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2012/04/01

[鶴鳴門](2012.04.01)

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メールマガジン「鶴鳴門」

2012年4月1日号
http://www.kinkido.net/
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「漢字と和字――今田欣一の書体設計」
 typeKIDS lecture
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漢字書体 第3回レジュメ

日時:2012年03月11日(日)
場所:新宿区榎町地域センター・小会議室
テーマ:宋朝体


1 三大宋朝体

●北宋・浙江地方と浙江刊本…「西湖」

『姓解』(国立国会図書館蔵)などの浙江刊本は、「皇甫誕碑」「九成宮醴泉
銘」をはじめとする欧陽詢の書風の影響を受けている。おもに「九成宮醴泉
銘」を取りあげ、『姓解』の字様と比較することにしたい。

◇筆法
「九成宮醴泉銘」の横画はシンプルで直線に近いように思われるが、じっくり
みると強靱な弾力をもったたわみをもっている。縦画にしても直線に近いが、
やはり少したわんでいる。これが力感につながっている。掠法、啄法はともに
ゆるやかながら力強いカーブを描いている。そこで『姓解』に目をうつすと、
やはりゆるやかなたわみが感じられる。
「九成宮醴泉銘」の磔法は抑揚が少なく直線的で、終筆の部分は重く短く、し
かし鋭く引き抜いている。躍法も短く力がこもって鋭い。短いだけではなく鋭
いというところに力感というものがある。この点においても、『姓解』の字様
に引き継がれているように感じる。
 このように「九成宮醴泉銘」は変化と動きは少ないものの、内に秘めた「た
わみ」と「鋭さ」によって、かえって力強い筆法であるといえる。『姓解』
は、工芸の文字として整理がすすんでいるようだが、『九成宮醴泉銘』の筆法
の特徴を十二分に引き継いでいる。
 
◇結法
「九成宮醴泉銘」の結法で一般的にいわれるのは、右肩上がりだということで
ある。主要な横画ではほぼ10度の右肩上がりに統一されている。偏のなかの短
い横画では20度―30度になる場合もあるようである。同じように『姓解』を調
べてみると、主要な横画ではほぼ7度の右肩上がりで、『九成宮醴泉銘』にくら
べてやや抑えているし、偏のなかの短い横画では最大でも15度ぐらいである。
刊本字様ということで、少し角度を抑えているようだが、全体的なイメージに
差はない。
 もうひとつの特徴として、背勢であることがあげられる。背勢とは、例えば
「同」の外側の縦画が互いに反りあう結法である。これに対し、互いに向き合
う結法を向勢という。背勢の場合、抱懐は必然的に狭くなる。
 緊縮感を開放させるために、さまざまな工夫がされている。まず筆画の長短
差をつけることがあげられる。つまりおもな筆画一本または一対のみを長くし
ている。つぎには囲まれたなかの短い横画は縦画と触れあわないようにして風
通しをよくしていることである。また筆画の間隔に変化をつけて広さを見せて
いる。
 これらは『姓解』にも受け継がれている。『九成宮醴泉銘』ほどではない
が、筆画の長短差は見られるし、囲まれたなかの短い横画は縦画とは離れてい
る。『姓解』もまた背勢による緊張感と、それを補うための工夫が確実になさ
れている。

◇章法
『九成宮醴泉銘』の拓本を見ると、字間をかなり広くとっているようである。
結構がひきしまっているので余白をとらないとせまくるしく感じるからだと思
われる。行だけでなく横のラインもきちんと揃っている。
 ところが『姓解』の序文においては、『九成宮醴泉銘』ほど字間は広くな
い。また17字詰めになってはいるが、文字の大きさが画数によって異なってい
る。字間を均等にしているために横のラインはそろっていない。
 これを活字組版に置き換えると、つまり『九成宮醴泉銘』が字間ベタ組みと
すれば、『姓解』のほうはプロポーショナル組みということになる。これは碑
刻と刊本との違い、すなわち文字の大きさや読むときの状態の違いによるもの
だと考えられる。


