2009/10/08
シネマトコラムvol.105「空気人形」レビュー
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ シネマトコラム vol.105 (2009.10.8) *新作レビュー「空気人形」 *次号予告 *You Tube紹介 ペ・ドゥナの歌う「リンダ リンダ」 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ *新作レビュー 「空気人形」是枝裕和監督 (日本) ペ・ドゥナ、板尾創路、ARATAほか出演 びっくりした。斬新さと、主演の圧倒的な存在感にぐいぐい引き付けられる映 画だ。新境地を開いた是枝監督ももちろんだが、”心を持った人形”を演じた韓 国の実力派ペ・ドゥナが、素晴らしいインパクトを放っており、独特の世界観も 美術表現も、非常に作品性が高い。間違いなく今年の傑作の一つである。 下町の安アパートに住む秀雄(板尾創路)。ファミレスの接客係なのに対人関係 が苦手で独身の彼は、ビニール製のラブ・ドール”のぞみ”を相手に会話や散歩 を楽しみ、性欲の捌け口にもしている。ある日突然、人形が静かに動き出し、人 の心と言葉を持ったのぞみが現れる。メイド服を着て街に出たのぞみは、レンタ ルビデオ店の店員、純一(ARATA)に恋をする。やがて同店でアルバイトとして働き 始めたのぞみは、いろいろな人と出会い、人間社会のあれこれを理解してゆくが、 純粋な「人形」ゆえの誤解から事件が起こる……。 まず何よりペ・ドゥナが素晴らしい。パントマイムのようなひょこひょこした 歩き方、たどたどしい日本語、そしてよく動く大きな瞳がまさに人形的、絶品で ある。難易度の高い役どころを見事に演じきっており、本物の演技を全力で表現 する姿は圧巻だ。 この作品は、同じようで違うモノと、違うようで同じモノ、の交錯が一つの軸 になっている。「代用品」の価値、「燃えるゴミ」と「燃えないゴミ」の例えは 虚を付かれ、思わずハッとしてしまった。物理的にそのものを表す言葉と、比喩 的に言う同じ言葉の綾も、同様に作品の要所でキーとなっている。 もう一つの大きな特徴は、よく映画で描かれる感動狙いの人生や愛ではなく、 「生きもの」としての人間を表現していることだ。様々な「食」と「性」のシー ンが登場するが、そのどれもが個性があり、けれど普遍的だ。そして、心を持っ た人形は生きものなのか、という問いかけもテーマとしてじわりと効いている。 中年なのにオタクで、関西弁と相まってちょっとダメ加減が痛い秀雄、人は良 いが濃いめのレンタルビデオ店店長(岩松了)、職場に居づらいハイミスのOL( 余貴美子)、ニュースで事件があるたびに交番に行ってコメントをする婦人(富司 純子)、勤務外のギャップが可笑しい交番の警官(寺島進)、世をすえた老人(高橋 昌也)、独り作業の人形技師(オダギリジョー)……みんなどこか寂しく、哀しい。 けれど彼らは皆、人間臭い。一人だけ異質なのが純一だ。やさしく常識的で生活 も悪くない彼が、ある意味一番深淵を内包している。彼の行動と言動は、恋愛に おける男のある一面を鋭く突いていて、衝撃的な事件もそこに起因しているとこ ろが興味深い。 映像も特筆に値する。それもそのはず、撮影監督には台湾が世界に誇るリー・ ピンピン、美術監督には「スワロウテイル」「フラガール」の種田陽平と、精鋭 2人が起用されているのだ。古い町並みと高層ビルが同居するリバーフロント、 華やかで綺麗なモノたちと、対照的にささやかな居住空間で寂しさを抱えて生き るヒトたち。その対比を中心に、全編を通して映像のクオリティーは申し分ない。 映像に定評のある是枝監督が、あえて自分以上の映像美を求めたと思われ、美術 表現にとても重点を置いて作られている。 「音」も魅力だ。空気の抜ける音、息を吹き込む音、ラムネの瓶や風鈴の音、 それらの音が生きている。そして、岩清水を思わせる澄んだ音色で沁み入る音楽 もまた実に響く。 是枝監督には、またしても脱帽である。原作は業田良家の漫画だが、みごとに 映画に昇華させた。前半は、突飛な設定と風景描写が中心なので、雰囲気をみせ るアートムービーなのかなと思いきや、終盤一気に息を呑む展開が待ち受けてい て、最後に来て、それまでの劇中のあれこれや言葉が、意味を持って降りかかる ニクイ作りにすっかりやられてしまった。前半は叙情的、後半はシュール。現実 離れした設定にもかかわらずブレがないのは、監督・脚本・編集をすべて一人で こなしたからだろう。 生々しい性的描写もあり、ペ・ドゥナはふんだんにヌードを披露していて、エ ロティシズムも充分。しかしそれを売りにした映画ではないので、観た後は少し もいやらしさが残らない。官能表現の仕上がりの良さも、この監督ならではかも しれない。 試写当初から映画業界人たちの注目を集めたそうだが、公開後、一般の観客の 反響も大きく、現在ちょっとした話題作となっている。劇場も8割方席が埋まり、 関心の高さがうかがえた。 ↓「空気人形」公式サイト(トップページで予告編が観られます) http://www.kuuki-ningyo.com/index.html ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ *次号予告 次号新作レビューは、「私の中のあなた」を取り上げる予定です。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ *You Tube紹介 ペ・ドゥナ繋がりで、今回は彼女のたどたどしい日本語の歌「リンダリンダ」 です。2005年の映画「リンダ リンダ リンダ」より。急遽ボーカルに仕立てら れた韓国の留学生が文化祭でブルーハーツの曲を歌うまでを描いたみずみずしい 青春映画ですが、この時の演技も素晴らしく、日本の映画ファンにペ・ドゥナの 存在を知らしめた出世作です。実年齢よりだいぶ下の女子高生役を、全く違和感 なく演じていて表情も突出していました。これは山下敦弘監督の作品ですが、今 回の是枝監督のペ・ドゥナ起用は、たぶんこの時のイメージが元になったのでは ないかと推測されます。 ちなみに他の女の子たちは、ギターが香椎由宇、ベースがBass Ball Bearの関根 史織、ドラムは前田亜季です。演奏はあくまで文化祭レベルで稚拙ですが…。 ↓ http://www.youtube.com/watch?v=CQQUEicr6d8&feature=related ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ シネマトコラム 発行者 上間秀彦 連絡先 g-note.uema@nifty.com 『まぐまぐ』感想フォーム↓ http://form.mag2.com/trigawiowo 発行板 *『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ 配信中止はこちら→ http://www.mag2.com/m/0000231303.html *『めろんぱん』http://www.melonpan.net/index.html 配信中止はこちら→ http://www.melonpan.net/mag.php?010476 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


