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2009/05/02

シネマトコラムvol.89「グラン・トリノ」レビュー

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シネマトコラム vol.89 (2009.5.2)

 *新作レビュー「グラン・トリノ」
 *次号予告

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*新作レビュー
「グラン・トリノ」 クリント・イーストウッド監督 (米)
クリント・イーストウッド、ビー・バン、アーニー・ハーほか出演

俳優としてはこれが最後の出演作品となることを表明したイーストウッドから、
またしても快作が届けられた。シンプルで身近なところにテーマを据えながら
主人公らの思想や行動には「アメリカ」の姿が重なり、まさに彼の映画目線の
集大成のような力作に仕上がっている。

妻に先立たれた老人ウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)は、
札付きの頑固じじい。若者の無礼さを許せず、隣人のアジア系モン族の一家に
は差別用語を浴びせる。暴言を連発しすぐにライフルを持ち出す彼に寄り付く
人はおらず、2人の息子や孫からも煙たがられている。
隣家の気弱な少年タオ(ビー・バン)が親戚の不良グループに脅され、ウォルト
の宝物であるビンテージ・カー「グラントリノ」を盗み出そうとしたことから、
隣家とのつきあいが始まる。タオの姉スー(アーニー・バー)の気丈な仲介によ
り次第に異文化や人柄に心を開くウォルトは、かつて戦争で培った武力と迫力
でチンピラどもをたびたび追い払うが攻撃はエスカレートし、ついに事件に発
展する。このままではタオやスーに将来はないと悟ったウォルトは、残り僅か
な自らの命をかけて、最終行動に出る……。

見所はたくさんある。
まずイーストウッド演じるウォルトの”横暴ぶり”。武骨で偏見だらけの彼は
常にぶつぶつ文句を言うのだが、的を得ていたりピントが思い切りずれていた
りで、これがなかなかおかしい。
フォードの熟練工だった彼は、トヨタのセールスをしている息子が許せない。
異民族も嫌いで、可愛がるのは愛犬デイジーだけ。隣家のばあさんとは特に相
性が悪く、言葉が通じないのをいいことにいつもののしるのだが、老婆も実は
モン族の言葉で暴言を吐いているのが笑える。
そんなわけで前半は、けっこうくすっと笑えるユーモアに満ちていて、らしか
らぬ小さなドラマを軽快にみせる。
暴漢たちを追い払うと、モン族の人たちがウォルトの玄関先に食べ物や花やそ
の他いろいろなものを次々と置いてゆき、いささか過剰な感謝の形にウォルト
は唖然とする。隣家の住人を”米食い人種のネズミども”と揶揄していた彼が、
意外に美味しいモン族の料理につられ、彼らの中に入ってゆく姿も滑稽である。

その「モン族」のしきたりや人間性も本作ならではの新鮮な見所。ベトナム戦
争時に米軍の支援をした関係でアメリカ本土に移り住み、今も相当数の人達が
米国内で暮らしているそうだ。

後半、ウォルトは不良グループとの小競り合いで、悪を力でねじ伏せる姿勢を
貫き優勢に立っていたが、ついに本気の反撃に遭い、彼はその先取るべき行動
を考える。男の美学、人生の決着、そして戦争以来彼を覆う贖罪の気持ち……
彼の選んだ方法は哀しくカッコイイ。これぞイーストウッドの世界である。

本作はストーリーがシンプルなので、展開のどんでん返しはなく、なんとなく
結末も感じ取れるのだが、わかっていてもなお息を呑む終盤と、ガツンとくる
衝撃と感動を鮮明に残すこの人の技量に、またしても感服である。
欲を云えばタオの未来が最後にワンカット入っていれば、なお余韻が残ったと
思う。また前作「チェンジリング」もそうだったが、わかりやすい半面、意外
なからくりや、あっ!という結びつけはみられず大胆さは陰をひそめた感があ
る。しかし隙のない構成とテンポ、不足ない演技、インパクト、どれをとって
も良く出来ており、映画作品としての完成度は申し分ない。

キャストでは何といっても俳優としてのイーストウッドが素晴らしい。屈強で
迫力充分。この歳になるとたいがいは好々爺の役に転じるものだが、アクショ
ンも力仕事のシーンもパワフルそのもの。とても78歳とは思えず圧倒される。
タオ役のビー・バンと、スー役のアーニー・ハーは共に新人らしい初々しさと
アジア系らしいたくましさが感じられた。他に序盤からしばしば登場し、ウォ
ルトの心と向き合う新米神父役のクリストファー・カーレイ、ウォルトの行き
つけの床屋の主人役、ジョン・キャロル・リンチも好演である。

思えば、イーストウッド作品には昔から「銃」がたくさん登場してきた。
正義のために撃ちまくる「ダーティー・ハリー」の主人公、言われたとおりに
従って撃たれてしまう「ミスティック・リバー」の幼なじみ……立場は様々だ
が、銃による決着が多い。今回も御多分に漏れず銃社会アメリカの影が遠慮な
くスクリーンをよぎる。しかし本作のラストの主人公のあり方は、これまでと
は一風変わっている。その姿に、変わり始めたアメリカを、あるいはそんな願
いを比喩的に表現した、とみるのは深読みしすぎだろうか。

「グラン・トリノ」公式サイト(予告編も観れます)
http://wwws.warnerbros.co.jp/grantorino/

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*次号予告
次号新作レビューは「チェイサー」、または「レイチェルの結婚」の予定です。

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シネマトコラム

 発行者 上間秀彦
  連絡先 g-note.uema@nifty.com
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