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公開中の新作を中心にわかりやすく、かつ踏み込んだレビューとコラムをお送りします。どちらかというと娯楽性より作品性重視の視点です。バックナンバーもご覧いただき、よろしければぜひ。

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  • 最新号 2009/11/18
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2009/07/06

シネマトコラムvol.96「ディア・ドクター」レビュー

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シネマトコラム vol.96 (2009.7.6)

 *新作レビュー「ディア・ドクター」
 *次号予告
 *映画以外のコト

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*新作レビュー
「ディア・ドクター」 西川美和監督 (日本)
笑福亭鶴瓶、瑛太、八千草薫、余貴美子、香川照之ほか出演

 西川美和監督の注目の新作は、静謐かつ緻密な、見ごたえある人間ドラマに
仕上がっている。前作「ゆれる」のような衝撃性はないが、映像も脚本もこち
らの方が完成度が高く、老若男女どの層が観ても心に届く一本といえる。

 田舎の小さな村が舞台。村に一軒の診療所の医師、伊野(笑福亭鶴瓶)が突然
失踪し、大騒ぎになるところから映画は始まる。
 二ヶ月前、医大を出た若い研修医、相馬(瑛太)がやってくる。田舎ならでは
の様々なハプニングや難件を、看護婦の大竹(余貴美子)とともに誠実に治療に
当たる伊野の姿に、相馬は共感する。一人暮らしの老婦人、鳥飼かづ子(八千
草薫)を診た伊野は重病に気付くが、当のかづ子に頼まれ、やむなく嘘を通す。
 かづ子の病状の悪化と心の葛藤、そして伊野はさらに重大な別の「嘘」を抱
えていた……。

 誰からも好かれ、頼られる地域の赤ひげのような”先生”の本当の姿……経
験豊富な大竹と、薬剤納入業者の斉門(香川照之)が両脇を固めてはいるが、腕
はあやしい。過疎の村の医療の実状を挟みつつ、気がつくと物事の表と裏をさ
らりと表現していて、さらにその先にある、善と悪の線引きの微妙さにレンズ
は向けられている。
 大学病院に勤務する忙しい娘のりつ子(井川遥)を煩わせたくない、昔気質の
かづ子の心理と、逆にそれを知ったりつ子の思い、ぬくもりの実感のある医療
にひかれていく相馬、それぞれの立場での心境がとても的確で丁寧に描かれて
いる。決して情を強調することなく、涙に頼りもせず、きわめてニュートラル
に描ききっている。作品性の高いテーマやからくりがあるにもかかわらず、全
編をホームドラマ風にまとめたことが成功している。「ゆれる」は、インパク
トはあったが、矛盾や無駄が散見され甘さを感じたが、本作はテンポも、脚本
も、演出も格段にレベルアップした印象で、今度は素直に感嘆した。この若さ
でこれだけのものを撮る西川監督は、やはりただ者ではない。

 映像がまた素晴らしい。水田のカットが時折入るが、思わずハッとするよう
な美しさで、水田の緑と相馬の真っ赤なオープンカーとの対比や、伊野のバイ
クが走り抜けていく光景は、まるで写真集のようだ。
 
 本作のもう一つの見所はキャストだろう。
 こんなに適材適所でピタリとはまる邦画は珍しい。一人としてミスキャスト
がなく、全員がそれぞれの持てる実力を存分に発揮している。実は観る前の一
抹の不安は主役の笑福亭鶴瓶だった。田舎が舞台というので、NHKの「家族に
乾杯」のままなのでは、と思ったのだが心配ご無用、緊張感と汗の似合う伊野
になりきっていた。八千草薫も言うことなし。他人の世話になったり、見苦し
い姿をみせるのが「恥かしい」という、凛としてつつましいかづ子役は絶妙の
配役だ。瑛太も技量最大限にさわやかに演じているし、井川遥も好演だ。この
人はモデル出身ながら割と演技も出来る。他にも刑事役の松重豊、岩松了の中
年コンビ、お調子者村長役の笹野高史、快活な外科医役の中村勘三郎ら、脇役
も豪華な芸達者揃いだ。
 その中でも、ひときわ印象に残ったのは大竹看護婦役の余貴美子。今回は、
「目」の演技が圧巻。なんだろう、この人、近年どれ観てもものすごい表情を
みせる。今回は「おくりびと」の時よりさらに名演。必見である。

 ほとんど隙がないが、伊野の周辺の人たちの後日談は最後にまとめた方がよ
かった。途中で何度か時間軸を前後させる構成は、この作品には不要だと思う。
また伊野は茨城出身なのに、イントネーションが関西っぽく、鶴瓶のままとい
うところがわずかなエラー。あとはほぼ完璧だ。

 観終ると、監督が書き下ろした原作本の「きのうの神様」というタイトルが
絶妙に感じられる。同短編集が直木賞候補になっているが、映画の方も今年の
邦画の各賞を席巻しそうな気がする。

 「ディア・ドクター」公式サイト(予告編も観られます)
http://www.deardoctor.jp/

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*次号予告
次号新作レビューは、「サンシャイン・クリーニング」を取り上げる予定です。
「リトル・ミス・サンシャイン」の製作陣による、これまた楽しみな新作です。

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*映画以外のコト
 最近、「You Tube」で音楽の映像を観るのが日課になっています。
歌っている姿を見ると、耳で聴くだけとは違った印象が生まれます。おかげで
年齢とともに離れていた音楽も、また聴いて(というか観て)います。新しい才
能も発見出来ます。現在のイチオシは「たむらぱん」という女性シンガーソン
グライター。爽快でありながら沁みるメロディーラインとまっすぐに伸びるボ
ーカル、陽と陰を使い分ける詞、様々な歌唱法、なかなか幅があって、宇多田
ヒカル、椎名林檎以来久々にメロディーと歌詞でイケる人かなと。独創的でユ
ニークなキャラも魅力的です。
 有名になる前に紹介しときますんで、気になる方はチェックしてみて下さい。
「ちゃりんこ」、「ゼロ」、「ライ・クア・バード」あたりがおすすめです。

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シネマトコラム

 発行者 上間秀彦
  連絡先 g-note.uema@nifty.com
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