もろずみ総研メールマガジン 第160号
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もろずみ総研メールマガジン 第160号 ======================== 2008/08/16
【新車・試乗分析】 ニッポンのミニバンをもっと良質な移動空間に
▽5回シリーズ 2/5
◆移動空間を共有する人々に同じレベルの安全性を◆
「ニッポンのミニバン」たちと出会うたびにまず確かめることがあります。
「このクルマは何人乗り、なんだろうか?」
もちろん日本の法規、道路運送車両法による“乗車定員”という数字はあ
りますが、その決まり事自体が今日の自動車に関わる社会と技術、両面の常
識から取り残された内容なので…。つまり「一人分の座席幅・400mm」で「前
方へ移動するのを防止するための座席ベルト」があれば「定員1名」がカウ
ントできることになっているのです。
でもメーカーも、ユーザーも、そして我々ウォッチャーも、それを当ては
めただけで「○人乗り」だとしてことを済ませているわけにはゆかない、と
思うのですが。
かくて3列シートであっても、居住空間と着座姿勢と安全性を、今日の自
動車の作り方と使い方の常識レベルで確保できているのは「4人分」、と私
が判断するケースが続出します。
3列目はエマージェンシー、つまり「やむをえず」「短い距離・時間の移
動だけに」人を乗せる空間、しかもそこに人を乗せた時は事故はもちろん減
速や旋回までいつも以上に気をつかって運転する…そういう「2+1列シー
ト」型のクルマも増えています。けして「いざという時には大勢乗れるから
便利そう」と安易に考えてはいけないカテゴリー。
前後方向に3列、きちんと座れる空間を作るには、やはり背高空間・箱型
のパッケージングを組み立てる必要があります。その意味ではやはり欧州生
まれのトゥーランやピカソ(本国では2列シート型がピカソ、ホイールベー
スを延ばして3列化したほうはグラン・ピカソ)がきっちりデザインされて
います。日本にはなかなかそれに類する空間設計のクルマがなく、3列のシ
ートをフルに使いたいとなれば、やはりエルグランドかアルファードか、つ
まりフルサイズの「箱」を選ぶしかないのが現状。
そのアルファードの新型と最初に対面した時も、まずは着座姿勢と空間、
シートの造りと使い方などの確認から。ここでまず問題発覚。
今回のアルファード/ヴェルファイアは「オットマン付きシート」をセー
ルスポイントのひとつにしています。オットマンの本来の意味は“足置き台”
であって、座面前端からふくらはぎの裏に伸びたクッションが回転上昇して
くるこのシートの場合は「レッグレスト」と呼ぶべきかと思いますが。
このクッションを持ち上げると、当然ながら膝から下が押し上げられて脚
全体を前に投げ出す形になります。この状態で上体を起こした姿勢を取るの
は苦しい。どうしてもシートバックを後に倒し、尻を前に大きくずらして、
寝そべる姿勢に落ち着きます。これが「リラックスした姿勢」だと、ふつう
の人々は思いがちです。
しかし走るクルマの中では、上下の揺れや突き上げショックが絶え間なく、
それが後傾した骨盤〜腰椎を曲げようとする方向に加わります。しかも背中
〜尻にかけての筋肉のどこかが「点」で体重を支える形になります。つまり
腰への負担が増え、筋肉も緊張しつつ押しつけられる部位が偏って現れる。
クルマの乗車姿勢としては、けして「楽」ではないのです。
もっと問題なのは、こういう寝そべって脚を持ち上げた姿勢では、シート
ベルトが肩〜胸から遠く離れてしまうのはもちろん、腰部分のベルトも腹ま
でずり上がってしまいます。そんな状態で衝突や急激な運動が起これば、前
面からの衝突・衝撃に対しては身体がシートベルトを潜って前に飛び出して
しまう「サブマリン現象」か、腹部にシートベルトが食い込んで最悪、内臓
損傷も起こりうる。しかも2列目シートだと前に飛び出した身体のうち、ま
ず足〜脚・膝が前席シートバックに突っ込み、続いて上体が打ちつけられて、
その乗員だけでなく前席乗員の傷害度合いも高くなる可能性が高いのです。
後面からの衝突・衝突に対しても、本来ならシートバックが乗員の身体を
