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2008/07/26

文蔵クラブの世界 / 世田谷R寺の桃源郷

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肌寒い、十一月になった――


さて、私はあいかわらず小説を書くための資料の整理&スロット打ちの日々過ごしてい
た。


私は会社の人間とは付き合っていなかったので、アフターファイブはいつもひとりだっ
た。パチ屋に行ってもパチ屋で会う連中とは、基本、深入りしないようにしていた。だ
から友達らしい友達といえば、あのNぐらいしかいなかった。(大学卒業して)Nと出
会う前は、東京で全く孤独であった、といっても過言ではなかった。


だが、なにか厭世的な感情も持ち合わせていた私は、それで凄く落ち込むということも
なかった。むしろ、孤独を謳歌していた……ともいえようか。


しかし、仕事現場でなにかトラブル、口論があったりした場合等(→現場廻りの人が来
る)、友達がいないと精神的な逃げ場がないというか、支え的なものがないから、全く
世の中から疎外されたような感じになる。


そんな時、私はよく多摩川の河原に行って、ウォークマンで癒しの曲を聴いていた。癒
しの曲といっても、例えば「キャロル――子供達に夢を――」「番格ロックのテー
マ(の抜き!)」「コーヒーショップの女の娘」「二人だけ」とか毎度お馴染みのキャ
ロルの曲やモッズの「バラッドをお前に」、ボウイ、梶芽衣子、藤圭子、松山千春
等々、スロー&暗い曲ばかりを選んでね(苦笑) 


で、時々Nのボロ家に行って、彼と音楽&映画の話なんかすると凄い気が晴れたりし
て。でもNは麻雀に忙しかったから、(アポなしで)三回行って一回居ればいいほう
だった(苦笑)。


それで(基本一人現場の仕事場で)小説のための資料整理&アフターファイブのスロッ
トの毎日を過ごしていると、(その十一月は)まるまる一ヶ月近く他人とまともな会話
をしていなかった。大東京に居ながらにして、まるで山ン中に隠棲しているような、妙
な毎日(苦笑)。


Nとは九月上旬に一度電話で話したきりだったし、美華は仕事が忙しかったから、彼女
とは九月下旬から会ってはいなかった。




(……う〜〜ん。やけに孤独だなァ……たまには、Nのところに顔でも出してみる
か……)


私はとある金曜の仕事帰りに、ふと、寂しさに襲われ、Nのボロ家に寄ってみることに
した。


Nの家は、前にも記したように、世田谷R寺にあった。彼のアパートは、家賃四万円也
の一軒家だった。ただ一軒家といっても、風呂なし、トイレなし、であった。

Nのその一軒家は、大家の家とその隣にある大家所有の古いアパートの真裏にあった。
大家の家とアパートを、ブロックで区切ったところの(アパート側にある)隅の細い通
路をブロック沿いに奥に歩いてゆくと、ぽっかりと三十坪ぐらいの土地が出現する。
その土地に、Nが住む一軒家が建っていたのだ。(一軒家ブロック塀の後ろには、大き
な古いマンションが建っていた)

その秘境のような(笑)わかりづらさ故、新聞勧誘員はおろか、NHKの受信料徴収員
もただの一回もこなかったという(N談)、恐るべき一軒家(笑)。

一軒家とその廻りの庭は、東京世田谷とは思えぬ、まるでどこか地方の田舎のような雰
囲気を醸し出している、奇妙な異空間だったが、私はこの空間をいたく気に入ってい
た。


もともとその一軒家(=小屋)は、大家の息子が学生時代、勉強部屋に使っていた代物
であったという。
一応、小屋の建っている三十坪ぐらいの土地の四方には、コンクリの囲いがあり、左右
出入り口には小さな鉄門があって、大家の住宅とその隣の大家所有の古いアパートとは
区切られていた。小屋の前には、山椒の木が一本、生えていた。


トイレはないから、(大家所有の)古いアパートのトイレを使用しなければならない。
これが非常に面倒で、ずぼらなNは小便を2リットルのペットボトルに何本も入れ、
夜、それを小屋の前の山椒の木が生えている庭に撒いていた。
が、時にそれすらも億劫がって、小便入りペットボトルが六、七本、蓋も閉めずに部屋
の中に放置プレイされている危険な状況もしばしばあった。


小屋の外見はえらくボロく、農家にある古い物置という感じだったが、中は一応リフォ
ームしてあり、中々、綺麗だった。間取りは板の間(フローリングという感じではな
かった 笑)で、八畳+半畳のキッチン。

高級住宅街の世田谷で、(風呂なしトイレなしだが)庭付きの一軒家に格安の値段で住
んでいるNは、まさに住宅運がある男といえた。なにしろ、どんなに大声を出しても、
隣に気兼ねすることがないのである。
アパート/マンション住まいを経験された方ならわかると思うが、共同住宅において、
「音」に対する問題ほど神経を使うものはない。その問題がないだけでも、彼の一軒家
は実に値千金の桃源郷といえた。



◆ところで、私はNに比べれば住居運があまりなかったですね(苦笑)。このまくまぐ
には書いてませんが、音の問題では苦労してきました(苦笑)。いや、むしろアパート
/マンションに住む者にとっては、これは当然の問題ともいえますか……。


そこで、アパート/マンションで結構嫌な思いをしてきた私が体験した(苦笑)、
防音の視点からみた「こんなアパート/マンションは避けたほうがいい」というマニュ
アルを少し示してみたいと思います。
(相場賃料のアパート/マンションへ)引っ越しを考えている方、新たに住もうと考え
ている方の参考になればと思います。





