2009/02/20
野球小説アンドロメダ・魔法エース14
☆☆☆☆☆ 20XX年、未知なる魅力あふれる野球戦士たちが、それぞれの夢達成の ゴールに向かって、走り出した。それは理想の世界だろうか、それとも…。 ☆☆☆☆☆ 球界の危機的状況を感じ取った選手会リーダー・高杉明太郎はある日、東 京グレート総務課長の村澤三四郎、マネジメント会社アンドロメダのリーダ ー・大田原健太郎と出会い、未知の魅力にあふれた選手の発掘を誓う。そし て舞台は全国の高校へ。アンドロメダ球児たちの夏が始まった。 ☆☆☆☆☆魔法エース14 あの時、一瞬、静寂が起きたという。そして、すぐに今度はどよめきが起 きたという。今のは何だ? むちゃくちゃ速くなかったか? あれは中学生 が投げる球じゃないぞ、おい! こんな声があちらこちらから起きたという…。 「とにかくスピードにこだわっているヤツなんだよ…」 スペクトル学園2年、207センチのジャイ周こと道空周二は丘陵高校1年・ 流鏑馬義についてしゃべりはじめた。由元綱シニアで先輩、後輩の間柄。同シ ニア監督の道空卓哉はジャイ周の実父だ。そんな関係もあってよく知っている という。 「小学生の頃は相当なワルっていうか、ガキ大将って感じだったみたいなんだ けどね…」 ジャイ周は丘陵高校グラウンド横の芝生にゆったり腰掛けながら、何かしみ じみって雰囲気で語っていた。隣に殿檜杉高校2年、スタイル抜群の美人タイ プ・殴取薫がいたので、そのしゃべり方にも工夫しようとしたのだろう。でき るだけ、さりげなく、それでいて博学ぶりが伝わるような…。もっとも、ただ 昔話をするだけだから、そんなもの伝わるわけもないが…。案の定、薫はまっ たくそんな雰囲気を察知しようともしなかった。それどころか…。 「あの子はね。義。流鏑馬義っていうのよ。うちの母の弟の子供。おじさんの 子供ということ。いわゆる、いとこね。あそこの家、お寿司屋さんなのよ。お いしいわよ。今度、恭兵も連れて行くね」 薫はジャイ周の話に口を挟み、さらには幼なじみの立花恭兵の方ばかりを見て、 熱烈に説明しはじめた。まさにジャイ周など眼中にもないように…。 「おいおい、薫、少しは…」 ジャイ周の気持ちを感じ取っている立花は思わずつぶやいていた。声には出 さない。あくまで心の中でだが…。しかし薫に伝わるわけがない。ジャイ周に しゃべらせることもなく、話を続けた。 「義はねぇ、小学校の時、やんちゃで大変だったのよ」 それはジャイ周も言っていたじゃないか、って立花は思った。ジャイ周も同 じ気持ちだったかもしれない。でも、ここでは薫には逆らえない。薫がナンバ ー1。なぜか、そんなムードになっていたから、野放しだった。 「義はね、私と1歳しか違わないけど、あの頃は会うのも怖かったわ。何かい つでもケンカ腰だったんだもん。目付きが嫌だったわ。今、思えばまだ小学校 の低学年だったのよねぇ…。何だったのかしらん…」 もう誰もつけ入るスキを与えない。ジャイ周もただ黙って聞くだけ。薫は猛 然と話し続けた…。 「それがいつ頃からかなぁ、変わってきたのよ。何か突然、ケンカにあきたっ て感じ。私のところにも、薫姉ちゃん、薫姉ちゃんって急になついてきた。そ れで、教えてっていうのよ。どうしたら速い球を投げられる? ってね。わか るわけないじゃない、私が…。おじさんに聞きなさいよって言ったら、寂しそ うな顔していたのを覚えているわ。でも、それが義の最大のテーマだったみた いね…」 薫の話にジャイ周はうなずいていた。きっと、知っていることとかぶる内容 もあったのだろう。立花はとにかく聞き入った。薫は続けた…。 「寿司屋の徳明おじさん、あっ、義のお父さんのことね。おじさんは大のプロ 野球ファンで特に東京スパークの熱狂的なファンなのよ。義にどうしたら速い 球を投げられるかって聞かれて、即座にプロの試合を見せようとなったみたい。 もちろんスパークの試合よ。ほら朝竜投手っているじゃない。あの人、昔、む ちゃくちゃ球が速かったんでしょ。それを見せたらしいのよ。そしたら大変だ ったそうよ、義のはしゃぎっぷりは…」 ふむ、ふむ、とジャイ周が思わず声に出したように立花には感じた。薫の話 はまだ終わらない。 「それから義はさらにいろんなことを聞きまくったらしいのよ。あの子はやり 出したら集中力がすごいみたい。元々、運動センスはよかったのよ。ウチの家 系はスポーツマンが多いから、たぶん血筋もあったと思う。徳明おじさんも学 生時代はテニスでそれなりに有名だったそうよ…。それがどうして大の野球フ ァンなのか、よくわからないけどね…」 薫の勢いは止まらない。 「由元綱シニアに入る頃だったんじゃないかな、後端コーチに出会ったのは。 知っているでしょ。元スパークのトレーニングコーチよ。ほらスパークが優勝 した時の…。あの人と知り合ってから義はさらに変わったわ。プロを意識して やりだしたから。日本最速記録を出してやる! なんて言い出したのも、あの 頃からよ。すごいよね。いとこながら、すごいヤツって思ったわ。流鏑馬は母 の旧姓なの。でもね父方の殴取にもすごいのがいるのよ。こちらはまだ小学生 なんだけど、双子でね…。あっ、ごめん。義の話には関係ないね」 やっと終わったのか、はじめて話にスキが出たからなのか、それともさすが のジャイ周もしびれを切らしたのか、ついに薫の話に横はいりした(そこまで 大げさにいうことでもなかろうが…) 「ウチのオヤジ、つまり由元綱シニアの監督と後端コーチの方針で義に関して は試合で投げさせないでとにかく体力作りということになっていた。じっくり、 じっくりって感じ。それだけの素材ということだよ。実際、オレが高校に入る まで、アイツが試合で投げることは1回もなかったんだから。アイツはいつも 陸上部みたいなものだったしね。義が投げるのを見たのは去年の夏。アイツが 中3の夏。それが、ようやく条件付きで試合に投げさせることになった時だっ たんだ…」 ジャイ周の話には何か力がこもっていた。 「知っているわよ、その時。私もたまたま見ていたから。すごかったよねぇ、 あの時のアイツ…」 薫の口調もちょっと興奮気味だった…。 つづく ☆☆☆☆☆ アンドロメダの物語はフィクションです。実在の人物、地名、組織には一切 関係ありません。