受け止めるのですが、後に寝かせていると身体は簡単にその上を滑り、後方
に飛び出してゆきます。そのまま窓にぶつかると、側面と後面のガラスは軽
く接着されているだけなので衝撃で外れ、車外放出という最悪の事態に至る
可能性が出てくる。側面からの衝撃に関しては…。言わずもがな、でしょう。
「寝そべる」=「楽な姿勢」という、とても日本的な誤解が、ユーザーだけ
でなくクルマを企画し設計する側にも蔓延しているのは、そろそろ何とかし
ないと…と思い続けているのですが。
さらにアルファード/ヴェルファイアは、助手席にもこの電動張出式オッ
トマンを組み込んでいます。これを持ち上げてゆくと、足〜下肢がダッシュ
ボードのグローブボックスとその下の、本来ならばニーストッパー(前面衝
突時に膝〜脛に当たって動きを早く止め、傷害を軽減する)として働くはず
の斜面とレッグレストの隙間に入り込んでしまう。とくにシートスライドを
前方に出していると、足が挟まれてしまいます。そうならないところまでシ
ートを下げると、通常の着座姿勢ではシートベルトなどの位置関係に対して
後ろすぎるところまで行ってしまう。
この助手席レッグレストを持ち上げ、下肢を前に投げ出した状態で前面衝
突すると、身体が前方に飛び出すのは止められず、足〜足首〜脛が、さらに
最悪の場合は膝から上までも複雑骨折してしまうでしょう。
助手席も、そして2列目も、そうした衝突時傷害を抑制するためにどう座
ればいいのか、レッグレスト(オットマン)をどう使うのが良いのか、何も
知識なくこのクルマに乗る人々に情報を伝える配慮もほとんどありません。
ただ「走行時には動かさないでください」(どういう意味?)とラベルに表
記してある程度。
そうなると、リアルワールドでのこのクルマとシートの使われ方を想定し
て、助手席と2列目席を脚を持ち上げた形にしてクラッシュダミーを座らせ
た状態で衝突実験をして、歩けなくなるような傷害が発生しないか、そのた
めにはどう使ってもらうのがよいか、といった確認をしたいと、私は考えま
す。しかし今の日本で公的に(NCAP:New Car Accept Programを含めて)求
められている衝突試験は、前2席だけにクラッシュダミーを乗せ、しかも標
準姿勢のみ。
試乗会で開発関係者に質問を投げかけてみましたが、それ以外の衝突試験、
あるいは最近多用されている車体と人体のコンピューター・モデルを駆使し
て衝突をシミュレーションする手法での確認を行った、という情報は誰から
も出てきませんでした。やはり「お受験」として決まっている試験だけをク
リアすればまずはOK、というアプローチだったようです。それは日本の常、
なのですが。
私としては、「定員乗車」は非現実的だとしても(やってみるべきだと思
いますが)、せめて「3列シートの車両では各列2人ずつ乗車」という状態
での衝突試験を実施して「移動空間を共有する人々に同じレベルの安全性を」
という基本要件の確認をしてほしい、と思うのです。もちろん脚上げ姿勢や、
後ろ向きに座ることができる車両では、その状態での確認もして、必要な対
策やユーザーへの使い方の指示などを組み立ててゆかないと。
欧米のメーカーの中では、公的ルールで要求されていなくてもリアルワー
ルドを想定した性能や機能の確認を行うことは常識、と考える人々、企業が
ちゃんといて、彼らが安全性はもちろん環境負荷の低減など、自動車の社会
性の進化をリードしている。それを目の当たりにしているだけに、この日本
の現状には、いささか背筋が寒くなる思いにとらわれるのです。
結局、アルファード/ヴェルファイアはあれほど大きな「箱」なのに「こ
れならOK」という状態で座って移動できるのはドライバーズシートのみ、
ということになってしまいます。
このクルマ全般について一言付け加えておくなら、少し前にお話ししたク
ラウンのフルモデルチェンジとほとんど同じ印象。商品としてエルグランド
を強く意識していることだけは伝わってきますが、それも「停まっている状
態」での商品性に偏り、動質としてはマイナーチェンジかな…という浅い作
り込みにとどまっていました。またしても、残念…。
(つづく)
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