鶴原顕央の【映画批評と物語構成論】  RSSを登録する

最新メジャー映画のストーリーラインを客観的に分析し、批評と構成論を展開していきます。ご期待ください。

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2009/12/21

映画批評0143「インフォーマント!」

  
  
  
┏ 映画批評と物語構成論0143 ┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏


    『インフォーマント!』
      The Informant! (09)


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実話にもとづくこの映画、
マット・デイモンが大企業の内通者を演じていて、
リジンをめぐる国際的価格カルテルの実態が暴れます。

社会派サスペンスではなく、コメディです。
それは垢抜けたこのポスター※を見れば一目瞭然です。
 ※http://www.imdb.com/media/rm1666222080/tt1130080
問題は「この映画がどのようなコメディであるか」です。

主演がマット・デイモンで、
プロデューサーがジョージ・クルーニーで、
軽快な音楽。
『オーシャンズ13』(07)のノリに近い、軽い作品なのかなと思いきや
意外や意外、物語の情報量が多いので(=物語の展開が早いので)
集中力を要します。
要するに「難しい」のです。

もし「映画を語ること」と「物語を語ること」とが同義であるとするならば
この映画はとても難解な作品であるといえるでしょう。
 「マット・デイモンがFBIに価格カルテルを内通しようとするのだけど」
 「価格カルテルを盛り上げているのはほかならぬ彼自身で・・・」
 「同時に彼は架空口座にリベートを蓄えていて・・・」

小難しい社会派コメディがあっても構いません。
それはもちろん構わないのですが、
問題視すべきはこの映画の独特なスタイル・スタンスで
ツッコミをいれる人がいないままボケつづける──
そんな映画になっています。

本来ならば映画の内容を咀嚼する人物が劇中に登場するべきなのに
ナレーションを担当しているのが、主人公本人で、
ストーリーの大事な部分になると
主人公は別のことを考えはじめる。
  (ただでさえ情報量が多いのに!)

そしてボケまくる。
しかもそれを誰もツッコまない。
しかたがないので観客がツッコミをいれながら観賞するしかない。
そうすると結果的に集中力を要する。疲れる。
 「ボクは0014だから007の2倍あたまがイイんだ」
   (ちがうだろ!)
 「ああマイッタなあ(と頭をポリポリ。髪の毛をカチカチ)」
   (髪の毛をカチカチ? カツラかよッ!)

批評家の評価はとても高いです※。
 ※http://www.rottentomatoes.com/m/1200661-informant/
しかしこのような「小難し映画」を
 「オレはこの映画を理解できるぞ」と褒めたたえることは
「裸の王様」にヘコヘコするようなものだから
本来なら異議を唱えるべきなのです!

もちろん裸の王様といっても渡瀬恒彦のことではありません。
ああ、あのCMのことか。
懐かしいなあ。
ツムラツムラ。
でもなんで日本では風呂の水を緑色にしてしまうのだろう。
緑色といえば、森林伐採って深刻な環境問題だよね。
最近は耳にしないけどさ。

・・・と、こんな感じで主人公の思考が本筋とは関係ないところに
どんどん迷走してしまうのです。
それ自体は面白いのですが、価格カルテルの話も同時に進行するので
観客が処理すべき情報量が多い。
この「小難しさ」です。

監督のスティーブン・ソダーバーグは26歳のときに
  (いまでこそもっと若い、才能に溢れた監督が多くいますが)
『セックスと嘘とビデオテープ』(89)で名を馳せて
若き天才、時代の寵児、ともてはやされましたが、
その後インテリで難解な映画に走って、いちど仕事を失っています。

仕事を失って、妻子とも別れて、
ホラー映画『ナイトウォッチ』(97)や『ミミック』(97)などの
ガラでもない映画の脚本修正のバイトをしながら、
レストランにいったらタランティーノがいたので
慌てて隠れる。
そんな生活を送っていました。

それがジョージ・クルーニーと出会ったことで
みごと復活を果たしたワケですが、
クルーニーとの最初のタッグとなる『アウト・オブ・サイト』(98)は
「ER/緊急救命室」のクルーニー人気に乗じて企画された映画であり、
さきにジョージ・クルーニー主演であることが決まっていて、
ソダーバーグは監督候補の1人にしかすぎませんでした。

マイク・ニコルズやキャメロン・クロウなどの監督候補がいたなかで
ソダーバーグは面接前日にジョージ・クルーニーの夢を見て、
 「女子高生のようにクルーニーに恋してしまった」(本人談)と
その想いの丈を面接でクルーニーらにぶつけて、
 「まるでミーハーなファンじゃないか」と
こりゃダメだと思っていたら、監督に選ばれた。

こうして2人の共作・協力関係が今日に至るわけですが、
今回のこの『インフォーマント!』は
クルーニーと出会う以前の、インテリに走っていた頃の作風に近いです。
 (自作自演の半自主映画『スキゾポリス』(96)に近似している)

エンタメ路線と、作家性の、妥協点を見つけ出した。
そう評価することも可能でしょう。
ソダーバーグは娯楽大作を手掛けながらも、同時に小規模な実験作品
たとえば『イギリスから来た男』(99)などの
作家性の強い作品も手掛けているので
今回の『インフォーマント!』もそのうちの1つにすぎない、と
そう論じることもできるでしょう。

しかし今回の映画は主演がマット・デイモンで
しかるに限りなくメジャー作品に近い
大衆娯楽作品の様相を呈しています。
  (=観客をダマしている?)

そして真に警戒視すべきは「この映画の小難しさ」で、
どうやらこれがソダーバーグの本来の持ち味らしいと理解するいっぽうで
インテリ映画に走って仕事を失った頃と同じじゃないか、と
大衆作家である必要性はないにしても
商業作家ですらなくなる危険性。
それを危惧せずにはいられません。


  参考文献:Getting Away With It, Steven Soderbergh著, 2000年


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 「ジュイスです。
  来週は『東のエデン 劇場版I The King of Eden』を観ながら
  映画とテレビのちがいについて考えてみたいと思います。
  ノブレス・オブリージュ。皆様が映画界の救世主たらんことを」


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