2009/10/19
映画批評-特別版-東京国際映画祭コンペティション全15作品
┏ 映画批評と物語構成論-特別号-┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏ 遠すぎて観に行けないかたも多いとは思いますが、 ご要望にお応えして、いままさに開催中(〜25日)の 【第22回東京国際映画祭コンペティション部門参加作品】 15本をすべて、簡単に紹介&分析したいと思います。 参考にしてください。 映画祭がよりいっそう盛り上がることを願って。 ┏┏ 『マニラ・スカイ』(フィリピン) 失業してどうにもならなくなった男が最後にハイジャックする話。 女性客室乗務員に「ディアナだろ?」と話しかけるが、 客室乗務員のほうは「?」。 それはナゼか? 原題は“Manila Skies”で、スカイに複数形のSが付いています。 それはナゼか? 最後に判明します。 ─【キーワード】失業、父と子、異国に(出稼ぎに)行こうとする 『イースタン・プレイ』(ブルガリア) この作品も原題にはSがついています。 ブルガリアの都市部で生活する兄弟(S)の物語。 兄が、旅行中のトルコの女性に出会います。 ─【キーワード】半失業?、父と子、異文化コミュニケーション 『激情』(スペイン=コロンビア) 殺人を犯してしまった男が逃亡先に選んだのは 恋人がメイドとして働く大屋敷の屋根裏部屋。 遠くに逃げたようにみえて、実はメチャクチャ近くにいる! 完璧な演技、完璧なストーリー、完璧な映像。 (※この映画には原作小説が存在します) ただし昨年の『アンナと過ごした4日間』に似ていると指摘されかねません。 『アンナと過ごした4日間』は監督がLA Timesで 日本のニュース記事を読んで、それで着想を得たということですが、 「ベッドの下に知らない男がいる」── これは(たぶん)実話じゃなくて都市伝説でしょう。 都市伝説が実話として海外で記事になってしまうのは (いい加減なことだけども)よくあることです。 『アンナと過ごした4日間』は日本の都市伝説を ホラーの要素を抜いて変種のラブストーリーに換骨奪胎させた話で、 この『激情』は「電話の相手は実は同じ建物内にいる」── これはアメリカのベビーシッターの都市伝説でしょう。 変な電話がかかってくるから警察に逆探知をお願いしたら、実はという。 アメリカの都市伝説は「内線」でしたが、本作は……。 (古い電話ならまだしも)着信音が違うんじゃないの? そういう細かいウッカリミスがないところも、実に完璧です。 ─【キーワード】失業、父と子、異文化コミュニケーション、家 『ロード、ムービー』(インド) 移動映画館のお話。 映画を作る喜び、じゃなくて、観る喜びを描いた作品です。 「映画を作る」映画は多いですけど、多くの観客にとって 映画は「観る」ものですから、「観る」ことに特化した。 これは正しい選択です。 そして実に映画祭向きの内容でしょう。 拷問しまくりの悪い警官の描写は『スラムドッグ$ミリオネア』。 マフィアが水利権を牛耳っているのは『007/慰めの報酬』。 欧米の最新の映画の要素を躊躇いなく取り入れている。 (ようにみえる) (偶然なのかもしれませんが) そういう柔軟性は実にインド映画的なのですが、 マハラジャ的な、歌いだしたり、踊りだしたり、はありません。 そのような「インド映画的要素」は劇中映画で(のみ)登場します。 バランスが取れているわけです。 「インド映画のクドさ」を理解して、それを最小限に押しとどめつつ、 最大限に活用しているのです。 『スラムドッグ…』で英国人が撮った「インド」を否定せずに そのまま取り入れてもいるし、 世界マーケットを意識した作品なのでしょう。 主人公が、ロマニー(ジプシー)の女性に出会います。 ─【キーワード】無職、父と子、異文化コミュニケーション 『ボリビア南方の地区にて』(ボリビア) 大屋敷に住む白人家族と、現地の使用人。 ブルジョアな生活を送っているように見えて、実は……。 この作品も「父と子」が描かれます。 しかし「疑似的」な父と子で、文化も、人種も違います。 同じ要素を持つ映画のなかでは 「父と子」と「異文化交流」をミックスしているぶんだけ 唯一ワンランク上をいっています。 ─【キーワード】金欠、父と子、異文化コミュニケーション、家 『見まちがう人たち』(チリ=ポルトガル=フランス) 主人公が3人います。 盲目の青年、冴えない青年、リストラされた初老の父親。 盲目の青年=青、 冴えない青年=あずき色、 リストラされた初老の父親=オレンジ。 それぞれに「カラー」が割り振られています。 服装、壁紙、下着のパンツに至るまで! ─【キーワード】失業、父と子 『NYスタテンアイランド物語』(アメリカ) リュック・ベッソン製作の(トホホ)、非アクション映画(!)。 主人公が3人います。 そのうちの1人をイーサン・ホークが演じています。 イーサン・ホークは『ロード・オブ・ザ・リング』のプレミア上映に コスプレして出掛けようとして当時の妻ユマ・サーマンにとめられた 経験があります。 ユマ・サーマンとタランティーノがデキてると思って(ンなワケない)、 自分も愛人を作った──それが原因でけっきょく離婚しました。 カッコいい男では断じてない。要するに「ダメな男」なのです。 そのイーサン・ホークを「ダメな男」として起用した。 この映画は正しい!! キャッチコピー「あなたは本当のイーサン・ホークを目撃する!」 ─【キーワード】父と子、母と子 『ストーリーズ』(スペイン) 中年主婦が、練習を重ねながら、小説を完成させていくお話。 その短編小説の内容が劇中劇として白黒で挿入されます。 劇中劇の完成度がどんどん上がっていく 「完成」と「再生」の物語。 ─【キーワード】母と子 『エイト・タイムズ・アップ』(フランス) 仕事を長く続けることができない女性。 仕事だけじゃない。なにもかも長続きしない・できない。 だからといって内省的な、悲観的な映画ではありません。 完璧な映画でしょう! DVDが出たら買うに値します! 息子の親権は別れた元ダンナのほうにあります。 ─【キーワード】母と子 『台北に舞う雪』(中国=日本=香港=台湾) 製作現場がすでに異文化コミュニケーション。 もちろん物語も。 青島(Chintao)出身の新人歌手が、台湾の田舎の青年に出会います。 劇中の「文字」に英語字幕も日本語字幕も出ません。 (漢字が読める人はイイとして) (ある程度は前後関係から推測できるとして) 英語圏の人たちは大丈夫なのでしょうか? 心配です。 ラスト。青年は、家を出ていった母親を探しに行きます。 ─【キーワード】母と子、異文化コミュニケーション 『ダークハウス/暗い家』(ポーランド) 4年前の「事件」を現場検証する警官たち。 しかしその警官たちのなかにももう1つ「事件」があり……。 さらにもう1つ、警官たちが捏造しようとしている「事件」がある。 事件が2つある? 3つある? 2.5ある。 非常にヤヤコシイです。 今回の15本のなかで唯一ヤヤコシイ。 「どんな映画か?」と訊かれたときに、ふつう 皆さん「ストーリー」を語ります。 「どんな映画?」 「サスペンス」 「どんなサスペンス映画?」 「(ストーリー)」 「どんな映画?」=「ストーリー」なわけです。 ヤヤコシイと不利ですよね。 とはいえ、映画は「ストーリー」がすべてではありません。 昨年の受賞作カザフの『トルパン』が英語字幕は誤訳・脱訳だらけだったのに 作品自体は高く評価された。 映画はストーリーがすべてではないわけです。 主人公は失業して、再就職先に行く途中で「事件」に巻き込まれます。 ─【キーワード】失業、父と子、家 『ACACIA』(日本) 「どんな映画?」 「アントニオ猪木が出ている映画!」 それだけで説明が済む! 「ハリソン・フォードが出ている映画」 「トム・クルーズが出ている映画」 それと同じレベル。 簡単に説明ができる。 しかし「猪木が出ている」以上の内容を提供しないといけないので そのぶん敷居は高くなります。 猪木が近所の男の子と疑似的な親子関係を構築します。 ─【キーワード】父と子 『少年トロツキー』(カナダ) 自分のことをトロツキーの生まれ変わりだと思っている高校生。 見た目(のイタさ)が『バス男』に似ているけども こっちには「主義」があります。 ディープなトロツキーの話ではないので、 トロツキーのことを知らなくても無問題です。 