2009/11/06
シネマトコラムvol.107「沈まぬ太陽」レビュー
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ シネマトコラム vol.107 (2009.11.6) *新作レビュー「沈まぬ太陽」 *ちょっと蛇足 *次号予告 *You Tube紹介 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ *新作レビュー 「沈まぬ太陽」若松節朗監督 (日本) 渡辺謙、三浦友和、石坂浩二、香川照之、鈴木京香、松雪泰子ほか出演 3時間22分。途中で10分間の休憩が入る最近では異例の長編大作は、意外に もテンポが良く、絡み合う人間模様がうまく整理されていて、まったく長さを 感じさせない見事な出来映えだ。会社と出世の価値観が強く、一方でまだ気骨 ある人間像も存在していた昭和という時代。それが会社、家族、同士、そして 政治の断面とともに如実に描かれていて感慨深い。男性キャスト陣が皆、気迫 のこもった熱演ぶりで見応えがある。 1970年代、国民航空の社内では、労働条件改善を求めて労働組合と経営陣の 攻防が激化していた。スト直前で会社側が折れ、労組委員長の恩地(渡辺謙)は ヒーローとなる。しかし彼はパキスタン勤務を命じられ、2年だけという社長 との約束は反古にされ、その後もイラン、ケニアと僻地勤務の左遷が続く。 一方、労組副委員長だった行天(三浦友和)は、エリート登用の誘いに乗り、す っかり会社側に取り込まれ、労組分断を画策しつつ昇進の道を歩む。 そんな折、未曾有のジャンボ機墜落事故が起き、業務内容が問題となった同 社には、政府の意向を受けた関西の民間企業出身の国見(石坂浩二)が、会長と して就任し、改革が始まる。しかしこれを快く思わない経営陣と運輸族の政治 家たちは、会長辞任を画策する。その裏には巨大な利権と不正があった。事故 の遺族対応担当として帰国した恩地は、事故後の遺族の姿と、犠牲にしてきた 自らの家族、そしてかつての仲間達の冷遇に驚く。会社側は恩地に、謝罪と引 き換えに配属を見直すと迫るが……。 何せ3時間を超える大作、多くのキャストが登場するが、相関関係が実にわ かりやすい。また映像も、無駄なロングカットを省き、きびきびと展開するた め、見やすく飽きない。長編映画の難点を見事に封印しており、編集の巧さが 光る。 ストーリーも丁寧に練られている。様々な人間模様の中で、核となっている のは、かつて同士だった恩地と行天の性格の違いによるその後の軌跡、恩地と 家族の関係、恩地と遺族たちの関係、そして乱脈経営を続ける会社とそれを利 用する政治家の関係である。 出発は同じだった恩地と行天は、その後鮮明な対比をみせる。矜持と順応、 清濁の感覚、全てに違いが際立つ2人をみていると、恩地は昭和型、行天は平 成型の人間像を感じる。筋を通さず、目をつぶって"対応"する行天タイプが多 い昨今だから、この映画の最大のテーマである恩地の毅然とした態度と決断が よけいに際立ってみえるのかもしれない。 もう一人、改革派の旗手として国民航空に送り込まれる国見も恩地と同じく 意思と熱い心を持って改革に取り組むが、政治によって登用された彼が、政治 によって幕引きを図られる皮肉な構図に考えさせられる。 「国民航空」とは、現在存続問題で揺れるあの航空会社のことであり、登場 する政治家も何となく名前や雰囲気が当時の誰かに似ているようで興味深く、 休憩時間にはあちこちで、「利根川総理って○○○かな」とか、「竹丸副総理 って○丸のことじゃない?」といった会話が飛び交っていた。 素晴らしい演技を披露してくれた豪華キャストのうち、渡辺謙、石坂浩二、 それに自分が飛行機での帰省を手配して息子一家を全員失った遺族役の宇津井 健の3人は、ともにこれまでみた中で最高の演技だ。とかくオーバーアクショ ン気味な渡辺謙が、今回は動きに頼らず表情の緩急で自然さを通したことが成 功している。 近年、三浦友和は以前の優等生的イメージから大きく幅を広げ大活躍してい るが、今回もまたパンチの効いた演技でヒール役の行天を見事に表現している。 もう一人、かつての労組仲間で恩地を慕い、大手町支店の窓際に追いやられ、 やがて行天の手下として裏の仕事をさせられる香川照之も、彼らしさが良く出 ている。利根川総理役・加藤剛、竹丸副総理役・小林稔侍、経営陣の一角でや がて”国航商事”会長に登り詰める八馬役の西村雅彦、恩地に同情するカラチ 支店長役・大杉漣、総理の参謀役として暗躍する右寄りの元軍人、龍崎役の品 川徹らも、それぞれ良い味を出している。 対して女性キャストはやや弱い。恩地の妻りつ子役・鈴木京香はのっぺりし て抑揚がなく、娘の純子役戸田恵梨香はあきらかに技量不足だ。