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2009/09/26

★映画通信シネマッシモ Vol.126「空気人形」

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2009/09/26  Vol.126「空気人形」

◆プチレビュー◆
心を持った人形の異色ラブ・ファンタジー。ペ・ドゥナの素晴らしさはただご
とではない。 【90点】

 東京の下町の古いアパートで持ち主の秀雄と暮らす空気人形は、ある朝、持
ってはいけない“心”を持ってしまう。秀雄が外出した後に人形は動き出し、
一人で街へ。様々な境遇の人々に出会う中、純一という青年に恋をする…。

 孤独感とエロティシズムとファンタジーがこれほど見事に融合した作品が、
かつてあっただろうか。空気人形とは、要するに、性欲を満たすためのダッチ
・ドールのこと。リアルな高級品ではなく、空気を入れて膨らますビニール製、
型遅れの安物である。キーワードは“からっぽ”という言葉だ。偶然に心を持
ってしまった空気人形は、世界の美しさに感動し、街中をさまよい歩くうちに、
人間たちも皆、何らかの“からっぽ”を抱えて生きていることを知る。これは、
空虚感を不思議なシンパシーで受け止める空気人形の、切ない冒険物語だ。

 人形が出会う人々は、代用教員だった老人、交番通いが趣味の未亡人、過食
症の若いOL、うっ屈した浪人生など。皆、寂しくて悲しげだ。持ち主である
ファミレス店員の秀雄も孤独な中年男で、彼女とのセックスに飽きたら次の人
形を買い求める。そんな中、空気人形が惹かれていくのは恋人を亡くしたらし
いビデオ店の青年・純一。彼の心の中に自分と同じテイストの“からっぽ”感
を感じ取ったことが、やがて残酷な運命を引き寄せることになる。

 やるせなさが漂う物語の中、慈愛に満ちているのが、オダギリジョー演じる
人形製作者と空気人形の会話だ。初めて恋をした彼女は、一度きりの人生を生
きると決意したものの、持ち主の秀雄の「もとの人形に戻ってくれ」との言葉
に傷つき、生みの親である人形師に会いに行く。すると彼は「おかえり」と優
しく語りかけた。何も聞かずに受け入れる人形師は神のような存在に思えるが、
空気人形が言う「生んでくれてありがとう」の言葉を聞いた時の哀しげなまな
ざしを見ると、彼もまた虚ろな心を抱えた人間のひとりだと気付かされる。

 他人とつながることへの切望。それゆえの孤独。物語は深淵で稀有なものだ
が、この独特の世界観を支えているのが人形という難役を演じる韓国人女優ペ
・ドゥナだ。たどたどしい日本語が、初めて世界を知る人形の心情に見事にフ
ィットする。何よりも透明感溢れるエロティシズムを醸し出す彼女の演技は、
大胆かつ繊細で、素晴らしいとしか言いようがない。特に、誤って皮膚を傷つ
け空気が抜けてしまい、純一に、おなかの空気穴から息を吹き込まれるときの
恍惚の表情は、神がかり的に絶品だ。心と身体の関係性を、これほどリリカル
に表現する女優を、私は今まで見たことがない。その感情の揺れを艶やかなカ
メラワークでとらえる国際派カメラマン・リー・ピンビンの映像もまた秀逸だ。
 
 心を宿し恋をした“風変わりなピノキオ”空気人形は、現代の空虚な人間の
姿を照射しているのだろうか。「心を持つことは切ないことでした」とのセリ
フが深く胸にしみる。代用品ではなく自分を必要とする人に愛されたい。誰も
が感じる切実な思いだ。都市生活者の孤独をスケッチし、切ない恋の顛末を描
くが、その先に広がるのは新しい形の希望に他ならない。その証拠に、空気人
形の名前は「のぞみ」だ。才人・是枝裕和監督の新境地と呼びたい傑作である。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)切なさ度:★★★★★

□2009年 日本映画
□監督:是枝裕和
□出演:ペ・ドゥナ、ARATA、板尾創路、他

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     編集・発行:映画ライター・渡まち子 machiko watari
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