●南宋・四川地方と四川刊本…「龍爪」☆

『周礼』(静嘉堂文庫蔵)などの四川刊本は、「多宝塔碑」「顔氏家廟碑」を
はじめとする顔真卿の書風の影響を受けている。このうち「顔氏家廟碑」など
の60―70歳代の作はいわゆる顔真卿の個性が強くなりすぎているので、40歳代
の作である「多宝塔碑」を取りあげ、『周礼』の字様と比較することにした。
「多宝塔碑」は比較的おだやかではあるが、初唐の書風とは著しく異り、豊満
で剛健なイメージが形成されている。

◇筆法
『周礼』の力強い字様は、横画の収筆や曲折に「龍爪」とよばれる特徴が強調
されている。「多宝塔碑」には「龍爪」ほどの特徴は見られませんが、唐代初
期の楷書にはないどっしりとした収筆である。
 縦画の起筆にみられる「蚕頭」の筆法は、『周礼』においてはさらに強靱に
なり、「龍爪」に相対するような筆法になっている。また「多宝塔碑」の縦画
は横画よりもかなり太くなっているが、これは『周礼』も同様である。
「多宝塔碑」にはまだ「燕尾」の磔法は強く見られないが、唐代初期の楷書よ
りはるかに鋭くなっている。躍法は唐代初期の楷書が短く強いのに比べ、「多
宝塔碑」では強く鋭くなっている。
 このように「多宝塔碑」の「蚕頭燕尾」といわれる筆法は、『周礼』にい
たって「龍爪」とよばれる刊本字様へと変化したといえる。これは工芸の文字
として整理がすすんだことをあらわしているが、唐代中期の顔真卿の筆法の特
徴を十二分に引き継いでいるといえる。

◇結法
「多宝塔碑」の一字一字の結構は、唐代初期の楷書にくらべると少し正方形で
抱懐が広くなっている。筆画の長短差を抑えて正方形に組み込もうとしなが
ら、より暖かさが感じられるところに最大の特徴がある。
 主要な横画ではほぼ10度の右肩上がりで「九成宮醴泉銘」と同じくらいの傾
斜角があるが、横画の収筆が大きく下がっているために安定感がある。同じよ
うに『周礼』を調べてみると、刊本字様ということで、少し角度を抑えている
ようだが、やはり「龍爪」の筆法が作用しているようである。
 もうひとつの特徴として、向勢であることがあげられる。向勢とは、例えば
「同」の外側の縦画が互いに向き合う結法である。向勢の場合、抱懐は必然的
に広くなる。これらは『周礼』にも受け継がれている。
「多宝塔碑」は、横画が細く、縦画が太くなっている。つまり筆画のコントラ
ストがいくぶん強くなっている。『周礼』も同様で、これにより雄大で力強い
書風が形成されているのである。

◇章法
「多宝塔碑」は、「九成宮醴泉銘」とくらべると字間は狭いようである。抱懐
が広くなっているので「九成宮醴泉銘」ほどには余白をとらなくてもいいとい
うことである。碑刻では、碁盤の目のように、行だけでなく横のラインもきち
んと揃えている。
『周礼』は「多宝塔碑」よりさらに詰まっています。文字と文字が接触するほ
どきつくなっている。また16字詰めになってはいるが、文字の大きさが画数に
よって異なっている。字間を均等にしているために、横のラインはそろってい
ない。
「九成宮醴泉銘」と 『姓解』との違いと同様に、「多宝塔碑」が字間ベタ組み
とすれば、『周礼』のほうはプロポーショナル組みということになる。これも
また碑刻と刊本との違い、すなわち文字の大きさや読むときの状態の違いによ
るものであろう。


