2009/12/07
映画批評0141「理想の彼氏」
┏ 映画批評と物語構成論0141 ┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏ 『理想の彼氏』 The Rebound (09) ┏┏┏┏ キャサリン・ゼタ=ジョーンズ演じる40歳のシングルマザーが 24歳の青年と恋に落ちる……。 簡単に言ってしまえば「年の差恋愛」を描いた映画です。 女性のほうが年上で、16歳差。 そしてもう1つ簡単に言ってしまえば「なくはない」。 実際のキャサリン・ゼタ=ジョーンズは、年上の(というか初老の) マイケル・ダグラスが夫ですが、 たとえばデミ・ムーアは、ちょうど16歳下のアシュトン・カッチャーと デキているわけで、そんなデミ・ムーアには3人の娘がいる。 この映画の状況に良く似ています。 つまりは「実際にそういうカップルがいる」=「なくはない」。 これがたとえば40歳のシングルマザーと16歳ぐらいの高校生の話だったら それは「禁断の愛」であり「不埒な愛」なので、 物語としても充分に成立し得るでしょうし、フランス映画あたりに ありそうな題材です。 あるいは「実の息子よりも年下の恋人」とか。 でも、そうじゃない。 結果として「普通の話」になってしまっています。ですが、 普通の話であるがゆえに、等身大で、 かつ、よくできているので、観賞するに値します。 上映時間は97分。物語は素早く進行していきます。 本編開始早々に夫の浮気が発覚して、 次のシーンではすでに離婚が成立していて、 オープニングクレジットが終わらないうちに新生活がスタートします。 夫の浮気相手は最後まで顔を見せないし、 離婚の手続きの面倒も描写されないし、引っ越しの面倒も描かれない。 素早く本題に突入します(=年下の彼と出逢う)。 この映画の原題は“The Rebound”。 日本語でも良く使われる──「ダイエット後のリバウンド」の、まさに その「リバウンド」のことで、どちらかといえばネガティブな言葉ですが 劇中では「年下の彼を“はずみ”にして本命を探しなさいよ」と、 わりとポジティブな、ほかの言葉をあてるならば「ステップ」のような、 そんな意味合いで使われています。 しかしながら「リバウンド」という言葉には 「反動、しっぺ返し」という意味があるはずで、 果たしてそのとおり。 終盤20分で物語は大きく動き出します。 いろいろあって、2人は別れてしまいます。 そして互いが互いに自分自身を見つめ直して、数年後に再会します。 もちろん絶対にハッピーエンドで幕を閉じるわけですが、 終盤のこのマジメな20分間があるおかげで、この映画はグッと 良くなっています。 細かいツッコミどころはもちろんあります。 元夫の支えなしに新生活が素早く難なく成立するようにと この主人公には特別な才能があらかじめ与えられています。 離婚するまでは普通の専業主婦で、仕事の履歴も何もないのだけど、 実は大学院卒で、統計学の才能がある。 院卒の専業主婦は(実世界にも)もちろん多くいるわけですが、 統計学の抜きん出た才能があって、 中途採用でも素早くキャリアアップしていく。 これでは「等身大」とは言いがたいです。 仕事がなかなか見つからない。 キャリアがないから中途採用してくれない。 学歴だけではどうにもならない。 そしてどんどん貯金が減っていく。 それが本来の「現実」のはずで、 失業率が10%近かった撮影当時のアメリカで、 もちろん残りの90%は雇用されているという現状はあるにしても、 「映画が問題提議しないでどうするんだよ!」と、 つまりこの映画の主人公は「順風満帆すぎる」わけです。 逆に言うならば、そのへんの「つらさ」を避けてしまっている。 この映画は「シンデレラストーリー」の異種ということができるはずです。 「理想の王子様」に出逢うわけですから、これは「シンデレラ」です。 でもシンデレラは苦労をしていたわけですから、苦労の末に幸せを掴む。 それが本来の「シンデレラストーリー」のはずでしょう。 しかし本作は「離婚の苦労」を軽くとばして、 「経済的自立の困難」も描かれない。 すなわち艱難辛苦を乗り越えない。 見ようによっては「お高くとまっている」ようにも見えるわけで、 「キャサリン・ゼタ=ジョーンズめ、お高くとまりやがって」と、 この役柄はゼタ=ジョーンズのパブリックイメージのまんまでしょう。 (ゼタ=ジョーンズに「苦労」が似合うかといえば、似合わない) つまりはそういうことで、 ゼタ=ジョーンズが主演であるがゆえに「苦労」が描かれず、 結果として「シングルマザーの理想的な恋物語」を描くことができた。 ゼタ=ジョーンズの役柄としてはピッタリだし、 できれば苦労もしたくないし、理想の彼氏にも出逢いたい。 もちろんそれは理解できますし、 夢物語としてはOKなのですが、それでいいのかよ、と。 一長一短ですね。 ┏┏┏┏ ┏┏┏┏ ┏┏┏┏ ┏┏┏┏ 次週は──全米大ヒット、 『ニュームーン/トワイライトサーガ』を検証します!! ┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏ Copyright(c)Tsuruhara Akihiro. All rights reserved.


