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公開中の新作を中心にわかりやすく、かつ踏み込んだレビューとコラムをお送りします。どちらかというと娯楽性より作品性重視の視点です。バックナンバーもご覧いただき、よろしければぜひ。

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2009/04/24

シネマトコラムvol.88「スラムドッグ$ミリオネア」レビュー

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シネマトコラム vol.88 (2009.4.24)

 *新作レビュー「スラムドッグ$ミリオネア」
  *ちょっと蛇足
 *次号予告

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*新作レビュー
「スラムドッグ$ミリオネア」 ダニー・ボイル監督 (米、英)
デーヴ・パテル、フリーダ・ピント、マドゥル・ミッタルほか出演

インドを舞台にした、困難を生き抜く孤児の主人公らの「軌跡」と「奇跡」の
物語。ご存知のように無名の作品ながら評判を呼び、ついにアカデミー賞8冠
に輝いた本作は、映画自体もセンセーショナルなサクセス・ストーリーとして
話題をさらった。

国民的人気テレビ番組「クイズ・ミリオネア」に出たスラム育ちで無学の若者
ジャマール(デーヴ・パテル)は、難問を次々とクリアーし、莫大な賞金まであ
と一問というところで警察に連行され、不正の疑いで尋問を受ける。
しかし彼が語る一つ一つの回答の背後には、自らの壮絶な過去と偶然があった。
ボンベイで生まれた彼は、幼少期に宗教間の争いにより目前で母親を失い、兄
のサリームと、やはり親を失った少女ラティカと共に放浪生活を送る。やがて
彼らの前に親切な男たちが現れるが、彼らは恐ろしい搾取集団だった。逃げる
過程でラティカと生き別れてしまうが、兄弟は物乞いや盗み、インチキ観光ガ
イドなどをして逞しく生き抜く。サリームは悪の道をまっしぐら。一方携帯電
話会社の雑用係をして地道に生きているジャマールは、初恋の相手でもあるラ
ティカが忘れられず彼女を捜すのだった……。

各方面で大変高評価の話題作で、観るのをとても楽しみにしていた一本だった。
実際に観てみると、ロケ地同様素晴らしく突出した部分と陳腐な部分が同居し
た映画という印象を受けたので、ここはひとつ冷静に触れていきたい。

スクリーンからほとばしる生命の躍動感、それが本作の最大の魅力である。そ
してそれを際立たせているのはまぎれもなく、巨富と極貧、善と悪の両極端が
当たり前のように存在するインドという地の鮮烈さではないだろうか。
ものの5分で圧倒的な映像の強烈さと新鮮さに目を奪われる。スラム街を上空
から撮った広角のカットのパッチワークのようなトタン屋根、泥水の川に浸か
る人々、カラフルな路地裏、うず高く積まれたゴミの山……幼少期のジャマー
ルらの、まるで昭和の日本の子供たちを彷彿させるような、泥だらけで駆け回
る姿は感性を強く刺激し、生命力のパワーに圧倒される。

苦境や社会の裏側を織り交ぜ、少年期から青年になった彼らはそれぞれの自我
と境遇により違った道で生きるが、ジャマールが抱くひたすらまっすぐなラテ
ィカへの想いを軸に後半はストレートな純愛路線に振っていく。
なぜジャマールがミリオネアに出たのか、なぜ彼が難問を正解できたのか、と
いう興味を重ねつつ、軸はあくまでも彼の無垢な気持ちと純愛なのだ。

全編を通じエピソードの豊富さに比して、テイストは拍子抜けするくらい明解
だ。取調べと番組のショットと、質問ごとに過去のエピソードを交互に織り交
ぜるサンドイッチ形式で構成されていて、3人も幼少期、少年期、青年期とパ
ートごとに子役を配し、それぞれを3人ずつで演じ分けているが、つながりは
スムースで違和感はない。
いろいろな要素が入ってはいるもののストーリー自体はシンプルで、核となる
人間のからみや展開も案外ベタな味付けだ。また人間ドラマにしては「行間」
がなく余計なものは極限まで削ぎ落とされている。その分サラームや肝心のヒ
ロイン、ラティカの心理変化の描写が薄く、行動の動機づけも明らかに不足気
味、結果オーライでまとめた感じだ。

ジャマール役デーヴ・パテルはまずまずだが彼は英国人。どうせなら主役もイ
ンドの役者を抜擢して欲しかった。ボリウッドの役者マドゥル・ミッタルの方
が演技にキレがあったので余計そう感じた。
会話も大部分は英語で、これもやや不自然。ヒンズー語と英語の割合を逆にし
たら、よりリアルになったはずだ。
音楽のセンスは文句なく素晴らしい。80年代のポップスのようなキラキラした
アレンジの主題歌は勢いと哀愁の両方があり、一度聴くと耳に残る。

彩度が充分とはいえず画質も粗めだが、低予算で作ったのだからこれは仕方な
い。誰でも内容がわかり、様々な映像を盛り込んでこれまた万人向けのサクセ
スストーリーに昇華させていることが世界各地で受け入れられた最大の理由だ
ろう。素材の新鮮さや社会性も入ってはいるが、本質は困難を生き、純愛を成
就するよくあるパターンで、とにかくわかりやすく、ハッピーエンドでないと、
という人向きの娯楽作品といえる。逆に重厚さや深みを求める人にはもの足り
ないかもしれない。
何でもあるようで、しかしいま一つ何かが足りない。そんな思いが残った。で
ももしかしたらそれも、つまり満足するかどうかよりも、印象が強く残ること
を第一に作ったのかもしれない。やっぱりこの作品は無の勝利なのだ。

「スラムドッグ$ミリオネア」公式サイト(予告編も観れます)
http://slumdog.gyao.jp/

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*ちょっと蛇足
この映画、キャストの実話もまたスゴイ…
クイズ番組司会役の実力派俳優アニル・カプールは、住民票のない子供達のた
めに本作のギャラをなんと全額寄付したそうです! という美談があるかと思
えば、幼少期のラティカ役の子役ルビアナ・アリちゃんの両親が、なんと本人
をアラブの富豪に高額で養子に出すことを画策し、親族が「この子はオスカー
作キャストだから」と一般的相場の何倍もの値段をふっかけて交渉してことが
明るみに出て、人身売買疑惑で父親が逮捕されたとか……。
いやーやっぱりインド、現実はさらにスゴイ価値観の共存です。

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*次号予告
次号新作レビューは「グラン・トリノ」を取り上げる予定です。

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シネマトコラム

 発行者 上間秀彦
  連絡先 g-note.uema@nifty.com
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