其の一  ベランダの隣との間仕切りをチェックすべし


私の住んできたアパート/マンションを考えた場合、ベランダの(隣との)間仕切り
が薄い防災板のようなもの一枚で仕切られていたところは、内部も防音効果に金をかけ
てしっかり作っているような住宅ではありませんでした。
これはしっかりした隣とのコンクリ間仕切りがあるアパート/マンションのほうが、薄
板間仕切りのアパート/マンションよりは、内部の防音効果がしっかりしている確率は
高いと思われます。
三軒茶屋に住んでいた時のマンションは、しっかりしたコンクリ間仕切りのマンション
でしたが、部屋の中の壁も防音効果のあるがっちりした造りでした。
ですからネットなんかで調べる時に、写真で間仕切りを見て多少は参考になるのではな
いかと思います。



其の二  壁は必ずや叩いてみるべし 床の鳴きには注意すべし


不動産屋と一緒に下見をする時、必ず部屋の中の壁を叩いてみてください。これは女性
の方なんか意外とやらないと思われますが、是非、やってみてください。
壁叩いてまるで軽い、防音効果がなさそうな音がする時は、もちろんアウトです。例え
ば役所なんかの廊下の壁を拳で叩いてみてください。できればあんなどっしりした防音
効果の高い音が返ってくるのが理想なんです。
それと二階以上の場合、床の鳴き(ギィィィとかね)、これはちょっとでもあったら、
考えたほうがいいです。床の鳴き(←フローリングに限らず)は経年につれ、増大して
ゆく可能性も考えられますし。
床が鳴る→作りが安普請→無神経に歩くと下の部屋にも届く→下の部屋の住人とトラブ
ルになりかねない……ということになります。私が住んだアパートがそうでしたから
(苦笑)。床も役所や学校のような、ガッチリタイプに近いことが理想的です。
できれば不動産屋をかけもちして、最低五〜六件見比べることをお勧めします。



其の三  フローリングにはこだわるべからず


フローリングって恰好いいですけど、実は音が下に響きやすいです。
私が昔住んでいた上馬のアパートでも、上の住人がスリッパを履いてフローリンの床を
歩くと、凄い響いて参りましたから(苦笑)。ですから、音に敏感な人はできればフロ
ーリング以外の構造の床をしたアパート/マンションをお勧めします。フローリングの
床で、且つ鳴きがあったら、これは即、やめたほうがいい(笑)




其の四  鉄筋コンクリート表示にだまされるべからず


鉄筋コンクリートのアパート/マンションを選ぶことは基本ですが、「鉄筋コンクリー
ト造りだから大丈夫さ」と、実際に部屋の中もほとんどチェックせずに決めることは危
険です。
鉄筋コンクリート造りのアパート/マンションでも、壁はまるで木造のような造りのと
ころもあります。私が住んでいた目黒のアパートがそうでしたから(苦笑)。とにか
く、実際に壁を叩いたり、床を歩いてチェックすることです。

  


其の五  蛇口の古さをチェックすべし


部屋の下見をした時、蛇口が捻るタイプで古くさいタイプの奴だったら少し注意したほ
うがいいかもしれません。実際蛇口を捻るタイプで、水を止める度キィーキィーとやけ
にうるさいやつがあります。私の住んでいたところがそうでしたから(苦笑)。直して
もすぐにまた鳴ったりして。
これが隣がそうだと、直してくれ、とも言いづらいし、昼間なんかに聞こえている場合
だとまだいいんですが、夜中二時、三時にしょっちゅうとなると大変ですよ(苦笑)。
蛇口はできれば捻るタイプじゃないやつのアパート/マンションがベストだと思います
が、これは結構難しいかな……。





其の六  場所に惑わされるなかれ


東京なんかだと、「やっぱりせっかく東京に住んでいるんだから、都内のいいところに
住みたい」と思うのはわかります。
世田谷、目黒なんかだと、1DKだと賃貸料七万五千〜八万五千ぐらいが相場でしょう
か。しかし、同じ金額を出すんでしたら、都心を離れたところで造りのいいアパート/
マンションを探したほうが(間取りも広がるし)いいのでは……と思います。
なによりビルの背が一律に低いと、開放感を感じ、ストレスが軽減されたような感覚に
なりますしね。
世田谷、目黒なんかだと、十万以上のところだったら、防音の問題はさすがに大丈夫と
は思いますが……。




其の七  アパート/マンションの入り口をチェックすべし


アパート/マンションの入り口が、自転車やバイク、車、冷蔵庫などの粗大ゴミ等でご
ちゃごちゃしているようなところは、案外内部も(音だけではなく)問題が多いという
のが私の体験的持論です。このようなところは要注意。




其の八  できれば相場以上がベストではあるが……


余裕がある場合は、やはり相場より高い物件をお勧めします。やはり住宅は心と身体を
ゆっくり休めるところでもありますから、なるべく条件のよいところに住んだほうが、
「音」の問題に煩わされないと思います。





音に悩むことも、ヴィパッサナー的にいえば心の問題ですから、ヴィパッサナーして
(→不快な音を聞いても「音です」と対応する。また怒りが湧き起こったら「怒り」
「思考」とまるで自分の感情・思考を他人事のように客観視する。また慈悲で騒音を出
している相手を思いやったりする)こちら側の心の持ち方の方向性を変える方法もあり
ます。
要は、怒りの感情に振り回されない(増大させない)、ということですが、これがなか
なか難しい……(苦笑)。しかし、実践する価値はあると思います。







さてさて――



暗がりの中、私は細いじめじめとした通路を通って、Nの住む小屋へと向かった。


「……おっ、電気がついてる。奴め、居やがるな」


私はNの部屋に明かりが灯っていることを認めると、ニヤリ、と口角を上げた。

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