納谷のバットは空を切った。そして3球目 は外角低めにうなるようなストレート。納谷は手も足も出ない。見逃し三振でゲ ームセットだ。 道空監督(注:ジャイ周の実父)と後端コーチは義のデビュー戦にあたって条 件をつけていた。打者1人、10球限定と…。だが、なんのことはない。たった 3球で義は納谷との宿命の対決を制してしまったのだ。 151キロ、149キロ、153キロ。後端コーチのスピガンには驚異の数値 が記録されていた。公式試合ではなかったため、参考記録にすぎないが、おそら く中学生では全国1の球速だったハズだ。だって中学生で153キロなんて… (もっとも、実はもう1人、名古屋にスーパー中学生投手がいたのだが…) X X X X X X X X X 「そんなヤツが丘陵に加わっていたなんて…」 丘陵高校のグラウンド横で立花はため息をついていた。 「ねっ、フリッシュがいなくても、やりがいってあるでしょ」 隣で薫が優しく微笑んだ。元はといえば、センバツVの丘陵の主砲兼エースの フリッシュが失踪事件を起こし、予選に出ないことが決まったのがきっかけの丘 陵訪問だった。フリッシュという目標を失い、すっかり戦闘意欲をなくした立花 をもう一度、奮い立たせるために、薫は、いとこの流鏑馬義を見せることを思い ついただけに、ちょっと得意そうでもあった。 「あれっ、アイツ…」 そこへジャイ周が素っ頓狂な声をあげた。 「どうしたの? ジャイ周ちゃん」 薫はホント、なれなれしい。 「いや、あれ…」 ジャイ周が指差した先には、明らかにこっちを見ながらグラウンドを小走り に横断する流鏑馬義の姿があった。 「今日、投げるんだよ、アイツ…」 ジャイ周の読みは正解だった。義は丘陵のブルペンに入ろうとしていた。ちな みに、丘陵入学後、これが初ブルペンだったという。 「俺たちに見せようってことなんじゃないかぁ…」 真剣な表情でジャイ周がつぶやいた…。 つづく ☆☆☆☆☆ アンドロメダの物語はフィクションです。実在の人物、地名、組織には一切 関係ありません。



