2008/09/07
スクリーンに見つけた恋愛風景 ~過去を捨てた愛~ 【旅愁】
スクリーンにはさまざまな恋愛風景が描かれています。熱く燃え上がるような恋 もあれば、相手を包み込むような深い愛もあります。このメルマガでは、実際の セリフを織りまぜながら、映画の中の恋愛風景を紹介していきます。 ★:☆:★:☆:★:☆:★:☆:★:☆:★:☆:★:☆:★:☆:★:☆ Scene 67 「過去を捨てた愛」 【 旅愁 】 September Affair ★:☆:★:☆:★:☆:★:☆:★:☆:★:☆:★:☆:★:☆:★:☆ いつも「スクリーンに見つけた恋愛風景」をご愛読いただき、 ありがとうございます。 第67号の今回は、メロドラマの佳作を紹介します。1950年製作、1952年公開の 【旅愁】です。旅先で知り合い恋に落ちた男女が、過去を捨て0から新しい人生を 始めますが・・・9月から11月へと深まりゆく秋の季節を背景に、大人の恋をしっ とりと描いた作品です。 −−◇◆ 目 次 ◆◇−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1. 基本情報 2. 見どころ 3. 「過去を捨てた愛」の分析 4. ヒロインのセリフから 5. 裏話 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1. 基本情報 ■主な出演: (★=男優/☆=女優) ☆ジョーン・フォンテイン ・・・ ☆マニーナ・スチュアート ★ジョセフ・コットン ・・・ ★デイビッド・ローレンス ☆フランソワーズ・ロゼー ・・・ ☆マリア・サルバティーニ ☆ジェシカ・タンディ ・・・ ☆キャスリーン・ローレンス ■監督: ウィリアム・ディターレ ■モノクロ ■ストーリー: アメリカ人ピアニストのマニーナは、ローマ発ニューヨーク行きの飛行機に搭乗 していました。NYで開かれる自身初のコンサートのために、帰国の途についてい たのです。 隣の席には、NYで工作機械の会社を経営する、やはりアメリカ人のデイビッドが いました。仕事尽くめの人生に疲れた彼は、愛情の冷めた妻に離婚の意思を告 げ、自分を見つめ直すためのイタリア旅行に来ていたのでした。 飛行機はエンジントラブルのため、ナポリ空港に不時着します。言葉を交わし好 感を持ち合った2人は、修理の間一緒にナポリ観光に出かけます。レストランで イタリア料理とワインを堪能し、2人は満ち足りた時間を過ごします。 空港へ戻ると、飛行機は飛び立った後でした。2人はこの機会にポンペイ遺跡や カプリ島にまで足を伸ばします。明るい夏の太陽の下、景勝地を周るうち、いつ しか2人の間には恋が芽生えていました。 それでも、妻子あるデイビッドへの恋心をマニーナは必死で抑えようとします。 2人がアメリカへ帰る決意をした矢先、ナポリで乗り遅れた飛行機が地中海に墜落 した事実を知らされます。しかも、名簿に載っていた2人も死んだものとして扱わ れていたのでした。 一度は生存を知らせようとしたものの、愛し合う気持ちが勝り、2人はフィレン ツェで新生活を始めます。幸せいっぱいのはずでしたが、これまで築いてきた キャリアや人間関係を、共に葬り去ることはできませんでした。 そこへ、デイビッドの最期の足取りを知りたいと、妻子がイタリアへやって来ま す。期せずして顔を合わせることになったマニーナは・・・ ★,。:’°☆,。:’°★,。:’°☆,。:’°★,。:’°☆,。:’° 2. 見どころ 【旅愁】は、ロマンティックなラブストーリーです。いわゆる不倫恋愛ものです が決してドロドロしたものではなく、良質な洋菓子のように格調高い仕上がりに なっています。 ヒロインを務めたのは、ジョーン・フォンテイン。当メルマガでは、第1号【レ ベッカ】以来の登場です。“メロドラマ女優”として、恋に揺れる女性の心の機 微を演じさせたら右に出るものはいないと言われていました。【レベッカ】で も、1941年にアカデミー主演女優賞を獲得した【断崖】でも、愛する夫の行動に 胸を痛めたり、見えない恐怖に怯えたりする女性の役を巧みに演じました。 本作では、20代後半の女性心理をきめ細かく表現しています。仕事での成功と恋 愛における幸せ、そのどちらを選ぶかに悩むだけでなく、既婚男性との恋に向か いたい心と抑制しようとする心を持て余し憂慮します。心の動揺を表現した数々 のシーンを見ていると、フォンテインの演技力の高さ、漂わせている気品に圧倒 されることでしょう。 相手役には、当メルマガ第6号【第三の男】で主人公ホリーを演じたジョセフ・ コットンが起用されています。オーソン・ウェルズやアルフレッド・ヒッチコッ クといった名監督に愛された彼は、総じて渋い役柄が多いという印象です。本作 のウィリアム・ディターレ監督とは、過去3作品で顔を合わせています。 本作では、中年男性の悲哀を的確に表現しています。