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2009/12/13

恋愛講座 ほんわか作品 [ n(ス・キ!)n ] vol.158 昭和の、幼い恋物語りです。

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┃            ほんわか 作品          ┃
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                                                    vol.158

          昭和の、幼い恋物語りです。
       ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
       (シン公とアコの物語り、三部作のニ)
 ──────────────・──────────────
       『優しい社会に しませんか?』
    ( http://www2.ocn.ne.jp/~toppy/appeal-0805.htm )
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[ n(ス・キ!)n ]

西の空に、どんよりとした雲が浮かんでいます。どうやら、雨を呼
びそうな気配です。今日は久しぶりのデートだというのに、なんと
も意地悪な天気の神様です。

不安げに見上げるシン公の顔には、それでもどことなく歓びの色が
あります。しっかりと握りしめられたその拳には、どことなく大人
が感じられます。いつも肩を怒らせて歩く姿は、まだまだ子供だっ
たのですが、今こうして握りしめられた拳からは、確かに大人が感
じられるのです。

シン公との身長差を、いつも気にしながら歩いているアコは、その
握りしめられた拳を、恨めしそうに思います。その大きな手は、ア
コの手を握ってくれないのです。恨めしげに見上げるアコですが、
シン公にはそんな乙女心が、一向に通じないのです。

アコには、手に持った傘が、重たく感じられます。家を出る時に、
雨が降りそうだからと、母親に無理矢理持たされた傘なのです。
それが、妙に重く感じられるのです。シン公が、
「貸せよ、持ってやるよ。」と、ぶっきら棒に言った時には、軽い
ものだったのです。小指一本でも持てそうな、軽いものだったので
す。それが今は、ズシリと重いのです。

「もうすぐ、春だなぁ・・」
シン公の遠くの空を見る目を見つめながら、アコは頷きました。し
かし、心では素直に頷いているのに、口から発せられた言葉には、
険が感じられます。
「当たり前よ。カレンダー位、見てるでしょ!」
乙女心を解しないシン公に、アコは腹を立てているのです。

「こりゃあ、ひと雨来そうだな。あぁ、傘、持ってやるよ。」
無造作に突き出されたその手ーようやく拳が解かれたその手に、ア
コは傘を渡します。そして、あれ程に繋ぎたいと思ったシン公の手
に触れることなく、アコは手を引っ込めました。

今日の町並みは、少し色褪せて見えます。太陽が隠れているせいな
のでしょうが、それだけではないようです。子供扱いをするシン公
が、憎たらしく思えているせいなのです。三つ年上のシン公です。
中学生になったばかりのアコと、高校に行ってしまったシン公。追
いつけないのが悔しい、アコなのです。

シン公が突然立ち止まり、アコの後ろに回りました。そしてアコの
背中に、人差し指で、何やら書き始めました。
「イヤ~ン!くすぐったいよぉ!」
アコは背中を反らして、シン公に止めて!と、言いたげです。

「こらっ!動くな。何て書いたか、分かるか?」と、窘めます。
「えっ!?もう一度、書いてみて。」
アコは、シン公にせがみました。

シン公は、念入りに、力を込めて書きます。その小さな背に、大き
くゆっくりと、シン公は書きます。アコは、慎重に、一つ一つを口
にします。
「ア・メ・ガ・フ・ル」
「はいっ、ご名答!じゃ、次だ!」

「オ・ナ・カ・ペ・コ・ペ・コ、食いしん坊!」
思わず、後ろを振向きました。シン公は、白い歯を見せて笑ってい
ます。
「ほら、次だ!」
シン公の大きな手が、アコの頭を包みます。暖かい、手でした。

「ア・コ・ハ・オ・レ・ガ・ス・キ」
「へぇー、そうかい?アコは、俺が好きなんだあ。」
「バカ!知らないぃぃ!」
イー!と、口を尖らせるアコでした。

「それじゃぁ、これだ。」
「オ・レ・ハ・ア・コ・ガ・キ・ラ・イ。えぇ、意地悪うぅ!それ
じゃ、今度は私の番よ!」
アコはすぐにシン公の後ろに回り、大きな背中に小さく書きました。
「なに?そんな小さくちゃ、分かんないゾ!うん?キ・ス・キ・ス
うぅ?」
シン公の素っ頓狂な声に、アコはプゥー!と頬を膨らませました。

「もおぅ、シンちゃんの、えっちぃ!スキって、書いたのよ。それ
を、最初のスだけ、言わないんだから!」
アコは不満げな声を出しながら、シン公の背中に耳を当てました。
力強い心臓の鼓動が、アコの耳に心地よく響きます。

