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2009/08/02

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今回の原稿⇒ 「見当をつけたら」

コロンブスが米大陸の一部に到達してからわずか18年後、
既に欧州に持ち込まれて蔓延し始めたものに、
タバコや梅毒に混じって北米原産のヒマワリがある。
スペインでは大地の果てまで黄金色の畑が広がっている所があるが、
植物油原料として栽培されている。
まさに太陽の花、サンフラワーである。
向日葵と書くように、太陽の動きに合わせて動くので、
我が国では正義を貫く太陽を向く意味で、弁護士バッジに使われたとか。

ところが、実物を観察してみると向きを変えて動くのはツボミのうちだけで、
大輪の花は東を向いたまま動かない。

狂気を感じさせる強烈なヒマワリの絵とくればゴッホ。
ドビュッシーが作曲でも影響を受け、
“笛を吹く少年”を描いたマネも同じく、
そのゴッホも遠い異国である東の果て、極東「Far East」の、
葛飾北斎や安藤広重などの明快な色使いや影のない世界の浮世絵に
大いに影響を受けた。
世界地図を広げると、わが国では、右端にアメリカ大陸、
左端がヨーロッパとアフリカ大陸で、
中央がアジアを中心とする日本になっている。

だが、西洋諸国での世界地図は、どれも日本は右端で、
アメリカ大陸は左端が正常なのである。
イギリスのグリニッチ天文台を中心として世界標準時=GMTが基点となっているように、
日付変更線はハワイと日本の間にあり、
太陽は地図の右側である東から昇るので夜明けは日本が一番早く、
ハワイがもっとも遅いことになっている。

欧州から近い東の国々は中近東、Middle-East、Near-Eastなど、
もっとも遠隔地にある謎多き遠い東、
「極端な東側」の諸国が、極東=Far-Eastとなる。

マルコ・ポーロが、シルクロードを経て究極に目指したまま
夢を達成することができなかった“黄金の国・ジパング”。
本日と書いて、ホンジツと読み、本はそのままホンだから、
Rising-Sun、「日の出る国」の日本は、ジツポン。
“日本”は中国語発音でリューベン、ジーポンに近いが、
その元はジツ・ホンである。
その発音を聞いたマルコ・ポーロは「東方見聞録」で、
ジーパングと書き、それが、ジャパンとなる。
支那がチノ、チャイナと変化するのも同じ。
茶が、ロシアやシルクロードでは、チャイになり、
フランスやドイツあたりではテー、英語ではティーとなる。

アムステルダムのパウルス・ポッター通りにあるゴッホ美術館に行くと、
その変遷や歴史が一目瞭然である。

そのゴッホの孫がオランダから我が家に遊びに来たことがある。
祖父は今でこそ有名だが、
37歳で自殺した短い不遇の間に売れたのは
“赤い葡萄畑”一枚だけだったと聞いた。

折角の記念にと、半強制的に30畳和室の襖に絵を描いてもらった。
裏から切ってきた竹を割って流しソーメンを
みんなで楽しんだのがよほど気に入ったらしくて、
彼はその場面を丁寧に描いた。

ところが、その女性たちや風景はどうみても
タイかベトナム風になっていた。
さすが印象派の末裔と笑ったが、
彼にすればアジア人たちの細かい見分けがつくわけがないし、
我々から見ても西洋人は同じに見える。

その微妙な“ずれ”の見分けはやはり体験の重ねがものを言う。

浮世絵は多色刷りの版画だから、
違う色ごとに彩色して何度も同じ和紙に摺ることになるが、
この時に少しのずれもないように熟練が必要である。
紙の位置を正確に合わせる目印の「見当」をつけるわけだが、
これが少しでも違って狂うと“見当違い”になる。
“見当はずれ”の語源はここからきている。

ところが国民性となれば、誰もが納得する例えがあって、
あながち見当違いでもない。
JALの外国人スチュワーデス(CA)たちとのミーティングでも
常に大笑いして潤滑油の話題となる。

沈没寸前の船の乗客が飛び込むのをためらっている時に船長がこう叫ぶ。
米国人には、飛び込めばあなたは英雄ですよ。
英国人には、飛び込めばあなたは紳士ですよ。
イタリア人には、女にもてますよ。
ドイツ人には、規則です!

