2008/03/16
儲かる?体験ルポ 日曜刊行
おはようございます、阿部です。
随分と温かくなってきましたね。
私の周りは花粉症対策で大変です。
私?
原始的な遺伝子なのか、幸いにして兆候もないようです。
花粉症の人も頑張ってくださいね。
催眠商法 編
社長がいない。
長い話がないので助かるのだが、肝心の独立の話が進まない。
それにまだ完全に信用されているわけでない。
どうにか太いパイプでも作らなければ。
そんな模索をしていると、次々に黄色い賛辞がかかる。
「2連月の大記録、おめでとうございます」
「さすがですね、今度食事でも誘ってくださいね」
などと事務の女どもからである。
こんなことは3月も前は有り得なかったことであった。
だいたい営業会社というもの事務員、つまりは女子衆。
これは顔がステータスであり、美形を多数揃えているのが売れている会社の証でもあった。
顔さえよければ頭はいらないのだ。
必要なのは、機転と男をなびかせる術だけである。
杉ジィに聞いたのだが、ほとんどが役員のお手つきだと言う。
副社長の奥方も元はここの事務であったそうだ。
まんざら嘘ではなさそうである。
それが証拠に、この色めき具合完全に私の懐勘定をしている。
いつかお仕置きをしてやらなければ。
しかし人間とはいい加減なものだ。
痛みがある間は、散々に医者におどされたものだから安静に禁欲に徹しているが。
痛みが消えれば有り難いご託宣も、学生の頃の方程式のように消えていく。
まずは打ち上げ、
そんでもって恒例になりつつあるキャバクラでの豪遊。
トドメは一月の鬱憤を吐き出す健全男子たる厳かなる儀式。
つくづく人間であること噛みしめる。
私の煩悩が人より多いとは思わないのだが。
先ほどナベから電話があり、今夜は帰らないと言う。
俺に黙って女でもできたのか?
まぁ、それぞれに事情はあるのも詮索はよそう。
ぼんやりと見ている。
無造作に積まれた1mの立方体、それが真ネタである。
それが3つ、つまりは1本6万5千円だから、かける30・・・
195万相当である。
これが1本2万円で手にはいるのだ。
私らはまだ売る苦労がある、しかし本社は横に流すだけ、それ相応のリスクはあるだろうが、すでに慣行化しているのであろうから、
完全に丸儲けだろう。
思いつけば、ひでぇ〜社内横領であった。
これを真打ち全員が行っているとは・・・先は長くはなさそう。
さほど充てにはしていなかったのだが、さすがは年の功。
いや恐怖が先にたったのだろう。
無理な相談を容易く片付けた、さすがは杉ジィである。
やはりこの先には必要な人物になるだろう。
この後も考えて10万ほどくれてやるべ〜。
茨城の桜も散りきった頃、副社長のあがりとなった。
思い出すと、散々の苦労だけが浮かんでくる。
よくぞ耐えられたものだ、耐えた自分を真底褒めてあげたい。
だけどこのワンマンがと言うか完全なるエゴが私が真打ちにしてくれたのも事実。
去るとなると不思議な感情が湧いてくる。
きっとそれは惜別でなく、これから起こるであろう風雲波風を考えてのことだ。
この副社長と言う防波堤がなきあと、どんな難題が私を襲うのであろう。
ちょこと考えただけでも暗澹になる。
それにしても誰もこない。
19時集合なはずなのに、私と副社長の二人だけだ。
「自分が呼んできます」
「待て、いいんだ」
と、私をさえぎると。
手の切れるような100万のズクを放り投げた。
「これは餞別だ、とっておけ。
それからウチにくるときの支度金も用意してあるから心配するな」
そうか例の話だ。
この金は受け取ってしまうと・・・
頭の中で負とのそろばんが動く。
ここで頂かないのは不自然で、今後のことを拒否したことになる。
かっと言って、頂いたところで身体はこちらのもの、社外からどうにもできまえ。
などとテメエ〜本位に考えていたが、本能から勝手に受け取ってしまう。
相変わらずの無節操である。
しかし金の分だけは義理は果たすのが私の流儀。
「でも、いけませんよ。
今夜が大恩ある副社長のお別れ会となれば、話は別ですよ」
「いや、そんなのは関係ねぇよ。
残る奴が偉くて、去る奴が悪いんだ。
それがこのオークションの決まりだ。
これで解散だ。
後のことは、お前にまかせたぞ。
それからここの会計は、その金から払っておけ。
じゃ頼んだぞ」
見送ると、傲慢という牙を抜かれ、オークションの鎧を脱いだ副社長、あ
んなにでかかった身体が少しづつ小さくなっていく。
威勢と言う目には見えないものがあの身体から出て行くのだ、と感じた。
最後にほんの小さな点になって見えたとき、どこからか忘れられた残党のように桜に舞った。
「副社長、この通り、桜も新しい門出を祝っていますよ。
長い間、ありがとうございました。
これからも頑張ってください。
本当にありがとうございました」
季節にはそぐわない冷たい風が頬を撫ぜる。
「う〜寒い。
また明日から気合をいれなきゃ〜」
編集後記
この世界では送別会と言うものがないのです。
辞めるときは、それは出社をしないときなのです。
何時何時のあがるなんて辞めていったのは、後にも先にもこの副社長だけでした。
因果応報なんて言いまして、わがまま存分に暮してきた副社長も、最後には部下からキツイ仕打ちを受けたのです。
あのどうにもならい様相に、大きなため息を洩らした副社長の顔が今でも忘れられません。
発行者 阿部 一義
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