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2009/11/02

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 ┏┓ vol.113  『鼻』に思う     11月2日号
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     人間の心には互に矛盾(むじゅん)した二つの感情がある。


                        ~ 芥川龍之介 ~

  ---------------------------

  先週は、明治の文豪、夏目漱石さんに登場してもらいました。


  そして、その夏目漱石が絶賛したと言われるのが、芥川龍之介
  の『鼻』。


  きっと、みなさん中学あるいは高校あたりで一度は読まされ
  ましたよね。


  鼻が極端に長く、食事の時は小僧に鼻を下から板で支えてもらい
  ながら食べていた禅智内供(ぜんちないぐ)というお坊さんの
  お話です。


  現代の私たちが薄毛で悩み、画期的な発毛法が求めるように
  禅智内供の頭の中は、鼻を画期的に短くする方法がないか・・・
  ということでいっぱいでした。


  「内供は、震旦(しんたん)の話の序(ついで)に蜀漢の劉玄徳
  (りゅうげんとく)の耳が長かったと云う事を聞いた時に、それが
   鼻だったら、どのくらい自分は心細くなくなるだろうと思った。」

  
  震旦とは「秦」を由来とする言葉で「支那(中国)」の意味です。
  三国志でおなじみの劉備玄徳の耳が垂れ下がるように長かったという
  のは有名ですよね。それが「鼻のことだったら、どんなに救われた
  だろう・・・」というのですから、まさに愛すべき内供というほか
  ありません。
  

  ある日、中国から来た医者が鼻の短くなるという画期的な方法を
  知っているという情報が入ります。


  あくまで表面的には“鼻のことなんて気にしていませんよぉ~”と
  いうふりをしている内供。


  自分からやってみたいとは絶対に言えません。
  弟子がその方法を試すよう必死に自分を説き伏せ、しぶしぶ試して
  みるか・・・というように話を持っていきます。


  そして、ようやく心から待ち望んでいた画期的な方法とやらを
  試すことになりました。


  その結果、画期的に鼻が短くなり、その辺の鉤鼻(かぎばな)
  とたいして変わらないくらいになった。


  内供も短くなった鼻を鏡で見て、まるで法華経を何年もかけて
  写し終える功徳を積んだような晴れやかな気分になった。
  本来ならここで、めでたし、めでたしのはずです。


  しかし、みんなの反応がおかしい・・・。


  以前より、余計にクスクス笑うようになる。


  「前にはあのようにつけつけとは哂(わら)わなんだて。」


  内供には不思議で仕方がない。


  そして、内供はしだいにせっかく短くなった鼻をだんだん
  うらめしく思うようになってしまうのです。  

    
  芥川はこの話について結論めいたことを『鼻』の本文中に
  述べています。
 

  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

     人間の心には互に矛盾(むじゅん)した二つの感情がある。

   勿論、誰でも他人の不幸に同情しない者はない。

     所がその人がその不幸を、どうにかして切りぬける事が

     出来ると、今度はこっちで何となく物足りないような心もち
 
     がする。少し誇張して云えば、もう一度その人を、同じ不幸

     に陥(おとしい)れて見たいような気にさえなる。

     そうしていつの間にか、消極的ではあるが、ある敵意をその人

     に対して抱くような事になる。

  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  そして、それを「傍観者の利己主義」と呼んでいます。

 
  最近、若い世代の方たちとこの作品を分かち合った時に
  「よくわからない」と言われてしまったので、例を出して
  説明してみました。


  (女性の方には失礼な例ですが)女性同士の恋愛相談の時で、
  うまくいかない時には、熱心に相談にのってくれていろいろ
  アドバイスをくれたり、必死に励ましてくれたりするけれど、


  本当にその恋愛が成就してしまったら・・・


  ガーン!(うまく行くと思ってなかったのに・・・)


  “おまえだけ幸せになりやがって!!”と、とたんに女同士の
  関係が悪くなってしまう・・・というパターン。


  そして、その女同士の関係を保つために、うまくいっている恋愛も
  わざとそんなにうまくいっていないように話をしたりして・・・。


  もちろん、女性同士の関係がみんなそうというわけでは
  ありませんが、よくありがちな話ですよね。


  話は変わりますが、三浦綾子さんの『氷点』という作品を
  ご存知ですか?


  何度もドラマ化されたのでテレビで見た方も多いと思います。


  『氷点』のテーマは「原罪」(ゲンザイ)です。
  三浦さんはキリスト教を信仰されている関係で、「原罪」
  と表現されていますが、おそらく芥川のいう「傍観者の利己主義」
  と同じようなものだと思います。


  人が幸せになることを心から喜べない・・・という私たちの
  根深い性質をテーマにした作品です。


  三浦さんによると、氷点の登場人物たちは、どうしても幸せに
  なる方向に歩んでくれなかったと振り返っておられます。
  

  結局、夏目漱石も漱石三部作でそのあたりの人間の根深い性
  (さが)を描きたかったわけで、芥川龍之介の『鼻』を絶賛
  した理由もよく理解できます。


  ※久しぶりに『鼻』の全文を読んでみたい、という方は・・・
  http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/42_15228.html
  


   編┃集┃後┃記┃
  ━┛━┛━┛━┛

  100円ショップに入ったときに、来年のスケジュール帳が
  ところ狭しと並んでいました。


  スケジュールはいつも携帯に登録しているから使わないのに
  何故か手にとって眺めたくなるんですよね。

  
  早くも来年に思いを馳せてしまうひと時でした。
 


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  ■著者プロフィール

  ・悩みを「ギフト」に、問題を「可能性」に変えるカウンセラー
  ・EFTプラクティショナー
  
  大学院を出て地方自治体に就職するも、役所では一人ひとりに
  マッチした対応ができないことに悩み、30歳を転機に退職。

  その後、フリーターをしながらカウンセリングの勉強を始める。

  NPO法人で不登校生のためのフリースペース運営を任されるも
  財政的な問題と法人側職員との理念の違いから自己退職。

  その後、一般に向けてのカウンセリング業務をスタート。
  現在は「EFT(感情解放テクニック)」「選択理論(Choice Therapy)」
  を使用した潜在意識まで深く働きかけるカウンセリングを行う。
  従来のカウンセリングでは満足できなかった層からの支持が多い。

  ※ 発行者に対するご質問、ご相談など、お気軽にご連絡ください。
    ※ 相互紹介も部数に関わらず歓迎します。 

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