では、日本人にはなんと言えば飛び込むのか? 

皆さん、飛び込んでいますよ、と。

残念ながら日本人はそのとおりであろう。

人と違うことをすれば、日本では異端児あつかいされるが、
欧米では人と違うと言われること自体が褒め言葉であり、
人間として評価されていることなのだ。
それが個人主義。

我が家の子供たち3人のうち、上の二人は小卒!である。
中学・高校とイギリスに留学して、
その後はアメリカやカナダの大学へ進んだ。
山の中の一軒家から地元の小学校だけでも歩いて一時間以上もかかっていて、
中学校だともっと遠くになるので、それに嫌気が差し、
最も通学距離の短い全寮制の学校へ進んだという単純明快な理由である。

その留学時代の息子の友人がアメリカから遊びに来たことがある。
バーベキューをやりながら焼きそばを出した時である、
「ズルズル、ズルッ~」と彼はけたたましい音を立てて食べる。
一瞬唖然とする。
その奇妙な出来事に笑うに笑えないのでしばらく沈黙が続く。

後から本人に聞いてみた。
「日本のマナー入門ブック」には、
麺類を食べるときには音を立てなくてはならない!
それで、わざわざアメリカで毎日練習してきたのだとか。

君は才能が無いから法学部あたりに専攻を変えた方がいいよ、
と学生のアインシュタインに教授が言った。
才能が無いからこそ物理学にしがみついているのです、
と彼は応えている。

凡人との差は、挑戦し続けることを決断すること、
それが大物になるこつである。
ヒマワリのように、
ツボミのうちはあらゆる方向を観て自己研鑽することも肝要であるが、
いつまでも風見鶏で他人の風評を気遣いしているほど人生は長くない。
見当を付けたら、即実践あるのみである。

