2009/02/19
シネマトコラムvol.83「少年メリケンサック」レビュー
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ シネマトコラム vol.83 (2009.2.19) *新作レビュー「少年メリケンサック」 *次号予告 *映画以外のコト ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 新作レビュー 「少年メリケンサック」 宮籐官九郎監督・日本 宮崎あおい、佐藤浩市、木村祐一、田口トモロヲ、三宅弘城ほか出演 痛快でブッ飛んだクドカンワールドの快作だ。ダメさ加減が半端じゃない中年パ ンクバンドの面々と、これまでの優等生的イメージを覆した宮崎あおいのはじけ 具合が見事に融合し、強烈で泥臭い人間ドラマに仕上がっている。下品でおバカ なギャグばかりでなく、普遍的な人間関係の妙やグッとくる言葉は風刺が効いて おり、なかなかどうして作品性もあなどれない。 レコード会社で新人発掘を担当するクビ寸前の契約社員、かんな(宮崎あおい)は、 インターネットでイカれたパンクバンド「少年メリケンサック」をみつける。 初めは相手にしなかったお調子者の社長(ユースケ・サンタマリア)も、試しに流 した動画のアクセス数の多さに驚き、契約にゴーサインを出す。 喜び勇んでメンバーの元に向かったかんなの前に現れたのは、乱暴で汚い大酒飲 みの中年男だった。実はネットのライブ映像は25年前の、しかも解散ライブのも の。失望するかんなだが、可能性に賭けバンドの再結成を呼びかける。そして仲 の悪いアキオ(佐藤浩市)とハルオ(木村祐一)兄弟と、事故の後遺症で半身不随、 言語障害の残るジミー(田口トモロヲ)、気の良いモヒカンのヤング(三宅弘城)が 集まる。 ライブツアーを始めるかんなと彼らだが、個性の強いダメ中年たちは行く先々で 騒動を引き起こす。一方かんなは優しい癒し系ながら芯のない歌手志望の彼氏マ サル(勝地涼)との関係にも疑問を感じ始めていた。果たして少年メリケンサック とかんなの顛末は……!? 主題がパンクだから当然アナーキーである。その怪しくキワモノめいた空気感が ひどく新鮮に思える。考えてみると現在はすべてが小さくまとまって普通に何で もありなようで実はみんな似たようなモノや、生活や、価値観に囲まれてフツー に生きている。生み出される音楽もまたフツーにやさしくまとまったものばかり。 かんなの彼氏、マサルの”君を大切に思うよ”、”行かないで”と歌う癒し系の 弾き語りは、まさに現在の音楽シーンを表している。 「今の連中がつまんねえから俺たちが新鮮だったんだろうよ」。 アキオのひと言はそのまま現在の音楽シーンにも通じる気がする。通り一遍の生 ぬるい状況にカツを入れるような、宮籐監督のそんなメッセージを感じた。 だからパンクなのだ、きっと。 粗暴でトラブルメーカーのアキオと、無口で偏屈なハルオの兄弟の対比が強烈だ。 しかしともに良いところもあり、時折ずしんと響くセリフを言う。ダメなキャラ をダメだけで終らせず、人間にはいろいろな意外な面があるということをうまく あぶり出している。 また過去のトラウマや確執、理想と現実、老親の介護など、ハチャメチャな中に も中年世代の心の内が描かれていて、案外ある程度年を重ねた人たちの共感を呼 ぶ映画かも。 キャストは意外性と実力がうまくマッチした絶妙の配役で、宮籐監督の眼力が光 る。 まずなんといっても宮崎あおい。正直これまでこの人の演技を良いと思ったこと は一度もなかったのだが、本作のかんな役は100点満点だ。表情の動き、パンチ の効いたセリフ回し、真面目で模範的な役どころばかりを求められてきた彼女が 別人のようにはじけていて、最初から最後まで圧倒されっぱなしだった。とにか く本作の宮崎あおいはすごい。必見である。 佐藤浩市も毎度ながら文句なしの熱演、キム兄も存在感充分だし、田口トモロヲ、 三宅弘城もばっちりはまっている。近寄りがたいトップシンガ―TERUYA役の田辺 誠一、テレビの報道番組キャスター役の中村敦夫も非常に良い味を出していた。 また銀杏BOYZ、SAKEROCK、アナーキー、ザ・スタークラブといった現役バンドメ ンバーたちも大勢参加している。曲がった鼻が笑える元マネージャー役、ピエー ル瀧もバンド(電気グルーブ)から役者に転向した人だ。 ライブハウスやスタジオの臨場感など、徹底的にバンドを取り巻くシーンが極め てリアルに撮られていることからも、監督の音楽志向がよくわかる。 下品でノイジーな4人の貧相なライブツアーはさながらB級バンドのロードムービ ーのようでもあり、挿入される各地の風景がなぜか美しく感じる。後半は人間ド ラマを強く描き、でも最後はパンクらしく、ありがちな美談やハッピーエンドに 着地しないところがすがすがしい。 宮籐官九郎は軽すぎるイメージがあったのだが、今回は内容的にも過不足なく、 ちょうど良かった。テーマの設定、風刺の効いた笑い、そして宮崎あおいの違う 面を引き出した力量、さすがである。ケチをつれるとすれば、パンクなんて嫌い なかんなが彼らの何に引き付けられたのか、それが最後まで曖昧なことだろうか。 ある程度観る人を選ぶ作品ではある。パンク、下品、ブラックユーモア……こう いうのが苦手な人には向かないかもしれない。しかし間違いなく今年の邦画の上 位に入るであろう脳裏に強く残る映画だ。 ↓「少年メリケンサック」公式サイト(予告編も見られます) http://www.meriken-movie.jp/ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ *次号予告 次号新作レビューは「チェンジリング」を取り上げる予定です。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ *映画以外のコト 先日行なわれたエルサレム賞の授賞式での作家、村上春樹氏の姿勢と言葉がとて も心に残りました。 ご存知のようにこれはパレスチナへの軍事攻撃が過剰防衛ではないかと世界各国 から非難されているイスラエルの文学賞であるため、どうしても政治的背景を考 慮することを余儀なくされます。しかし同氏の取った行動は欠席でも授賞拒否で もなく、出向いて行ってスピーチで自らの考えを述べる、というものでした。 日本人はとかく面倒なこと、大きな問題がからむことから目を背けがちなだけに、 紛争を壁と卵に例えた詩的なスピーチも味がありましたが、「何も話さないより、 話すことを選びました」という姿勢が何より印象的でした。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ シネマトコラム 発行者 上間秀彦 連絡先 g-note.uema@nifty.com 『まぐまぐ』感想フォーム↓ http://form.mag2.com/trigawiowo 発行板 *『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ 配信中止はこちら→ http://www.mag2.com/m/0000231303.html *『めろんぱん』http://www.melonpan.net/index.html 配信中止はこちら→ http://www.melonpan.net/mag.php?010476 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



