[VT]うそまこと其之弐十参〜アンザッツの第1回目〜
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[VT]うそまこと其之弐十参〜アンザッツの第1回目〜
こんにちはヰ崎です。
皆さんお待ちかね?(というほどでもないんだよなきっと。)
恐らくもっとも有名で、
初心者にも教えやすく、
ある意味ではもっとも地道なトレーニングメソッドである、
“アンザッツ”についてお送りしまっす。
本シリーズでも何度か断片的に触れてきました。
そういう意味で「ようやく」です。
今号の内容は概要になります。
練習方法は次回以降で述べますので薀蓄は不要という方は次号をお待ちください。
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1.アンザッツとは
ansatz(独)は、英語でいうと"on set"とか"set-up"といった意味だそうで、
器楽においては「音を発する体勢」とか、「発音に備える」、「構える」
といった普遍的なことなのですが
声楽においてはもう少し特別な用語になっています。
その概要は"身体の特定の部位に声を集める"ということです。
(日本では同じ意味で他に「当てる」、「おく」、「向ける」、「響かせる」
などと言い回しますが、
いずれも同じ事象というか所作のことです。
英語圏ではplacingということが多いのかな。
ちなみに、同じくドイツ語由来の声楽用語に“アインザッツ”というのもありますが、
別な用語です。)
例えば「額へアンザッツする」、または「額へ当てる」といえば、
“声を出しているとき額に振動を感じるように発声状態を調整する”ことです。
額に響きを感じるような、額へ向かって声が飛んでいくような、
あるいは額から直接音が発せられているかのような
そういう感覚を伴う声の出し方を探り、
その感覚がさらに強く現れる歌い方に収束させていく、、、という訓練です。
○アンザッツとは任意の身体部位を意識し、そこへ声を向ける作業です
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◆アンザッツの利点
論理的かつ機構的な根拠があるという理由で(特にフースラーの)アンザッツを奨める人も多いと思いますが、
結局のところ理論的に考える人って歌をやる人の内では少数派なんですよね。
更にいえば「論理的な練習法だから(そういう裏づけを持たない方法より)効果が上がる」とは限りません。
騙される人が多いのですがそれこそ論理を欠いた判断です。
アンザッツの長所を挙げると
・具体的である
・指導する側で経験を蓄積しやすい
・方法と効用が整理されている
といったところです。
一応説明しておきますが、
具体的というのは、もうお解かりかと思いますが
額だとか胸だとか体の一部を示すことで特有の感覚を共有できるということ(が前提なんですけど)
については殆どの指導者は了解していますし生徒も納得するでしょう。
これは「地声と裏声の区別」と同じくらい共有しやすい感覚です。
当然、生徒と教師の間でも通じ合います。
つまり生徒が何をやっているか教師が把握しやすいので指導法として確立できる、
すなわち実績がある。
独学の場合にも自己の訓練法として構築しやすいということです。
そして、
やはり蓄積された経験情報を共有し合えるからこそですが
「どこに当てたらどういう効果があるか」という結論がある程度出ていて
整理されている。従って実施しやすいのです。
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2.単独のアンザッツ、声を当てる訓練
特に"アンザッツ"という言葉は
後述するフースラーの手法を指すことが多いですが、そうでない場合もあります。
例えば福島英(著書も多く、いろんな意味で有名な方です。)氏の「胸につける」メソッドなどは
非フースラー的アンザッツの典型です。
特別な言葉は用いずとも、
高い声を出すときに頭頂部や後頭部を意識したり、喉が上がらないように胸やうなじに声を向ける
こういった手法は誰でも何がしかご存知の筈です。
手始めに教える指導者も数多く
知識としては知らなかったかもしれませんが、
歌の訓練をしていてアンザッツを全くやったことがないということは滅多にありません。
*代表的なアンザッツの位置と目的(あくまで一例です。)
高い声を出す・・・・・・頭頂、後頭部、
リラックスを促す・・・・・・うなじ
音色の改善・・・・・・額、頬、胸