ディープじゃない。そこが非常にウェルメイド。 主人公は父親と対立します。 ─【キーワード】父と子 『テン・ウィンターズ』(イタリア=ロシア) TVドラマ「CSI:マイアミ」のジョナサン・トーゴ似というか ジェイク・ギレンホール似のイタリア人青年の恋の物語。 これも完璧な映画です。 DVDが出たら繰り返し見るに値します。 ただし、 最後に「希望」が描かれるので「この監督は若いな」と気づかされます。 賛否あるとすれば、終わりかたがポジティブなところでしょう。 (監督が若いほどポジティブに終わる傾向) エンディングのイタリア語の歌が 英語字幕は出ないのに、日本語字幕はシッカリ出ます(!)。 劇中歌は訳されない場合が多くて、それは著作権の問題であったり、 あるいは配給会社からの指示であったりするワケですが、 この作品に関しては 本編と関係した、意味のある歌詞なので、 映画祭側で独自に訳したのでしょう。 映画祭の字幕翻訳のレベルがアップした瞬間に立ち合うべし! ヒロインがロシアに留学します。 ─【キーワード】異文化コミュニケーション、家 『永遠の天』(中国) この映画にも「無職の青年」が出てきますが、 家が金持ちです。 15本のなかで唯いつイケイケです。 主人公の女性は、大卒で、速効、ブルジョアな生活を開始します。 10年前ぐらいの韓国映画もそういうブルジョア描写が多かったですが、 それも含めて「いまの中国」なのでしょう。 心情を吐露するナレーションが多用されます。 「そういう心情は映像で表現しろよ!」と指摘されかねない。 経歴を見ると「どうりで。小説家じゃん!」と。 小説家が、映画を監督すると、そう指摘されてしまうところが 不利ですよね。 終わりかたがポジティブなところが「やっぱり若い」! ─【キーワード】母と子、父と子、家 ┏┏ 【家】にまつわる映画が5作品。 【父と子】が11作品。 【異文化コミュニケーション】が6作品。 【失業】関連が7作品。 (無理やり抽出すればもっとあります) 全員が全員、これらの【キーワード】を意図的に盛り込んだわけではない でしょうし、作品を選定する側も 意図してこれらの作品を選んだわけではないでしょう。 結果的に同じ要素を持つ映画が多く選ばれたにしかすぎないはずです。 異文化コミュニケーションは数年前からのすでに時代の潮流ですが、 失業中の主人公が多くなったのは「世界金融危機」の影響でしょう。 それは容易に想定できます。 しかし「失業」と「父と子」が同時に描かれる(=リンクする)とは こればっかりは映画を観て、それも何本か観て、その共通項にハタと 気づかないことには想像すらできないことです。 たとえ時代設定が「いま」じゃなくても、製作された当時の「いま」を 反映してしまう。それが「映画」であり、 こうして世界中の映画が集まってみると、 同じ要素を持つ映画が(はからずも)一堂に会してしまう。 結果的に「いま」という時代の、2009年の流れを感じることができる。 それこそが「映画」の醍醐味であり、「映画祭」の醍醐味です。 興味深いですよね。 東京国際映画祭は、秋に開かれる、 世界の映画祭のなかでは、遅い映画祭です。 (映画が完成するまでには時間がかかるワケだから) 遅く始まるがゆえに「2009年の流れ」を如実に体現する映画が集まった。 これはある意味「遅く始まるがゆえの利点」だといえます。 カンヌの映画に「失業」が多くあるか? といえば、ありません。 カンヌやベルリンのラインナップはどちらかといえば (開催時期の関係で)どうしても「前年度の流れをくんでしまっている」。 その点、東京は(有名作が集まりにくい代わりに) ラインナップが「今年の流れ」だと言い切ることができます。 そこが特色です。 そして今年はそれがバッチリ出た。 充実のラインナップであるのは間違いないです。 ┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏ Copyright(c)Tsuruhara Akihiro. 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