かけがえのない人間になるためには、
常に他人と違っていなければならない
           ──ココ・シャネル

以下の文章は、帰国したばかりの若き女性の率直な手紙である。

「こんにちは。私、○○県在住、大学4年の○○と申します。
今回、こうしてメールを送らせて頂いているのは、
『出過ぎる杭は打ちにくい!』を読ませていただき、感じたことがたくさんあり、
ぜひ著者の黒木様に聞いて頂きたかったからです。 
 突然ですが、私、この間、日本航空客室乗務員の採用試験を受験し、
一次落ちしました。
客室乗務員という仕事には昔から興味を持っており、
自分でも天職に違いないと思い、
周りからもなるべきものだと思われていました。
そこで、実は、私は受験の前日に9ヶ月交換留学していたアメリカから帰国し、
面接を受けたのですが、
その時に思ってもみなかったショックを受けてしまいました。 
 アメリカでジーンズにTシャツだった私は、
帰国するなりリクルートスーツを着て面接会場に行き、
20分間の集団面接を受けました。
そこで感じたのは、客室乗務員というのは、
日本社会でいうところの「出る杭」のような人物はなることができないのでは?
ということです。
みな同じような服装をして、満面の笑顔で、
丸暗記してきたセリフでまるでお手本のような回答をする、
求められるのは周りとの協調性といったとこでしょうか。
同時に「これが日本社会だ」、そう思いました。
私は、アメリカに留学し、少しだけの間でしたが、
世界各国の留学生と交流し、
井戸の中の蛙だった私が世界を垣間見ることができたと思うのですが、
そこで学んだことと帰国直後の面接試験でみてきたこととのギャップに
大きな逆カルチャーショックを受けてしまいました。 
そんな時に、図書館で『出過ぎる杭は打ちにくい!』というタイトルの
日本航空の方が書いていらっしゃる本を発見し、何だこれは?
という感じで黒木様の本を手に取りました。 
私は自分の意見を主張することと、
和を乱すことには全く関連はないと思います。
自分の意見を主張し、かつ、他の意見も「間違った」ではなく
「異なった」意見として受け入れる。
そのような姿勢が求められているのではないのでしょうか。
特に、客室乗務員という世界中の人々と接する仕事では、
日本国内だけで成り立つ、あ・うんのコミュニケーション能力ではなく、
幅広い視野を必要とされているのではないかと思っていました。
しかし、残念ながら、
その日にお会いした客室乗務員の方々のお話をお聞きしても、
どうもピンと来ないものがありました。
私は、ちょっと外の世界を垣間見てきただけですので、
これからもっともっと視野を広げていきたいと思っていまして、
それを客室乗務員の仕事を通して出来れば、と思っていたのですが、
どうも日本の客室乗務員になるための資質として、
日本的な優等生が好まれるような気がしたのです。
 日本で客室乗務員というと何だかすごく特別な
職業になってしまっていますが、
諸外国では単なるウェイトレスと思われていたりもします。
私は、客室乗務員の仕事というのはお国柄や文化を
世界にアピールできるという点で素晴らしい仕事だと思っています。
特に日本のサービス文化は気がつかないうちに、そこにあるものですが、
それがない外国に行くとその良さを痛感させられるものです。 
 黒木様の本を読ませていただき、
また日本という国や日本人について考えさせられたのですが、
やはり日本人は国際人になる資質を欠いているなあと思います。
私も、黒木様が書いておられた英会話についてのエピソードに全く共感します。
英語がしゃべれないのではなく、日本語でさえも話下手ということです。
あまりにも周りに同調することに慣れてしまっていて、
自己主張や話題提供が下手ですよね。
私も留学先で他の留学生やアメリカ人の話題の豊富さと
レベルの高さに圧倒されてしまいました。
日本人が外国で嫌われるのも分かるような気がしました。
やはり日本の集団意識というものはすごいです。
他を受け入れず、今もまだ鎖国しているといっても過言ではありませんよね。
それでも、やはり私は日本人であることをやめられませんし、
どうしても嫌いになれません。
私は日本、日本人、日本人である自分が好きです。
だから、国際化していく世の中で是非とも、努力を重ね、
いつか黒木様のような国際人になり、
日本の国際化のために草の根活動をしていきたいと思います。 
いろいろ考えさせていただき、どうも有難うございました。
ほんとうに黒木様との本との出会いは、「有難し」でした。
留学生活を終え、周りにはかなり遅れてスタートした就職活動ですが、
目標達成のため頑張ります!!

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⇒ 連続小説“小説 球磨川”~空撮、平家落人伝説ロマンに潜む八百年の謎~ 
⇒ 国際線機長が挑む平家伝説ミステリー歴史ロマン“小説 球磨川”を連載。
  後半は、まだ執筆中の、その続編“超古代文字Cockpit殺人事件”予定。
⇒ 国立国会図書館 書籍及び朗読テープ全8巻収蔵作品
⇒ 様々の賞の対象となり、映画化進行中の作品です。
⇒ 筑紫哲也さんなど、その斬新な切り口とサスペンス タッチや、
 歴史調査の深さと造詣を激賞。朝日新聞などにも取り上げられました。
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⇒ 連続小説 “小説 球磨川(くまがわ)” (連載小説23)

