2009/05/23
恋愛講座 ~ふたまわり~ vol.136互いが思うふたりとはまったく異質な二人になったと気付いた。
┏Mail_magazine 恋愛講座━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ┃ ふたまわり ┃ ┗━━━━━━━━━━ http://www2.ocn.ne.jp/~toppy/ ━━┛ vol.136 [原始女性は太陽であった] この一文に、小夜子の全てが始まった。 ──────────────・────────────── 『優しい社会に しませんか?』 ( http://www2.ocn.ne.jp/~toppy/appeal-0805.htm ) ============================= (百二十四) 「頼まれてくれ、五平。佐伯正三という男に連絡をとってくれ。小 夜子に会わせる。」 腹の底から搾り出すような、重い声だった。沈痛な面持ちの武蔵か ら、思いもかけぬ言葉が出た。 「社、社長。どういうことです、そりゃ。」 ひっくり返った声で、五平が言う。伏せられた武蔵の目を追いかけ て覗き込む五平。 「いいんだ、いいんだ。今のままじゃ埒があかんのだ。小夜子の中 から、消さなきゃならん。小夜子の時間は、まだ止まっているみた いだ。普段の生活ぶりから、もう吹っ切れていると思っていたが、 まだこね切れていないみたいだ。」 キッと、五平の目を見据える武蔵。腹をくくった時の武蔵の射るよ うな目が、五平に注がれた。こうなると、何を言っても武蔵の意思 は変わらない。己に不利な状況に追い込まれようとも、変えはしな ない。 「そう、ですか。まだ断ち切れていないんですか。いや、おそらく は腹は決まっていますな。ただそれを認めたくないんでしょう。お 互いに上京してから、一度も会っていないんだから。」 「そうか?そう思うか、五平も。俺もな、いい頃合だと思っていた んだ。でな、茂平さんにご挨拶に行く、と伝えたよ。そうしたら、 怒ること怒ること。初めてだ、あんな剣幕は。」 がっくりと肩を落として、ソファにへたり込む武蔵だ。 「社長!いや、武さん。今は、男武蔵に話しましょう。女にふられ た経験のない武さんだ。そりゃびっくりしたでしょう。 あの小夜子さんにしても、あまり挫折感といったものは味わったこ とがないでしょうな。劣等感といったものは味わっているかもしれ ませんがね。なにせ貧乏だ。貧乏、これはいけませんや。 人間をね、萎縮させちまう。自分を過小評価してしまう。で、そこ からが問題なんです。なにくそ!と這い上がるか、そのまま沈んで いくか。これが問題だ。 人間の質みたいなものです、こいつは変えられない。運命と言いか えても良いかもしれませんな。しかし面白いもので、外からの風み たいなもので、変わることもあるんですよ。 男女の絡みやら、兄弟姉妹の情といったもので。まったくの他人か らの風もあります。尊敬する人物とか、死線を共にした仲間とか。 武さん、あたしも変わりました。 武さんのおかげで、他人さまを信じられるようになりました。感謝 してます、ほんとに。ま、女衒を生業にしていたあたしです。ろく な者じゃなかった。 日陰の道を一生歩くことになってたんです。それが、武さんのお陰 で、お天道さまの下を歩けるんです。感謝してます。いやいや、本 当の話です。 小夜子さんは、アナスターシアとか言うモデルでしょうな。それま で無理をしていたと思いますよ。砂上の楼閣でしたでしょう。いつ 崩れるとも分からぬ、ですな。必死の演技でしたでしょう。 それを、アナスターシアと言うモデルによって、演技ではなくなっ た。いや演技をする必要がなくなった。これは大きい。鎧を身にま とう必要が無くなったんですから。 ところが、突然の死だ。ふわふわの状態に逆戻りだ。大きな船から、 大海原に落ちたも同然だ。飛行機からジャングルの中に落ちたも同 然です。 全身から針を出している、やまあらしですよ。そんな折に、白馬の 騎士だ。御手洗武蔵と言う、ね。ところが、今まで邪険にしてきて いる。ほいほい貢いでくれる男ぐらいにしか考えていなかった。」 五平の長演説の間、聞いているのかいないのか分からぬ風の武蔵。 “いいのか、武蔵。小夜子を盗られるかもしれないんだぞ。初恋の 男だぞ、あの男は。 あの男と結ばれる為に出てきた女だぞ、気性の激しさは並じゃない。 一途な女なんだ、こうと決めたら突き進む女だぞ。戻ってくるとは 限らんぞ。良いのか、武蔵。”と、逡巡の思いもある。 「大丈夫!武さん、大丈夫ですって。武さんには、肉体の繋がりが ある。こいつは強い。それに、十分に贅沢な生活をさせている。ど んなに心が動いても、今の生活を捨てるなんてできませんて。」 五平に肩を叩かれて、 「よし!男が一度決めたことだ、会わせてやろう。調べてくれ、五 平。」と、語気強く告げた。 それからわずか三日の後、正三と相対する小夜子。武蔵のお膳立て で正三との再会を果たすべく、ハイヤーに乗り込んだ小夜子。最新 モードに身を包み、贅を極めた小夜子。 「小夜子。明日、佐伯正三に会わせてやる。いや、会って来い。会 って自分の気持ちを確かめろ。」 驚きの色を隠せない小夜子に、普段以上に饒舌になった武蔵だ。 突き抜けるほどに晴れ渡った朝、約束の時間ぴったりにホテルに到 着した。運転手によって開けられたドアから降りる小夜子、凛とし てご令嬢然としていた。 うやうやしくドアマンがお辞儀をする。重々しいドアが開けられて、 ベルボーイが入り口で待っている。 