事故のショッ クからアル中になる遺族を演じる木村多江も、毎回不幸な女役でイメージが固 定してきている。そんな中、客室乗務員として労組に関わり、行天の愛人でも ある美樹役の松雪泰子が、なかなかの存在感だ。自分のプライベートのために フライトを代わってもらった後輩が事故に遭い死亡するエピソードや、人間と しての自分と、恋人との自分の間で揺れる心理をよく体現している。 “国民航空”は、普通の民間企業とは成り立ちが違う。国が設立、運営に関 わった、いわば政府系の航空会社なのだ。その中で利潤を追求する経営陣と、 それにありつく政治家により運賃は跳ね上がり、安全を二の次にして海外のホ テル買収や為替差額偽装によって裏金を捻出し、労働側を分断するためにいく つも労組を作り、パイロットを管理職にして文句を言わせない工作をしてきた、 という筋書きは、現実のあの航空会社の事例とダブる。この映画は、実在会社 の諸問題をもわかりやすく提示し、その背景に政府がからんでいる事も示唆し ている。 つまり本作を観ると、かの会社の暗部もわかってしまう。日航が本作の公開 に強硬に抗議した背景は、そういう事情があるようだ。また政権が代わった このタイミングでの公開にも何だか巡り合わせを感じてしまう。 「詫び状一つ書けばそれでいいんだよ。これ以上家族に迷惑をかけるな」 行天のこのセリフには、本作の本当の問いかけが凝縮されている。周囲を気 にして、それに合わせ、損得だけで正義やポリシーを貫きにくい風潮。いろい ろな要素やドラマが含まれているが、若松監督と原作者山崎豊子が本当に描き たかったことは、そこなのではないだろうか。 ↓「沈まぬ太陽」公式サイト(予告編も観られます) http://shizumanu-taiyo.jp/ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ *ちょっと蛇足 「休憩」が新鮮でした。「行ってらっしゃい」「お帰りなさいませ」と映画館 のスタッフに声をかけられながらトイレや売店に向い、またみんなが元の席に 戻る…前半の整理と後半の期待を持ちつつ再開を待つ間が、特別な時間のよう に感じられました。良いものですね、なかなか。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ *次号予告 次号新作レビューは、「母なる証明」を取り上げる予定です。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ *You Tube紹介 今回は最初で最後といわれる、吉田拓郎と中島みゆきの共演映像を紹介します。 2006年、吉田拓郎のライブに、中島みゆきがサプライズ出演し、自身が拓郎に 書いた「永遠の嘘をついてくれ」をいっしょに歌ったものです。 さすがに2人共貫禄も気迫も充分、曲もとても良いです。You Tubeで初めて知 ったのですが、字余り感とメッセージが吉田拓郎にぴったり。他人に曲を提供 する時のお手本のようなハマリ具合です。とにかく素晴らしいステージで、中 島みゆきが去り際に、以前自分のスタッフを務めていたバックコーラスの坪倉 唯子の手を”頑張れよ”というようにポンと握って消えるのが印象的です。演 奏後のMCも拓郎らしい。 なんとなく今回取り上げた映画とも世界観が重なる曲です。それではこちらを。 ↓ http://www.youtube.com/watch?v=O9Bsp72aUbM&feature=related そしてすごいコピー(?)もみつけましたのでついでにどうぞ。 笑えますよ! ↓ http://www.youtube.com/watch?v=LSC9eE3arRQ&feature=related ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ シネマトコラム 発行者 上間秀彦 連絡先 g-note.uema@nifty.com 『まぐまぐ』感想フォーム↓ http://form.mag2.com/trigawiowo 発行板 *『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ 配信中止はこちら→ http://www.mag2.com/m/0000231303.html *『めろんぱん』http://www.melonpan.net/index.html 配信中止はこちら→ http://www.melonpan.net/mag.php?010476 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