「啓介さん、怒っとんなさっとですか?」
無言でビールを呑んでいる啓介と千鶴は、
町営住宅近くのラーメン屋でテーブルを挟んで座っていた。

啓介はあれほど千鶴に逢いたい一心だったのに、
今こうして千鶴が家を実際に飛び出して来て目の前にいる現実に、
いささか尻込みしていた。
何と言って切り出していいのか分からないでいるうちに、
どんどん無言でいるしかなくなったのだ。
予想だにしなかった千鶴の唐突な行動がまだ信じられないまま、
真意を計りかねていた。
「本当は迷惑しとんなさっとじゃろう? 
やっぱし多良木には来ん方が良かったとでしょうかあ?」
千鶴はすっかり肩を落として、
今にも大粒の泪が落ちそうになるほど瞳が潤んでいた。
「いや、そぎゃんこたあ、無かと。それは無かばい。嬉しかとよ。
喜んどっとばってんか、何か俺も責任重大のごたる気のして。
こいから先のことば考えるとなあ。千鶴さん、家で何かあったとなあ? 
まず、そいば話してくれんね」
「ええ。何か急に、無性に椎葉村から外に出たくなってですね、
そいで、それば家で相談してみたとですよ。
そしたら、何も言わんと思うたところが、いきなり立ち上がって、
掴まれて、思いっきり殴られて、そんまま何も言わんで閉じこめられたとですよ。
今まで入った事も無か、真っ暗の蔵のごたる所に、
小さか頃からそれまでは絶対に中には入っちゃいけんて言われとった所です。
そこに一週間も、ずーっとですよ。
食事だけは母が少しばっかし戸ば開いて、毎日そっと運んできたとですばってん、
もう毎日が気の狂うごたる寸前になって。
そいでようやく出して貰うたとです。
そいからはもう二度と同じ事は言わんちゅう約束ばさせられて、
暫くは気の抜けたごたる状態でじっとしとったとです。
ばってんか、それから家にいるのがどんどん嫌になり始めてですね、
密かに家出する準備ばしたとです。
かと言って行くところが人吉の叔母さんところじゃ、
直ぐに分かって引き戻されるですどお? 
やっぱし、どぎゃん考えてん、こん町しか無かったとですよ。
ほかには何処も知らんですけん。
以前に啓介さん宅で町長さんに会うたことのあるけん、
直接頼めば何とかなるだろうて思うて飛び出して来たとです。
もう後には戻れんです、戻れんとですけん──!
 あん調子じゃ今度は見つかったらただじゃ済まんですけん。
だけん、啓介さんお願いします、
叔父さんに頼んでずっとここに置いて下さらんですか?」
「いやあ、それは俺も嬉しかこつばってんか──。
でも千鶴さんのお父さんは、そぎゃん厳しかとね?」
「あのお、小さか頃から、父親はおらんとです。
それに母親も本当の母じゃ無かって──」
「え──? ごめん、悪かったなあ。
そらあちっとも知らんじゃったもんで──。
そいじゃあ、誰に怒られたとな?」
「婆ちゃんにですたい。そらあもう、恐ろしかぐらい厳しかですけん、
もしもここにるとの見つかりでんしたないば──」
「お婆さんにってなあ。じゃあ千鶴さんはおさんとお婆さんの三人暮らしね? 
そいでん、何でそぎゃん厳しゅうせんば、いけんとかな?」
「ええ、昔から厳しかったとです。年が明けてからは、特に、そぎゃんなったとです。
何故かよう分からんとですばってんか。
でも、ああ、確かあれは去年の暮れ頃だったですばってん、
来年は私にとって大事か、何とかの歳じゃるで、
どぎゃんこつのあっても一年間は絶対に間違いの無かごとせんばんって、
とか話しとるところば盗み聞きした事のあったとです。
今になって思えば、そん事と何か関係のあっとでしょうか?」
「今年一年間だけは特に──かあ。何じゃろうかなあ──。
ばってんか、よう家出してまでと決心したもんたいなあ。
千鶴さんは何でそぎゃん気持ちになったとね?」