●南宋・福建地方と福建刊本…「麻沙」

『音註河上公老子道経』(台湾・国立故宮博物院蔵)などの福建刊本は、「玄
秘塔碑」「神策軍碑」をはじめとする柳公権の書風の影響を受けている。この
うち「玄秘塔碑」がわが国ではもっとも知られており資料が入手しやすいの
で、「玄秘塔碑」を取りあげて『音註河上公老子道経』の字様と比較すること
にする。「玄秘塔碑」は、欧陽詢の「九成宮醴泉銘」と、顔真卿の「多宝塔
碑」の中間のような書風であるといえる。

◇筆法
「玄秘塔碑」の短い横画が重厚なのに対し、長い横画は軽快である。長い横画
では、「九成宮醴泉銘」のようなシンプルな筆法と、「多宝塔碑」のような
どっしりとした筆法との中間のような収筆になっている。縦画は横画にくらべ
るとやや強いようだが、「多宝塔碑」ほどではないようである。
 掠法は細くシャープだが、磔法は重厚です。対照的な感じもするが、いずれ
も俊敏な筆法で、全体の結構の緊張感をだしている。躍法は、一度圧力を加え
てから筆をもどすようにして穂先の弾力を利用して左上の方向にはね上げてい
る。「九成宮醴泉銘」の短く重い筆法と「多宝塔碑」の強く鋭い筆法とに比べ
ると、比較的軽いイメージがある。
 このような「玄秘塔碑」の筆法と『音註河上公老子道経』とを比較すると、
『音註河上公老子道経』は工芸の文字として整理がすすんでいるようだが、
「玄秘塔碑」の筆法の特徴を十二分に引き継いでいるように思われる。

◇結法
「玄秘塔碑」は「九成宮醴泉銘」とおなじく、やや縦長の結構である。それに
比べると「多宝塔碑」は正方形に近い結構になっている。
 一字一字の結構では、背勢と向勢とが混在している。囗(くにがまえ)は向
勢ですが、口(くち)は背勢になっている。固や徊などのように囗と口が共存
している文字を見るとよくわかる。門、月が背勢だが、ほかはおおむね向勢と
なっている。
 長い横画ではほぼ10度の右肩上がりで「九成宮醴泉銘」と同じくらいの傾斜
角があるが、長い横画の右側を大きく突き出させて、変化をつけたり、あるい
は安定をたもったりしている。これが「玄秘塔碑」の特徴のようである。
「玄秘塔碑」は「九成宮醴泉銘」よりはいくぶん横画が細く、縦画が太くなっ
ているが、「多宝塔碑」ほどではない。
『音註河上公老子道経』も「玄秘塔碑」の結法と同様で、背勢と向勢とが混在
している。傾斜角も約10度の右上がりになっている。ただし、長い横画の右側
を大きく突き出させて変化をつけたり、あるいは安定をたもったりというよう
なことはない。刊本字様として、ある程度は均一化したようである。

◇章法
「玄秘塔碑」の字間は、「多宝塔碑」より若干広いようだが、「九成宮醴泉
銘」とくらべると字間はかなり狭くなっている。ほとんどの文字が「多宝塔
碑」と同じく向勢になっているので抱懐が広く、「九成宮醴泉銘」ほどには余
白をとらなくてもいいということである。碑刻では、碁盤の目のように、行だ
けでなく横のラインもきちんと揃えている。
『音註河上公老子道経』は、福建刊本の特徴でもあるが、河上公によるとされ
る割注が多くを占めており、1ページの3分の2程度におよぶ。したがって字詰め
などははっきりしない。
 ただ「玄秘塔碑」が碁盤の目のようになっているのに対し、『音註河上公老
子道経』は横のラインが揃っていないので、やはりプロポーショナル組みとい
うことになる。