アコは、シン公の本心が知りたいのです。
「好きだから、こうやって、一緒に歩くんじゃないか。」と、シン
公は言います。だけれども、アコには物足りないのです。アコの気
持ちは、loveなのです。でもシン公は、likeのようなので
す。同じスキでも、微妙に違うのです。

心とは裏腹に、アコはシン公にブーたれることが多いのです。逆ら
うことが多いのです。シン公がラーメンを食べたいと言うと、バー
ガーにして!と言います。シン公が、公園でゆっくりしようと言う
と、映画が観たい!と言います。ボーリングに行こうと誘うと、レ
コードを聴きたいと言います。

シン公が、ストロベリー味のアイスクリームを買うと、チョコレー
トが良かったのに!と、言います。どんなにやんちゃを言っても、
いつでもシン公は、笑っています。ちっとも、怒ってくれないので
す。いつまでも、子供扱いするのです。目を閉じてキスをせがむと、
おでこに軽くチュッ!と、してくれるだけなのです。

時折シン公は、ロマンチストになります。甘い恋の囁きを、口にす
ることがあります。でも決まって、ひと言付け足すのです。
“アコには、早すぎるかな?”
そしてそれは、照れ隠しとも取れるし、本心とも思えるのです。

アコは、いつも焦っています。シン公には、アコの知らない女の人
が居るらしいのです。高校の先輩らしいのですが、話してくれない
のです。どうやら、憧れの女性らしいのですが、どこの誰とも分か
らないのです。シン公が、その先輩と交際をしているかどうかすら、
分かりません。でも、アコには感じるのです。

本当のところは、シン公にとってのその先輩は、憧れの女性であり、
それ以上でもそれ以下でもないのです。学校ですれ違う時に、会釈
をするだけなのです。実はアコの杞憂に過ぎないのです。シン公に
とってのアコは、妹のような存在なのです。まだ、恋愛の対象とし
ては、まだ考えられないのです。

何せ、アコが幼稚園児の頃から、遊んでいるのです。同じ町内に居
ることから、アコの両親が共働きをしていることから、ずっと遊び
相手になっているのです。妹と見てしまうのも仕方のないことかも
しれません。でも今、シン公の心の中に葛藤が生まれ始めています。
アコも、中学生になりました。少女に、なりました。少し、ニキビ
が出始めています。

怪しかった雲行きは、とうとう雨を呼びました。ポツリ、ポツリ、
と降り始めました。そして、すぐに本降りになりました。シン公は、
慌てて傘を広げると、アコに寄り添います。街灯の灯りが、二人の
影を舗道に浮かび上がらせました。相々傘の、その影は、まるで恋
人のようです。

「冷たいぃ!シンちゃん、濡れるわ!」
「ゴメン、ゴメン。」
シン公は、アコの肩に手を回して抱き寄せました。女物の傘は、二
人で使うには、少し小さいようです。

シン公の胸に顔を埋めるアコに、シン公の暖かい体温が伝わります。
シン公の腕にも力が入っています。思わず、ポッと頬を染めるアコ
です。そして、右手を、シン公の腰に回します。しっかりと、寄り
添います。アコのハートが早鐘のように鳴っています。聞かれはし
ないかと、心配なアコです。

「よく降るなぁ・・」
シン公の吐息が、アコの髪にかかります。アコは顔を上げると、そ
の吐息を思いっきり、吸い込みました。甘酸っぱい、そしてストロ
ベリーのような味です。アコは、シン公に寄り添いながら、思わず
目を閉じてしまいます。シン公の手が、アコの肩に、グッと食い込
んでいます。少し痛いほどです。

いつものアコなら、
“痛いよ、シンちゃん!”と、言ってしまいそうです。でも、アコ
は嬉しいのです。その痛みが、シン公の、アコに対する気持ちのよ
うに感じられます。
「し・あ・わ・せ・・」
小さく、呟いてしまいました。

シン公は、アコのかわいらしい膨らみーまだ固さの残るそれを、体
に感じます。心の中にざわつきを感じながら、歩きます。丸みを帯
び始めたアコの肩を、力を込めて抱いています。緩めることなく、
しっかりと抱き寄せています。まだ中学生じゃないか、でも、もう
中学生なのです。

二人とも、無言のままです。町の騒音も、雨の中に消えています。
二人の呼吸音だけが、耳に届いています。
二人とも、無言のままです。行き交う人たちも、雨の中に消えて
います。もう、二人だけしか居ませんでした。

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