2009/11/18
シネマトコラムvol.108「母なる証明」レビュー
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ シネマトコラム vol.108 (2009.11.18) *新作レビュー「母なる証明」 *次号予告 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ *新作レビュー 「母なる証明」ポン・ジュノ監督 (韓) ウォンビン、キム・ヘジャほか出演 韓国の鬼才、ポン・ジュノ監督の新作は、容赦ない意外な展開の連続だ。激情 の国らしい民族性が随所にのぞき、障害のある息子を溺愛する母の姿も、サスペ ンスの真相も強烈なインパクトを放っている。 とある地方都市の片隅で、漢方薬と鍼の店を経営するシニア世代に差しかかっ た母(キム・ヘジャ)は、軽い発達障害のある一人息子のトジュン(ウォンビン)の ことが気がかりで仕方がない。やがて近所で女子高生が惨殺される事件が起き、 その犯人としてトジュンは警察に逮捕されてしまう。弁護士も警察も当てになら ないと悟った母は、息子の無実を信じ、一人で事件の真相究明に奔走する。そし て浮かび上がった真相とは、そしてそれを知った彼女は……。 とにかく全てが韓国映画だ。個々の強烈な主張、ズサンな警察、携帯電話を改 造して使う学生たち、やられたらやり返す、決してあきらめない執念。何もかも パワーが違い、圧倒される。 “韓国のお母さん”キム・ヘジャの形相と、状況に応じた目つきの変化がみせ る。しかしお涙頂戴的な要素はみじんもない。笑えるシーンは幾度もあれど、泣 けるシーンは皆無に等しい。このあたりがこの監督のすごいところだ。そういう 要素を入れると、ありがちな感動作に落ち着いてしまうテーマだからこそ、それ を避け、誰も作らない展開にあえて挑戦している。本作は”泣ける映画”ではな く、”暖かい映画”でもない。偶然がもたらす「衝撃」が何の予告もなく、あっ さりとスクリーンを貫く。思わず目を疑うシーン、言葉を失う事実、それらは予 定調和のハリウッド作品や日本映画に慣れた我々に鋭く突き刺さる。 監督がインタビューで答えていた「弱者のタブーへの挑戦」とはこういうこと だったのだ。後味は良くないが、現実にはこういうこともあるだろうから、それ を描いたことでとんがった作品になったし、何より映画として鮮烈である。日本 では、これを撮れそうな監督といったら北野武くらいしか思い当たらない。 町の夜景、暗い路地裏、雨中の捜索…自身の傑作「殺人の追憶」を彷彿させる いかにもポン・ジュノらしい映像は健在である。暗闇の使い方がとても巧い監督 だが、今回は人が端から端に歩いてゆく遠景のカットが何度か使われ、これもな かなか印象的だ。トジュンが障害を負った成り行きが伏線として効いている、母 の異常なまでの愛情も、対する息子の反発もそのことに単を発している。担当刑 事は親戚であり、一方被害者の女子高生にもこれまた特殊な家庭事情がある、と いう具合に、設定が凝っていて、それが全部つながっている仕掛けはお見事だ。 サスペンスの凝り方もぬかりがない。緊張感はもちろん、お得意の、犯人と思 われる人物がことごとくハズれる構図、悲惨な状況の中に笑えるユーモアを含ま せるテイストは相変わらず上手で一本調子にならず、楽しめる。 何にも似ていないことで知られるポン・ジュノ監督だが、本作のひねり方には、 「アフタースクール」、「キサラギ」など日本映画のそれに近いものを感じた。 ”裏の裏は表”というようなからくりがなんとなく……。 兵役除隊後、初の出演となったウォンビンは、軽い障害のあるトジュンを見事 に演じていて文句なし、やっぱり韓国の役者は若くてもモノが違う。他のキャス トも出てくる者、出てくる者みんな芸達者ばかり、強烈な面構えのインパクトあ る脇役陣をずらりと揃え、細部まで際立っている。トジュンの悪友ジンテ役チン ・グと、写真店を経営する親戚ミソン役チョン・ミソンも好演だ。 ラスト30分は本当に衝撃の連続である。愛情が狂気を伴って暴走する本作は、 好みは分かれるかもしれないが、意欲作であり、印象の強い映画であることは間 違いない。しかし、「殺人の追憶」は超えていない。やはりあれは傑作だった、 あらためてそう思う。 ↓「母なる証明」公式サイト(予告編も観られます) http://www.hahanaru.jp/ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 次号新作レビューは、「笑う警官」を取り上げる予定です。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ シネマトコラム 発行者 上間秀彦 連絡先 g-note.uema@nifty.com 『まぐまぐ』感想フォーム↓ http://form.mag2.com/trigawiowo 発行板 *『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ 配信中止はこちら→ http://www.mag2.com/m/0000231303.html *『めろんぱん』http://www.melonpan.net/index.html 配信中止はこちら→ http://www.melonpan.net/mag.php?010476 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



