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2008/01/27

儲かる?体験ルポ  日曜刊行

おはようございます、阿部です。

戦後、新宿の歌舞伎町に「私の命、売ります」

なんてプラカードを首を下げていた男の人がいたそうです。

しかし時が命の重さを重視するころ、買い手はなかったそうです。

きっと今のご時世なら速攻で完売でしょうね。

それほどに命の対価がディスカウントされているのです。

つまりは金に比重が重く、信義が軽薄になったのでしょう。

今日はそんな頃のお話です。

きっとあなたにも、感ずるとこがあるはずです。




催眠商法 編


ノルマがとっくにクリアをしたが、居残ることを決意する。

別段帰るところも無いし、用事もなければ野暮用もない。

そこでナベちゃんの満期に合わせることにした。

ナベちゃんも30日のお勤めは私と同じだが、そこは下っ端の辛いところ。

上をたてなければならない。

故に自然に帰社は遅くなるのだ。

その点私は大いに自由、ノルマはさえこなせば後は自由時間のようなもの。

しかし真打ちでは一番の新参ゆえに古参の顔を立てるが、誰も帰ろうとしない。

そのわけは、ノルマ不足である。

新年そうそうにノルマに半分に満たない、こんな数字をあの底意地の悪い社長が見逃すはずがない。

そりゃ未達成者には恐ろしいに違いない。

帰りたいが少しでも数字を合わせて土産をでも持たなければ、鬼は許してくれまい。

だけど、それもこの東京ではしんどそうである。

その点私は、新井さんのおかげで来月の分までクリアしそうな勢い。

どうせなら新井さんの同意を得て、連月するか?

本日は早速の戒めか、杉ジィがアシスタントで同行になった。

本社からの命令で、

「阿部に売り方を教わってこい!!!!」

とのことである。

2トンのダイナで杉ジィをナベちゃんとで挟んで同舟。

「ねぇ杉さん。

今日は俺のアシスタントということだけど、大丈夫?

いやなら行ったことにしておくよ」

「いえ、大丈夫です。

阿部ちゃん、いえ阿部さんにはご迷惑のないよう心がけますから」

と、本当に変わり身の早いジジィだ。

しかしそこが真底憎めないのはこの人柄だろう。

社内横領1000万を超えても、目を背けるひでぇ〜数字になろうとも、こうやって真打ちに居座り続けられる所以であろう。

思いおこせばわずか1年前、立場はまるで逆であった。

この杉ジィにも随分と虐められたものだ。

そこで恩は水に流し、怨みは岩にも刻む、そんな性格がうずきだす。

「ナベちゃんよ。

この杉本さんには随分とお教えいただいたんだ。

今の俺があるのも杉本さんのおかげなんだよ。

ね、杉本さん」


その頃を知らないナベちゃんは恐縮し、意図を感じた杉ジィは一段と身体を小さくさせる。

「昔良く言われましたよね。

お前の散らしが駄目なんだ、って。

今日はよ〜く杉本さんのを見習うように」

「はい。よろしくお願いします」

「阿部さん、もう勘弁してくださいよ。

色々と阿部さんには協力もしたじゃないですか」

確かに言われてみれば納得。

この杉ジィはいつも私の言うことを聞いてくれたし、貴重な情報ももたらしてくれていた。

この辺で了見しておくべぇ。

「でも阿部さん。

こんな私でも断トツの売り上げをあげて表彰されたこともあるんですよ」

「嘘だ〜。

そりゃ余程券族に恵まれたか、夢の話でだろうよ」

「いいえ」

と、一枚の写真を取り出す。

町金の取立て屋が持つようなバックに、そんな物を入れていたんだ。

どれどれ、う〜さすがに杉ジィも若い、何年前だろう。

今のスルメ顔と大違いだ、髪もフサフサだし、顔に艶がある。

確かに社長の横で賞状を見せびらかせてニタついているのは杉ジィだ。

「凄いね、何本くらい売ったの」

「481本でさ。

このときは大そうな記録だったんですよ」

「へぇ〜杉さんの春と言う感じだね」

「まったくで」

他にも見知った顔がある。

「へぇ〜副社長はこの頃からパンチなんだ。

山さんも若いし、あれぇ、このデブは」

「あ、これは村上さんですよ。

まだこの頃は社長のアシスタントでしたけどね」

あの骨皮筋衛門の村上!

写真ではえれぇデブ、顔も分からんくらいに浮腫んでいる。

「今とえらい違いだね」

「痩せ始めたのは真打ちになって暫くしてからでしてね。

年が若いのもあって大将に随分といじめられましてね、

そんなもんだから成績もこれ」

と、指を下に向ける。

「その頃は社長ときたら、今の数倍もワンマンで、

成績の悪い村上さんを殴る蹴ると、そりゃ傍で見ていても酷いもんでしたよ」

「なんで?そんなにやられたら、ぶん殴ってやめちゃえばいいじゃないよ」

「それができないのが悲しいところで。

世の中のことをまったく知らず、この世界だけで育ったきた性とでもいいましょうかね。

村上さんも一度は夜逃げをしたんですよ。

だけど稼ぐ前に使うことを覚えてしまった村上さんが、安月給の真面目な勤めなどできやしない。

で、当然のように舞い戻ってきて・・・」

なんか聞いていても人事ではないような気がする。

私にもしてもそうだ。

こんな高給が取れるからこそ、世間が催眠商法だのハイハイ学校だのと連呼しているのに、

自分だけは違うと言い張り、この世界にしがみついているのも、金を使うこと先に覚えたせいだ。

真面目な勤め人でいれないのも、払った対価に比例するとんでもない遊びの高揚を知ってしまったからなのだ。

あんなに遠くで嫌っていた村上が、私にとても身近に思える。。

きっと男として一番大事な部分を売り払ってまでも、ここにすがり付いている自分がぼんやりと見えた。






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編集後記

これは私が25歳のころの話です。

なんとも汗顔の至り、その頃は金より大事なものなどは無い!

と、信仰していました。

だけど年を食い、人生を蓄えると、ふと思うのです。

世の中金だけじゃないと!

お金も大切なのは重々分かっています。

しかし大事なのは目的と手段だと、最近特に思う今日この頃です。



                      発行者 阿部 一義
                  ご意見・ご質問は     karada@netsapuri.com
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