夢中で仕事をし続け、ふと 振り返ったとき、自分の人生は何だったかのかと疑問に思い自分を見つめる旅に 出ました。そして、魅力的な女性と出会い忘れていた情熱を取り戻します。人生 の再チャレンジをするには過去のしがらみがあまりに多すぎましたが、幸せにあ ふれた彼の表情を見ていると、いくつになってもいかに恋する気持ちが大切なも のであるかを教えられます。 本作には、イタリアの観光地が多数登場します。イタリアを舞台にした作品は、 当メルマガでも過去にいくつか採り上げています。ローマについては、第9号 【ローマの休日】で、フィレンツェは第10号【眺めのいい部屋】で、そして第61 号【理想の女(ひと)】ではナポリ近郊のアマルフィを紹介しています。本作で も同じ名所旧跡を再見することができ、歴史ファンをも楽しませてくれます。ポ ンペイやカプリの名所が、幸せな2人の姿とともに生き生きと描かれている点も見 逃せません。 また、音楽の果たした役割も明記しておかなければなりません。デイビッドの心 境を綴ったような歌詞を持つ♪セプテンバー・ソング♪が全編を彩ります。歌っ ているのは、ウォルター・ヒューストンです。人生の曲がり角に差し掛かった人 には、心に滲みることでしょう。 さらに、クライマックスでマニーナは、NYカーネギーホールでピアノコンサート を行います。ファイナルに演奏する曲は、セルゲイ・ラフマニノフの♪ピアノ・ コンチェルト第二番♪です。ドラマティックな旋律をダイナミックに鍵盤を叩き 演奏するマニーナの姿には、仕事に生きる女性の自信が感じられて大きな感動を 覚えるはずです。また、この曲は哀切なBGMとして、作品後半を盛り上げます。 秋の色合いが徐々に濃くなっていく様は、モノクロの画面からも十二分に伝わり ます。旅の気分と切ない恋に浸れる作品として、これからの季節にぜひお薦めし ます。 ★,。:’°☆,。:’°★,。:’°☆,。:’°★,。:’°☆,。:’° 3. 「過去を捨てた愛」の分析 マニーナは、アメリカ人ピアニスト。16歳の頃から欧州でピアノの勉強を続けて きました。20代後半となった今、NYで初のコンサートを開くことになります。そ の大チャンスを前に、恩師のいるイタリアを訪ねたのでした。 一方、アメリカ人エンジニアのデイビッドは、NYで工作機械の会社を経営してい ました。無我夢中で働き会社を大きくしたものの、仕事にも家庭にも嫌気がさし 高校生の1人息子の成長だけを見守るようになっていました。妻に離婚の意思を告 げ、自分を見つめ直すためにイタリアへ来ていたのでした。 マニーナとデイビッドは、ナポリのレストランでワインとラビオリを堪能しま す。食後、マニーナは♪セプテンバー・ソング♪のレコードをかけ、幸せそうに 耳を傾けます。その美しい微笑みに、デイビッドは恋してしまうのでした。 2人が空港に戻る前に、飛行機は飛び立っていました。デイビッドは『友人とし て』カプリやポンペイを観光しないかと提案します。彼のたのもしさに好感を抱 いていたマニーナは、提案を快諾。2人は、夢のような数日間を過ごします。 いつしか、お互いに恋愛感情を抱くようになります。しかしマニーナは、『私は すべてでなければ何も要らない。束の間の恋なんて出来ない』と、不倫関係に陥 るつもりはないことを告げます。デイビッドは、妻と離婚するつもりであると打 ち明けますが、妻は離婚不承知の手紙を送ってきていました。 2人が帰国を決めた矢先、ナポリで乗り遅れた飛行機が地中海に墜落したことを知 らされます。新聞には、搭乗者として2人の顔写真も掲載されていました。驚いた 2人は大急ぎで生存を知らせる電報を打とうとしますが、まったく同じ考えがお互 いの脳裏によぎるのでした。 『僕らは死んだんだ。与えられたチャンスをつかもう』デイビッドは、家族にも 会社にも未練はなく、マニーナさえいればいいと語ります。マニーナは激しく動 揺します。こんなこと許されるはずがありません。でも、デイビッドと離れたく ない気持ちがあるのも事実です。彼と新たに人生を始められたら・・・マニーナ は心を決めるのでした。 2人は、フィレンツェの街が一望できる丘の上に新居を構えます。甘い新婚生活の 始まりでした。 ある日、マニーナの恩師マリアが訪ねてきます。彼女は2人の決断に反対していま した。マニーナと2人きりになったとき、マリアは手厳しく意見します。『身勝手 で卑怯な生き方で幸せは得られない。あんたは自分をごまかしてるわよ』マリア の言葉は、マニーナの心に突き刺さりました。 『人を傷つけずにやり直そうと努力してるの』そうは言ったものの、マニーナも 心の奥底では良心の呵責に苛まれていました。それでも、デイビッドを愛する気 持ちは止められません。ピアノ一筋に生きてきて、初めて感じる女性としての幸 せです。すべてを捨てても守りたいと、心底願うのでした。 一方、デイビッドも過去を完全に捨てきれたわけではありませんでした。