2 臨安書棚本

●南宋・浙江地方と臨安書棚本…「陳起」☆

『南宋羣賢小集』などの臨安書棚本は浙江刊本の『姓解』にみられる字様から
発展したものなので、このふたつの資料を比較してみることにする。

◇筆法
 横画、縦画は『姓解』も『南宋羣賢小集』もシンプルで直線に近いように思
われる。ほんの少しだけ『姓解』が強靱な弾力をもっているのに比べて『南宋
羣賢小集』のほうが少し直線的のような感じだが、さほど変わってはいない。
 磔法と躍法では、『姓解』が短く力がこもって鋭いものであるのに対して
『南宋羣賢小集』のほうが少し長く引き抜いているようである。このように
『姓解』は、『九成宮醴泉銘』にみられる「たわみ」と「鋭さ」をそのまま引
き継いでいるが、『南宋羣賢小集』は工芸の文字として、少し様式化がすすん
でいるようである。

◇結法
 抱懐は『姓解』より『南宋羣賢小集』のほうがかなり広くなっている。この
ことによって『南宋羣賢小集』が『姓解』にみられるような写刻本の字様から
発展して、臨安書棚本といわれる整然として硬質な書体として評価されている
大きな特徴になっていると思われる。
『南宋羣賢小集』は、主要な横画ではほぼ一〇度の右肩上がりに統一されてい
る。『姓解』はほぼ8度の右肩上がりであるから、このふたつは、ほぼ同じ角度
だと考えて差し支えない。
 外側の縦画が互いに反りあう背勢になっている『姓解』の特徴は、『南宋羣
賢小集』に共通してみられる。これは欧陽詢書風が北宋の浙江刊本から臨安書
棚本へと確実に受け継がれていることをあらわしている。
 また『姓解』では、おもな筆画1本または1対のみを長くしていたり、囲まれ
たなかの短い横画は縦画と触れあわないようにして風通しをよくしているが、
『南宋羣賢小集』ではそれほどの操作は行われてはいない。


◇章法
 章法については、『姓解』が17字詰め、『南宋羣賢小集』が18字詰めになっ
ているが、いずれも縦組みの中心揃えである。『南宋羣賢小集』も木版印刷で
あるのでプロポーショナルになっている。したがって字間を均等にしているた
めに横のラインはそろっていない。
『南宋羣賢小集』は、むしろ窮屈に感じるほど詰まっているようである。これ
は本文組みとはいえ、個々の文字が比較的大きいので、現在の見出し組みに匹
敵するサイズであるためだと思われる。


3 近代宋朝体

●聚珍倣宋版活字…「倣宋」

 聚珍倣宋版の『唐確慎公集』(中華書局 1921年)は『南宋羣賢小集』など
の臨安書棚本にみられる字様から発展したといわれているので、このふたつの
資料を比較してみることにしよう。

◇筆法
 臨安書棚本『南宋羣賢小集』と聚珍倣宋版『唐確慎公集』をくらべると、大
きな違いはない。横画、縦画は『南宋羣賢小集』も『唐確慎公集』もシンプル
で直線に近いように思われる。
 中華書局の『唐確慎公集』においては、『南宋羣賢小集』に比べると、いち
じるしく直線化がすすんでおり、むしろ刺々しさも感じられる。これは、当時
すでに普及していた近代明朝体活字の影響を受けたということかもしれない。

◇結法
『唐確慎公集』の主要な横画ではほぼ3度の右肩上がりだから、『南宋羣賢小
集』にくらべると平板に感じられる。『唐確慎公集』では筆画の長短がさらに
均一化されているようである。やはり近代明朝体活字を意識してのものだと思
われる。
 『唐確慎公集』の抱懐はさらにゆったりした結構になっているが、それでも
『唐確慎公集』は背勢を維持している。近代宋朝体活字においても北宋の浙江
刊本から臨安書棚本へと受け継がれた欧陽詢書風の系列にあることをしめして
いる。

◇章法
『唐確慎公集』は19字詰め13行である。活字組みなので『南宋羣賢小集』ほど
には詰まっていないが、それでも現在の本文組みに比べれば文字サイズが大き
いので、やや字間はせまく感じられる。

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