「啓介さん──」 と、千鶴はそこまで言って絶句した。
悲しそうな顔をしている。
つぶらな瞳はじっと啓介を捉えている。
沈黙が流れた。
啓介は嬉しさが込み上げてきた。
千鶴の気持ちが切ないほど伝わって来る。
啓介も千鶴をじっと見つめた。
心無い冷たいことを言ってしまったもんだと自分の言葉に呆れた。
「さあ千鶴さん、もうそろそろ帰ろうか。
来週からいよいよ一緒に仕事ができるばい。
今日はもう帰って新しか部屋に慣れたほうが良かばい、そこまで送っていくけん」

啓介は立ち上がる時に少しヨロヨロとした。
その後、歩く時にも何となく不自然で、ややビッコを引く恰好になった。
アルコールが入ると普段の無意識の緊張が解けるからか、痛みも感じた。
「あら啓介さん、足ば、怪我でもしたとですか?
あっ! ひょっとしたらまだ、あん時の怪我が治っとらんとじゃなかですか?」
「ああ、もう殆ど大丈夫ばい、心配いらんけん」

と、言いながら、啓介の頭の中を電撃が貫いた。
「千鶴さん──! 今何て言うたね? あん時の怪我──って?」
「ええ、この間、椎葉に釣りに来た時の怪我のことですどお──」
「ええっー! ち、ちょっと待ってくれんね。釣りに!? 
そいじゃあ、あの夜に千鶴さんの家に迷い込んだことは夢じゃなかったとね!
本当のことじゃったとね?」
「啓介さんは何ば言うとんなさっとですかあ。
えらい怪我ばして私の家で寝とったでしょうが──。
そいでいて朝のまだ暗かうちに黙って帰ってしもうたとでしょう。
あん時は、突然現れたと思うとったら、また直ぐに消えてしもうて、
本当に驚いたとばい。あれは夢かと思うたとは、それこそ、こっちの方ばい。
何で黙って家からおらんごとなったとじゃろうかと、もう心配で心配で──。
あの怪我でよく一人で歩けたもんじゃったなあ」
「いや、それは違うとよ、ちょっと違うばい。ええと、ちょっと待ってくれんね。
確かに夢のごたることばってんか、そう言えば俺もそれはちゃんと覚えとるとよ。
そう、そうたい、千鶴さんの家で眠り込んでしまって、
そして次に目が覚めた時にはもう朝で、俺の車の中でゲロしとったとばい。
ばってんか、その途中が思い出せんもんで、
あれはやっぱし夢じゃなかったろうかと思うとったとよ──。
いやあ、信じられん、あれは本当の事じゃったとなあ?
ばってんか不思議たいねえ、じゃあ、どぎゃんして一人で車まで戻ったとじゃろか。
あん時は車の場所が分からんごとなったもんで、
それであやうく遭難しかかったとばい。
傷だらけの身体で、それに夜明け前の薄暗か未知の山中ば独りで、
行方の全く分からんじゃったはずの車の所まで歩いたって! 
そして気づいたら、ちゃんと自分の車の中におったってえ。
信じられんなあ。それにあの強烈な吐き気は何じゃったとじゃろか? 
気持ちの悪か黒紫色の粒が混じっとった」
「えっ、それは吐いた中にあったとですか──?」
「ああ、あぎゃんとばいつの間に喰っとったとじゃろうかなあ、
あん時は死ぬほど腹も減っとったもんでねえ」

「──」
「どぎゃんしたとお──?」
「分かった──啓介さん、今やっとで分かったとですよ──。
そらなあ、呑まされたとたい。
あんあたりで採れる木の実で作った睡眠薬ばい。
あれはちょっとでん間違えば死ぬほど強か毒ですよ」
「そら本当なあ! 誰が呑ませたってなあ、そぎゃん恐ろしか薬ば──」
「──」