近頃はミックスボイス習得のために鼻根へ当てるという記述をよく目にします。是非はともかく。。
また、「The voice of the mind」という書籍でよく知られています「サウンドビーム理論」というものも
結局はアンザッツの一形態です。
「The〜」の著者ハーバードチェザリーの記述では、
何をもってしてサウンドビームと呼んでいるのかいまひとつはっきりしませんが
(どうも、音波の指向性のことをいいたいのか、そうではないのか)
焦点をイメージする、母音と音高に応じて位置が変わる、
いずれの特徴付けもアンザッツと差別できるものではありません。
フースラとは考え方が違うといえばそのとおりですが。
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3.偏ったアンザッツの弊害
頭頂に声を当てると、シャウトする時など有利ですし高い声が出しやすいですが、、、
音域だけを目標に上へ当て続けて無味乾燥な声しか出せなくなる人は後を絶ちません。
同様にうなじなも音域面で有意義ですがうなじだけに当て続けると
すこしずつファルセット気味になりやはり味気の無い声となります。
こういった馬鹿のヒトツ覚えのような行いは、やはり、
音色に対する意識とかセンスが欠落していることの表れです。
「高い声が出る」ということはどんな素人でも認識できますが、
「声が悪くなる」という意味はなかなか理解されませんから。
(とにかく高くて難しい曲が歌えさえすればいい!!というのであれば、
前述の「ヒトツ覚え」は大変有効です。)
また、アンザッツが偏ったままだと声が悪くなるというのは指導者なら誰もが知っている筈ですが
現実に偏りを減らすよう努力している人はまれです。
勿論、それが必要な段階まで進捗する生徒が少ないというのもありますが、
どうやら根底に
*アンザッツを全くやらなければ偏らない?
という誤解もあるようです。
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そもそも何故アンザッツが偏るかといえば
もともとの発声が不完全で偏っているからです。
高い声を出そうと、意識してか無意識にか上方へ声を向けようとするのもそうですし、
フォルテッシモやスフォルツァンドあるいはソリストの音量で歌おうというときには
自然と体の一部分へ声が向かってしまう筈です。
(それが全く無い人については、声帯の鳴りが弱いことを疑うべきでしょう)
喉が上がったり声が詰まるというのは典型で、
その結果現れる悪声を回避するために頭頂やうなじへ当て続ける以外ない、
そして他のアンザッツを試さないまま習慣化してしまう。
というのが最もありふれたシナリオではないですか?
○技術が完璧でない以上、、、
声をどこにも当てずに十分な音量、音域、音色を確保するのは至難の業です。
現実にはありえないと思ってよいです。
逆に言うと、アンザッツに全く触れずに発声訓練を積むと(現実的でないのですが仮にやろうとすれば)
音色、音域、音量のいずれかは必ずスポイルされていきます。
(この三つはトレードオフです。例えば声をどこにも向けずに高音を出そうとすれば
音量は減らさずを得ませんし、おのずと音色も弱くなります)
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◆一箇所のアンザッツを偏重して用いるのは発声に偏りを作る、
あるいは元からある偏りを増長させる行為です。
アンザッツの偏りが生む症状として
・音色の悪化
・音域が広がらない
・音声障害
・トレモロ
・一部の声種が失われる
&c.
多くの症状は数ヶ月から数年といったスパンで進行します。
同じ程度の時間をかけて回復する場合もありますが
あまりに長期化したり、年齢的に衰えやすい部分であったりすると永続してしまうことがあります。
一方で各種のアンザッツをバランスよく実施することで、
発声の偏りやクセを無くし、慢性的に弱っている部分をリハビリする。
そういうアンザッツの取り組み方を確立したのがフレデリック・フースラーで
著書「うたうこと(原題:singen)」という本でその詳細に触れられます。
アンザッツという言葉はフースラー以前から用いられていましたが
現在日本でアンザッツというとフースラ式アンザッツを指すことが多く、
フースラーの手法こそが本来のアンザッツといっても過言ではありません。
次回、フースラーのアンザッツについて記載します。
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