息子の 誕生日には胸が痛みます。アメリカでの生活や残してきた仕事のことが、いつも 心に引っかかっていました。 数日後、デイビッドの妻のキャスリーンが息子とともにイタリアへとやってきま す。夫の小切手の振り出し先である、マリア・サルバティーニという女性を訪ね ることが目的でした。実は、このお金はデイビッドとマニーナの生活費でした。 マニーナはマリアの家でレッスンを受けていました。そこへ、妻子が訪ねてきま す。恐れながらも、マニーナはマリアの娘として対面することにします。 息子を廊下に待たせ、キャスリーンは1人で部屋に入ってきました。冷静沈着で、 尊大な態度などみじんも感じられません。キャスリーンは、『仕事も家庭も重荷 と感じ何かを求めていました』と生前のデイビッドについて語り、離婚不承知の 手紙が原因で帰国の途につき事故に遭ったなら、自分が夫を死なせたも同然と自 らを責めていたのでした。苦しんでいることが痛いほど感じとれました。 それでも『彼に必要なのは私なのよ。誰も私たちを引き離せやしない』と、キャ スリーンが帰った後、マニーナは自分に言い聞かせます。 母を待っている間、デイビッドの息子は父の生存を知ってしまいます。そのこと を告げられたキャスリーンは、驚きでも怒りでもない言葉を口にします。『生き ていた。ああよかった』。彼女は喜びと安堵の涙を流すのでした。 マニーナは、妻子に会ったことをデイビッドに切り出せませんでした。しかし、 ひと晩考え、キャスリーンに会いにいきます。彼女は不在でしたが、息子からデ イビッドに宛てた手紙を託されます。 デイビッドは、手紙の内容をマニーナにも聞かせます。彼が生きていただけで十 分であること、喜んで離婚に応じることが綴られていました。 マニーナは打ちのめされていました。キャスリーンの夫に対する深く崇高な愛を 思い知らされたのです。デイビッドを家族の元に返さなくては。マニーナは苦渋 の決断をするのでした。 キャスリーンが離婚を承諾し、身を隠す必要がなくなった2人は、晴れて帰国する ことになります。デイビッドには大事業が、マニーナにはコンサートが待ってい ました。 フィレンツェの家を離れるとき、一抹の寂しさがマニーナの胸を襲います。この 家で育んだ想い出が甦ります。短い間でしたが、確かな愛がありました。人生で 一番幸せなひとときが息づいていました。 気がつけばいつしか葉が色づき、コートが必要なほど冷たい風が頬をなでるよう になっていました。2人はキスを交わし、この家に別れを告げるのでした・・・ 愛は人を何倍にも輝かせてくれるものです。マニーナはきっと、前を向いて歩い ていくことができるでしょう。大いなる喜びと切なさを知った彼女なら、聴衆の 心に訴えるようなピアニストに大成すると信じています。 *『 』は実際のセリフです。 ★,。:’°☆,。:’°★,。:’°☆,。:’°★,。:’°☆,。:’° 4. ヒロインのセリフから ★フィレンツェの川で、自社製のタービン(原動機)を見つけたデイビッド。新 たな仕事に意欲を燃やす彼について、マニーナとマリアが交わす会話です。 Maria : You have a rival. Manina: Don Quixote fought windmills. I can fight turbins. Maria : You seem to forget. Don Quixote lost his battle. マリア :恋敵だね。 マニーナ:ドン・キホーテの風車の代わりに、私はタービンと戦うわ。 マリア :忘れないで。ドン・キホーテは戦いに敗れたのよ。 ◎マリアはマニーナを心から心配していたのですが、口をついて出てくる言葉は 嫌味ばかりになってしまうのでした。 ★作品前半、2人はナポリのレストランで♪セプテンバー・ソング♪のレコードを 聴きます。人生を季節にたとえた歌詞に注目してみましょう。 When I was a young man courting the girls I played me a waiting game If a maid refused me with tossing curls I'd let the old Earth make a couple of whirls And as time came around she came my way As time came around, ...she came Oh, it's a long, long time from May to December, But the days grow short when you reach September When the autum weather turns the leaves to flame, One hasn't got time for the waiting game Oh, the days dwindle down to