「そうなあ、そぎゃんことじゃったとなあ──。
ああ、もう良かたい、終わったことじゃっでな。
で、どぎゃんして車まで俺ば運んだとじゃろうか?」
「多分リヤカーででしょうたい。いつも母と二人で使うとるとのあるもんな」
「誰がな──?」
「婆ちゃん」
「と言うことは、あん夜に端で見た光景は総て本当のことじゃったとたいなあ。
あれは、夢じゃなかったとねえ──。
ばってんか、いったい何の為に俺にそぎゃんこつば、せんばいけんとじゃったろうか?」
「そらあですね──、啓介さんにあの家ば見つけられたからでしょ、きっと。
あそこはよその人には絶対分からんごとなっとっとですよ。
ばってんか、どういう訳か、啓介さんが突然降って湧いたごとして訪問してしもうた。
私も、それは直ぐには信じられんじゃったですよ。
いくら迷って行き当たったちゅうてもですね、
あんまりにも偶然過ぎるもんですけん。
それにもっと悪かったとは、私が啓介さんば知っとったちゅう事ですたい。
だけん、二度と家までの道が分からんごと眠らせて運んだとでしょう」
「ばってんかあ、何で、そぎゃん迄して、あの家ば隠す必要のあっとね──?」

「ええ、もうこうなると啓介さんにはみんな喋った方が良かですねえ──。
信じて貰えんかも知れんばってんか、
あん家は村の中でも昔から特殊な場所で、
村の者でもみんながそうそう近寄ってはいけん所らしかとです。
何故か知らんですばってんか、
生まれる前からそぎゃん決まりらしかったとです。
だけん、私の車も、ずっと遠か所に停めて、
家までは一人で歩いて帰って来るごと言われとっとです。
ばってんか、何でも十八年に一回だけは特別の人達が集まって来るとか、
それも全国の方々かららしかって、
村の友達伝えに噂に聞いたことのあるとばってん、
私も何のことか詳しゅうは知らんとです。
小さか頃から、そぎゃんとは別に不思議にも思わんで育ったもんですけん、
あんまりそぎゃん話しにゃ興味も無かったし、
友達は一回も連れて来たことの無かとですよ──。
高校生三年生の時に爺ちゃんが死んでから、
後になってから叔母さんから知らされたけん、
葬式には出られんじゃったですばってんか、
そいからは、ずっと家族三人だけしかおらん寂しか所です」
「へええ、本当なあ。今どき信じられん随分な変わった家たいねえ──。
ばってんか、それにしても、まさか千鶴さんがあそこで
一人で育ったとは思えんなあ。
そらあ例えは悪かばってんか、掃き溜めの鶴っちゅうとは、こんことばい。
で、生まれた時から生活もずっとあの不便か山の中で?」
「ええ。月に何度か使いの者が定期的に荷ば背負うてやって来るとです。
だけん何にも不自由は無かとです」
「使いの──! へえ何か凄か時代ががったごたる話しなあ。
いやあ聞けば聞くほど現実離れしてきて、
千鶴さんが別世界の人のごと見えてくるばい。
ああ、もうこん話しは止めよう、どんどん気色の悪かごとなるし、
折角の千鶴さんと一緒の時間ば持てたとに、これじゃあ勿体無かもんな。
昔の事ば聞いても、しよん無かもんな。
ところで明日の日曜日はどぎゃんするとね? 
良かったらまた俺の家に来んね、
母も久しぶりに千鶴さんば見てえらい喜ぶと思うばってんかなあ」
「ええ、ばってんか、まだ出てきたばっかしで、
ここ暫くは大人しゅうしとかんばいけんと思うとるとですよ。
部屋も整理せんばいけんし」
「それもそうたいねえ、来たばっかしじゃねえ。
──ああ、そしたら来週の日曜日でも一緒に行かんね、
ちょっと調べたか場所があるけん。
直ぐそこの近くばってんか、散歩がてら、どぎゃんね。
百太郎溝っちゅうて、興味のある歴史の史跡のあるところばい」


        (⇒ 次号に続く)

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