「ごきげんよう。」 アナスターシアと共に入ったホテル、思わず目頭が熱くなってくる。 知ってか知らずか、武蔵がセッティングしてくれたホテル。ホテル 内のレストランを、予約してくれている。 昨夜のことだ。屈託なく笑う武蔵に、小夜子は頬を膨らませる。 “どうしてなの?不安に思ってないの?正三さんに気持ちが移ると は考えないの?” 「御手洗小夜子だ、と言えばいい。ロビーに、佐伯正三が待ってい るはずだ。少し話をして、それから食事しろ。窓際の席を用意させ ておく。ゆっくりと話をしていこい。」 「ホテルだなんて、何を考えているの。」 「食事のためさ。いつものステーキの店はだめだ。あそこは、俺と 小夜子の為だけの店だからな。」 今、対峙する二人。約束の接吻から、早や三年ほどが経っている。 そして今、やっとの再会だ。喜びに打ち震える正三に対し、小夜子 の高ぶりは・・穏やかなものだった。 「本当に申し訳ありませんでした。すぐにも連絡をとりたかったの ですが、連絡先が不明で・・。 後から分かったのですが、手紙を隠されてしまっていまして。それ に入省と同時に特別班に配属されまして。その部署と言うのが極秘 事項を取り扱う部署で、外部との接触を一切禁じられました。 小夜子さんに連絡をとる術もなく、悶々とした日々を送っていまし た。小夜子さん、あぁ小夜子さん、どんなにお会いしたかったこと か。でも小夜子さん、お元気そうでなによりです。」 連綿と言い訳を並べた後に、取って付けたように再会の挨拶を言う 正三だ。冷ややかな表情を浮かべて聞き入る小夜子を見るにつけ、 口数の少なかった正三が饒舌となっていく。 「今日の小夜子さんは、一段とおきれいですね。ベルボーイに案内 されて来られた折は、別人かと思いました。新進の女優さんかと、 見紛うばかりでした。 アナスターシアは気の毒でした。まさか自殺とは、思いもかけぬこ とで。如何ほどの衝撃だったことか、推察するに余りあります。で もお元気そうで何よりです。 その洋服は、最新モードですね。やはり、ディオールのオートクチ ュールですか?確か、Hラインと思いますが。小夜子さんならでは のデザインだ。お似合いです、本当に。」 知りうる限りのファッション用語を並べ立てる正三。源之助に聞か されていた小夜子とは、まるで違う小夜子に動揺を隠せない正三。 そして正三が思い描いた小夜子ではなかった。 “変わってしまった。この女性は、小夜子さんではない。” じっと黙したまま、正三の言を聞き続けた小夜子。蝶ネクタイ姿の 正三を目の当たりにして、三年と言う歳月が短いものではないこと を知らされた。 口下手で、己の思うところの半分、いや十分の一も語れなかった正 三。時として口篭もってしまい、俯いてしまった正三。しかしそれ でも、意図することは伝わってきた。 “違う、決して違う。この男性は、正三さんではない。” 今それぞれに、互いの知る相手ではないと感じた。小夜子、正三共 に、互いが思うふたりとはまったく異質な二人になったと気付いた。 「素敵な殿方だこと、惚れ々々してしまうわ。」 「ご令嬢も美しいわ、うっとりしそうよ。」 「まあ、お似合いのお二人だこと。」 「ほんとに。美男美女とは、このお二人のことね。」 そこかしこから洩れる、ため息と賛辞。二人の耳にも届いている。 しかしもう、ただ漂うだけのものだった。二人の耳に入ることなく、 そのまま通り過ぎていく。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 今号は、いかがでしたか? 「おもしろかった」と思った方、ワンクリックを! http://clap.mag2.com/thounaphuc :::PR:::PR:::PR:::PR:::::PR::: ┏━━wail情報:慟 哭━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ┃ 安 神 編 スタートしました。 ┃ ┗━━━━━━ http://www2.ocn.ne.jp/~toppy/wail.htm ━━┛ ──────────────・────────────── ┏Mail_magazine 詩ャワー━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ┃ やせっぽちの愛 ┃ ┗━━━━━ http://www.geocities.co.jp/wailman_2000/ ━┛ ──────────────・────────────── ┏Mail_magazine アダルト━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ┃ 隷 従 ・三 〜 恨みます・・ 〜 ┃ ┗━━━━━━━━━━ http://batsuichi.web.fc2.com/ ━━┛ ───────────────────────☆☆☆ 発行責任者 postman 登録解除 http://geocities.co.jp/wailman_2000/regist.htm Home Page http://www2.ocn.ne.jp/~toppy 既刊置場 http://www.geocities.co.jp/wailman_2000/ お願い 無断掲載・コピーは、ご遠慮下さい 表示→文字のサイズ→「等幅」でお読みください。
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