a precious few September, November And these few precious days I'll spend with you These predious days I'll spend with you 若いころは待つのも恋の楽しみ 求愛を断られても僕は時を気にせず 涙でくどき続けた 彼女が僕になびくころ やっと思いがかなうころ 長い月日が流れていた 5月から12月へと 日は日ごと短く 9月は人の世の秋 終わりの炎が木の葉を燃やす もう待つ事を楽しむ時間はない 残りの日々は日ごと貴重になる 9月から11月へ この貴重な日々を君と過ごそう この貴重な日々を君と過ごそう ◎自分は今人生の何月にいるのだろう? ふと考えると切なくなってしまいます ね・・・ ★,。:’°☆,。:’°★,。:’°☆,。:’°★,。:’°☆,。:’° 5. 裏話 【旅愁】という作品の魅力の1つは、イタリアの有名観光地が多数登場する点で す。1ヶ月間におよぶ大規模なイタリアロケが敢行されました。 1950年代には、【ローマの休日】をはじめヨーロッパを舞台にしたハリウッド映 画がラブロマンス・ジャンルを中心に量産されていますが、ブームのさきがけと もいえるのが本作なのです。 プロデューサーのハル・ウォリスは、ディターレ監督、ジョーン・フォンテイ ン、ジョセフ・コットン以下俳優陣、そして製作スタッフを引き連れてイタリア を訪れました。訪問先は、ローマ、ナポリ、フィレンツェの三都市およびポンペ イ、カプリ島など近郊の名所旧跡でした。 一行はいたる所で見物人に取り囲まれ、撮影どころではなかったそうです。フォ ンテインもサイン攻めにあい、閉口してしまいました。それでもこのロケ旅行 で、彼女はすっかりイタリア好きになります。「イタリア人は、世界中で一番健 康で幸福そうな国民ね」と分析までしたと言います。 ロケの成果は、映画の前半から中半にかけてたっぷりと味わえます。但し、モノ クロなのが残念な限りです。ポンペイの遺跡、カプリの青の洞窟、フィレンツェ のシニョーリア広場など世界的に有名な観光地が目白押しです。自然の造形美や 歴史の重みを感じさせる建造物の前で愛を深めていく2人。ぜひ、じっくりとご 堪能ください。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− いかがでしたか? この週末、ぜひ【旅愁】を観てくださいね。 次回はどんな映画の中に恋愛風景を見つけましょうか。 どうぞお楽しみに。 ◇◆ バックナンバー ◆◇ ※今号の中に登場したメルマガです。 第1号 〜ひたむきな愛 その1〜【レベッカ】2007.4.28発行 http://archive.mag2.com/0000232371/20070428230207000.html?start=60 第6号 〜不動の愛〜【第三の男】2007.5.31発行 http://archive.mag2.com/0000232371/20070531210021000.html?start=60 第9号 〜はじめての恋〜【ローマの休日】2007.6.21発行 http://archive.mag2.com/0000232371/20070621205915000.html?start=40 第10号 〜秘めたる情熱に導かれた愛〜【眺めのいい部屋】2007.6.28発行 http://archive.mag2.com/0000232371/20070628210103000.html?start=40 第61号 〜知りすぎた愛、知らなすぎた愛〜【理想の女(ひと)】2008.7.7発行 http://archive.mag2.com/0000232371/20080707095223000.html ◇◆ 今回紹介の映画 ◆◇ ※商品の金額は、メルマガ発行日現在のものです。後日変更になる場合がありま すのでご了承ください。 ☆★ DVD ★☆ 旅愁 価格:¥ 409(定価:¥ 500) http://www.amazon.co.jp/dp/B000LXIO5E/ref=nosim/?tag=dreamer312-22 ☆★ CD ★☆ ベスト懐かしの映画音楽100 価格:¥ 4,659(定価:¥ 5,000) http://www.amazon.co.jp/dp/B000JLSV6A/ref=nosim/?tag=dreamer312-22 ◎インストゥルーメンタルの映画音楽CD。♪セプテンバー・ソング♪も収録され ています。 発行者: dreamy(翻訳家) 発行者サイト: http://ivory.ap.teacup.com/dreamer312/ みなさまからのご意見・ご感想をお待ちしています。 採り上げてほしい作品もお知らせください。 メールは下記のアドレスまで: soup710@yahoo.co.jp 協力: 聖



